2026

■Hang a calendar on a wall

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「おはよー。うーん、この辺がいいかなあ? うーん」

 初心者講習会の後に、新しく“いろは”がMMPに加入しました。彼は俳句・短歌同好会から移って来たのですが、第一印象として人懐こく、そこはかとない無邪気さがありそうだなと思いました。その彼がサークル室に来るなり両の手で四角くフレームを作り、何かの当たりを取っているようです。

「いろは、おはようございます。何をしようとしているのですか?」
「俺、このサークル室に足りない物に気付いちゃったんだよね。だからどこにかけよっかなーと思って。どうせかけるなら見やすい場所の方がいいと思って」

 そう言って彼はカバンの中から何か冊子のような物を取り出し、外袋を開けています。私はそんな彼をただただ見守っています。

「ねえねえとりぃ、この部屋の壁って、実はあんまり物を引っ掛けるのには向いてない?」
「それは何ですか?」
「これ? カレンダーだよ。ほら、かわいいでしょ。ネコちゃん」
「確かに可愛らしいカレンダーですが、今年も残り半年強なのにそんなに立派なカレンダーを用意してもらって申し訳なさがあります」
「いーのいーの、カレンダーは大事だから。うーん、壁に穴は開けられないもんなー。どこに引っ掛けようね?」

 いろはが用意してくれたカレンダーにはフックなどに引っ掛けることを前提とした金属の穴が開けられているのですが、サークル室の壁はカレンダーを引っ掛けられそうなフックを取り付けられそうな材質ではないのです。思い返してみれば、天文部の部室の壁に飾ってあった大昔の天文年表は壁に直接セロテープで貼り付けてあったように思います。
 よくよく見るとこの部屋も、ミキサー席の横に放送用語などを書いた紙が貼ってあります。それもセロテープで貼られているので、サークル棟の部屋の中に何かを掲示したい場合は壁に直接貼るというのが基本になるのでしょう。しかし、いろはの用意してくれた月めくり式のカレンダーは結構な重量があるのでセロテープで貼るのはあまり現実的ではありません。

「あっ、松兄! 松兄もちょっとアイディア出してくれる?」
「どーしたいろは」
「カレンダーを吊り下げたいようなのですが、あまり適した場所がないようで」
「カレンダーねえ」
「これなんだけど」
「あらァかわいらしい。なるほど、この穴にフックか何かを引っ掛けるのが制作側の想定な?」
「うん、そうみたい」
「窓のフレームにS字フックを引っ掛けるとか、磁石を壁に貼り付けてマグネット式のフックかクリップで浮かすとかが現実的なラインか?」
「おおー、さすが松兄」
「ただ、道具が無いから今すぐは出来ないけどな」
「いやあ、全然オッケーだよ。後は俺が100均とかで適当に道具を買って来るし。ありがとね」

 実際にカレンダーを吊り下げるのはまた今度ということで、今日はとりあえず窓側の柱に仮置きということで立てかけてあります。月ごとに違う猫の写真が出て来てとても可愛らしいです。いろはが言うこの部屋に足りない物がカレンダーであるということに今気付きました。最近ではスマホで確認しがちなので、無いなら無いで致命的ではなかったのです。

「みんなおはよーッ。あれっ、何かネコチャンいるんだけどッ」
「ああ奈々さん。何かいろはがカレンダー持って来たみたいっすよ」
「カレンダーかあ。あんまり意識してなかったけどあったらあったで便利そうだね」
「って言うか日付とか曜日を一番意識してなきゃいけないようなサークルなのに、カレンダーが無いのは良くないです! 今後の予定とかいろいろ書き込めるように、日ごとの枠が大きいのを選んだんで、皆さん積極的に書き込んでくださいね!」
「ホントだメモできるスペース大きいねッ」
「せっかくなので、曜日の欄に誰の番組をやっているかだけでも書いておきましょうか」
「ついでだし定例会の日も書いとこ」
「では、次の対策委員の会議の日も書いておくことにしましょう」
「これだけ人数居たらあんまり現実味はないんだけど、色ごとに誰の予定かわかるようになってると視覚的にもいいかなとか」
「確かに11人で色分けは細分化され過ぎ感はあるわなァ」

 せっかくのカレンダーなので、番組のオンエア日や定例会・対策委員の会議日、それから現段階でわかっている大学の年間予定、例えば春学期のテストの日などを書き込んでいきます。これから対策委員で会議をすれば、夏合宿の日程などもここに書き加えられることになるでしょう。少し書き込んだだけですが、日にちや予定、それに至るまでの時間に対する意識がやや研ぎ澄まされた感じがあります。

「このカレンダーの一番いいところは、日ごとにその日らしい言葉が書かれてるところだね」
「よく見ると大まかな月齢もわかるのですね。これはいいですよいろは」
「いろは、せっかく買ってくれたしサークル費でカレンダーのお金落とそうか」
「いえっ、自分の趣味でやってますしもう半年過ぎちゃってるんで全然大丈夫です!」
「じゃ半年分ってことで半分出すね。レシートある?」
「ないです」
「じゃあこのカレンダーの定価を調べよっか。これだけちゃんとした物だったら情報もちゃんと」
「わーっ! 近所の本屋で割引で買ったヤツなんで半額でも貰い過ぎなんですスイマセンホントはレシート持ってますっ!」

 奈々さん相手だとこーゆーウソは通用しねーんだよなァ、と奏多が苦笑混じりに呟きます。半ば無理矢理カレンダーの分の経費を計上し、処理を済ませてしまうのはさすが奈々先輩です。

「なあいろは、実はその時節を表す季語っぽい美しい言葉を掲示するのがメインで、カレンダーはおまけだった説ないか?」
「いやいやそんな、ちゃんとカレンダーが必要だと思って買ったよ! 主題が2つあったっていいじゃない。そこを欲張って損する人はいないんだから」


end.


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いろはがしれっとサークル室に本を置いてったりカレンダーを貼ってるといい
奈々には自己犠牲的な嘘が通用しないといいなあなどとも思う

(phase3)

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