2025

■ありがとうくじ引きの神様

++++

 ササ主催の薪ストーブの会は、今年で2回目を迎えた。薪ストーブのある山奥のコテージで思い思いに過ごそうという主旨だけど、極力スマホなどを見ないようにしようという副題も付いていた。デジタルデトックスは特に俺とレナ、そしてくるみには効果覿面だ。

「えーっ、すっごー! これがお料理もガッツリ出来るストーブ!?」
「そうそう。今年は誰かがガチってくれると信じて、薪をくべる炉と、料理用の炉が分かれてるストーブを選んでみました」
「こういう場所でデジタル禁止だと、丁寧な料理をするくらいがちょうどいい時間の使い方だなって思うよ。まあ、私はガチな料理は出来ないけど」

 今回は2泊3日の日程なので、1日目夜、2日目昼・夜の食事はくじ引きで決めたペアで作ろうという企画が立ち上がり、その結果、俺は1日目の夕食をシノと一緒に作ることになった。他は、2日目の昼がササとくるみ、夜がすがやんとレナの担当だ。
 ペア決めの時点で、実質的なシノ争奪戦になるとは思ってたから、正直物凄く安心している。シノは一人暮らしを始めて1年くらいになるけどちゃんと自炊もしてるし、何ならちょっと料理が趣味みたくなってるし。美味しいご飯を食べるなら、俺は下手に手を出さない方がいい。

「シノ、何を作るの」

 山の下での買い出しは、作りたい料理がある人が積極的に物をカゴに入れていた。俺はその辺みんなにお任せだったから、材料の内容すら把握していない。

「ベタに煮込み料理とか、シチューでも作ろっかなって思ってる」
「いいね」
「ササによればストーブ料理に使える道具もデフォであるっぽいから、肉焼いたりパン焼いたり、まあいろいろ出来るかな」
「シノ、頼もしいね。自分のくじ運に感謝するよ」
「この人数分の料理だし、サキにもがっつり手伝ってもらうからな」

 シノの指示に従って、まずは野菜を言われた通りに切っていく。俺も焼きそばくらいなら自分でも何も見ずに作ることは出来るので、こういう感じの仕事であれば難なく出来る。くじの結果が出た時、他のみんなもこのペアは安心だって言ってたし。

「シノ、何やってるの」
「せっかくだし、パンでも焼いてみようかなって思って」
「えっ、凄いね」
「手順はちゃんと書いてきてるし、食えるモンにはなると思うけど」
「マメだよね。俺は、レシピとかはその場でスマホで調べて動画を見ながらやればいいかなって思う方だよ」
「くるみとも言ってたんだけど、俺はレシピ動画よりも、本とか文字でパッと見せてもらった方がラク派なんだよな。だから調べたモンを大学でプリントアウトして、そこにいろいろ書き込んできた」

 手元に広げられた紙には、確かにいろいろ書き込まれていて俺が思った以上にちゃんとしてる。資格の勉強のときも、泥臭くやるのが向いてるって言ってたしね。自分に向いてるやり方がわかっているのも強みだね。改めて、ありがとうくじ引きの神様。
 シノがボウルで材料を混ぜている。パン作りと言えばこねるイメージがあるから不思議に思って見ていると、こねないパンを作るんだよ、とのこと。薪ストーブでのパン作りは、失敗しにくいように水分量の多い高加水パンにするのがいいらしい。
 何回かの発酵に時間はかかるけど、晩ご飯のタイミングでちょうど焼きたてになる方が絶対にいい。シチューとパンか。絶対に美味しいね。そのロケーションが薪ストーブのあるコテージだなんて、まるでシチューのCMみたいだ。

「サキ、これがシチューの作り方な」
「結構細かく書いてあるね」
「気を使うところが多いけど、この通りにすれば失敗はない。……多分。俺が好きでよく使ってるレシピサイトだから」
「へえ。じゃあ、この通りにやっていけばいいのかな」
「頼みます」

 今回のシチューは、基本的な野菜であるニンジン・ジャガイモ・玉ねぎの他にブロッコリーとしめじが入ることになっている。それから、鶏肉と。市販のシチューのルウを使わないのは、せっかくこういう場所でじっくり料理をするのなら、というシノの考えだ。
 ルウを使わないシチューなんて凄く難しそうだと思っていたけど、書いてある通りにやればいいだけだから大丈夫そうだ。と言うか、シノがついててくれるので、わからないことがあれば聞きながらやればいい。ダメそうなら代わってくれると思うし、素直に頼ろう。

「一応明日の朝飯分のパンも仕込んでるけど、あったらあったで食うよな? 正直俺は起きれる自信ないけど」
「くるみとすがやんに焼き方を教えておく必要はあるんじゃない。レナは絶対起きれないと思うけど、その2人は多分健全に朝から動くだろうから」
「じゃ後で教えとくかあ」

 担当の決まってない朝食のことまで気にかけてくれるシノのホスポタリティが素晴らしい。起床時間は特に決めてないから、朝ご飯はなるようになるって感じでふんわりしてたんだけど。俺も朝のパンのために早起きしようかなあ。あ、じゃあ俺がちゃんと見ておけばいいのか。

「シノ、今作業手順のここまで来たんだけど、こんな感じでいいの」
「いいんじゃね? 写真と一緒っぽいし」
「じゃあ続けるね」
「頼むわー」

 鍋底に焦げ付かないように、シチューになるものをゆるく混ぜながら煮ていく。一度炒めた鶏肉を取り出すなんて、俺は普段やったことがない。その行程一つだけでも凄く丁寧な料理っていう感じがする。

「他のペアは何を作るんだろうね」
「言っちゃ難だけどササとくるみなんか正直未知数だからな。我が相棒ながら料理のイメージが無さ過ぎる」
「シノってこういうのネタバレ大丈夫な方?」
「別に大丈夫だけど」
「すがやんはこの会のために魚を釣ってきてるから、何かしらの魚料理は出てくると思うんだよね」
「はあ!? 釣ったあ!? わざわざ!?」
「凄いよね」
「凄過ぎんだよ」

 俺からすれば、シノの覚醒を信じて料理もガッツリ出来るストーブのコテージを選んでくれたササの見る目も凄かったよね。


end.


++++

1年が経って、すっかりシノがこの学年の料理のリーダー。
すがやんは釣った魚を持ち込んでるし(寒いからイケるやろの精神)、陸さんも何かしら考えてきて欲しい。ピザとか?

(phase3)

.
86/92ページ