2025
■みんな、いろいろあるのにね
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「殿、考え事をしているの~?」
対策委員の会議が終わると、途中まで方角が同じちむりーと共に帰る流れになっていた。だからと言って特段会話が弾むということではなく、ちむりーが投げかける話題に一言返事をして、それにちむりーが「そうよね~」などと返事をするだけのことを何度かする程度。
「いや、大したことではない」
「あら~」
考えていたのは、本当に大したことではない。うどんの上に乗せる具は、どうしたものかと考えていた。出来ればテスト期間が始まる前に、テストの後でもいいが、サークルの同期の皆にうどんを振る舞いたいと考えている。
「私も、力になれればと思ったのだけど~」
「……では、少し訊ねても、いいだろうか」
「ええ! 大歓迎よ~。何かしら~」
「うどんの上に乗せる、具についてだ」
「おうどんの具」
「ああ。俺は、サークルの皆に、料理を振る舞う機会がある。うっしーがうどん好きで、リクエストされることが多いのだが、具のレパートリー、バラエティーに乏しい。掻き揚げになりがちだ」
「掻き揚げも、美味しいと思うわ~」
「だが、他に何をどうしたものかと考えている。ちむりーは、うどんを食べる際には、何の具を選ぶだろうか」
「そうね~」
掻き揚げや天ぷら以外には何をどうしたものかと考える。いや、それ以外にもいろいろな種類の具があるのは知ってはいるが。掻き揚げが楽なのは、今ある材料で簡単に作れるからだ。わざわざそのために用意しなくてもいいという点にある。ジャックの部屋でも、ある物で作ることが多い。うどん以外に使うのが難しい物を買って、余らせるのも申し訳ない。
「いろいろ考えてみたのだけど~、一番は、きつねうどんね~」
「揚げか」
「つゆをたっぷり吸って、ふっくらしたお揚げにかぶりつくのが、何より美味しいと思うわ~」
「確かに。シンプルで、奥深いと思う」
「きつねうどんの他には、わかめうどんにきのこうどん、月見もいいわね~」
「ふむ」
「でも、男の子たちばかりだったら、物足りなく感じるかしら~。おうどんのことだったら、ササ先輩が詳しいのだけど~。私はあまりいろいろ種類を食べないから、発想力がね~」
ごめんなさいね~とは言うが、基本の部分を思い出させてもらったので、感謝しかない。きつねうどんは、ごまかしの利かない物だと思う。だからこそ、一度挑戦する価値はある。よし、次は、きつねうどんにしよう。
「おかげで、次回のメニューが定まった。感謝する」
「力になれたなら、よかったわ~。本当はね、殿は、もっと難しいことを、考えていると思っていたの~。だってほら、悲しそうな顔を、していたから」
「……そんな風に、見えていたのか」
「私が、そう見えただけよ~。殿は、咄嗟に嘘を吐いたり、誤魔化すことは苦手そうだから、きっと、本当におうどんのことを考えていたのよね~」
「うどんのことを考えていたのは、本当だ」
「そうよね~」
「だが、そう見えたとするなら、うどんを作ろうと思った理由の方が、滲んでいたのかもしれない」
「聞いても、いいかしら」
先月、OBを名乗る男がサークル室に襲来してきた件は、何も解決していない。幸い、あれ以来サークル室にあの男が姿を見せたことはないが、またいつああいったことが起こるかと皆気が気でないようだ。特に、ジュンとうっしーが。
ツッツとそのことについて少し話す機会があったが、ツッツもその2人を特に心配しているようだった。うっしーのトラウマや、それに刺激された精神状態のこと。ジュンの怒りが、作品制作に向かう理由を取り違えさせないかということなど。
パロは、相手の正義も考えるタイプだ。今の自分たちが正しいとは思っていても、自分たちにとって悪いものだからとすぐに叩くことは出来ない。自分も、それなりに怒りはある。自分たち6人の中で一番平静を保っているのは、ツッツであると感じた。
不穏な空気が漂い続ける中で、悪い感情ばかりを表に出すことが増えた今の雰囲気は、決していいとは言えない。かの件が一刻も早く解決することを願ってやまないが、その他に自分が出来ることは何かないだろうかと考えた結果の、うどんだ。
「殿は、向島のみんなのことが、本当に大好きなのね~」
「すまない、こんな話を」
「いいのよ~。私も、友達には笑っていて欲しいと思うもの。ほら~、緑ヶ丘でも、中のことで、少しバタバタしたから~」
「……ああ。夢子の件だな」
「ええ。実は、中本人よりも、琉生の方が大変だったの」
「琉生は、ちむりーが難癖を付けられたことに切れた、という印象だったが」
「琉生には、私の辛かった時のことも、話していたから~。きっと、それで怒ってくれたんだと思うの~。だけど、私はそれを乗り越えて、今を生きているから。だからね、琉生にもそれをわかって欲しくて~。それを言ったら、私が辛かったのは前までだけど、琉生だって、みーんな、いろいろあるのにね~」
これに何と返せばいいのかわからず、一言「そうだな」とだけ返す。みんないろいろあるのにね、という部分には、多少思い当たる部分があるからだ。うっしーは時間がかかるにせよ、ジュンは、二浪のコンプレックスを乗り越えつつあると思っていただけに、この事件が水を差したと思っている。
「殿の話がたくさん聞けて、とても嬉しいわ~。いつもは、私が話してばかりだから~」
「……すまない。会話は、あまり得意ではなく」
「謝ることはないわ~。殿が、私の話をきちんと聞いてくれて、それを覚えていてくれていることは、わかっているから~。それに、私はお喋りが好きだから、聞き上手な殿に甘えちゃうのよ~」
end.
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ちむちむと殿の帰路。きつねうどんを思いついた時の話。
(phase3)
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「殿、考え事をしているの~?」
対策委員の会議が終わると、途中まで方角が同じちむりーと共に帰る流れになっていた。だからと言って特段会話が弾むということではなく、ちむりーが投げかける話題に一言返事をして、それにちむりーが「そうよね~」などと返事をするだけのことを何度かする程度。
「いや、大したことではない」
「あら~」
考えていたのは、本当に大したことではない。うどんの上に乗せる具は、どうしたものかと考えていた。出来ればテスト期間が始まる前に、テストの後でもいいが、サークルの同期の皆にうどんを振る舞いたいと考えている。
「私も、力になれればと思ったのだけど~」
「……では、少し訊ねても、いいだろうか」
「ええ! 大歓迎よ~。何かしら~」
「うどんの上に乗せる、具についてだ」
「おうどんの具」
「ああ。俺は、サークルの皆に、料理を振る舞う機会がある。うっしーがうどん好きで、リクエストされることが多いのだが、具のレパートリー、バラエティーに乏しい。掻き揚げになりがちだ」
「掻き揚げも、美味しいと思うわ~」
「だが、他に何をどうしたものかと考えている。ちむりーは、うどんを食べる際には、何の具を選ぶだろうか」
「そうね~」
掻き揚げや天ぷら以外には何をどうしたものかと考える。いや、それ以外にもいろいろな種類の具があるのは知ってはいるが。掻き揚げが楽なのは、今ある材料で簡単に作れるからだ。わざわざそのために用意しなくてもいいという点にある。ジャックの部屋でも、ある物で作ることが多い。うどん以外に使うのが難しい物を買って、余らせるのも申し訳ない。
「いろいろ考えてみたのだけど~、一番は、きつねうどんね~」
「揚げか」
「つゆをたっぷり吸って、ふっくらしたお揚げにかぶりつくのが、何より美味しいと思うわ~」
「確かに。シンプルで、奥深いと思う」
「きつねうどんの他には、わかめうどんにきのこうどん、月見もいいわね~」
「ふむ」
「でも、男の子たちばかりだったら、物足りなく感じるかしら~。おうどんのことだったら、ササ先輩が詳しいのだけど~。私はあまりいろいろ種類を食べないから、発想力がね~」
ごめんなさいね~とは言うが、基本の部分を思い出させてもらったので、感謝しかない。きつねうどんは、ごまかしの利かない物だと思う。だからこそ、一度挑戦する価値はある。よし、次は、きつねうどんにしよう。
「おかげで、次回のメニューが定まった。感謝する」
「力になれたなら、よかったわ~。本当はね、殿は、もっと難しいことを、考えていると思っていたの~。だってほら、悲しそうな顔を、していたから」
「……そんな風に、見えていたのか」
「私が、そう見えただけよ~。殿は、咄嗟に嘘を吐いたり、誤魔化すことは苦手そうだから、きっと、本当におうどんのことを考えていたのよね~」
「うどんのことを考えていたのは、本当だ」
「そうよね~」
「だが、そう見えたとするなら、うどんを作ろうと思った理由の方が、滲んでいたのかもしれない」
「聞いても、いいかしら」
先月、OBを名乗る男がサークル室に襲来してきた件は、何も解決していない。幸い、あれ以来サークル室にあの男が姿を見せたことはないが、またいつああいったことが起こるかと皆気が気でないようだ。特に、ジュンとうっしーが。
ツッツとそのことについて少し話す機会があったが、ツッツもその2人を特に心配しているようだった。うっしーのトラウマや、それに刺激された精神状態のこと。ジュンの怒りが、作品制作に向かう理由を取り違えさせないかということなど。
パロは、相手の正義も考えるタイプだ。今の自分たちが正しいとは思っていても、自分たちにとって悪いものだからとすぐに叩くことは出来ない。自分も、それなりに怒りはある。自分たち6人の中で一番平静を保っているのは、ツッツであると感じた。
不穏な空気が漂い続ける中で、悪い感情ばかりを表に出すことが増えた今の雰囲気は、決していいとは言えない。かの件が一刻も早く解決することを願ってやまないが、その他に自分が出来ることは何かないだろうかと考えた結果の、うどんだ。
「殿は、向島のみんなのことが、本当に大好きなのね~」
「すまない、こんな話を」
「いいのよ~。私も、友達には笑っていて欲しいと思うもの。ほら~、緑ヶ丘でも、中のことで、少しバタバタしたから~」
「……ああ。夢子の件だな」
「ええ。実は、中本人よりも、琉生の方が大変だったの」
「琉生は、ちむりーが難癖を付けられたことに切れた、という印象だったが」
「琉生には、私の辛かった時のことも、話していたから~。きっと、それで怒ってくれたんだと思うの~。だけど、私はそれを乗り越えて、今を生きているから。だからね、琉生にもそれをわかって欲しくて~。それを言ったら、私が辛かったのは前までだけど、琉生だって、みーんな、いろいろあるのにね~」
これに何と返せばいいのかわからず、一言「そうだな」とだけ返す。みんないろいろあるのにね、という部分には、多少思い当たる部分があるからだ。うっしーは時間がかかるにせよ、ジュンは、二浪のコンプレックスを乗り越えつつあると思っていただけに、この事件が水を差したと思っている。
「殿の話がたくさん聞けて、とても嬉しいわ~。いつもは、私が話してばかりだから~」
「……すまない。会話は、あまり得意ではなく」
「謝ることはないわ~。殿が、私の話をきちんと聞いてくれて、それを覚えていてくれていることは、わかっているから~。それに、私はお喋りが好きだから、聞き上手な殿に甘えちゃうのよ~」
end.
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ちむちむと殿の帰路。きつねうどんを思いついた時の話。
(phase3)
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