2025

■大きく息を吸って、吐く

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「ササせんぱーい、お茶しましょー」
「ん、今行く」

 凛斗がブンブンと手を振って俺をお茶に誘ってくれている。今はゼミ合宿の自由時間中。緑ヶ丘大学のセミナーハウスはリゾートホテルのような雰囲気があってとても豪華だ。外観はログハウスのような感じで、スキー場が併設している。ロビーは赤いカーペット敷きで暖炉やグランドピアノ、バーコーナーまである。夕食はフランス料理のフルコースだ。
 シノたちとやっていたスノーボードを早々に切り上げ、この合宿最大の目的と言っても過言ではない、暖炉の前で読書をするという楽しい時間を過ごしていた。俺はこのセミナーハウスがきっかけで暖炉や薪ストーブといった物を好きになり、将来は薪ストーブのある家で本を読みながら暮らしたいと思うようにもなった。

「えっ、外に行くのか?」
「せっかくの雪山なんで! 普通のカジュアル茶会はどこででも出来ますけど、どーせならより非日常な方がいいかなと思ったっす」

 凛斗のお茶会には俺の他に中とちむりーが招待されている。ゼミの面談の時に凛斗のお茶・着物の趣味が明らかになり、この合宿でようやくちょっとだけその様子を見せてくれているのだけど、お茶会の会場がまさかの外。茶道と言えば座敷のイメージがあるから、何が起こるのかわからなさすぎて。

「さっみィー…!」
「そうね~。私たちは、普通の服を着ているから、さすがに少し寒いわね~」
「だから熱いお茶を飲むんだよ。あっ、まいみぃ先輩」
「来たねMBCCの茶坊主。はい、そのまま使ってくれていいから」
「あざっす! お借りします! あっ、まいみぃ先輩も良かったら一杯どっすか?」
「あ、いいの? だったらアタシもごちそうになろっかな」
「それじゃあ皆さんにさっき買った落雁を配ってっと」

 どうやら凛斗とまいみぃの間でいつの間にか話が付いていたようで、雪中料理をしていたまいみぃのキャンプ道具を凛斗がそのまま使っている。凛斗がその場でお湯を沸かし始め、野外茶会の準備が本格的に始まった。今日は天気がいいので日の光を受けて辺り一面キラキラして眩しい。シノや亮真もどこかを滑っているだろうか。

「外でのお茶っていうのも野点っていって、れっきとしたお茶の楽しみ方っす。お茶は平安、野点は少なくとも戦国時代からあるんすから」
「最近じゃアウトドアブランドもそれ用の道具出してるよね。茶道ってちょっと敷居高いなーと思って手出してなかったんだけど、亮真がコーヒー挽いてるの見てちょっといいなーと思ってたんだよね」
「俺は逆にアウトドアでやる文化がなかったんで手ぇ出してなかったんすよね」
「占い師としては、野点にはなかなか興味がそそられるな」
「えっ、それと占いがどう関係すんの」
「戦国時代と言えばお前、占い師の活躍の場よ。天気に手相、くじ引きまで何でもござれよ。古来から戦いのあるところに占いアリってね」

 中は自分が占いをする以外にも、占いの歴史的・文化的背景まできちんと勉強をしているというのだから本当に凄いなと思うし、それだけ本気なのだというのが見て取れる。その上で、"刺さる"言葉を学びたいと言ってMBCCに来てくれたんだけど、ゆくゆく占い系配信者になる可能性も踏まえて機材に触るべくミキサーになったという経緯がある。ゼミの機材の方がいい物だし、学びも多いと思う。

「ん~、いい空気ね~」
「確かにここは非日常だわな。ちむちむ、眩しくないか?」
「少し眩しいけれど~、景色がとっても綺麗で、目に焼き付けたいと思うわ~」
「俺も裸眼で見てみるか。眩しっ! 白が白い!」
「中のメガネはカラーレンズだものね~」
「白が白いから緑が映えるんだって。中、茶会の間はそのままメガネ外しててよ。ダテメガネなんだろそれ」
「お茶が入ったら外してやっから今はかけさせといてくれ。眩しくてしゃーねーよ」

 スノーボードをしていても、実際に滑っていない時は脇の方で座って景色を眺めながら喋っていたりする。こうして大自然の中に身を置いて、大きく息を吸って、吐く。それだけでも心が洗われるようだ。

「お湯が沸いたっすね。じゃ、点ててきます。お湯をちょっと冷ましてっと」

 茶器こそ紙コップだけど、凛斗がお茶を点てる様は本当にやっている人なのだなというのが分かる。作法をきちんとした上での、カジュアル茶道か。招かれている側の俺たちは基礎も何もない、敷居の外にいたわけだけど、肩肘張らずに楽しませてもらえるのはいいなあと思う。

「どうぞ」

 青い空、白い山、緑のお茶。色がまずいい。お茶の香りがふわっと漂い、口に含むと、それが鼻の方に抜ける。大きく、腹で息を吸う。これはいい。

「んー! めっちゃいいじゃん! えー、今度これで動画撮りた! アウトドア用のお茶セット買おっかな」
「買っちゃってください。作法とかにうるさいだけの奴はじゃあお前がやれよでワンパンっす。大体において心の文化っすからね、お茶は。形式や作法だけ極めたってしょーもないんすよ」
「だよね!」
「あっでも音にはこだわった方がいいっすよ。お茶を点てる音とかその空間の音が大事で、出来ればBGMはなしがいいっすね」
「音ね、了解」
「中~、お茶が緑色よ~」
「うん、めっちゃ緑。カラーレンズを通さない色がめっちゃはっきりしてる」
「ササ先輩、どっすか」
「凄くいい。シノが通りかからないかなって思ってる」
「シノ先輩てお茶とか飲むんすか?」
「智也とお茶ってイメージなくない?」
「飲めると思うけど、どうだろ。もう1回大きく息吸おう」


end.


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中のメガネは胡散臭さを演出するダテのカラーレンズ入り。赤いレンズね

(phase3)

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