2026
■At the end of winding road
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向島大学に入学して3日目、今週は健康診断や各種オリエンテーションで学内を回るのが主で、本格的な授業が始まるのは来週に入ってから。今日は履修登録が登校の大きな目的で、シラバスを見ながらどの講義を受けようかと考えるはずが、情報科学部の1年生は取らなければいけない講義がほぼ決まっているようなもので、必修科目で自動的に履修が埋まっていくような感じだった。
体育の種目によっては抽選が行われて、履修修正の必要が出て来ることもあるそうだけど、履修修正もさほど難しいことではないからと説明を受けて登録を終える。パソコン自習室を後にすると、ちょうど昼食をとるのにいい時間帯になっていた。学食で何か食べようとそちらへ向かう。昨日食べたのは焼き魚定食で、今日は醤油ラーメンにしようと券売機で食券を買う。
順路に沿ってトレーを手に取り、その上に食券を置く。小鉢は気になるけど今日はスルー。麺類のコーナーでおばさんに食券を渡し、少し待つと醤油ラーメンが出て来る。麺を湯切りする音が小気味好い。給水器で水を汲み、昨日と同じ辺りの席が空いていたのでそこに陣取る。いただきます。うん。普通に美味しい普通のラーメンだ。
『本日のお知らせです。奨学金制度を利用される方は、説明会が4月8日の16時30分から――』
天井のスピーカーからはちょっとしたお知らせが流れて来ている。昨日は男の人の声だったように思うけど、今日は女の人だ。こういうのも持ち回り制なんだろう。別に誰といるわけでもないので、ラーメンをすすりながら何となく上からの声に耳を傾ける。奨学金制度は使わないけど、もしかしたら自分にも有用な情報があるかもしれないからだ。
『さて、4月に入り、朝晩の寒さも少しずつ緩んで来たなと感じます。夜の寒さが和らぐのは、天体観測をしやすくなるので私としてはとても嬉しく思います。今日は、彗星を狙ってみようと考えています。今日見えるかもしれない彗星というのが――』
大学からのお知らせかと思えば、声の主の個人的な話が始まった。どうやら大学公式の放送と言うよりは、もう少しカジュアルなものなのかもしれない。だけど、今日彗星が観測できるかもしれないというのは初耳だ。
『この番組は、放送サークルMMPがお送りしました。それでは皆さん、健やかにお過ごしください』
番組が終わるのとほぼ同時にラーメンを食べ終え、水をクッと煽って席を立つ。トレーを食器返却口に戻すと、そこから出口までの動線上に掲示板があることに気付く。サークルのポスターで埋め尽くされている他の場所と比べると慎ましやかな印象を抱くその掲示板には、放送サークルのポスター。恐らく、今さっきまでやっていた番組のサークルだ。
そういうことをやっているサークルもあるんだなあと食堂を後にして外に出ると、さっきまではいなかったはずのサークル勧誘の人だかりが湧いていることに気付く。俺は勉強だけ頑張るつもりで大学に入っているし、サークルに入るつもりはない。だからビラをもらっても処理に困る。幸い3日目であることが、もうもらいましたという嘘を吐きやすくする。
ただ、道中で机と椅子を並べたブースの中に件のサークルを見つけてしまった。さっきまで食堂で放送していたラジオのサークルだ。入るつもりはないけれど、ちょっと話だけ聞いてみようかなと思った。男の人と女の人が1人ずつ、2人座っている。
「おっ、興味ある感じ? 良かったら話だけでもどうぞー」
「あ、じゃあ、話だけ、少し」
「ありがとうございます」
「俺たちはラジオをやってる放送サークルで、えーっと、今が12時40分ちょい前ってことは、さっきまでそこの食堂で15分の簡単なお知らせ番組をやってて」
「聞こえてましたよ」
「おおー! やった鳥ちゃん! 本当に届いてる!」
「良かったですね希くん!」
大きな三つ編みを背中から下げているこの人が、多分さっきの番組の声の主だろう。
「えっと、もし良かったら学部と、名前は聞いて大丈夫?」
「情報科学部メディア科学科の鷹来純平です」
「おおー、鳥ちゃん情報のメディアだって」
「私も同じ情報科学部のメディア科なのですよ。ああ、申し遅れました。2年の鳥居春風といいます」
「俺は環境の春日井希ー。で、鷹来君はこういうラジオとかに興味ある感じで?」
「あ、いや、本当に通りがかりで。たまたま」
「あ、ガチで話だけ聞いてくかー的な」
「的な、です。でも、さっきの番組を聞いて思ったのが、よくあんなに話せるなあと」
「よなー。鳥ちゃんなんてラジオ始めてまだ2ヶ月くらいなのにもうあんな上手いんだぜ? ヤバいよなー」
「あの、希くん。そんなに大層な物ではないのですよ」
「先輩は、元々話すのが得意な方なんですか?」
「いえ、堅苦しいとよく言われますよ。私は天文部からMMPに移って来たのですが、好きなこと、私だと星や宇宙のことについてより興味を持ってもらえるように伝えられるようになりたいというのが大きなテーマでして。それ以外にも、伝わりやすい言語化ということを意識するようにしています。これはラジオだけではなく、実際に人と話す際にも生きることだと思いまして」
俺は特に誰かに何を伝えたいとかいうことはないけれど、伝わりやすい言語化というのはなるほどなと思ったし、必要なことだとは思った。言葉をパッと思い浮かべるだけなら出来るけど、コミュニケーションの場合は伝わらなければ意味がない。少しだけ。ほんの少しだけ、ここのサークルに興味が湧いた。
「もし興味あればだけど、これがウチのサークルのことを簡単に書いたビラで、もし良ければだけど、見学も出来るからたまたまの縁が繋がれば俺ら的にも嬉しいし」
「これ、活動曜日が月水金で、今日って金曜日ですよね」
「やってます!」
「見に行っても?」
「大歓迎です!」
「よろしくお願いします」
「よっしゃー! 鳥ちゃんやった!」
「やりましたね希くん! ……っとっと、いけません。露骨過ぎました」
「こほん。えっと、ガイダンスって何時までだっけ? 終わり時間に情報の掲示板に来てもらえれば拾っていきます」
end.
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リハビリ。MMP新歓ブース、奈々奏多ペアがジャックをゲットした後だといい。
後々いろいろ流されて流されて自分の道を見つけたジュン。始まりも流されているといい。
奏多のジュン評が「堅物に見えて案外影響されやすい」なので、新歓ブースで誰かの言った尤もらしいことに影響されそうだとも。
(phase3)
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向島大学に入学して3日目、今週は健康診断や各種オリエンテーションで学内を回るのが主で、本格的な授業が始まるのは来週に入ってから。今日は履修登録が登校の大きな目的で、シラバスを見ながらどの講義を受けようかと考えるはずが、情報科学部の1年生は取らなければいけない講義がほぼ決まっているようなもので、必修科目で自動的に履修が埋まっていくような感じだった。
体育の種目によっては抽選が行われて、履修修正の必要が出て来ることもあるそうだけど、履修修正もさほど難しいことではないからと説明を受けて登録を終える。パソコン自習室を後にすると、ちょうど昼食をとるのにいい時間帯になっていた。学食で何か食べようとそちらへ向かう。昨日食べたのは焼き魚定食で、今日は醤油ラーメンにしようと券売機で食券を買う。
順路に沿ってトレーを手に取り、その上に食券を置く。小鉢は気になるけど今日はスルー。麺類のコーナーでおばさんに食券を渡し、少し待つと醤油ラーメンが出て来る。麺を湯切りする音が小気味好い。給水器で水を汲み、昨日と同じ辺りの席が空いていたのでそこに陣取る。いただきます。うん。普通に美味しい普通のラーメンだ。
『本日のお知らせです。奨学金制度を利用される方は、説明会が4月8日の16時30分から――』
天井のスピーカーからはちょっとしたお知らせが流れて来ている。昨日は男の人の声だったように思うけど、今日は女の人だ。こういうのも持ち回り制なんだろう。別に誰といるわけでもないので、ラーメンをすすりながら何となく上からの声に耳を傾ける。奨学金制度は使わないけど、もしかしたら自分にも有用な情報があるかもしれないからだ。
『さて、4月に入り、朝晩の寒さも少しずつ緩んで来たなと感じます。夜の寒さが和らぐのは、天体観測をしやすくなるので私としてはとても嬉しく思います。今日は、彗星を狙ってみようと考えています。今日見えるかもしれない彗星というのが――』
大学からのお知らせかと思えば、声の主の個人的な話が始まった。どうやら大学公式の放送と言うよりは、もう少しカジュアルなものなのかもしれない。だけど、今日彗星が観測できるかもしれないというのは初耳だ。
『この番組は、放送サークルMMPがお送りしました。それでは皆さん、健やかにお過ごしください』
番組が終わるのとほぼ同時にラーメンを食べ終え、水をクッと煽って席を立つ。トレーを食器返却口に戻すと、そこから出口までの動線上に掲示板があることに気付く。サークルのポスターで埋め尽くされている他の場所と比べると慎ましやかな印象を抱くその掲示板には、放送サークルのポスター。恐らく、今さっきまでやっていた番組のサークルだ。
そういうことをやっているサークルもあるんだなあと食堂を後にして外に出ると、さっきまではいなかったはずのサークル勧誘の人だかりが湧いていることに気付く。俺は勉強だけ頑張るつもりで大学に入っているし、サークルに入るつもりはない。だからビラをもらっても処理に困る。幸い3日目であることが、もうもらいましたという嘘を吐きやすくする。
ただ、道中で机と椅子を並べたブースの中に件のサークルを見つけてしまった。さっきまで食堂で放送していたラジオのサークルだ。入るつもりはないけれど、ちょっと話だけ聞いてみようかなと思った。男の人と女の人が1人ずつ、2人座っている。
「おっ、興味ある感じ? 良かったら話だけでもどうぞー」
「あ、じゃあ、話だけ、少し」
「ありがとうございます」
「俺たちはラジオをやってる放送サークルで、えーっと、今が12時40分ちょい前ってことは、さっきまでそこの食堂で15分の簡単なお知らせ番組をやってて」
「聞こえてましたよ」
「おおー! やった鳥ちゃん! 本当に届いてる!」
「良かったですね希くん!」
大きな三つ編みを背中から下げているこの人が、多分さっきの番組の声の主だろう。
「えっと、もし良かったら学部と、名前は聞いて大丈夫?」
「情報科学部メディア科学科の鷹来純平です」
「おおー、鳥ちゃん情報のメディアだって」
「私も同じ情報科学部のメディア科なのですよ。ああ、申し遅れました。2年の鳥居春風といいます」
「俺は環境の春日井希ー。で、鷹来君はこういうラジオとかに興味ある感じで?」
「あ、いや、本当に通りがかりで。たまたま」
「あ、ガチで話だけ聞いてくかー的な」
「的な、です。でも、さっきの番組を聞いて思ったのが、よくあんなに話せるなあと」
「よなー。鳥ちゃんなんてラジオ始めてまだ2ヶ月くらいなのにもうあんな上手いんだぜ? ヤバいよなー」
「あの、希くん。そんなに大層な物ではないのですよ」
「先輩は、元々話すのが得意な方なんですか?」
「いえ、堅苦しいとよく言われますよ。私は天文部からMMPに移って来たのですが、好きなこと、私だと星や宇宙のことについてより興味を持ってもらえるように伝えられるようになりたいというのが大きなテーマでして。それ以外にも、伝わりやすい言語化ということを意識するようにしています。これはラジオだけではなく、実際に人と話す際にも生きることだと思いまして」
俺は特に誰かに何を伝えたいとかいうことはないけれど、伝わりやすい言語化というのはなるほどなと思ったし、必要なことだとは思った。言葉をパッと思い浮かべるだけなら出来るけど、コミュニケーションの場合は伝わらなければ意味がない。少しだけ。ほんの少しだけ、ここのサークルに興味が湧いた。
「もし興味あればだけど、これがウチのサークルのことを簡単に書いたビラで、もし良ければだけど、見学も出来るからたまたまの縁が繋がれば俺ら的にも嬉しいし」
「これ、活動曜日が月水金で、今日って金曜日ですよね」
「やってます!」
「見に行っても?」
「大歓迎です!」
「よろしくお願いします」
「よっしゃー! 鳥ちゃんやった!」
「やりましたね希くん! ……っとっと、いけません。露骨過ぎました」
「こほん。えっと、ガイダンスって何時までだっけ? 終わり時間に情報の掲示板に来てもらえれば拾っていきます」
end.
++++
リハビリ。MMP新歓ブース、奈々奏多ペアがジャックをゲットした後だといい。
後々いろいろ流されて流されて自分の道を見つけたジュン。始まりも流されているといい。
奏多のジュン評が「堅物に見えて案外影響されやすい」なので、新歓ブースで誰かの言った尤もらしいことに影響されそうだとも。
(phase3)
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