2025
■仕事はまめまめしく
++++
「おう高木君、今年もよろしくなあ」
「よろしくお願いします」
越野さんと一緒に、知らない男の人が事務所に入って来た。昨日、明日から短期バイトの学生さんが来るって聞いた気がするし、この人がそうなのかも。所長が今年もよろしくって言ってるから、1年に1回くらい来てる感じなのかなあ。こう言ったら失礼かもだけど、この会社じゃ華奢扱いされてる越野さんよりも体が細くって、肉体労働は大丈夫なのかなって。
「今年も吊り札付けはあるけど、吊り札が入ってくるまではちょっと現場の方で仕事しててもらう感じになるかな。とりあえずジャケットと、現場道具一式。WMSの端末は20番のを固定で使ってもらう感じで」
「分かりました」
「後はそこまで大きな変化はないし、また大石君とか現場の人に聞いてやっていってくれえ。じゃあ、まずB棟2階で大石君の手伝いからしてもらおうかな」
「はい」
所長から簡単な指示だけ受けて、その人は現場に行ってしまった。1人で構内を歩けてるみたいだし、本当に経験のある人なんだなあ。で、大石さんの手伝いっていうのが例によって大量に溜まってる返品入庫なので、今日は朝から越野さんもそっちの応援に行くとのこと。越野さんが応援って言うと、実際は大石さんを叱り付けながらの仕事になってそう。これはイメージ。
「高沢さん、人材派遣の会社からじゃなくて、ウチの会社が直で雇う学生のアルバイトさんが来るのって珍しいですね?」
「そうだね。あの子は2年前かな? 吊り札交換の作業が急に入って来た時に大石君が声をかけて来てくれて、そのまま毎年この時期に働いてくれてるんだよ」
「へー、そうなんですね」
「下手な人材さんをたくさん雇うより、この人は出来ると思った人にピンポイントで声を掛けて、一本釣りって言うのかな。とにかくそんなようなことだね」
「吊り札付けの作業かー。アタシあれ苦手なんですよねー」
「高木君はとにかく細かい作業が得意で、吊り札付けも従業員の誰より速く丁寧にやっちゃうんだよ。あと、B棟2階の返品入庫にも苦手意識がないみたいだから、吊り札付けが落ち着いてるときはそっちをよくやってくれてるね」
体つきが一般的な基準でも華奢に見えたから倉庫の仕事、大丈夫かなあって思ったけど、重たいものを担いだりするだけが倉庫の仕事じゃないことを思い出した。あと、この会社だと、細かい作業が得意なのはパートさんってイメージだったから、男の人がそういう仕事が得意なのにも驚いたし、いろんな人がいるんだなあって思いました。この会社の男の人は特に細かいことをしなさそうだし。
「細かい作業が得意で返品入庫が苦手じゃないって、大石さんの弱点をそのまま補強したような感じの人ですね。まるでこうなるのがわかってて声を掛けたみたい」
「あはは、ホントだね。仕事はマメだし塩見さんもお気に入りみたいだから、あの子の能力が長岡君にも知れたら今年辺り争奪戦が始まるかもね。自分の弱点を補完したい大石君と、自分と同じだけのマメさで仕事が出来る子を手元に置きたい長岡君と、吊り札付けや検品票貼りを手早く終わらせたい塩見さんとで」
「圭佑、アンタ密かに楽しんでるっしょ。わっるい男だわ」
「いえいえそんな滅相もない」
「ウッチー、圭佑は腹黒い奴だからねー、信用しきった頃に平気で裏切ってくるからねー気を付けなねー」
「きゃーこわーい」
「内山さんも、大分強かさを身に付けて来たね」
大石さんが細かい作業が苦手っていうのは本当にそう。出荷のない土曜日とかに社員みんなで作業小屋に入って仕事してたことがあるんだけど、大石さんは本っ……当に不器用だった! あっダメだってなった時の山田さんと塩見さんの目が、やっぱりなあってわかってる風でもあった。だから途中から細かい作業はクビになって、袋詰めまで終わった製品をケースにまとめてパレットに積み直す仕事をしてたよね。
仕事としては、製品が入ってるビニール袋を留めてあるセロテープをハサミで切る、製品保護用のグラシン紙を破かないように外す。それで製品の吊り札を付け替えて、また紙を挟んで、袋を閉じる。それまでの間に袋や紙が破けちゃうみたい。人それぞれ得意不得意はあるんだなあって改めて思ったし、大石さんはちゃんと人間。越野さんはこれも出来ちゃうから今のところ人間じゃない。長岡君が得意なのはイメージ通り。
「今来た高木さん? と長岡君はどっちがマメと言うか器用なんですかね?」
「吊り札付けとかシール貼りみたいな仕事で言えばさすがに高木君じゃないかな。現場の仕事になると、力の分だけ長岡君に利があるって感じ」
「アタシみんなで作業小屋で仕事したときのこと思い出したんですけど、大石さんがド派手に不器用だった裏で、越野さんが吊り札付けの仕事もソツなくこなしてたんでやっぱあの人おかしいですよ」
「ああー、万里はねえ、子供の頃から本当に器用なんだよ。習いもしないのに人がやってるの真似してピアノ弾いてみたり、小学校の頃なんかすごい高さの竹馬で走り回ってたり」
「こっしーが竹馬で走り回ってるのは解釈一致だけど、ピアノは意外だったわ」
「高沢さん他にも越野さんのちっちゃい頃のエピソードとかないんですか?」
「ウッチー、こっしーの弱み握ろうとしてる?」
「いやいやそんな滅相もない! ただ、越野さんがどんな子供だったのかなあって興味があるだけですよ」
end.
++++
ちーちゃんは細かい返品入庫が苦手ではあるけど、ただやらないのではなく他の仕事もあるので優先順位を落としてる感じ。
フェーズ1の時間軸から会社にはいる圭佑君や山田さんからすれば、今年もこの時期が来たなあという合図かもしれない。
(phase3)
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「おう高木君、今年もよろしくなあ」
「よろしくお願いします」
越野さんと一緒に、知らない男の人が事務所に入って来た。昨日、明日から短期バイトの学生さんが来るって聞いた気がするし、この人がそうなのかも。所長が今年もよろしくって言ってるから、1年に1回くらい来てる感じなのかなあ。こう言ったら失礼かもだけど、この会社じゃ華奢扱いされてる越野さんよりも体が細くって、肉体労働は大丈夫なのかなって。
「今年も吊り札付けはあるけど、吊り札が入ってくるまではちょっと現場の方で仕事しててもらう感じになるかな。とりあえずジャケットと、現場道具一式。WMSの端末は20番のを固定で使ってもらう感じで」
「分かりました」
「後はそこまで大きな変化はないし、また大石君とか現場の人に聞いてやっていってくれえ。じゃあ、まずB棟2階で大石君の手伝いからしてもらおうかな」
「はい」
所長から簡単な指示だけ受けて、その人は現場に行ってしまった。1人で構内を歩けてるみたいだし、本当に経験のある人なんだなあ。で、大石さんの手伝いっていうのが例によって大量に溜まってる返品入庫なので、今日は朝から越野さんもそっちの応援に行くとのこと。越野さんが応援って言うと、実際は大石さんを叱り付けながらの仕事になってそう。これはイメージ。
「高沢さん、人材派遣の会社からじゃなくて、ウチの会社が直で雇う学生のアルバイトさんが来るのって珍しいですね?」
「そうだね。あの子は2年前かな? 吊り札交換の作業が急に入って来た時に大石君が声をかけて来てくれて、そのまま毎年この時期に働いてくれてるんだよ」
「へー、そうなんですね」
「下手な人材さんをたくさん雇うより、この人は出来ると思った人にピンポイントで声を掛けて、一本釣りって言うのかな。とにかくそんなようなことだね」
「吊り札付けの作業かー。アタシあれ苦手なんですよねー」
「高木君はとにかく細かい作業が得意で、吊り札付けも従業員の誰より速く丁寧にやっちゃうんだよ。あと、B棟2階の返品入庫にも苦手意識がないみたいだから、吊り札付けが落ち着いてるときはそっちをよくやってくれてるね」
体つきが一般的な基準でも華奢に見えたから倉庫の仕事、大丈夫かなあって思ったけど、重たいものを担いだりするだけが倉庫の仕事じゃないことを思い出した。あと、この会社だと、細かい作業が得意なのはパートさんってイメージだったから、男の人がそういう仕事が得意なのにも驚いたし、いろんな人がいるんだなあって思いました。この会社の男の人は特に細かいことをしなさそうだし。
「細かい作業が得意で返品入庫が苦手じゃないって、大石さんの弱点をそのまま補強したような感じの人ですね。まるでこうなるのがわかってて声を掛けたみたい」
「あはは、ホントだね。仕事はマメだし塩見さんもお気に入りみたいだから、あの子の能力が長岡君にも知れたら今年辺り争奪戦が始まるかもね。自分の弱点を補完したい大石君と、自分と同じだけのマメさで仕事が出来る子を手元に置きたい長岡君と、吊り札付けや検品票貼りを手早く終わらせたい塩見さんとで」
「圭佑、アンタ密かに楽しんでるっしょ。わっるい男だわ」
「いえいえそんな滅相もない」
「ウッチー、圭佑は腹黒い奴だからねー、信用しきった頃に平気で裏切ってくるからねー気を付けなねー」
「きゃーこわーい」
「内山さんも、大分強かさを身に付けて来たね」
大石さんが細かい作業が苦手っていうのは本当にそう。出荷のない土曜日とかに社員みんなで作業小屋に入って仕事してたことがあるんだけど、大石さんは本っ……当に不器用だった! あっダメだってなった時の山田さんと塩見さんの目が、やっぱりなあってわかってる風でもあった。だから途中から細かい作業はクビになって、袋詰めまで終わった製品をケースにまとめてパレットに積み直す仕事をしてたよね。
仕事としては、製品が入ってるビニール袋を留めてあるセロテープをハサミで切る、製品保護用のグラシン紙を破かないように外す。それで製品の吊り札を付け替えて、また紙を挟んで、袋を閉じる。それまでの間に袋や紙が破けちゃうみたい。人それぞれ得意不得意はあるんだなあって改めて思ったし、大石さんはちゃんと人間。越野さんはこれも出来ちゃうから今のところ人間じゃない。長岡君が得意なのはイメージ通り。
「今来た高木さん? と長岡君はどっちがマメと言うか器用なんですかね?」
「吊り札付けとかシール貼りみたいな仕事で言えばさすがに高木君じゃないかな。現場の仕事になると、力の分だけ長岡君に利があるって感じ」
「アタシみんなで作業小屋で仕事したときのこと思い出したんですけど、大石さんがド派手に不器用だった裏で、越野さんが吊り札付けの仕事もソツなくこなしてたんでやっぱあの人おかしいですよ」
「ああー、万里はねえ、子供の頃から本当に器用なんだよ。習いもしないのに人がやってるの真似してピアノ弾いてみたり、小学校の頃なんかすごい高さの竹馬で走り回ってたり」
「こっしーが竹馬で走り回ってるのは解釈一致だけど、ピアノは意外だったわ」
「高沢さん他にも越野さんのちっちゃい頃のエピソードとかないんですか?」
「ウッチー、こっしーの弱み握ろうとしてる?」
「いやいやそんな滅相もない! ただ、越野さんがどんな子供だったのかなあって興味があるだけですよ」
end.
++++
ちーちゃんは細かい返品入庫が苦手ではあるけど、ただやらないのではなく他の仕事もあるので優先順位を落としてる感じ。
フェーズ1の時間軸から会社にはいる圭佑君や山田さんからすれば、今年もこの時期が来たなあという合図かもしれない。
(phase3)
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