2025
■お前の道はどこだ
++++
占い師というのは人から恨まれることもある職業だというのは親から聞いていたし、実際の事例を聞いて自分でも納得していた。それでも自分は将来占い師として生計を立てるという気持ちは揺らいでいない。
怪しい職業であるというイメージは付き纏う。人の不安を煽って、変な壺とか水とか買わせるみたいな被害だってあるところにはある。如何せんいい印象よりも悪い印象の方が広がりやすいし誇張されやすいから、それもそれで仕方ないと思ってはいる。
だけど、突然ピッチャーの氷水を頭からぶっかけられて、自分が占い師の見習いだから恨まれても仕方ないですねとはならない。正直メチャクチャムカついてるし、そもそも俺がお前に何をした。元々合わないとは思っていた。だが、俺個人が恨まれる覚えはない。
「あっぶな! たるちん大丈夫!?」
「大変~、拭くものはない~?」
インターフェイスの飲み会が開かれていて、何十人とかが集まっている場だ。メシ食って、酒も飲んで、いろんな奴と話して、って、大体の奴からはごく普通に会を楽しんでいるだけに見えていたはずだ。それが急に、青女の黒ずくめの女にいきなり水をぶっかけられた。
「邪なる者……人々の不安を煽り、絶望の暗礁へ乗り上げさせる……」
「夢子、いきなり何をなさるの」
「世界を蝕む闇の渦……裁かれなければならない。先輩に迷惑は、かけません」
「もうかかっていますのよ」
「中、夢子に何かした?」
「これが初絡みで、話したことはないっす」
エマさんがあの女を俺から遠ざけ、サキ先輩からこれまでに恨みを買うようなことをしていないかと事情聴取をされる。サキ先輩はあの女と夏合宿で一緒の班だったとかで、少し知っているそうだ。
「……タオルだ。使うといい」
「お前さんが持って来てくれんのか。どうせならちむちむが良かったぜ。……あ、いや、サンキューな」
「殿が、先にお店の人に頼んでくれていたのよ~」
「かけられたのが、水で、まだ良かったな」
「マジでそれな」
「って言うかホントに何だったのあれ! もうちょいですずもずぶ濡れだったんですけど~!」
「よくわかんねーけど、占い師に恨みでもあるんじゃね?」
「あ~、カワイイが趣味のすずがバカだってよく言われる的な?」
「的な的な」
「たるちんが怪しいって言われるのと、すずがバカだって言われるのと、殿が怖いって言われるのは全部イコールね。実際はどうあれ"それっぽい"っていう」
少しして、エマさんとサキ先輩が戻って来て、粗方分かったことを教えてくれた。あの女はやはり占い師に対する恨みがあるらしかった。昔、アイドルオーディションに落ちて世界で一番不幸な私を、占いは弄んだのだと。雑誌に載っていた占いの通りにラッキーアイテムを買い、その通りに行動しても悪いことしか起きなかったと。
世界で一番不幸な私は、何人たりとも触れることのできない闇として生きることを決め、占いのような物に惑わされないよう魂を磨き、オーラを読むことを始めた。人の不安を煽って金を取る占い師も、幸せそうな顔をして暢気に生きているそこらの連中も全員憎い。私がこの世の全ての不幸を背負ったからこそお前たちは幸せなのだと。
「――的なことを言っていたね。だから占い師としての責任で、きちんとしたポリシーを持ってる中は恰好の標的だったと」
「ンなこったろーと思ったっす」
「確かにたるちんとは相性ワルそー。だって何でもかんでも人任せにする人間と、占いをベースにコンサルタントとかカウンセリングで人の背中を押そうとしてる人間っしょ?」
「ま、占い師は人の恨み辛みを浴び続ける仕事だとも聞いてるんで、いい経験でした。としときます」
「だからと言って、手を出すのは違う気がするけれど~」
「甘い甘いちむりの助、自分が特別だから何でもしていいと思ってる人間はどこにでもいるんだって!」
一瞬、場がざわついた。あの女が戻って来たのだ。どのツラ下げて戻って来た、という気持ちもあるが、別にどうでもいい。俺は元々相手にしてないワケだし。
「場を騒がせたことを、謝罪します」
「え、そんだけ?」
「他に何が」
「すず、突っかかんな」
「でもおかしくなーい? もしこの人が今後もインターフェイスの行事に出て来るんだったら、同班とかムリなんで~、拒否でお願いしまーす」
「私こそ、浮かれたアタマの女とは、共存出来ない」
「イカレてる奴に浮かれたアタマって言われた~、笑えな」
「すず~、夢子~、ケンカはダメよ~」
「私はこういう、暢気で何も考えていない、世の不条理も知らずに綺麗事ばかり言う人間も許せない」
「はあ~?」
この女が争いを止めようとしたちむちむにまで話を広げて喧嘩を売って来たのには、さすがにそろそろ怒りが表面化しそうなところにまで来そうだ。だが、そこで乗ると思う壺だ。出そうになった口を堅く結び直した瞬間だった。
「みんな、それぞれ何かある。それでも道を探して、生きてる。ちむちむにまで酷いことを言うなら、私が、あんたを、やる」
琉生が圧だけで奴を壁際に追い込むと、腰の力が抜けたのか、奴はその場にへたりこむ。頭の上には、氷水がたっぷり入ったピッチャー。睨み下ろす目が、マジだ。本気でやりかねねえ。
「琉生、それはダメ。やったら、番組クビだよ」
「サキ先輩。……許してないから」
「夢子も、もうおよしなさい」
「今日の所は、このくらいにしておきます」
「ちむちむー、何もされなかった? 大丈夫ー?」
「私は平気よ~。琉生、ありがとう~」
「ルイルイ君マジ名言! ルイルイ君緑ヶ丘だっけ? ちむりの助と仲良し?」
「仲良しよね~」
「ねー。えっと、"ゆに"に改名したんだっけ」
「そうそう! すず、"ゆに"になった!」
「私とは趣味が違うけど、ファッションとか、好きなのを通してるのが、いいなって思ってた」
「わかる! 趣味は違うけど、ルイルイ君も世界観いいよね!」
「その点、あの人の世界観も嫌いじゃなかったけど、ちむちむを貶したからもうアウト。多分、中もキレる手前だったはず」
「……中。梅酒の、お湯割りだ」
「おっ、気が利くねェ」
「先日の缶蹴りの際に、飲んでいたと思い出した。とりあえず、体を温めろ」
殿がくれた梅酒を飲みながら、今後のことについて考える。この程度のことで占いは辞めないし、将来のために修行をすることには変わりない。インターフェイス関係で言えば、何かいろいろめんどくさくなりそうだなっていう気持ちが、ちょっと。これ以上妙なことに巻き込まれたくはないが。とりあえず、これ以降詐欺師を自称すんのはやめとこうっていう学びは得た。
「くーっ、うっま。さてはお前、第一印象で損しがちなタイプだな?」
「お互いさまだ」
end.
++++
殿に中が突っかかっているパターンのヤツをまだやってないのでそのうち。
殿→中は、殿⇔将門とは違うパターンの、皮肉めいた返しなども見せてもらえるといい。
(phase3)
.
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占い師というのは人から恨まれることもある職業だというのは親から聞いていたし、実際の事例を聞いて自分でも納得していた。それでも自分は将来占い師として生計を立てるという気持ちは揺らいでいない。
怪しい職業であるというイメージは付き纏う。人の不安を煽って、変な壺とか水とか買わせるみたいな被害だってあるところにはある。如何せんいい印象よりも悪い印象の方が広がりやすいし誇張されやすいから、それもそれで仕方ないと思ってはいる。
だけど、突然ピッチャーの氷水を頭からぶっかけられて、自分が占い師の見習いだから恨まれても仕方ないですねとはならない。正直メチャクチャムカついてるし、そもそも俺がお前に何をした。元々合わないとは思っていた。だが、俺個人が恨まれる覚えはない。
「あっぶな! たるちん大丈夫!?」
「大変~、拭くものはない~?」
インターフェイスの飲み会が開かれていて、何十人とかが集まっている場だ。メシ食って、酒も飲んで、いろんな奴と話して、って、大体の奴からはごく普通に会を楽しんでいるだけに見えていたはずだ。それが急に、青女の黒ずくめの女にいきなり水をぶっかけられた。
「邪なる者……人々の不安を煽り、絶望の暗礁へ乗り上げさせる……」
「夢子、いきなり何をなさるの」
「世界を蝕む闇の渦……裁かれなければならない。先輩に迷惑は、かけません」
「もうかかっていますのよ」
「中、夢子に何かした?」
「これが初絡みで、話したことはないっす」
エマさんがあの女を俺から遠ざけ、サキ先輩からこれまでに恨みを買うようなことをしていないかと事情聴取をされる。サキ先輩はあの女と夏合宿で一緒の班だったとかで、少し知っているそうだ。
「……タオルだ。使うといい」
「お前さんが持って来てくれんのか。どうせならちむちむが良かったぜ。……あ、いや、サンキューな」
「殿が、先にお店の人に頼んでくれていたのよ~」
「かけられたのが、水で、まだ良かったな」
「マジでそれな」
「って言うかホントに何だったのあれ! もうちょいですずもずぶ濡れだったんですけど~!」
「よくわかんねーけど、占い師に恨みでもあるんじゃね?」
「あ~、カワイイが趣味のすずがバカだってよく言われる的な?」
「的な的な」
「たるちんが怪しいって言われるのと、すずがバカだって言われるのと、殿が怖いって言われるのは全部イコールね。実際はどうあれ"それっぽい"っていう」
少しして、エマさんとサキ先輩が戻って来て、粗方分かったことを教えてくれた。あの女はやはり占い師に対する恨みがあるらしかった。昔、アイドルオーディションに落ちて世界で一番不幸な私を、占いは弄んだのだと。雑誌に載っていた占いの通りにラッキーアイテムを買い、その通りに行動しても悪いことしか起きなかったと。
世界で一番不幸な私は、何人たりとも触れることのできない闇として生きることを決め、占いのような物に惑わされないよう魂を磨き、オーラを読むことを始めた。人の不安を煽って金を取る占い師も、幸せそうな顔をして暢気に生きているそこらの連中も全員憎い。私がこの世の全ての不幸を背負ったからこそお前たちは幸せなのだと。
「――的なことを言っていたね。だから占い師としての責任で、きちんとしたポリシーを持ってる中は恰好の標的だったと」
「ンなこったろーと思ったっす」
「確かにたるちんとは相性ワルそー。だって何でもかんでも人任せにする人間と、占いをベースにコンサルタントとかカウンセリングで人の背中を押そうとしてる人間っしょ?」
「ま、占い師は人の恨み辛みを浴び続ける仕事だとも聞いてるんで、いい経験でした。としときます」
「だからと言って、手を出すのは違う気がするけれど~」
「甘い甘いちむりの助、自分が特別だから何でもしていいと思ってる人間はどこにでもいるんだって!」
一瞬、場がざわついた。あの女が戻って来たのだ。どのツラ下げて戻って来た、という気持ちもあるが、別にどうでもいい。俺は元々相手にしてないワケだし。
「場を騒がせたことを、謝罪します」
「え、そんだけ?」
「他に何が」
「すず、突っかかんな」
「でもおかしくなーい? もしこの人が今後もインターフェイスの行事に出て来るんだったら、同班とかムリなんで~、拒否でお願いしまーす」
「私こそ、浮かれたアタマの女とは、共存出来ない」
「イカレてる奴に浮かれたアタマって言われた~、笑えな」
「すず~、夢子~、ケンカはダメよ~」
「私はこういう、暢気で何も考えていない、世の不条理も知らずに綺麗事ばかり言う人間も許せない」
「はあ~?」
この女が争いを止めようとしたちむちむにまで話を広げて喧嘩を売って来たのには、さすがにそろそろ怒りが表面化しそうなところにまで来そうだ。だが、そこで乗ると思う壺だ。出そうになった口を堅く結び直した瞬間だった。
「みんな、それぞれ何かある。それでも道を探して、生きてる。ちむちむにまで酷いことを言うなら、私が、あんたを、やる」
琉生が圧だけで奴を壁際に追い込むと、腰の力が抜けたのか、奴はその場にへたりこむ。頭の上には、氷水がたっぷり入ったピッチャー。睨み下ろす目が、マジだ。本気でやりかねねえ。
「琉生、それはダメ。やったら、番組クビだよ」
「サキ先輩。……許してないから」
「夢子も、もうおよしなさい」
「今日の所は、このくらいにしておきます」
「ちむちむー、何もされなかった? 大丈夫ー?」
「私は平気よ~。琉生、ありがとう~」
「ルイルイ君マジ名言! ルイルイ君緑ヶ丘だっけ? ちむりの助と仲良し?」
「仲良しよね~」
「ねー。えっと、"ゆに"に改名したんだっけ」
「そうそう! すず、"ゆに"になった!」
「私とは趣味が違うけど、ファッションとか、好きなのを通してるのが、いいなって思ってた」
「わかる! 趣味は違うけど、ルイルイ君も世界観いいよね!」
「その点、あの人の世界観も嫌いじゃなかったけど、ちむちむを貶したからもうアウト。多分、中もキレる手前だったはず」
「……中。梅酒の、お湯割りだ」
「おっ、気が利くねェ」
「先日の缶蹴りの際に、飲んでいたと思い出した。とりあえず、体を温めろ」
殿がくれた梅酒を飲みながら、今後のことについて考える。この程度のことで占いは辞めないし、将来のために修行をすることには変わりない。インターフェイス関係で言えば、何かいろいろめんどくさくなりそうだなっていう気持ちが、ちょっと。これ以上妙なことに巻き込まれたくはないが。とりあえず、これ以降詐欺師を自称すんのはやめとこうっていう学びは得た。
「くーっ、うっま。さてはお前、第一印象で損しがちなタイプだな?」
「お互いさまだ」
end.
++++
殿に中が突っかかっているパターンのヤツをまだやってないのでそのうち。
殿→中は、殿⇔将門とは違うパターンの、皮肉めいた返しなども見せてもらえるといい。
(phase3)
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