2026
■How to make of four years
++++
梅雨にもなると、天気の悪い日がそれなりに増え、雨の中を歩くのが億劫になりつつあった。学部棟から学食くらいならまだいいけど、サークル棟に行くには徒歩15分の山道を往かなければならないと思うと特に憂鬱で、偶然ジャックが車で拾ってくれたりしないかなあと思ったりもする。
今日はやや強めの雨が降っている。時折強い風がびゅうっと吹き付けているようで、食事をしに学食に行くのですら嫌だなあと思うくらいには外に出たくなさが募っていた。同じ講義を受けていたうっしーは、じっと4階の窓から外を見下ろしている。
「見てみいよジュン、仕事日和やなあ」
「仕事日和?」
うっしーは高卒で1年間プログラマーとして働いた経験を持っている。最初に就職した企業が笑えないレベルのブラック企業だったそうで、この会社はヤバいと気付いた時に大学へ進学して勉強し直すことを選び現在に至る(その判断が出来るのがまず凄い)。
その会社にいた大卒の同期が大して仕事もせずに残業ばかりの自分よりも高い給料をもらっていることや、仕事を出来るようになるための研修を理解しようともしないのに高卒をバカにしていたことなどからうっしーは無能の大卒というものに大して強い恨みを抱いている。
自分も大学ではそれなりに遊ぶということを念頭に置き、それでも自分の憎む物と同じにはなりたくないので程よく勉強もきちんとするというスタンスだ。1年間(+残業分)の実務経験は伊達ではなく、課題をこなす上で分からないことを相談すると、噛み砕いて教えてくれることも多々ある。
「例えば、このまま線状降水帯とかが発生して垂直避難せえよーゆーて発表されるとするやろ」
「川が氾濫するとか崖崩れの危険があるとか」
「そうそう。そんな時こそ労働者を頑丈な建物、つまりはオフィスに避難の名目で軟禁して働かせ放題っちゅーワケや。もちろんそんな時に会社に人なんかおるワケないからタイムカードは切っとるよなあ」
「今時そんなのがあるのか」
「去年の大雨ン時の記録スマホで取っとったん見せたろか」
「いや、いいです怖いから」
「お前は知っといた方がええと思うんやけどなあ」
もちろんこの場合の記録というのは外がどれだけ酷い雨だったかとか川が溢れそうになっていて怖いとかの映像記録ではなく、外が危ないからこそオフィス内で働けと言われて実際に働いていた時間と内容の記録だろう。怖くて見てないから真相は闇の中だけど。曰く勤怠管理(会社の記録ではなく実際の物)と給与明細はちゃんとスマホとパソコンとクラウドと紙で記録を残しているそうだ。
「って言うかさうっしー」
「ん?」
「うっしーが高卒の段階でちゃんと仕事を出来てたっていうのは、やっぱり高校の時にちゃんと勉強してたからだよな?」
「つーか俺工業高校の情報科卒やからな、出来て当然よ」
「ああ、工業高校だと確かに手に職って感じだな」
「まあ、何つーか豊葦っつー街がザ・工業! ザ・製造業! っつー感じやし、近場で手っ取り早く働くなら工業高校に行っとくんが丸いかな、みたいな考えがあったワケよ、中学生当時の俺には」
「確かに「向島エリアで大学院を出てない理系なんかどこが取るんだ」みたいに揶揄されてるのは聞いたことがある。どこまで本気でどこまで冗談かはわかんないけど」
「やから下手な大卒よりはよっぽど実戦向けの訓練は受けて来とるワケで、ビジネスマナーと社会人とは云々の座学研修終わったらすぐ現場投入よ」
一方で、“下手な大卒”の皆さんは入社3ヶ月以上が経ってもプログラミングの座学研修をパスすることもなく、課題に向き合うポーズをしながら定時になるのを待ち、定時になれば同期メンツで飲みに行こう、と帰って行くのだという。一方、早々に部署に配属されて現場で仕事をしているうっしーは日を跨ぐまで残業だ。
「ジュン、お前は大丈夫やと思うけど、飾りだけの学歴にはすんな、マジで」
「はい」
「たまになあ、大学に入った時点で目的を達成してまって、その後は堕落堕落でどーやって大学に入ったんよってレベルのアホがおるんよ」
「あイタいっ」
「何か刺さっとんな、本来の目的を達成出来とらん奴に」
「うるさいな」
「や、俺の方もわざと嫌な言い方したけど、それこそ星大に入って満足してぬるま湯に浸かるか、ここでナニクソっつって勉強頑張るかっつったら、俺個人の考え方としては、後者の方が後々絶対ええからな」
「うっしーが本当にわざわざ授業をサボって遊んでることがよくわかるなあ」
「そらそうよ、俺は遊ぶ時間を設けるためにも大学生になったんやからなあ。残業しとった分くらいは遊ばせろっちゅー話よ。自分で貯めた学費やぞ」
「定時で帰った人とうっしーの間に何時間の差があるんだ…?」
「軽く見積もって1日当たり3~8時間はあるなあ」
「ひえっ」
短い日で3時間の残業ということは、大学の講義を1コマ90分とした場合には2コマ分遊ばないといけないワケで。いやあ、だとするとちょっと遊び過ぎな気が。6時間で4コマ、8時間だったら5コマ以上になるしなあ。
「で、結局お前の目標ってどこに置くことにしたん。星大に入るー以外の」
「今はとりあえず“勉強を頑張る”だけど、勉強を頑張るのはあくまで目的を達成するための手段に過ぎないんだよなあと思い始めた。俺は何がしたいんだろうか」
「それを見つけるための4年間やなあ」
「ちなみにうっしーは」
「俺は俺が俺らしくあれる会社で働けるようにありたいとか」
「根っからの模範的労働者じゃないか」
「やめーや! やめやめやめやめーやマジで。あーこわっ」
「働く以外のうっしーらしさが開けたらいいな」
「イキリ陰キャのお喋り袋でええやんか!」
end.
++++
夏合宿に向かう前はまだまだやりたいことが見つからないジュン。もう少しだ。
うっしーは失われた1年の経験から奏多とは違うベクトルで少し達観してるといい
(phase3)
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梅雨にもなると、天気の悪い日がそれなりに増え、雨の中を歩くのが億劫になりつつあった。学部棟から学食くらいならまだいいけど、サークル棟に行くには徒歩15分の山道を往かなければならないと思うと特に憂鬱で、偶然ジャックが車で拾ってくれたりしないかなあと思ったりもする。
今日はやや強めの雨が降っている。時折強い風がびゅうっと吹き付けているようで、食事をしに学食に行くのですら嫌だなあと思うくらいには外に出たくなさが募っていた。同じ講義を受けていたうっしーは、じっと4階の窓から外を見下ろしている。
「見てみいよジュン、仕事日和やなあ」
「仕事日和?」
うっしーは高卒で1年間プログラマーとして働いた経験を持っている。最初に就職した企業が笑えないレベルのブラック企業だったそうで、この会社はヤバいと気付いた時に大学へ進学して勉強し直すことを選び現在に至る(その判断が出来るのがまず凄い)。
その会社にいた大卒の同期が大して仕事もせずに残業ばかりの自分よりも高い給料をもらっていることや、仕事を出来るようになるための研修を理解しようともしないのに高卒をバカにしていたことなどからうっしーは無能の大卒というものに大して強い恨みを抱いている。
自分も大学ではそれなりに遊ぶということを念頭に置き、それでも自分の憎む物と同じにはなりたくないので程よく勉強もきちんとするというスタンスだ。1年間(+残業分)の実務経験は伊達ではなく、課題をこなす上で分からないことを相談すると、噛み砕いて教えてくれることも多々ある。
「例えば、このまま線状降水帯とかが発生して垂直避難せえよーゆーて発表されるとするやろ」
「川が氾濫するとか崖崩れの危険があるとか」
「そうそう。そんな時こそ労働者を頑丈な建物、つまりはオフィスに避難の名目で軟禁して働かせ放題っちゅーワケや。もちろんそんな時に会社に人なんかおるワケないからタイムカードは切っとるよなあ」
「今時そんなのがあるのか」
「去年の大雨ン時の記録スマホで取っとったん見せたろか」
「いや、いいです怖いから」
「お前は知っといた方がええと思うんやけどなあ」
もちろんこの場合の記録というのは外がどれだけ酷い雨だったかとか川が溢れそうになっていて怖いとかの映像記録ではなく、外が危ないからこそオフィス内で働けと言われて実際に働いていた時間と内容の記録だろう。怖くて見てないから真相は闇の中だけど。曰く勤怠管理(会社の記録ではなく実際の物)と給与明細はちゃんとスマホとパソコンとクラウドと紙で記録を残しているそうだ。
「って言うかさうっしー」
「ん?」
「うっしーが高卒の段階でちゃんと仕事を出来てたっていうのは、やっぱり高校の時にちゃんと勉強してたからだよな?」
「つーか俺工業高校の情報科卒やからな、出来て当然よ」
「ああ、工業高校だと確かに手に職って感じだな」
「まあ、何つーか豊葦っつー街がザ・工業! ザ・製造業! っつー感じやし、近場で手っ取り早く働くなら工業高校に行っとくんが丸いかな、みたいな考えがあったワケよ、中学生当時の俺には」
「確かに「向島エリアで大学院を出てない理系なんかどこが取るんだ」みたいに揶揄されてるのは聞いたことがある。どこまで本気でどこまで冗談かはわかんないけど」
「やから下手な大卒よりはよっぽど実戦向けの訓練は受けて来とるワケで、ビジネスマナーと社会人とは云々の座学研修終わったらすぐ現場投入よ」
一方で、“下手な大卒”の皆さんは入社3ヶ月以上が経ってもプログラミングの座学研修をパスすることもなく、課題に向き合うポーズをしながら定時になるのを待ち、定時になれば同期メンツで飲みに行こう、と帰って行くのだという。一方、早々に部署に配属されて現場で仕事をしているうっしーは日を跨ぐまで残業だ。
「ジュン、お前は大丈夫やと思うけど、飾りだけの学歴にはすんな、マジで」
「はい」
「たまになあ、大学に入った時点で目的を達成してまって、その後は堕落堕落でどーやって大学に入ったんよってレベルのアホがおるんよ」
「あイタいっ」
「何か刺さっとんな、本来の目的を達成出来とらん奴に」
「うるさいな」
「や、俺の方もわざと嫌な言い方したけど、それこそ星大に入って満足してぬるま湯に浸かるか、ここでナニクソっつって勉強頑張るかっつったら、俺個人の考え方としては、後者の方が後々絶対ええからな」
「うっしーが本当にわざわざ授業をサボって遊んでることがよくわかるなあ」
「そらそうよ、俺は遊ぶ時間を設けるためにも大学生になったんやからなあ。残業しとった分くらいは遊ばせろっちゅー話よ。自分で貯めた学費やぞ」
「定時で帰った人とうっしーの間に何時間の差があるんだ…?」
「軽く見積もって1日当たり3~8時間はあるなあ」
「ひえっ」
短い日で3時間の残業ということは、大学の講義を1コマ90分とした場合には2コマ分遊ばないといけないワケで。いやあ、だとするとちょっと遊び過ぎな気が。6時間で4コマ、8時間だったら5コマ以上になるしなあ。
「で、結局お前の目標ってどこに置くことにしたん。星大に入るー以外の」
「今はとりあえず“勉強を頑張る”だけど、勉強を頑張るのはあくまで目的を達成するための手段に過ぎないんだよなあと思い始めた。俺は何がしたいんだろうか」
「それを見つけるための4年間やなあ」
「ちなみにうっしーは」
「俺は俺が俺らしくあれる会社で働けるようにありたいとか」
「根っからの模範的労働者じゃないか」
「やめーや! やめやめやめやめーやマジで。あーこわっ」
「働く以外のうっしーらしさが開けたらいいな」
「イキリ陰キャのお喋り袋でええやんか!」
end.
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夏合宿に向かう前はまだまだやりたいことが見つからないジュン。もう少しだ。
うっしーは失われた1年の経験から奏多とは違うベクトルで少し達観してるといい
(phase3)
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