2026

■カレーの数は人の数だけ

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「伊東さん家のカレーってどんな感じ?」
「えっと、伊東さん家ってのは、カズの作るカレー? それとも実家のカレー?」
「あっ、カズのカレーのつもりで聞いてたけど、実家のカレーについても教えていただけると嬉しいです」

 カオちゃんと一緒にお昼ご飯を食べてるときに、切り出されたカレーの話題。そう言えば、最近カレーを食べてないなということに気付いたので、今度カズにリクエストしようかな。カレーと言えば家の個性が出やすい料理というイメージはあるよね。凝ろうと思えばどれだけでも凝れちゃうから。

「カズのカレーはねえ、その時によって結構違くて、今からの時期だと夏野菜がふんだんに入ってたはず」
「へえ、季節によって違うのか」
「季節だけじゃなくて気分でも変えてくるから、これが伊東家の定番カレーです! っていうのは逆にあんまりイメージないかも」
「俺のイメージだとカズはカレーもスパイスから作りそうなモンだけど、その辺はどう?」
「興味はあるって言ってますね」
「あ、やっぱり」

 どのスパイスにどんな特徴があって、みたいなことはド素人だからわかんないけど、いろいろ組み合わせて複雑な味を生み出していくんだよね? スパイスとその特徴についてはカズもたまに調べてるみたい。うちにはさっぱりだわって横から口を挟むと、ゲームのキャラと性能を覚えるみたいなモンだろって言われた。なるほど。

「そしたら、宮林家のカレーってどんな感じ? お母さん料理上手いって話だしそれはもうすげーカレーが」
「カレールーの箱に書いてある通りのカレーだよ」
「えっ、そーなの?」
「どのルーが一番好きかっていう食べ比べをした結果、好きな銘柄のルーの箱に書いてある作り方を忠実に守ってるって。自分よりスパイス研究をやってるメーカーの人がせっかく作ってくれてるのに変に手を出すとバランスが悪くなるからって」
「メーカーの人への敬意か。それはそれで素晴らしい精神だと思う」
「千春さんにとってカレーは2、3日簡単に済ませるための切り札だからね。自分がこだわる物ではないみたい」

 忙しくとか疲れたとかでご飯の支度はしたくないって思ったときに作るものだっていう風に聞いてるから、カレーが出てくると忙しいんだなあと子どもながらに思ってたなあ。カレーだったら千春さんがいなくても、勝手にあっためてよそって食べるだけなので、さすがのうちでも失敗はなかったよね。
 カレールーに対する考え方は、うちも初めて聞いた時にはなるほどなーって思った。確かにメーカーの人はスパイス研究に余念がないだろうし、大衆に受け入れられる製品になってるんだから、下手に手を出さない方が美味しくなるというのはご尤も。結局のところ公式が最強理論ってワケですな。

「でもどうしたのカオちゃん急にカレーの話なんて」
「こないだの休みに山口と出かけたんだよ」
「詳しく」
「アイツの誕生日が近かったから、プレゼント買いついでに街歩きをしてて、偶然カレーイベントやってるところにぶち当たったから一緒にカレー食ったんだよ。結構いろんな店が来てて、1杯がちょっと小さめだから食べ比べが楽しくてさ」
「ちなみにプレゼントは何を」
「アイツが仕事で履く靴に出資した」
「仕事させるのがさすカオ」

 カズ周りだと誕生日は(主に高崎クンのせいで)大体飲み会ってイメージだから、こういう話はなかなかにニコニコしちゃいますね。まあ、カオちゃんも雨宮が燃料にするとわかってて喋ってると思いますんでね、引き続きニコニコして聞いてます。

「カオちゃん何カレー食べたの?」
「最初はキーマ。こうやって丸く盛った白飯の上にキーマと温玉で三重丸になってる感じの」
「いいねーおいしそ。そう言えばカズがキーマってあんまり作ってるの見たことないかも。今度リクエストしてみよ。よっぺさんは?」
「アイツはチキンカレー」
「あー、それもおいしそー」
「いくら1杯が小さいっつっても出店してるの全部は食えないから、シェアしつつ食べ比べして~みたいなことをやってた」
「でもそういうトコだと取り皿とかもらえないでしょ?」
「最初はアイツの皿から直接スプーンで取ってたんだけど、何か、人の食ってるメシの一番いいところを横取りしてく先輩のことを思い出してさ。あ、その先輩ってアイツとも共通の先輩で、カズも知ってる人なんだけどさ」
「えーそーなんだ! えっ、でも一番いいところを横取りしてくのは良くないなあ」
「周りの人からすれば俺がさっさと食わないのが悪いってことらしい」
「で、直接スプーンで取ってたんだけど?」
「先輩のこと思い出して罪悪感が湧いてきて、どうすれば横取り感がなくなるかって考えた結果、スプーンでアイツに食わしてもらうっていう結論にたどり着いた」

 淡々と言うけどこの男~…!

「あの、伊東さんみんなこっち見てる」
「あ、シツレイシマシター」

 うっかり拳がテーブルに打ち付けられるのもご愛敬じゃないですか。外でそんなこと平然とやっちゃうのナニ!? しかも横取りの罪悪感に苛まれた結果、真面目に考えてのこれ! 変なところで真面目すぎるんだわ! いいぞもっとやれ!

「そしたらアイツ、餌付けしてるみたいとか言いやがるだろ。酷い話だよな」
「端から見たら餌付けでしょう。カオちゃんがよっぺさんにもあーん返ししてればいちゃいちゃだけど」
「アイツは普通に俺のカレー持ってってるよ」
「なら餌付けだよ」
「餌付けかー」
「そーだカオちゃん、そのイベントにナンあった?」
「あったあった! そーゆーのあんま食ったことなかったから、キーマの次にナンのヤツ食べて、焼きたてのナンがめーっちゃ美味い!」
「えーいーなー。ナンって一般家庭の台所でも作れるかな?」
「つか市販のナンってなかった? 冷蔵の食品のトコとか」
「あっあるんだ。でも最初はカズに聞いてみるよね。何たってハンバーガーをバンズから作っちゃう旦那様ですからね。小麦粉の魔術師ですよ」
「えー、バンズから作ったハンバーガーとか食ってみてー…!」
「男の子ってそーゆーの惹かれるんだねえ。高崎クンも羨ましがってたけど」
「伊東さんは自分がどれだけ恵まれた環境にいるかを改めて理解した方がいい」


end.


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いち氏は言われれば本当にナンを作りかねないのが怖いところ。大体やれちゃうから。
今の慧梨夏はわからんけど、高校生当時の慧梨夏ならカレーもカレーらしき物体にしてたであろう。肉じゃがと材料似てるし。
伊東さん的にはカオちゃんがどれだけネタに恵まれた環境にいるのかというヤツ。

(phase3)

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