2026

■環境に身を置いてみる

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 源班の先輩であるみちるさんから、うちに行ってもいいかと訊ねられた。現状断る理由はないのでいいですよと返事をする。星港で1人暮らしを始めて3ヶ月が過ぎた。最初はやっとやっと生活をしていたけど、最近では生活のリズムというものが作られて来たのか、暮らしが何となく形になってきたと思う。
 同じ班のメンバーでは彩人さんとみちるさんが下宿生だということで、大学近くに住んでいる。あとのメンバーは自宅生だ。星ヶ丘大学は星港市内で地下鉄の駅からも近いし、最低限生活に必要な施設は大体徒歩圏内か地下鉄2駅以内の範囲内に揃っている。上り坂が多いことを除けば不自由はないけど、みちるさんの原付を見ていると羨ましく思う。

「将門ー」
「はーい」
「よっこいせ」
「――って何ですかこの箱」
「アンタがみっちゃんの後輩の子やな! うちはこないだ農学部を出た日野ひかりっちゅーモンや! 別に怪しないで」

 みちるさんの後ろからひょっこり出て来た日野さんという人が謎過ぎるし、怪しくないとは言うものの、西の方言が何となく怪しさを纏わせる。みっちゃんというのはみちるのみちから取られた愛称だろうか。みちるさんのことをそんな風に呼ぶ人には今まで会ったことがないからとても新鮮だ。

「あ、えっと、高野将門です。その日野さんがどうしたんですか?」
「こないだ部活の時に私が野菜を買う必要がないって話してたでしょ」
「そうですね」
「それを将門が羨ましがってたから、将門も野菜を買う必要を無くしてあげようと思って」
「みっちゃんが普段食べとんのはうちの畑で採れた野菜やで」
「そうなんですか」

 確かにこの間、部活の時間に彩人さんとみちるさんに囲まれて、生活が順調かどうか聞かれた。7月末には1年生にとって初めてとなるテストもあるし、それでなくても3ヶ月が過ぎた頃から悪い意味で生活に慣れて堕落していく人も少なくないという話だから、先輩たちが心配してくれたようだ。
 その中で、食事についての話もした。俺はお世辞にも料理が得意ではないから、材料をひとつ用意して炒めるだけでいいおかずの素の世話になることが多く、そうやって作ったおかずと白飯で完結することが多い。そもそも料理自体が面倒なら買って済ませることもあるけど、それだと高くついてしまうので、後々苦しむのは自分だ。
 先輩たちはそれなりに料理をしているようで、特にみちるさんは野菜は無限に湧いて来るのでそれらを使った節約料理なるものを日頃からやっていると言っていた。買う必要がないのは羨ましいし、それをきちんと料理出来るのも凄いなあと思って話を聞いていたのだけど、それがまさかこんなことになるとは思うまい。

「うちの畑は育て方がええからそれはもうぎょうさん野菜がなるんよ。もちろん自分でも食べるで? でも余ってまうんよ。そしたら、食べてもらった方がええやん? せやから欲しいっちゅー人に配っとるんよ」
「営利目的の畑ではないんですか?」
「よく聞かれるけど、ちゃうな。うちは畑で作物のお世話をするんが好きなだけなんよ。手を掛けた分応えてくれるからな。そーゆーアレで、みっちゃんとか、他にも野菜があったら嬉しいわーっちゅー人に分けとるんよ」
「そういうことだから、将門もどうかなと思って」
「ありがたい話ではありますけど、あまり料理が得意ではないので野菜を目の前にどうしたものかという問題が発生しそうで」
「ほんならかじるだけでええセットにも出来るで! 一切料理せん子にはそーしとるんよ。トマトとかキュウリに、ラップでくるんでチンでええトウモロコシとか、そーゆーんもあるからな。料理する気になったら簡単なレシピくらいなら渡せるし、気軽に注文つけてやー」
「へえ、そういうセットがあるのはいいですね」

 こっちが思い浮かんだ問題に対してスッと解決策を提示してくるのは、本当に慣れた人なんだなあと思う。自炊しない人用のかじるだけセットは主に夏のメニューらしいけど、みちるさんのようにある程度料理が出来る人に対してはきちんと調理するする必要のある野菜もふんだんに加えられているそうだ。

「でも言って将門は料理するでしょ?」
「おかずの素と炒めるだけとかですよ」
「何や、ちゃんと料理するんやん! ならかじるだけセットより一歩踏み込んだナスとかピーマンもバリバリ使えそうやな!」
「あ、ナスもピーマンも好きです」
「ほな決まりや! 夏やったら麻婆ナスとごはんとか、チンジャオロースーとごはんとかでスタミナつけるんがええな」
「私も日野さんから野菜をもらうようになるまではあんまり料理なんてしなかったけど、やらざるを得ない状況に身を置いたら出来るようになるし、するようになるものだよ」

 そう言われれば確かにそうだ。1人暮らしを始めて、自分の力で生活せざるを得ない状況にあるから買い物や炊事洗濯を自分でやっている。実家にいた頃はほとんどやる必要がなかったことだ。やらざるを得ない状況に身を置いてみる。野菜を使った料理に挑戦するくらいだったら、今すぐ生死に関わることでもないし、やってみれば良さそうだ。

「そしたら、料理初心者セット的な感じでお願い出来ますか」
「よっしゃ! 契約成立や! 季節ごとに野菜のラインナップは変わるし、欲しい野菜あったら気軽に聞いてな!」
「将門、本っ当に買う必要無くなるから」
「ところでみちるさん、質問なんですけど」
「何?」
「俺も原付を買うことを目標にしようかなと思うんですけど、日野さんの野菜でちゃんと節約出来たら、それも早まりますかね」
「それは将門次第」
「ですね、はい」
「でもね、一度原付に乗ると通学には絶対必要になるからそこだけ。今まで歩けてたところが歩けなくなるから」
「その恐怖は確かにありますね」


end.


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将門が1人暮らしなら班の下宿生の先輩たちと普段から仲良くしててもいいなと思うなど。
ひかりファームのお世話になることで、もしかしたら対策委員選出後の話題にも役立つかも。
つばちゃん→みちる→将門に続く原付ディレクターの系譜? 将門が二種取るんか知らんけど

(phase3)

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