2026
■歩きながら考える
++++
「いい靴があって良かった~。朝霞クン出資ありがとうございました」
「これでバリバリ働いて修行してくれ」
「もちろ~ん」
朝霞クンが誕生日を祝ってくれるということで、一緒に街歩き。お互い社会人だし必ずしも土日休みってワケじゃない職種なので、たまたま重なった休みで予定を合わせる。俺の誕生日は厳密には明日なんだけど、社会人なのでそういうものだと思っていた方がいい。絶対この日がいいっていう予定は何ヶ月も前から休めるように根回ししとかなきゃなんだろうね。
そんなこんなで、朝霞クンには仕事中に履く靴に出資してもらうことになった。最初は私服を選んでくれるっていう話だったんだけど、話の中で仕事中に履く靴の話題になった。居酒屋のホールを歩き回って1日1万歩は行くよ~という風に話してたら、じゃあ大事なのはそこだよね? と。で、機能とデザインを両立する靴を探して歩いた。
「山口、そろそろ飯でも食わないか?」
「いいね~、何食べる?」
「何が食べたいかな。お前と居酒屋飯以外の物を食ってる記憶があんまり」
「さすがにそれはウソでしょ?」
「いや、マジだ」
「さすがに食べてるって普通のご飯も」
「そう言われても咄嗟には思い出せねーな」
言ってしまえば、朝霞クンとこんな風に昼間に街歩きをすることもあまりないし、夜に会ったら大体飲んでるから居酒屋の記憶が大半なのは仕方ないことなのかもしれない。でも、だからこそ数少ない居酒屋以外での記憶は持っていて欲しかったなあ。このパターンはあれかな? そろそろ仕事が少しずつちゃんとした内容に入って来たのかな?
「そしたら、歩きながら考える? 偶然の出会いに任せる感じで」
「いいな。その方針で行こう」
敢えてどこに何があるとか、どこの店がどれだけ混んでいるとかの情報を調べずに、なるようになれのランチ探し。どうあってもこれが食べたいって気分じゃないときは、興味の矛先が向くところを探しに行くのがいい。最終的にどこにも興味が湧かなくたって、お腹が空いて限界になれば適当な店に入ることにはなるんだから。
「う~ん、何系が食べたい気分になるだろうね~」
「星港は選択肢が多すぎるからな。悩む域になかなか入れない」
「どういうこと?」
「ある程度候補を絞れれば、検索するなり目についた店にパッと入るなり出来るけど、店が多すぎて考えることすらめんどくさくなる。それで結局ドラッグストアかコンビニに入ってゼリー買って完結とか」
「朝霞クン、ちゃんとご飯食べてる?」
「出勤日なら最低1食はめっちゃいいの食ってる」
「あっ、会社で食べれる感じなんだね~、いいね~。社員食堂とか?」
「や、かくかくしかじかな事情で――」
同期入社で現在ニコイチのような間柄でやってる女の子が何と何と伊東クンの奥さんで、なりゆきで朝霞クンの分のお弁当も作ってくれることになったんだって。月1万円のサブスクサービスとしてちゃんとした契約でやってるらしい。伊東クンからすれば弁当の2人前も3人前も同じだからって。だから、めっちゃいい1食分の食事はここで。
伊東クンの奥さんが、朝霞クンがちゃんとご飯食べてるかどうかみたいなことにすっごく厳しいんだって。元々入社前の段階から就活友達として付き合いがあったそうだけど、物書きの趣味で意気投合したっていうのもあって、才能あるクリエイターをしょうもないことで死なせてはいけないっていう使命感が強いんだとか。俺の立場からすればありがたいけどね。
「お。何かすげー匂い」
「カレーだね~」
「山口、カレー食うか」
「いいね~。あっでも、カレーライスなのか、ナンで食べるのか、はたまたその他カレーメニューなのか」
「いや、カレーまで絞れることが出来れば考え始められるぞ。つかこんだけカレーの匂いするって、今までこの近く歩いててもそうそう感じたことなかったと思うんだけど。新しくカレーの店でも出来たか?」
「どうだろうね~。ちょっと調べてみる~?」
……と思ったけど、もう少し歩いて答えがわかった。ちょうど見えて来た広場でカレーイベントをやってるんだ。実店舗の有無を問わずいくつかのお店が集まって、キッチンカーとかもいて賑わってる様子。屋外でこれは正直ヤバいでしょ。
「これってどういうイベントなんだろ?」
「基本的には好きにカレーを食ってればいいみたいだけど、良かった店舗への投票システムがあるな」
「あ~、そういう感じね~。じゃあ、各々好きなカレーを買って、またこのテントの下に集合ね」
「了解」
俺はスタンダードなチキンカレー、朝霞クンは真ん中に温玉が乗ったキーマカレーをチョイス。1杯当たりの量はやや控えめなので、食べ比べるのにちょうどいい。
「山口」
「なに?」
「そういや思い出したぞ。学生の頃、なっちの作ったカレーを食ったな」
「あっ、居酒屋以外のご飯の話?」
「ああ」
「そうそう、松岡クンも一緒にね~。そのメンバーで食べた物、議長サンのカレー以外にもあったけど思い出せる?」
「あー……何だったかな」
「俺と言えば?」
「焼き鳥」
「はずれ」
「たまごかけ」
「ううん」
「だし巻き」
「大分惜しい」
「卵焼きか」
「そうだね~。あと、外ではラーメンも食べてるし、意外に会ってるメンツだったの」
「そんなこともあったのかなあ。あ、チキンカレー一口食わせて」
「俺もキーマ味見させて~。あ、おいし~ね~。朝霞クンチキンどう?」
「美味いけど、人の皿から持ってくという行為に越谷さんの顔がチラついて、許可取ってんのに何かすげー悪いことしてる気持ちになる」
「雄平さんの横取りで一番イイトコを盗られまくったもんね~」
end.
++++
夏至カレーと洋朝。夏至もカレーもあんまり関係ないけど
仕事が本格的になってくると、一時的に記憶が圧縮される便利な仕様のPさん。
(phase3)
.
++++
「いい靴があって良かった~。朝霞クン出資ありがとうございました」
「これでバリバリ働いて修行してくれ」
「もちろ~ん」
朝霞クンが誕生日を祝ってくれるということで、一緒に街歩き。お互い社会人だし必ずしも土日休みってワケじゃない職種なので、たまたま重なった休みで予定を合わせる。俺の誕生日は厳密には明日なんだけど、社会人なのでそういうものだと思っていた方がいい。絶対この日がいいっていう予定は何ヶ月も前から休めるように根回ししとかなきゃなんだろうね。
そんなこんなで、朝霞クンには仕事中に履く靴に出資してもらうことになった。最初は私服を選んでくれるっていう話だったんだけど、話の中で仕事中に履く靴の話題になった。居酒屋のホールを歩き回って1日1万歩は行くよ~という風に話してたら、じゃあ大事なのはそこだよね? と。で、機能とデザインを両立する靴を探して歩いた。
「山口、そろそろ飯でも食わないか?」
「いいね~、何食べる?」
「何が食べたいかな。お前と居酒屋飯以外の物を食ってる記憶があんまり」
「さすがにそれはウソでしょ?」
「いや、マジだ」
「さすがに食べてるって普通のご飯も」
「そう言われても咄嗟には思い出せねーな」
言ってしまえば、朝霞クンとこんな風に昼間に街歩きをすることもあまりないし、夜に会ったら大体飲んでるから居酒屋の記憶が大半なのは仕方ないことなのかもしれない。でも、だからこそ数少ない居酒屋以外での記憶は持っていて欲しかったなあ。このパターンはあれかな? そろそろ仕事が少しずつちゃんとした内容に入って来たのかな?
「そしたら、歩きながら考える? 偶然の出会いに任せる感じで」
「いいな。その方針で行こう」
敢えてどこに何があるとか、どこの店がどれだけ混んでいるとかの情報を調べずに、なるようになれのランチ探し。どうあってもこれが食べたいって気分じゃないときは、興味の矛先が向くところを探しに行くのがいい。最終的にどこにも興味が湧かなくたって、お腹が空いて限界になれば適当な店に入ることにはなるんだから。
「う~ん、何系が食べたい気分になるだろうね~」
「星港は選択肢が多すぎるからな。悩む域になかなか入れない」
「どういうこと?」
「ある程度候補を絞れれば、検索するなり目についた店にパッと入るなり出来るけど、店が多すぎて考えることすらめんどくさくなる。それで結局ドラッグストアかコンビニに入ってゼリー買って完結とか」
「朝霞クン、ちゃんとご飯食べてる?」
「出勤日なら最低1食はめっちゃいいの食ってる」
「あっ、会社で食べれる感じなんだね~、いいね~。社員食堂とか?」
「や、かくかくしかじかな事情で――」
同期入社で現在ニコイチのような間柄でやってる女の子が何と何と伊東クンの奥さんで、なりゆきで朝霞クンの分のお弁当も作ってくれることになったんだって。月1万円のサブスクサービスとしてちゃんとした契約でやってるらしい。伊東クンからすれば弁当の2人前も3人前も同じだからって。だから、めっちゃいい1食分の食事はここで。
伊東クンの奥さんが、朝霞クンがちゃんとご飯食べてるかどうかみたいなことにすっごく厳しいんだって。元々入社前の段階から就活友達として付き合いがあったそうだけど、物書きの趣味で意気投合したっていうのもあって、才能あるクリエイターをしょうもないことで死なせてはいけないっていう使命感が強いんだとか。俺の立場からすればありがたいけどね。
「お。何かすげー匂い」
「カレーだね~」
「山口、カレー食うか」
「いいね~。あっでも、カレーライスなのか、ナンで食べるのか、はたまたその他カレーメニューなのか」
「いや、カレーまで絞れることが出来れば考え始められるぞ。つかこんだけカレーの匂いするって、今までこの近く歩いててもそうそう感じたことなかったと思うんだけど。新しくカレーの店でも出来たか?」
「どうだろうね~。ちょっと調べてみる~?」
……と思ったけど、もう少し歩いて答えがわかった。ちょうど見えて来た広場でカレーイベントをやってるんだ。実店舗の有無を問わずいくつかのお店が集まって、キッチンカーとかもいて賑わってる様子。屋外でこれは正直ヤバいでしょ。
「これってどういうイベントなんだろ?」
「基本的には好きにカレーを食ってればいいみたいだけど、良かった店舗への投票システムがあるな」
「あ~、そういう感じね~。じゃあ、各々好きなカレーを買って、またこのテントの下に集合ね」
「了解」
俺はスタンダードなチキンカレー、朝霞クンは真ん中に温玉が乗ったキーマカレーをチョイス。1杯当たりの量はやや控えめなので、食べ比べるのにちょうどいい。
「山口」
「なに?」
「そういや思い出したぞ。学生の頃、なっちの作ったカレーを食ったな」
「あっ、居酒屋以外のご飯の話?」
「ああ」
「そうそう、松岡クンも一緒にね~。そのメンバーで食べた物、議長サンのカレー以外にもあったけど思い出せる?」
「あー……何だったかな」
「俺と言えば?」
「焼き鳥」
「はずれ」
「たまごかけ」
「ううん」
「だし巻き」
「大分惜しい」
「卵焼きか」
「そうだね~。あと、外ではラーメンも食べてるし、意外に会ってるメンツだったの」
「そんなこともあったのかなあ。あ、チキンカレー一口食わせて」
「俺もキーマ味見させて~。あ、おいし~ね~。朝霞クンチキンどう?」
「美味いけど、人の皿から持ってくという行為に越谷さんの顔がチラついて、許可取ってんのに何かすげー悪いことしてる気持ちになる」
「雄平さんの横取りで一番イイトコを盗られまくったもんね~」
end.
++++
夏至カレーと洋朝。夏至もカレーもあんまり関係ないけど
仕事が本格的になってくると、一時的に記憶が圧縮される便利な仕様のPさん。
(phase3)
.