2025

■年を跨いでお疲れさん

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 夜勤を終えて、一旦自分の家に帰ってまたすぐ出掛ける先は実家だ。一応世間は正月なので、俺と慧梨夏も実家で何日間は過ごすことになっている。だけど俺は世間の休みがどうしたとか関係ない仕事だし、慧梨夏は年末の一大イベントのために有給を取って東都へ出かけていた。その辺りの忙しさもあってゆっくりするのは久し振りだ。
 高校くらいまでは意識してなかったんだけど、大学に進学してからはうちが年末年始の年中行事なんかも割としっかりやる方の家なんだなと気付いた。年末には浅浦のパパさんが打ったそばを食べたり、正月にはみんな揃っておせちを囲み、じっちゃんの家で餅つきをしたり。あんまりそういうことをやる家も少なくなってるっぽい。

「ただいまー」
「おかえりー。夜勤お疲れさま」
「お前も遠征お疲れさん」
「何か食べる?」
「あー、昼でいいよ。今食べたらおせち食えなくなる」
「じゃ紅茶にしとくね」
「あんがと」

 星港市交通局に勤めて、夜勤という概念が出来た。とは言え仮眠は取れるので体力的にそこまでハチャメチャにしんどいというワケではないけど、基本的に朝型の俺にとって深夜帯の仕事は慣れるまでがキツかった。今ではいつ、何があるからここが夜勤だといいなーなどと考えながらシフトを眺めることが出来るようになった。
 星港市の地下鉄は、大晦日には終夜運行を行っている。終電っていう概念が取っ払われて、30分に1本程度電車が運行され続ける。みんな初詣とかに行ってんだなーと思いつつも、うちは基本的にみんなで昼間に行くので明日が休みでよかった感の方が強い。これは俺の体感だけど、今日は落とし物を預かる数も多かったかもしれない。

「東都のお土産は後で配るね」
「例によってまたとんでもない量買って来てんだよな」
「選びきれないからね。イベントで出掛けた時って無礼講だし。ほら、カオちゃんにもお礼しなきゃだし?」

 慧梨夏はイベント会社で働いているので、世間の休みにこそ現場に出ることも多い。同じ会社で同期入社のカオルとニコイチのような感じになっていて、2人同時にいないことはなるべくなら避けてくれと言われているそうだ。で、慧梨夏が遠征のために有給を取った裏でカオルが働くという構図になってたっぽい。

「夜どうだった? パパさんのそばには間に合ってたんだろ?」
「今年も美味しかったよ。パパさん安定」
「いいなー。俺今年……いや、去年ってか昨日食えなかったもんなー。パパさんが昼にやってくれるって言ってたけど、俺だけ特別にやってもらうのも難だし、今から年越しながら仕事なのに年越しそばを済ませるってのも変な感じだし」
「ゆでるだけのヤツならともかく手打ちだもんねえ」
「それな。やー、食いたかったー」

 パパさんのそばには天ぷらが乗るんだけど、それも揚げたてサクサクでめっちゃ美味いんだよな。マジで食いたかった。人に作ってもらえるとより美味く感じるのは何でなんだろうな。

「パパさんのおそば食べて、ママさんのケーキ食べて、浅浦クンから学校の話聞いたり、美弥子サンと恋バナしたりしてそれはもう楽しく過ごしてましたよ」
「お前の強いところって、この家に溶け込み過ぎてるから俺がいようがいまいが全然関係ないところだよな」
「どや」
「うん、強い。つか姉ちゃんと恋バナ?」
「美弥子サン最近彼氏出来たんだって」
「マジ!?」
「その辺の話をいろいろ」
「はえー」

 自分たちの話なんか今更恋バナとは言わないよなーとは思ったんだけど、姉ちゃんに彼氏が出来たって!? まあ、自分が結婚してるんだから姉ちゃんにだって彼氏くらいいたっておかしくないんだけどさ。しかもそれが最近の話って。

「ちなみに馴れ初めとか、どんな人かっていうのは聞いた?」
「うん、聞いた聞いた。共通の知り合いをきっかけに出会った年上の人だって。自動車整備とかやってる整備士さんって言ってたよ」
「えっ、かっこよ」
「あ~、カズもそういうの好きだもんねえ。当たり前だけど車とかバイクが好きな人だから、カズのバイクの話にもすごい食い付いてたって」
「えー、話してみてぇー。姉ちゃんの彼氏なあ。でも、こないだ会った時はそんな素振り全然見せてなくなかったか?」
「それもそのはず、彼氏さんと知り合ったのも先週とか先々週とかのレベルの最近なんだよ」
「マジで最近だな!?」
「まあ、アレだよね。お互いの気持ちを確かめるまでに時間をかけるかかけないかだけだよね」
「――にしたって時間かけなさすぎだろ。共通の知り合いがいるなら人となりの情報も取れそうだけど」

 相手を好きだと思って、自分のその気持ちが本物かどうかを考えて、確かめるのにも時間がかかる奴はかかると思う。だけど、その辺の感情に自信があれば、付き合うまでの時間は問題じゃないのかもな。実際、付き合うに至るまでの問題は、告白するまでの踏ん切りがつくかつかないか、というのも大きかった。まあ、俺の時は高校生レベルの問題でしかなかったけど。

「後で姉ちゃんに彼氏の話聞いてみようかなあ」
「いいんじゃない? 聞きたいことはこっちにいる間に聞いといた方が後腐れもないだろうし」
「だよなー」
「あー、うち明日仕事なんだよねー。年末休んだから当たり前と言えば当たり前なんだけどー」
「そういやこっちにいる間の弁当どうする?」
「逆にカオちゃんと一緒に外でランチでもしよっかな」
「うーん、カオルには弁当の休み貰っちゃってて申し訳なさがある」
「休み貰った分、カオちゃんやりたいって言ってたお鍋を豪勢にしたら?」
「そうするかー」

 仕事をしてたら正月感があんまりないけど、それでも年末年始の年中行事は参加出来る物には参加したいと思う。だから少なくとも三箇日を過ぎるまではこっちで過ごそうと話し合った。うーん、今年の年末も地下鉄は終夜運行だろうし、年越しそばを食べれるようにいろいろ考えないとなー。


end.


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いちえりちゃんのお正月。2人とも仕事やらその他の関係でバタバタはしている。
慧梨夏はこの後も京子さんのぜんざいを食べたりして楽しく過ごすんだろうな

(phase3)

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