2025
■その辺のキノコを食べた時の話
++++
「レナ先輩、野草って食った事あります?」
中から突然そんなことを訊ねられて、野草っていうのはその辺に生えている草のことかな? と考えを思い巡らせる。そもそもに措いて野草の定義とは、と考えるところからだけど、多分人の手を加えずになっている野の草のことを指すんだと思う。
「山菜も野草に入るなら、食べたことはあるよ」
「山菜も悪くないんすけど、ゼンマイとかワラビとか、ふきのとうとかヨモギとかそーゆーメジャーなヤツじゃなくて、パッと見で名前も知らないような草に限定していーすか?」
「名前も知らないような草かあ。だとすれば、食べる機会はほとんどないね」
「そーっすよねそーっすよね! じゃあこの驚きをちゃんと驚きとして伝えられるっす!」
余談だけど、中とは昼放送のペアを組んでいることもあって、サークルの中でも話す機会が多い方の1年生だ。そもそもが話し好きっぽい。
「こないだ、向島のパロと星大の岳と3人で遊んだんすよね」
「ああ、夏合宿のメンツだね」
「そっすね。そんで、どこ行くーっつって歩いてる時に急にパロが「あーっ!」っつってデカい声出してどっか走ってくんすよ。どしたどしたっつって俺と岳がそれを追いかけてったらアイツ、その辺に生えてるキノコ見て大っ興奮してるんす」
「パロって比較的大人しめで可愛らしい子だよね?」
「そっすね」
「キノコ好きなんだ」
「花屋でバイトしてるらしいんすけど、その辺の草とか木とかの知識もあって、キノコにもまあ強いらしいんすよ。で、そのキノコをどうしたと思います?」
「まさか食べないよね? その辺に生えてたキノコなんでしょ?」
「残念」
「えっ食べたの!?」
「これすっごい美味しいヤツで海外じゃ高級品だよーっつってそれをブチブチーッつってちぎって、食べたことないなら僕がご馳走するよーっつって岳ん家に行ってパロがそれをグラタンにするんすよ」
中の語り口調が、これを番組にしたらいいんじゃないかってくらいの盛り上がり。でもこれは確かに私に野草やキノコの知識があったら中の衝撃がストレートに伝わらなかったかも。メジャーな山菜ならともかく、知らない草、と言うかキノコはそうそう採って食べない。
パロは濃いキャラ揃いの向島の中では可愛らしい方の子というイメージがあるけど、中の話を聞く限りハチャメチャにキャラクターが濃い。これが薄くなっちゃう向島大学が恐ろしい。そのパロと、がっくんと中っていう3人がインターフェイス内でいつメンになってるのが色物トリオに見えてきた。
「中はそのキノコグラタンを抵抗無く食べられたの?」
「そりゃ正直言えば、なんつーモンを食わせるんだお前はって思いましたよ」
「だよね」
「でも数日経った今の俺は生きてるし、パロの謎キノコグラタンは実際食ったことない強烈な旨味の塊っした」
「素人にはとても真似出来ないね」
「そーなんすよ。アイツは玄人なんす。で、お前はその辺に生えてるモンを何でも食うのかって聞くじゃないすか」
「そうだね。美味しい草もあるらしいのは聞いた事あるし」
「それが、アイツもさすがに何でもは食べないらしいんすよ。じゃあ、食べるモンと食べないモンの区別はどうやってるんだって、気になりません?」
「絶対にこれは食べられるってわかってる物とか、これは美味しいって物とか?」
「アイツがその辺にあるモンを食う基準は「似た毒草や毒キノコが存在しないこと」なんすよ」
どんなに美味しくても、それに似た毒草を間違えて食べてしまえば中毒を起こすし最悪の場合死んでしまう。これは食べられるとわかっていても、絶対に間違わないとは言い切れない。だけど、見た目の似ている毒草や毒キノコが存在しないとわかっている物であれば、死ぬことはない。というのがパロの理屈だそうだ。
今回パロが中とがっくんにご馳走したキノコは、まさに似た毒キノコがないとわかっている種類で、聞いたことのあるようなキノコに似た風味が美味しいとか。そんな物がまさか星港市内に自生しているとはという驚きがあるけど、その辺の公園とかに普通に生えているというのだから捨てたものではないなと。私は採らないけど。
「毒草の方の見分け方もアイツは当然理解してるんすけど、これはあれと似てるから美味しくても採らない、みたいなやり方をしてるっぽいっす。特にキノコは知識のない奴は触るのもやめとけとは言われましたね。お前じゃあるまいし、キノコ生えてるようなトコに行くかよって思ったっすけど、そーいや今食ったのその辺に生えてるキノコだったわと思って」
「へー、面白いね。なかなかないエピソードだし、もうちょっと早く聞かせてもらえてたら番組の内容にも反映させてたかも」
「昼飯時の学食でその辺に生えてたキノコのグラタンの話するんすか? ドン引きじゃないすか」
「でも緑ヶ丘大学の環境だったら無くはない話じゃない?」
「山ではありますけど」
中がインターフェイスの友達と楽しそうにしていて良かったなと思う。大変な目にも遭ったからね。でも、キノコか。確かにメジャーどころ以外はあんまり知らないかもしれない。
「そんな話してたら、しいたけを炭火で焼いて食べたくなってきた。かさに醤油入れてさ」
「いいっすねー! でもそれをやれるだけのデカしいたけっていい値段しません?」
「高そうだね。薪ストーブの会の第2弾があるなら陸さん説得して採用してもらおう」
「2年生の先輩らって団体行動出来て凄いっすね」
「そうだね、1年生が団体行動してるイメージは確かにないかも」
「俺と琉生もまあまあ自由人の部類っすけど、周とかいう協調性皆無の奴がいますからね」
「1年生で比較的団体行動に向いてるのは凛斗ちむか」
「多分そっすね」
end.
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中がパロに食べさせられたキノコグラタンの話をレナに聞かせてるだけの話。
(phase3)
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「レナ先輩、野草って食った事あります?」
中から突然そんなことを訊ねられて、野草っていうのはその辺に生えている草のことかな? と考えを思い巡らせる。そもそもに措いて野草の定義とは、と考えるところからだけど、多分人の手を加えずになっている野の草のことを指すんだと思う。
「山菜も野草に入るなら、食べたことはあるよ」
「山菜も悪くないんすけど、ゼンマイとかワラビとか、ふきのとうとかヨモギとかそーゆーメジャーなヤツじゃなくて、パッと見で名前も知らないような草に限定していーすか?」
「名前も知らないような草かあ。だとすれば、食べる機会はほとんどないね」
「そーっすよねそーっすよね! じゃあこの驚きをちゃんと驚きとして伝えられるっす!」
余談だけど、中とは昼放送のペアを組んでいることもあって、サークルの中でも話す機会が多い方の1年生だ。そもそもが話し好きっぽい。
「こないだ、向島のパロと星大の岳と3人で遊んだんすよね」
「ああ、夏合宿のメンツだね」
「そっすね。そんで、どこ行くーっつって歩いてる時に急にパロが「あーっ!」っつってデカい声出してどっか走ってくんすよ。どしたどしたっつって俺と岳がそれを追いかけてったらアイツ、その辺に生えてるキノコ見て大っ興奮してるんす」
「パロって比較的大人しめで可愛らしい子だよね?」
「そっすね」
「キノコ好きなんだ」
「花屋でバイトしてるらしいんすけど、その辺の草とか木とかの知識もあって、キノコにもまあ強いらしいんすよ。で、そのキノコをどうしたと思います?」
「まさか食べないよね? その辺に生えてたキノコなんでしょ?」
「残念」
「えっ食べたの!?」
「これすっごい美味しいヤツで海外じゃ高級品だよーっつってそれをブチブチーッつってちぎって、食べたことないなら僕がご馳走するよーっつって岳ん家に行ってパロがそれをグラタンにするんすよ」
中の語り口調が、これを番組にしたらいいんじゃないかってくらいの盛り上がり。でもこれは確かに私に野草やキノコの知識があったら中の衝撃がストレートに伝わらなかったかも。メジャーな山菜ならともかく、知らない草、と言うかキノコはそうそう採って食べない。
パロは濃いキャラ揃いの向島の中では可愛らしい方の子というイメージがあるけど、中の話を聞く限りハチャメチャにキャラクターが濃い。これが薄くなっちゃう向島大学が恐ろしい。そのパロと、がっくんと中っていう3人がインターフェイス内でいつメンになってるのが色物トリオに見えてきた。
「中はそのキノコグラタンを抵抗無く食べられたの?」
「そりゃ正直言えば、なんつーモンを食わせるんだお前はって思いましたよ」
「だよね」
「でも数日経った今の俺は生きてるし、パロの謎キノコグラタンは実際食ったことない強烈な旨味の塊っした」
「素人にはとても真似出来ないね」
「そーなんすよ。アイツは玄人なんす。で、お前はその辺に生えてるモンを何でも食うのかって聞くじゃないすか」
「そうだね。美味しい草もあるらしいのは聞いた事あるし」
「それが、アイツもさすがに何でもは食べないらしいんすよ。じゃあ、食べるモンと食べないモンの区別はどうやってるんだって、気になりません?」
「絶対にこれは食べられるってわかってる物とか、これは美味しいって物とか?」
「アイツがその辺にあるモンを食う基準は「似た毒草や毒キノコが存在しないこと」なんすよ」
どんなに美味しくても、それに似た毒草を間違えて食べてしまえば中毒を起こすし最悪の場合死んでしまう。これは食べられるとわかっていても、絶対に間違わないとは言い切れない。だけど、見た目の似ている毒草や毒キノコが存在しないとわかっている物であれば、死ぬことはない。というのがパロの理屈だそうだ。
今回パロが中とがっくんにご馳走したキノコは、まさに似た毒キノコがないとわかっている種類で、聞いたことのあるようなキノコに似た風味が美味しいとか。そんな物がまさか星港市内に自生しているとはという驚きがあるけど、その辺の公園とかに普通に生えているというのだから捨てたものではないなと。私は採らないけど。
「毒草の方の見分け方もアイツは当然理解してるんすけど、これはあれと似てるから美味しくても採らない、みたいなやり方をしてるっぽいっす。特にキノコは知識のない奴は触るのもやめとけとは言われましたね。お前じゃあるまいし、キノコ生えてるようなトコに行くかよって思ったっすけど、そーいや今食ったのその辺に生えてるキノコだったわと思って」
「へー、面白いね。なかなかないエピソードだし、もうちょっと早く聞かせてもらえてたら番組の内容にも反映させてたかも」
「昼飯時の学食でその辺に生えてたキノコのグラタンの話するんすか? ドン引きじゃないすか」
「でも緑ヶ丘大学の環境だったら無くはない話じゃない?」
「山ではありますけど」
中がインターフェイスの友達と楽しそうにしていて良かったなと思う。大変な目にも遭ったからね。でも、キノコか。確かにメジャーどころ以外はあんまり知らないかもしれない。
「そんな話してたら、しいたけを炭火で焼いて食べたくなってきた。かさに醤油入れてさ」
「いいっすねー! でもそれをやれるだけのデカしいたけっていい値段しません?」
「高そうだね。薪ストーブの会の第2弾があるなら陸さん説得して採用してもらおう」
「2年生の先輩らって団体行動出来て凄いっすね」
「そうだね、1年生が団体行動してるイメージは確かにないかも」
「俺と琉生もまあまあ自由人の部類っすけど、周とかいう協調性皆無の奴がいますからね」
「1年生で比較的団体行動に向いてるのは凛斗ちむか」
「多分そっすね」
end.
++++
中がパロに食べさせられたキノコグラタンの話をレナに聞かせてるだけの話。
(phase3)
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