2026
■あの人とファミレス
++++
「エマ、ホントにファミレスで良かったんか?」
「ええ、もちろんですのよ。わたくし、ファミリーレストランにはまだ大学の皆さまともご一緒したことがなく、今日が初めてですの。とても楽しみですわ」
ファンフェスの班打ち合わせで星港市内某所……っつーか高木先輩ン家の最寄り駅近くのファミレスだから、エージ先輩は普通に高木先輩ン家から来てる可能性が高そうだな。班長のエージ先輩と、俺と、彩人とエマっつーメンバーの班な。
で、去年の夏合宿でエマとペアを組んだサキからエマについての情報を軽く聞くと、青女にたまにいるガチなお嬢様で、大衆の店にはほとんど行ったことがなく、サキはハンバーガーチェーンの歩き方とスーパーで買えるお菓子を教えたそうだ。
ラッキーなことにスムーズに4人が座れるらしく、お好きな席にどうぞと言われたので好きな席に座る。水はセルフサービス。セルフサービスのお水の汲み方はうどん屋さんで学びましたのよ、とエマは得意げにグラスを手に取る。
「エージ先輩、どーぞっす」
「サンキュ」
「彩人さんもどうぞ」
「あんがとー」
「ファミリーレストランでの注文はどのようにすればよろしいのでしょうか」
「この店の場合は、このタブレットから注文する感じ。エマ、見てみる?」
「まあ、よろしいんですの? ありがとうございます」
「彩人、エマ、ちょい待ち」
注文用タブレットをエマに手渡そうとした彩人をエージ先輩が制止した。彩人はさすがに先輩からっしたねすんませんと、気持ちはわかんなくないけど緑ヶ丘的にはちょっと外した配慮をしている。違う、エージ先輩が気にしたのは多分そこじゃない。
この店は手洗い場があるタイプのファミレスだ。気付いてても洗わない奴だって少なくないと思う。言っちまえばおしぼりがあるんだからそれで手を拭けばいいだろうと。でもエージ先輩はちゃんと手を洗う人だ。今だって、鞄の中から出したのはウェットティッシュ。そう、タブレットは不特定多数が触る物だ。
「こっちから見るとそのタブレットが指紋でベッタベタなのがあーもーイラッイラして、入り口で手ぇ洗ってんの無意味じゃねーかっていう。ちょい貸して、拭くから」
「あ、あざっす」
「エージ先輩は綺麗好きでいらっしゃるのですね」
「エマ、この人はそーゆーレベルじゃねーんだ。緑ヶ丘でもサークル室の衛生状況にメッ……チャクチャに厳しくて、ウチじゃ潔癖性だって言われてるくらいで」
「シノ。何遍も言うけど俺は潔癖性じゃねーべ」
「でもやってることが完璧に潔癖性じゃないっすか。つかそのウェットティッシュ、マジなスマホ・タブレット用のヤツなんすね」
「スマホってトイレより汚いって言うべ? 常に綺麗に出来る環境はあるに越したことないっていう」
「それはそーかもっすけど」
本来は店側が気にするべきことだろ、とエージ先輩はタブレットを拭きながら腹を立てている。高木先輩の話によれば、こないだすがやんが花栄のパン屋をおすすめしてくれた時も、以前その店に行ったときのイートインスペースの清掃の雑さに腹を立てていたそうだ。
エージ先輩は地元のレストランでホールのバイトをしているらしい。バイトが飲食だからこそそういう部分が目に付くのは、俺も一応飲食店でバイトをしてる身としてわかんなくはない。わかんなくはないとフォローした上で、エージ先輩はさすがにヤバすぎると言わせてもらう。
大体、花粉症シーズンに制定されたサークル室の新ルールだって結構アレ。鼻をかんだティッシュはその日のうちに自分で持ち帰って、サークル室には置いていくなって。だからスーパーで肉買ったときとかに入れる薄いカサカサした袋はここで使う用にとっておくことにしたよな。
「はい。これで大体綺麗になったから。メニュー見たらいいべ」
「重ね重ねありがとうございます」
「シノお前肉食うだろっていう」
「食いたいのは山々なんすけど、教科書販売がイタすぎて肉食う余裕がないんすよ。何で教科書ってあんな高いんすかね? 特にゼミの教科書」
「シノ、いいこと教えてやろうか」
「何すか!?」
「高木が、3年生のゼミの教科書は去年のより高いって嘆いてたべ」
「マジすか~……うわーやってらんねー」
「つか、教科書が毎年一緒なんだったらお前は卒業する果林先輩から譲ってもらうとかもワンチャンあるべ?」
「それだ! 確かに! エージ先輩天才! 神!」
エマと彩人がタブレットでメニューを見ながらあれこれ話しているのを横目に、俺とエージ先輩は紙のメニュー表で何となくのアタリをつける。うーん、ここはいったん安めのドリアとかにしといて、家に帰ってからマジなメシにする? 肉とか定食には手ぇ出しにくいなー。
「とりあえず、エマにはファミレスあるあるとして、一皿のポテトをみんなでつまむっつー体験はしてもらわないと」
「あー、エージさんいーっすねー」
「エージ先輩ごちそーさまっす!」
「シノお前真っ先に乗っかってきたべ。まあ、そのつもりだったから別にいいけど」
「あざぁーっす! いよっ! さすがエージ先輩っ!」
「お前これが高木だったら絶対こうはならんべ」
「まあ割り勘っすよね高木先輩だったら」
「そのうちお前もシノ先輩だったら割り勘になるって言われるべ」
「言って俺らの同期で後輩に奢りそうメンバーそんないなくないっすか? サキなんか絶対そんなのやんなそう」
「いーや、サキ君は何だかんだ優しいよ」
「サキさまには去年ベビーカステラをごちそうになりましたわよ」
「何だって!?」
「ほーら!」
「袋にいくつか詰めてもらえるお店でしたのよ。一緒に分けていただきましょうという話だったのですけれど、自分はひとつだけでいいと、残りを全ていただいてしまいまして」
「あー、それはマジでサキが1コだけ食べたかった可能性がある」
「1コだけ食べて後を人に任せるサキ君は解釈一致だ」
「おーいお前ら、頼むモン決まったんかっていう」
「あっすぐカゴに入れますすんません!」
end.
++++
指紋でベッタベタなタブレットを見た結果。
シノ・彩人・エマでサキに対する解像度がいろいろ違いそうで楽しい。対シノが一番ツンツンやろうなあ。ある意味で本音も出る。
そういやエイジとエマはつばめ会メンバーか。年末以外のつばめ会も見てみたい。
(phase3)
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「エマ、ホントにファミレスで良かったんか?」
「ええ、もちろんですのよ。わたくし、ファミリーレストランにはまだ大学の皆さまともご一緒したことがなく、今日が初めてですの。とても楽しみですわ」
ファンフェスの班打ち合わせで星港市内某所……っつーか高木先輩ン家の最寄り駅近くのファミレスだから、エージ先輩は普通に高木先輩ン家から来てる可能性が高そうだな。班長のエージ先輩と、俺と、彩人とエマっつーメンバーの班な。
で、去年の夏合宿でエマとペアを組んだサキからエマについての情報を軽く聞くと、青女にたまにいるガチなお嬢様で、大衆の店にはほとんど行ったことがなく、サキはハンバーガーチェーンの歩き方とスーパーで買えるお菓子を教えたそうだ。
ラッキーなことにスムーズに4人が座れるらしく、お好きな席にどうぞと言われたので好きな席に座る。水はセルフサービス。セルフサービスのお水の汲み方はうどん屋さんで学びましたのよ、とエマは得意げにグラスを手に取る。
「エージ先輩、どーぞっす」
「サンキュ」
「彩人さんもどうぞ」
「あんがとー」
「ファミリーレストランでの注文はどのようにすればよろしいのでしょうか」
「この店の場合は、このタブレットから注文する感じ。エマ、見てみる?」
「まあ、よろしいんですの? ありがとうございます」
「彩人、エマ、ちょい待ち」
注文用タブレットをエマに手渡そうとした彩人をエージ先輩が制止した。彩人はさすがに先輩からっしたねすんませんと、気持ちはわかんなくないけど緑ヶ丘的にはちょっと外した配慮をしている。違う、エージ先輩が気にしたのは多分そこじゃない。
この店は手洗い場があるタイプのファミレスだ。気付いてても洗わない奴だって少なくないと思う。言っちまえばおしぼりがあるんだからそれで手を拭けばいいだろうと。でもエージ先輩はちゃんと手を洗う人だ。今だって、鞄の中から出したのはウェットティッシュ。そう、タブレットは不特定多数が触る物だ。
「こっちから見るとそのタブレットが指紋でベッタベタなのがあーもーイラッイラして、入り口で手ぇ洗ってんの無意味じゃねーかっていう。ちょい貸して、拭くから」
「あ、あざっす」
「エージ先輩は綺麗好きでいらっしゃるのですね」
「エマ、この人はそーゆーレベルじゃねーんだ。緑ヶ丘でもサークル室の衛生状況にメッ……チャクチャに厳しくて、ウチじゃ潔癖性だって言われてるくらいで」
「シノ。何遍も言うけど俺は潔癖性じゃねーべ」
「でもやってることが完璧に潔癖性じゃないっすか。つかそのウェットティッシュ、マジなスマホ・タブレット用のヤツなんすね」
「スマホってトイレより汚いって言うべ? 常に綺麗に出来る環境はあるに越したことないっていう」
「それはそーかもっすけど」
本来は店側が気にするべきことだろ、とエージ先輩はタブレットを拭きながら腹を立てている。高木先輩の話によれば、こないだすがやんが花栄のパン屋をおすすめしてくれた時も、以前その店に行ったときのイートインスペースの清掃の雑さに腹を立てていたそうだ。
エージ先輩は地元のレストランでホールのバイトをしているらしい。バイトが飲食だからこそそういう部分が目に付くのは、俺も一応飲食店でバイトをしてる身としてわかんなくはない。わかんなくはないとフォローした上で、エージ先輩はさすがにヤバすぎると言わせてもらう。
大体、花粉症シーズンに制定されたサークル室の新ルールだって結構アレ。鼻をかんだティッシュはその日のうちに自分で持ち帰って、サークル室には置いていくなって。だからスーパーで肉買ったときとかに入れる薄いカサカサした袋はここで使う用にとっておくことにしたよな。
「はい。これで大体綺麗になったから。メニュー見たらいいべ」
「重ね重ねありがとうございます」
「シノお前肉食うだろっていう」
「食いたいのは山々なんすけど、教科書販売がイタすぎて肉食う余裕がないんすよ。何で教科書ってあんな高いんすかね? 特にゼミの教科書」
「シノ、いいこと教えてやろうか」
「何すか!?」
「高木が、3年生のゼミの教科書は去年のより高いって嘆いてたべ」
「マジすか~……うわーやってらんねー」
「つか、教科書が毎年一緒なんだったらお前は卒業する果林先輩から譲ってもらうとかもワンチャンあるべ?」
「それだ! 確かに! エージ先輩天才! 神!」
エマと彩人がタブレットでメニューを見ながらあれこれ話しているのを横目に、俺とエージ先輩は紙のメニュー表で何となくのアタリをつける。うーん、ここはいったん安めのドリアとかにしといて、家に帰ってからマジなメシにする? 肉とか定食には手ぇ出しにくいなー。
「とりあえず、エマにはファミレスあるあるとして、一皿のポテトをみんなでつまむっつー体験はしてもらわないと」
「あー、エージさんいーっすねー」
「エージ先輩ごちそーさまっす!」
「シノお前真っ先に乗っかってきたべ。まあ、そのつもりだったから別にいいけど」
「あざぁーっす! いよっ! さすがエージ先輩っ!」
「お前これが高木だったら絶対こうはならんべ」
「まあ割り勘っすよね高木先輩だったら」
「そのうちお前もシノ先輩だったら割り勘になるって言われるべ」
「言って俺らの同期で後輩に奢りそうメンバーそんないなくないっすか? サキなんか絶対そんなのやんなそう」
「いーや、サキ君は何だかんだ優しいよ」
「サキさまには去年ベビーカステラをごちそうになりましたわよ」
「何だって!?」
「ほーら!」
「袋にいくつか詰めてもらえるお店でしたのよ。一緒に分けていただきましょうという話だったのですけれど、自分はひとつだけでいいと、残りを全ていただいてしまいまして」
「あー、それはマジでサキが1コだけ食べたかった可能性がある」
「1コだけ食べて後を人に任せるサキ君は解釈一致だ」
「おーいお前ら、頼むモン決まったんかっていう」
「あっすぐカゴに入れますすんません!」
end.
++++
指紋でベッタベタなタブレットを見た結果。
シノ・彩人・エマでサキに対する解像度がいろいろ違いそうで楽しい。対シノが一番ツンツンやろうなあ。ある意味で本音も出る。
そういやエイジとエマはつばめ会メンバーか。年末以外のつばめ会も見てみたい。
(phase3)
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