2017(04)

■情熱を象る

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「チョッコレイト、チョッコレイト」
「ご機嫌だね、かんな」
「手作りするんだからこれくらい気合入れなきゃ」
「がんばれー」

 台所からは、歌なんて歌ってご機嫌なかんながエプロン姿で歩いている。今日はこのまま台所を占領されたままだろうから、私の夕飯はお湯を入れるだけで済むカップラーメンとかになりそう。
 もうすぐバレンタイン。私にはフォトジェニックなチョコレートの巨大像でも出現しない限り無縁なイベントだけど、かんなは萩さんに渡すんだと言って張り切っている。最近は割と静かだと思っていたけど相変わらずラブラブだったようで。

「チョコレートよし、生クリームよし、無塩バター、ココアパウダー、ぶらんで……あっ! あやめ、ブランデーがない!」
「買って来たんじゃなかったの?」
「あれー、忘れたのかな! ……あ・や・め・ちゃーん」
「嫌です」
「まだ何も言ってないのに! これだから双子って」
「この状況だったら双子じゃなくてもかんなの考えてることなんてわかるよ。どーせひとっ走りしてブランデー買って来いとかそんなようなことでしょ?」
「あっ、せっかくだし買い物行くならホワイトチョコとオレンジリキュールも買って来て」
「まだ行くなんて一言も言ってませんけど?」
「原付あるでしょ?」

 ただ、姉妹間の強弱関係じゃないけどバレンタインデーに対する必死感がかんなを焦らせているし、これ以上口答えしても私には何の得もないと判断。この機会に恩を売っておこう。幸せなことで。
 スーパーにはバレンタインの特設コーナーが設けられていて、手作りチョコの材料も大っぴらに置かれている。オレンジリキュールはちょっと探さなきゃいけなかったけど、一応頼まれていた物は全部買うことが出来た。レシートはしっかり保管して。

「ただいまー。かんな、買って来たからお金ちゃんとちょうだいよ」
「今忙しいから後でね」
「冷蔵庫にレシート貼っとくから、本当にちょうだいよ」

 2人暮らしの中では食費や光熱費を月にいくらずつ出し合おうっていうルールがあって、家の財布という物も一応ある。だけど、このチョコレートに関しては完全にかんなの趣味だから、かんなの財布から拠出される費用であるべきで。
 だんだん家中が甘い匂いに浸食されてきたところで、私はリビングでぐったりとしていた。かんなは相変わらず楽しそうだし。別に甘い物が嫌いってワケじゃないけど、何だかなあ。雑用帰りで疲れてるのかな。
 すると、どこからかブーブーとバイブ音。どうやらかんなではなさそうだ。あっ、私か。電話なんて珍しいことがあるものだなあと思いつつ、あまりに疲れていたから誰からの着信か確認もせずに出てしまう。

「もしもし」
『もしもしあやめさんこんにちは、実苑です』
「あっ、実苑くん。どうしたの?」
『チョコレートで彫刻を作りました。あまり大きくはないのですがいい出来です。ぜひあやめさんにも見ていただきたいので僕の家にいらしてください』
「チョコレートで彫刻?」
『はい。塊のチョコレートが手に入ったので、それを削って作りました』
「なんか、よくわからないからとりあえず見に行く。今から行けばいい?」
『そうですね、すみません。来ていただければホットチョコレートでお迎えしますので』
「もしかして、削り屑の方で?」
『彫刻刀は綺麗にしてあるのでご心配なく。あっ、そんな都合で僕の部屋はあまり暖房を炊けないので防寒対策をしてきてください』

 実苑くんの家に行くならタブレットとカメラも必須だね。必要な道具を揃えて出掛ける準備を。原付で緑ヶ丘まで行く元気はさすがにないし、電車かな。かんなは相変わらず台所で聖戦の支度をしているし、私のことは眼中にもなさそうだから勝手に出かけても大丈夫だね。
 チョコレートで彫刻ってサラッと言うけど何気に結構すごいことだよね。彫刻は削り過ぎると取り替えしがつかないし、それでなくてもチョコレートだから温度で溶けちゃうこともあるだろうし。本気でバカなことをしてるなあって、すごく気になる。

「かんなー、ちょっと出かけてきまーす」
「んー」
「私がいないからってお金踏み倒さないでねー」
「んー」

 私は私で楽しいバレンタインにするんだ。せっかくチョコレートの像が向こうから来てくれたんだから、しっかりと撮影して記録しておかないと。


end.


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作品に貪欲な1年生コンビの方が通常運転のようです。しかし実苑がまたとんでもないことをしてんなあ、チョコで彫刻作るとか
そして聖戦の準備に忙しいかんなの方もチョコレートづくりに奮闘。忙しいからと原付のある妹を走らせる理不尽っぷり。
しかし萩さんはデパ地下のお菓子を日頃から食べ歩いてる猛者である……いや、彼女からの手作りはまた別件か。野暮でしたね

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