2026

■リアル治水ゲーの罠

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「ひっでえ、マジひっでえ」
「今回の雨は結構強くて長かったもんね」
「2人とも、本当に助かります」

 昨日の夜から今朝にかけて、西海市内に大雨が降った。こうなると、向西倉庫B棟1階が湿気で床上浸水状態になるので水履きをしなければならなくなる。もちろん倉庫としては致命的な欠陥なので、建物の構造から何とかして見直した方がいいと思うけど、それは末端の新卒社員の仕事じゃないだろう。偉い人が何とかしてくれるのに期待。
 今回の雨は結構酷かったので、水掃きの仕事もB棟1階を管理する高井さんの他に、俺と大石が駆り出されている。幸い、この時期は全社的に比較的仕事が落ち着いていて、人材派遣を雇っていなかったり、パートさんすら午後の出荷が終われば即帰るということもあるくらいだ。水掃きに2人(厳密には3人)取られても余裕なんだとか。

「越野、随分と本格的なクツだね」
「スニーカーだと靴ン中がやられて不快でしょーがないんだよ。ずっと事務所にいるなら靴下脱いでスリッパでも履いてりゃいいんだろうけど俺はまあまあ出歩く方だし、じゃあスニーカーと靴下を守った方がいいんじゃねって結論に達した」

 最初の水掃きの時に思った以上の水深がある水溜まりを踏んでとんでもないことになったので、水掃きの仕事が頻繁にあるなら靴を守る手段を考えなければならないという考えに至った。で、買ったのが防水ショートブーツ、短い長靴だ。短い長靴ってこれもうワケわかんねーな。要は水を通さないゴムの靴。

「高井さん、俺じゃぶじゃぶ進水出来るんで、どう攻めるか指示してもらえばいくらでも行きますよ」
「おおっ、頼もしいね越野君。俺もね、出荷の時に使う用の吸水性土嚢を買ってみたんだよ」
「それ会社にレシート出さないんすか?」
「1回使って効果が確認出来れば数を増やして、その時に請求出来ればいいなって感じ」

 こういう現場の問題点に気が付いて、まず対応するのはやっぱりその場所にいる人間なんだろう。事務所にいるだけじゃこういうところでの一手がちょっと遅くなるのかもしれない。だったら任されるのがどんな雑用だろうと現場をうろうろ歩いて回ることは大事だな。現場の人と事務所との橋渡しになれるかもだし。

「大石なんか、水掃きの仕事だろうと水と戯れる仕事はまだいい方の仕事なんじゃね?」
「うん、暑いよりは正直いいね」
「真夏だと2階の奥なんかは本当に死人が出かねないからね」
「2階と比べると1階は本当に涼しいですよね」
「本当に、ちょっと雨が降るとこうなるのさえなければって感じ」
「そうですよねー」

 床上浸水レベルの水溜まりが出来る湿気ということで、製品の保管という意味でも悪影響があるんだそうだ。何年か前にはここで保管していたカバンがこの湿気で盛大にカビが生えて、従業員総出でカバンをアルコールで拭きまくっていたことがあるそうだ。そんな仕事してたら自分の肺にもカビが生えそうでゾッとするけど、いつそうなるかわかんねーもんな。
 現状ここで打てる唯一の策が、2階に置いてある大きな冷風機を除湿器代わりにフル稼働するのと、工業扇を回して少しでも風を動かすこと。3台ある2階の冷風機には、20リットルほど水が溜まるタンクが備え付けられてるんだけど、酷い時には1日に2回も3回も水を捨てなきゃいけないほどになる。それだけB棟という場所の湿気がヤバいということだ。

「何つーか、こうやってリアルで水掃きしてると、どんだけリアルな治水ゲーでもやっぱフィクションだとかファンタジーなんだって実感するな」
「治水ゲー? って何?」
「水の扱いに重点を置いた街づくりゲームだとか、水害に襲われた街で水を引かせるためにポンプで水を抜いたりするゲームとかがあるんだよ」
「へー、そんなのがあるんだね」
「ゲーム内の水の挙動がリアルだとすげー難しくなるんだけど、思うように水を動かせた時なんかはすげー気持ちいいんだよな」
「現実世界では?」
「ああはいかねーわ。まず人間が段差をぴょんぴょん飛び越えることが出来ない」

 あの水を吸い取るバキュームがあればこのフロアの排水くらいは結構ラクになるんじゃないかとか、そんなことを考えてしまうのはゲームの悪い影響かもしれない。現実には地道に水を掃き、バケツに溜めたそれを外に捨てに行っての繰り返しだ。高井さんが実費で買ったっていう吸水性土嚢も、バリアをどこに使うかっていう状況を思い出す。

「越野君て結構ゲームやる方なの?」
「ちょこちょこやる程度っすね」
「大石君は?」
「俺はツミツミくらいですねー」
「あ、そうだよね。大石君たまにオミとツミツミの話してるもんね」
「高井さんは何かゲームはやられるんですか?」
「ポケモンとか格ゲーとかを少々」
「対戦系っすか」
「そうだね、時間ある時はちょこちょこ潜ってる」

 この会社の先輩にゲームやってる人がいるってちょっと嬉しいかもしれない。ただ、治水ゲーについての理解は得られなさそうなので大人しく水を掃く。手を動かしてりゃいつかは終わるっつーのは、マイクラの整地で学んだ大切な精神だ。大事なことをゲームから教わることは往々にしてよくある。

「高井さん、ちょっと俺1回冷風機の水捨ててきますね」
「はーい」
「つか俺思ったんすけど、除湿器代わりに冷風機を入れてるってんなら、直接1階に冷風機置くんじゃダメなんすか? その方が効果ありそうな感あるんすけど」
「それだと2階が暑くなってダメだって結論に至ったんだよ」
「俺レベルの新卒が普通に考え付くことはもう誰かが思いついて実践した後なんすね」


end.


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毎度お馴染み向西倉庫の水掃き。こっしーと長靴と治水ゲー。
高井さんは塩見さんとほぼ同期の32歳くらい設定。
湿気が溜まりやすいっていうのは建物の構造や地形なんかが影響してるのかしら

(phase3)

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