2025
■大人の挨拶をする
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向西倉庫の新卒4人が、胸に社名の入った揃いの作業着を着て6階建てのドデカい倉庫の入り口に立つ。ここは、通称“ロジ”と呼ばれるお上直営の倉庫会社だ。「せっかく余所行きを作ったんだし、外に行ってみるか!」と派遣されたのがここ。
ウチの会社はこことズッブズブの関係にあって、健康診断もこっちの会社と合同だし、ウチから横持ち作業で出す物はこっちの倉庫に集約され、ここから出荷されている。関連会社の会議なんかもここでやってるらしく、宮本主任はよくお邪魔しているそうだ。
「向西倉庫です」
「はーい、伺っております。担当の者を呼びますね」
今日はどうして俺たち4人が派遣されたのかというと、こっちの倉庫からウチの会社に移す物の荷造りを手伝って欲しいとのこと。そっちは社員も派遣も山ほどいるんだから自分らでやれ、とは事務所でみんな言ってたけど、ウチもヒマだし向こうは要領が悪いので“貸し”だぞ! とのことだ。
「てか構内ひっろ」
「広いけど、雑然としてますよね」
「要領悪くて入庫もロクにやってないから出荷にバカみたいに時間がかかるって話だぞ」
健康診断以外でこの会社に来ることはあまりないので、ゆっくりと中を見ることもない。担当の人が来るのをひそひそ話しながら待つ。大石はバイト時代に何度も出荷の応援で来たことがあるらしいので、他3人よりは落ち着いた様子だ。
「あっ、どーもお疲れさまですー、木下ですー。あっ、向西さんの新卒の子たち。あれっ、君ずっと前からいるよね!? ウチにも何度か来てるしそっちでも見かけてるし」
「去年まではアルバイトで、大学を卒業して今年から正社員になりました」
「へえ~、そうなんだぁ。よっぽどこの仕事が好きなんだねえ。あっ、そしたら名前聞いていい?」
「大石です」
「越野です」
「長岡です」
「内山です」
「それじゃあ、今日片付けをお願いしたい場所に行こうか」
構内用エレベーターに乗り、今回の作業場となる5階へ。作業内容としては、これからウチで扱うことになったアパレル製品を引っ越せるよう荷造りをするそうだけど、その前に簡易棚卸的なことを挟むらしい。大石と長岡が荷造り、俺と内山が棚卸を担当しそうな予感。
「今年の子たちはみんな優秀だからガンガン使ってやってくれって宮本さんが言ってたし、片付けてもらえると本当に助かります」
木下さんから今日の作業場はここです、と案内された場所がどこの密林かと。俺が普段から大石に片付けろ片付けろと言っているB棟2階ですら実はとても整理された空間だったんじゃないかと思ってしまう程の惨状。正直全員引いている。
製品がロクに入庫もされてないという噂は聞いていたが、これはガチだ。何がどこにあるのかさっぱりわからない。フリーロケーションにも程があるし、通路が真っ直ぐですらない。ケースをそのままポンと放ってありますという感じで放置されていて、見た感じ同じカラーサイズの重複したケースが複数開封されていたりする。
「木下さん、確認ですけど、ウチに引っ越す製品の作業はこちらで好きなようにしても?」
「大丈夫です。やりやすいようにやってもらって。パレットはこっちに用意してあるし、パレット用のエレベーターはこっちだから、はみ出さないように入れてもらって。ハンドリフトはそっち。好きなように使って」
「大石、どうする。このフロア、結構なフリーロケーションだから当該製品があちこち散らばってる可能性があるぞ」
「そうだね。一旦同じ品番で固めようか。で、粗方固まったら数を読んでデータと照合しよう。俺と長岡君で大きなケースを集めるし、内山さんはバラになってる物を寄せてくれる? 越野はフロア全部歩いて迷子になってる物がないかチェックして欲しい」
「了解」
木下さんによれば、引っ越す製品は粗方固めてもらったそうだけど、フロア全体を歩くと案の定はぐれケースが出るわ出るわ。酷いものだと全然違う製品の溜め列の、俺が手ぇ伸ばしてやっと届くくらいのところに1枚ポンと置いてあったりもする。これはジャンプボールの要領でチップして拾う。
「おーい、3列目までの迷子回収ー」
「はーい、預かりまーす」
「越野君、もしかしたらその辺にケース混ざってるかも」
「はあ!? え、ケースの数が合わないのか」
「合わないねえ。一応溢れたバラはウッチーにケースにしてもらってるんだけど、その上で合わないから、まだどこかに紛れてそう」
「ほーん、わかった。このフロアにある物は何も信用するなってことだな?」
この会社では誰が入庫してるのかは知ったこっちゃないが、この調子ならいくら端末でピッキングする製品のロケーションがわかるとは言え出荷に時間がかかるだろう。端末でわかるのはあくまで大まかな場所に過ぎないし、そもそも登録されているロケーションすら信用に値する物でないとするならば。
「これで粗方集まったかあ?」
「大きなケースは大体パレットに積んじゃったし、あとは細々した物を整理すればオッケーだね」
何時間か掛けて、俺たち4人でやれるだけやってやった。荷物がまとまったパレットにはラップを巻いて、移動中に崩れないようにする。短い距離でも確実に。
「わあ、すごい! 早いねえ、ウチでやったら2日はかかってたよ」
「ロジさんは広いし物も多いので大変ですよね。大きい会社ですし」
「現場にこそちゃんと仕事を出来る社員を置くべきなんだよね。向西さんはウチよりは小さい会社だけど、その分指揮系統がちゃんとしてるとか連携がしっかり取れるのが強みだよね」
「これだけ大きい会社だとどこで誰が何の仕事をしてるのかもわかんなくなっちゃいそうですもんね」
「そうなんだよねえ。現場の要領だとか、効率とか、しっかり考えながら出来る人員が欲しいって言ってるんだけどなかなかね。大石君てどこ大通ってて社員登用になったの?」
「星大ですね」
「星大!? それは逆に何で現場作業やってんの!? ウチの本社の方にいてもおかしくないのに!」
「越野君も物流専攻のスーパーエリートだしね」
「事務も現場仕事もどっちもやっちゃいますもんね」
「いやいや、4人とも手際良かったよ。宮本さんがあれだけ自信満々だった理由がわかった。何はともあれ、今日はありがとう。また機会があったらよろしくお願いします」
この雑然とした状況が改善されないまま“また”があってたまるかという気持ちではあるが、そこはビジネス、よろしくお願いしますと大人の挨拶をする。これはあくまで“貸し”だぞ。
end.
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事務所の話もちょこちょこ聞いているこっしー、訝し気に思いつつも仕事はちゃんとやる。
(phase3)
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向西倉庫の新卒4人が、胸に社名の入った揃いの作業着を着て6階建てのドデカい倉庫の入り口に立つ。ここは、通称“ロジ”と呼ばれるお上直営の倉庫会社だ。「せっかく余所行きを作ったんだし、外に行ってみるか!」と派遣されたのがここ。
ウチの会社はこことズッブズブの関係にあって、健康診断もこっちの会社と合同だし、ウチから横持ち作業で出す物はこっちの倉庫に集約され、ここから出荷されている。関連会社の会議なんかもここでやってるらしく、宮本主任はよくお邪魔しているそうだ。
「向西倉庫です」
「はーい、伺っております。担当の者を呼びますね」
今日はどうして俺たち4人が派遣されたのかというと、こっちの倉庫からウチの会社に移す物の荷造りを手伝って欲しいとのこと。そっちは社員も派遣も山ほどいるんだから自分らでやれ、とは事務所でみんな言ってたけど、ウチもヒマだし向こうは要領が悪いので“貸し”だぞ! とのことだ。
「てか構内ひっろ」
「広いけど、雑然としてますよね」
「要領悪くて入庫もロクにやってないから出荷にバカみたいに時間がかかるって話だぞ」
健康診断以外でこの会社に来ることはあまりないので、ゆっくりと中を見ることもない。担当の人が来るのをひそひそ話しながら待つ。大石はバイト時代に何度も出荷の応援で来たことがあるらしいので、他3人よりは落ち着いた様子だ。
「あっ、どーもお疲れさまですー、木下ですー。あっ、向西さんの新卒の子たち。あれっ、君ずっと前からいるよね!? ウチにも何度か来てるしそっちでも見かけてるし」
「去年まではアルバイトで、大学を卒業して今年から正社員になりました」
「へえ~、そうなんだぁ。よっぽどこの仕事が好きなんだねえ。あっ、そしたら名前聞いていい?」
「大石です」
「越野です」
「長岡です」
「内山です」
「それじゃあ、今日片付けをお願いしたい場所に行こうか」
構内用エレベーターに乗り、今回の作業場となる5階へ。作業内容としては、これからウチで扱うことになったアパレル製品を引っ越せるよう荷造りをするそうだけど、その前に簡易棚卸的なことを挟むらしい。大石と長岡が荷造り、俺と内山が棚卸を担当しそうな予感。
「今年の子たちはみんな優秀だからガンガン使ってやってくれって宮本さんが言ってたし、片付けてもらえると本当に助かります」
木下さんから今日の作業場はここです、と案内された場所がどこの密林かと。俺が普段から大石に片付けろ片付けろと言っているB棟2階ですら実はとても整理された空間だったんじゃないかと思ってしまう程の惨状。正直全員引いている。
製品がロクに入庫もされてないという噂は聞いていたが、これはガチだ。何がどこにあるのかさっぱりわからない。フリーロケーションにも程があるし、通路が真っ直ぐですらない。ケースをそのままポンと放ってありますという感じで放置されていて、見た感じ同じカラーサイズの重複したケースが複数開封されていたりする。
「木下さん、確認ですけど、ウチに引っ越す製品の作業はこちらで好きなようにしても?」
「大丈夫です。やりやすいようにやってもらって。パレットはこっちに用意してあるし、パレット用のエレベーターはこっちだから、はみ出さないように入れてもらって。ハンドリフトはそっち。好きなように使って」
「大石、どうする。このフロア、結構なフリーロケーションだから当該製品があちこち散らばってる可能性があるぞ」
「そうだね。一旦同じ品番で固めようか。で、粗方固まったら数を読んでデータと照合しよう。俺と長岡君で大きなケースを集めるし、内山さんはバラになってる物を寄せてくれる? 越野はフロア全部歩いて迷子になってる物がないかチェックして欲しい」
「了解」
木下さんによれば、引っ越す製品は粗方固めてもらったそうだけど、フロア全体を歩くと案の定はぐれケースが出るわ出るわ。酷いものだと全然違う製品の溜め列の、俺が手ぇ伸ばしてやっと届くくらいのところに1枚ポンと置いてあったりもする。これはジャンプボールの要領でチップして拾う。
「おーい、3列目までの迷子回収ー」
「はーい、預かりまーす」
「越野君、もしかしたらその辺にケース混ざってるかも」
「はあ!? え、ケースの数が合わないのか」
「合わないねえ。一応溢れたバラはウッチーにケースにしてもらってるんだけど、その上で合わないから、まだどこかに紛れてそう」
「ほーん、わかった。このフロアにある物は何も信用するなってことだな?」
この会社では誰が入庫してるのかは知ったこっちゃないが、この調子ならいくら端末でピッキングする製品のロケーションがわかるとは言え出荷に時間がかかるだろう。端末でわかるのはあくまで大まかな場所に過ぎないし、そもそも登録されているロケーションすら信用に値する物でないとするならば。
「これで粗方集まったかあ?」
「大きなケースは大体パレットに積んじゃったし、あとは細々した物を整理すればオッケーだね」
何時間か掛けて、俺たち4人でやれるだけやってやった。荷物がまとまったパレットにはラップを巻いて、移動中に崩れないようにする。短い距離でも確実に。
「わあ、すごい! 早いねえ、ウチでやったら2日はかかってたよ」
「ロジさんは広いし物も多いので大変ですよね。大きい会社ですし」
「現場にこそちゃんと仕事を出来る社員を置くべきなんだよね。向西さんはウチよりは小さい会社だけど、その分指揮系統がちゃんとしてるとか連携がしっかり取れるのが強みだよね」
「これだけ大きい会社だとどこで誰が何の仕事をしてるのかもわかんなくなっちゃいそうですもんね」
「そうなんだよねえ。現場の要領だとか、効率とか、しっかり考えながら出来る人員が欲しいって言ってるんだけどなかなかね。大石君てどこ大通ってて社員登用になったの?」
「星大ですね」
「星大!? それは逆に何で現場作業やってんの!? ウチの本社の方にいてもおかしくないのに!」
「越野君も物流専攻のスーパーエリートだしね」
「事務も現場仕事もどっちもやっちゃいますもんね」
「いやいや、4人とも手際良かったよ。宮本さんがあれだけ自信満々だった理由がわかった。何はともあれ、今日はありがとう。また機会があったらよろしくお願いします」
この雑然とした状況が改善されないまま“また”があってたまるかという気持ちではあるが、そこはビジネス、よろしくお願いしますと大人の挨拶をする。これはあくまで“貸し”だぞ。
end.
++++
事務所の話もちょこちょこ聞いているこっしー、訝し気に思いつつも仕事はちゃんとやる。
(phase3)
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