2025
■仕事が暮らしに生きる
++++
向西倉庫の特別なルールとして、出荷の少ない閑散期には、3時上がりをしてもいいっていうのがある。3時上がりが2回で有給0.5日分の消化になるっていう計算の仕方。しばらく出荷も落ち着いてるみたいだからってことで、今年の新卒メンバーで3時上がりをしてごはんでも食べようって話になった。そしてやって来ました大石さんの家。
大石さんは小学校5年生とかそれくらいの時にお父さんとお母さんが亡くなって、それからはお兄さんと2人で暮らしてるんだとか。お兄さんは西海駅前でバーをやっているので、夕方前からの出勤が基本。お店よりも気兼ねしなくていいから楽だし作れるものは作るよ、と大石さんがお家に同期メンバーを招いてくれた。
「ごちそうさまでしたー」
「お粗末さまでした。食べたの片付けるし、みんなはゆっくりしてて」
「あっ、アタシもやりますよ」
アタシのリクエストのハンバーグはとっても美味しかった。多分大石さん好みなんだろうけど食べ応えが抜群。越野さんも長岡君も美味い美味いって言いながら白いご飯と一緒にハンバーグを食べてた。アタシもちょっとだけお手伝いさせてもらったけど、料理の練習はまだまだこれからだなあって思った。大石さんは10年以上やってるって話だから。
「そうだ。内山さん、まだお腹入る?」
「物によりますね。パンとかお餅とかだとさすがに入らないかもです」
「クッキーなんだけど」
「入ります」
「あはは、よかった。こないだアンツ・フィオーレで詰め放題やって来たんだ。そのクッキーがまだあるから、よかったらどうぞ。そこのジップロックに入ってるから」
「ありがとうございまーす」
「越野と長岡君にも聞いてみてー」
「はーい」
大石さんが指したジップロックには、大量のクッキーの他にちゃんと乾燥剤が入ってて、マメだなって思った。あれっ、って言うかアンツ・フィオーレの詰め放題って言ったよね? やたら枚数多くない?
「越野さん長岡君、大石さんが良かったらクッキーどうぞって」
「え、何でクッキー?」
「アンツ・フィオーレの詰め放題の成果らしいですよ」
「アンツ・フィオーレのクッキーなんかしばらく食べたことないなー。自分じゃなかなか買わなくない?」
「確かに。あれは自分で買うより人からもらって食う方が多いかもしれない」
「プチギフトの定番ではありますよね」
「って言うかアンツ・フィオーレって詰め放題なんかやってるんだ」
「月に何回か、決まった店舗でだけやってるんだって」
「俺、実は1回やったことあるんだけど、だからこそ今このジップロックに保存されてる枚数が異常だってわかるんだよ」
「越野君はどれくらい詰めたの?」
「確か20枚も行かないくらいだったかな」
「20枚だったら一応余裕で元は取れてる計算になるみたいですけどね」
ジップロックの中には明らかに20枚以上のクッキーが残ってる。大石さんもある程度食べてるだろうから、元がどれくらいの枚数だったのかは想像出来ない。越野さんによると、20枚弱しか詰められなかった越野さんが特別下手なんじゃなくて、普通にやるとみんな大体それくらいに落ち着くって話。周りの様子もそうだったし、ネットで調べても平均はそれくらいって書いてたって。
「大石ー、これ何枚くらい食っていいんだー?」
「兄さんに5枚くらい残しておいてくれれば好きなだけ食べていいよー」
「わかったー。じゃもらうなー」
「どうぞー」
「枚数は多いけど種類は少なめだな。えーっと、プレーンっぽいこれを3枚くらいもらおう」
「俺はチョコチップクッキーにしよう」
「えー、アタシどれにしよう。このピンクのヤツってイチゴかなあ?」
「普通に考えればイチゴか、そうじゃなければ別のベリー味とか?」
「緑は抹茶かなあ」
「いや、ピスタチオの可能性もある」
とりあえず、少ない種類の中から1枚ずつ食べてみることにした。色だけじゃ種類が判断できないヤツもあるけど、よっぽどマズいことはないだろうし。
「ふー。俺もクッキー食べようかな」
「あ、大石さん片付けありがとうございました」
「いえいえ」
「って言うか大石さん、これ詰め放題で何枚くらい詰めて来たんですか?」
「そーだ! これ明らかに1回の量じゃねーだろ」
「1回で詰めて来てるよ。俺、この手の詰め放題って結構得意みたくって、アンツ・フィオーレでは大体70枚くらいは詰めれるようになったんだよ」
「70!?」
みんな思わず「70!?」って声が揃った。だって越野さん調べの平均が大体20枚弱くらいって話だけど、その3倍以上ってことだよね? 詰め放題が得意とかそういう次元じゃなくない? って思っちゃうよね。
「いやいや……おかしくね? ムリだろ、あんなちまい袋に70枚なんて」
「袋の中にいかに隙間なく詰めるかみたいな、ああいう感覚って出荷作業で培われたと思うんだよね」
「この会社の?」
「この会社の」
「ああー、A-8カートンに72451を7枚ピッタリ入れる時はバッグを腹合わせに互い違いに入れて、みたいなこと?」
「そう、そんなようなこと。あと、たくさん詰めたい時はなるべく種類を少なくして、変に隙間を作らないようにするとか、気を付けてることもちょっとある」
「にしたって70枚はやり過ぎなんだよ。いや、お前なら食えちまうだろうけど」
少しでもお得に美味しいものを食べたいっていう気持ちが詰め放題を上達させたんだと思うよ、と大石さんは笑う。野菜の詰め放題とかの様子をテレビで見たことがあるけど、大石さんがああいうのに挑戦したらどれっくらいお得になるのかはちょっと見てみたくはある。大石さんも、やってみたいけどタイミングが合わないとかでまだやったことはないみたいだから。
「アンツ・フィオーレをここまで雑にバリバリ食うとかいう贅沢の極み」
「これだけあってやっと気兼ねしないで食べていいんだなって思えるよね」
「でも、詰め放題が得意なことの弊害もあってさ」
「何だよ、いいことしか無さそうだけどな」
「定価じゃとても買おうとは思えなくなることだね」
「確かに」
end.
++++
この話を書いた翌日に元ネタになってる某おばさんのクッキーをいただいたので、やっぱりギフトの定番。
ちーちゃんによるジップロック+乾燥剤のコンボは隙あらばお茶会サークルと化していたUHBC出身故。
(phase3)
.
++++
向西倉庫の特別なルールとして、出荷の少ない閑散期には、3時上がりをしてもいいっていうのがある。3時上がりが2回で有給0.5日分の消化になるっていう計算の仕方。しばらく出荷も落ち着いてるみたいだからってことで、今年の新卒メンバーで3時上がりをしてごはんでも食べようって話になった。そしてやって来ました大石さんの家。
大石さんは小学校5年生とかそれくらいの時にお父さんとお母さんが亡くなって、それからはお兄さんと2人で暮らしてるんだとか。お兄さんは西海駅前でバーをやっているので、夕方前からの出勤が基本。お店よりも気兼ねしなくていいから楽だし作れるものは作るよ、と大石さんがお家に同期メンバーを招いてくれた。
「ごちそうさまでしたー」
「お粗末さまでした。食べたの片付けるし、みんなはゆっくりしてて」
「あっ、アタシもやりますよ」
アタシのリクエストのハンバーグはとっても美味しかった。多分大石さん好みなんだろうけど食べ応えが抜群。越野さんも長岡君も美味い美味いって言いながら白いご飯と一緒にハンバーグを食べてた。アタシもちょっとだけお手伝いさせてもらったけど、料理の練習はまだまだこれからだなあって思った。大石さんは10年以上やってるって話だから。
「そうだ。内山さん、まだお腹入る?」
「物によりますね。パンとかお餅とかだとさすがに入らないかもです」
「クッキーなんだけど」
「入ります」
「あはは、よかった。こないだアンツ・フィオーレで詰め放題やって来たんだ。そのクッキーがまだあるから、よかったらどうぞ。そこのジップロックに入ってるから」
「ありがとうございまーす」
「越野と長岡君にも聞いてみてー」
「はーい」
大石さんが指したジップロックには、大量のクッキーの他にちゃんと乾燥剤が入ってて、マメだなって思った。あれっ、って言うかアンツ・フィオーレの詰め放題って言ったよね? やたら枚数多くない?
「越野さん長岡君、大石さんが良かったらクッキーどうぞって」
「え、何でクッキー?」
「アンツ・フィオーレの詰め放題の成果らしいですよ」
「アンツ・フィオーレのクッキーなんかしばらく食べたことないなー。自分じゃなかなか買わなくない?」
「確かに。あれは自分で買うより人からもらって食う方が多いかもしれない」
「プチギフトの定番ではありますよね」
「って言うかアンツ・フィオーレって詰め放題なんかやってるんだ」
「月に何回か、決まった店舗でだけやってるんだって」
「俺、実は1回やったことあるんだけど、だからこそ今このジップロックに保存されてる枚数が異常だってわかるんだよ」
「越野君はどれくらい詰めたの?」
「確か20枚も行かないくらいだったかな」
「20枚だったら一応余裕で元は取れてる計算になるみたいですけどね」
ジップロックの中には明らかに20枚以上のクッキーが残ってる。大石さんもある程度食べてるだろうから、元がどれくらいの枚数だったのかは想像出来ない。越野さんによると、20枚弱しか詰められなかった越野さんが特別下手なんじゃなくて、普通にやるとみんな大体それくらいに落ち着くって話。周りの様子もそうだったし、ネットで調べても平均はそれくらいって書いてたって。
「大石ー、これ何枚くらい食っていいんだー?」
「兄さんに5枚くらい残しておいてくれれば好きなだけ食べていいよー」
「わかったー。じゃもらうなー」
「どうぞー」
「枚数は多いけど種類は少なめだな。えーっと、プレーンっぽいこれを3枚くらいもらおう」
「俺はチョコチップクッキーにしよう」
「えー、アタシどれにしよう。このピンクのヤツってイチゴかなあ?」
「普通に考えればイチゴか、そうじゃなければ別のベリー味とか?」
「緑は抹茶かなあ」
「いや、ピスタチオの可能性もある」
とりあえず、少ない種類の中から1枚ずつ食べてみることにした。色だけじゃ種類が判断できないヤツもあるけど、よっぽどマズいことはないだろうし。
「ふー。俺もクッキー食べようかな」
「あ、大石さん片付けありがとうございました」
「いえいえ」
「って言うか大石さん、これ詰め放題で何枚くらい詰めて来たんですか?」
「そーだ! これ明らかに1回の量じゃねーだろ」
「1回で詰めて来てるよ。俺、この手の詰め放題って結構得意みたくって、アンツ・フィオーレでは大体70枚くらいは詰めれるようになったんだよ」
「70!?」
みんな思わず「70!?」って声が揃った。だって越野さん調べの平均が大体20枚弱くらいって話だけど、その3倍以上ってことだよね? 詰め放題が得意とかそういう次元じゃなくない? って思っちゃうよね。
「いやいや……おかしくね? ムリだろ、あんなちまい袋に70枚なんて」
「袋の中にいかに隙間なく詰めるかみたいな、ああいう感覚って出荷作業で培われたと思うんだよね」
「この会社の?」
「この会社の」
「ああー、A-8カートンに72451を7枚ピッタリ入れる時はバッグを腹合わせに互い違いに入れて、みたいなこと?」
「そう、そんなようなこと。あと、たくさん詰めたい時はなるべく種類を少なくして、変に隙間を作らないようにするとか、気を付けてることもちょっとある」
「にしたって70枚はやり過ぎなんだよ。いや、お前なら食えちまうだろうけど」
少しでもお得に美味しいものを食べたいっていう気持ちが詰め放題を上達させたんだと思うよ、と大石さんは笑う。野菜の詰め放題とかの様子をテレビで見たことがあるけど、大石さんがああいうのに挑戦したらどれっくらいお得になるのかはちょっと見てみたくはある。大石さんも、やってみたいけどタイミングが合わないとかでまだやったことはないみたいだから。
「アンツ・フィオーレをここまで雑にバリバリ食うとかいう贅沢の極み」
「これだけあってやっと気兼ねしないで食べていいんだなって思えるよね」
「でも、詰め放題が得意なことの弊害もあってさ」
「何だよ、いいことしか無さそうだけどな」
「定価じゃとても買おうとは思えなくなることだね」
「確かに」
end.
++++
この話を書いた翌日に元ネタになってる某おばさんのクッキーをいただいたので、やっぱりギフトの定番。
ちーちゃんによるジップロック+乾燥剤のコンボは隙あらばお茶会サークルと化していたUHBC出身故。
(phase3)
.