2025
■時間と場所の有効活用
++++
ダウン出荷のピークがしばらく前に過ぎ、B棟1階で扱っているダウンが結構少なくなってきたので、少ない物から順番にB棟2階に上げて、空いたスペースを整理する作業をすることになった。今は全社的にゆるっとしているので、今日丸1日をこの作業に充てようという風にB棟1階を管理している高井さんと話し合う。
「大石君、2階ってどれくらい上げれそう?」
「2階もかさばる物は大分減ってますし、平置きを工夫すれば結構上げれると思います」
「結構とは」
「今1階で溜め置きが無くなってるような……こういうのは大体イケると思います」
「じゃあ、大石君が持って行けそうな品番をチェックしてもらったら、俺がパレットに乗せて上げてくし、引っ張ってもらう感じで」
「わかりました」
自分の区画で引き取っても大丈夫そうな品番を、入荷表と現物を見ながらチェックしていく。在庫がパレット単位で残ってるような物だとか、横持ちじゃなくて出荷でケースのままボンと出やすい傾向にある品番は下に残しておいた方がいいので除外する。
ただ、むやみやたらと引き取れるワケじゃない。塩見さんから言われているのは、今度ロジからウチに移す物をB棟2階で管理して欲しいので、その分のスペースは空けておいてほしいということ。それが結構なスペースを食うらしいので、越野の言うところのバスケットコート半面くらいは空けておかなきゃいけないっぽい。
「ロケーション変更どうする? あれっ、そういや今越野君ていないんだっけ?」
「そうですね、フォークリフトの講習に行ってるはずです」
「えー、困ったなあ。俺大掛かりな変更は大体越野君に投げてたから」
「あっ、俺がWMSの端末でやりますよ。上に上げた物はとりあえず2階の適当なロケーションに仮登録しておきますし」
「本当!? ありがとう助かる~」
端末を使えば自分でもロケーション変更をかけることは出来るけど、大掛かりな変更になると事務所の人にパソコンで入力してもらう派の人もいる。畠山さんと高井さんがその代表で、特に畠山さんは一度に持って来る量が多いので、越野も際限なく続くロケーション登録から逃げるように現場に来ることがある。
一方、俺は端末で自分で変更をかける派だ。登録という点だけで言えば事務所の人の手間にはならないけど、ロケーション変更のタイミング次第では通販在庫を調べに来た内山さんに迷惑をかけることもある。だから庫内整理をやっているタイミングで内山さんを見たら、ロケーション変更で困りそうなことはないかを確認するようにしている。
「大石君的に、どれから欲しいとかある?」
「特にこだわりはないので、高井さんの都合のいいようにしてもらって大丈夫ですよ」
「そう? それじゃあ1列まるっと使ってるこの品番から行っていい? 俺も早いトコスペース空けないと、オミとハタケさんがまだかまだかって急かして来るんだよ」
「あれだけの品物を管理しようとしたら、A棟だけじゃなかなか狭いですよね。長岡君もよく俺のところに土地を借りに来ますもん」
「それはそれでわかるけど、B棟にはB棟の計画があるの! って思わない?」
「思います」
「よね!」
傾向としてB棟は、A棟に置き切れない製品を置くのに空いた土地を狙われやすく、ある程度なら貸せるけど、この柱よりこっちには来ないでね! というような牽制をしなければならないのは1階も2階も同じようだった。B棟あるあるの話が盛り上がる。
「あと、オミが空いた土地を確認するように歩いてたら今度は何が来るんだっていう恐怖がある」
「2階の場合は、ロジから何を持って来る話になってるんだろう、ですかね」
「ああー、わかるー! アパレルとかアクセサリーとか引き取りがちー!」
「今も今度引き取る物を置くのに土地を空けといてくれって言われてて。あ、そういうワケなので今回はあんまり引き取れないんですけど」
「大丈夫大丈夫。4、5列分くらい持ってってくれれば万々歳くらいのつもりだったし」
「それくらいなら余裕ですね」
ひとまずパレットに荷造りをして、それを受け取りに2階へ上がる。吹き抜けの側で高井さんを待っていると、A棟の方から塩見さんがやって来る。
「千景、何やってんだ?」
「少なくなったダウンを1階から上げてるところですね。とりあえず上げるだけ上げて、それから整頓する感じで。塩見さんは……あ、試験勉強ですか?」
「今日の感じだと、このまま3、4時間はやれそうだしな。あ、俺3時で帰るしそのつもりで頼む」
「わかりました」
塩見さんが所長に言われた資格の勉強の方も、こういう出荷が少ない時期に集中してやるっていう作戦なんだろうな。出荷だけだと実働1時間とかになっちゃいがちだけど、何か出来ることを探してやってるこの感じ。越野はフォークリフトの講習に行ってるし、塩見さんも勤務時間で勉強をしてっていう、時間の有効活用だ。
「塩見さん、その勉強って難しいですか?」
「いや、有害業務にかからなきゃそこまで難しくねえ。一般常識と生物の知識がありゃノー勉でも6割くらいは取れそうな雰囲気はある。有害業務の内容に入って来たら、馴染みがない分覚えるのに多少時間がかかる程度だ」
「へえ、ちょっと興味ありますね。ダウン、上げるだけ上げたらちょっとだけテキストを見せてもらうことって出来ますか?」
「それは構わねえぞ」
「ありがとうございます」
end.
++++
塩見さんはエリアで一番偏差値の高い高校に首席で入学してるらしいので素地はある。
「ノー勉でも6割」発言にも大体の人は「お前だからだよ」って言うような、そんな。
それをまともに信じて「ホントに普通の内容ですねー」って言えるのは星大卒のちーちゃん。
(phase3)
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ダウン出荷のピークがしばらく前に過ぎ、B棟1階で扱っているダウンが結構少なくなってきたので、少ない物から順番にB棟2階に上げて、空いたスペースを整理する作業をすることになった。今は全社的にゆるっとしているので、今日丸1日をこの作業に充てようという風にB棟1階を管理している高井さんと話し合う。
「大石君、2階ってどれくらい上げれそう?」
「2階もかさばる物は大分減ってますし、平置きを工夫すれば結構上げれると思います」
「結構とは」
「今1階で溜め置きが無くなってるような……こういうのは大体イケると思います」
「じゃあ、大石君が持って行けそうな品番をチェックしてもらったら、俺がパレットに乗せて上げてくし、引っ張ってもらう感じで」
「わかりました」
自分の区画で引き取っても大丈夫そうな品番を、入荷表と現物を見ながらチェックしていく。在庫がパレット単位で残ってるような物だとか、横持ちじゃなくて出荷でケースのままボンと出やすい傾向にある品番は下に残しておいた方がいいので除外する。
ただ、むやみやたらと引き取れるワケじゃない。塩見さんから言われているのは、今度ロジからウチに移す物をB棟2階で管理して欲しいので、その分のスペースは空けておいてほしいということ。それが結構なスペースを食うらしいので、越野の言うところのバスケットコート半面くらいは空けておかなきゃいけないっぽい。
「ロケーション変更どうする? あれっ、そういや今越野君ていないんだっけ?」
「そうですね、フォークリフトの講習に行ってるはずです」
「えー、困ったなあ。俺大掛かりな変更は大体越野君に投げてたから」
「あっ、俺がWMSの端末でやりますよ。上に上げた物はとりあえず2階の適当なロケーションに仮登録しておきますし」
「本当!? ありがとう助かる~」
端末を使えば自分でもロケーション変更をかけることは出来るけど、大掛かりな変更になると事務所の人にパソコンで入力してもらう派の人もいる。畠山さんと高井さんがその代表で、特に畠山さんは一度に持って来る量が多いので、越野も際限なく続くロケーション登録から逃げるように現場に来ることがある。
一方、俺は端末で自分で変更をかける派だ。登録という点だけで言えば事務所の人の手間にはならないけど、ロケーション変更のタイミング次第では通販在庫を調べに来た内山さんに迷惑をかけることもある。だから庫内整理をやっているタイミングで内山さんを見たら、ロケーション変更で困りそうなことはないかを確認するようにしている。
「大石君的に、どれから欲しいとかある?」
「特にこだわりはないので、高井さんの都合のいいようにしてもらって大丈夫ですよ」
「そう? それじゃあ1列まるっと使ってるこの品番から行っていい? 俺も早いトコスペース空けないと、オミとハタケさんがまだかまだかって急かして来るんだよ」
「あれだけの品物を管理しようとしたら、A棟だけじゃなかなか狭いですよね。長岡君もよく俺のところに土地を借りに来ますもん」
「それはそれでわかるけど、B棟にはB棟の計画があるの! って思わない?」
「思います」
「よね!」
傾向としてB棟は、A棟に置き切れない製品を置くのに空いた土地を狙われやすく、ある程度なら貸せるけど、この柱よりこっちには来ないでね! というような牽制をしなければならないのは1階も2階も同じようだった。B棟あるあるの話が盛り上がる。
「あと、オミが空いた土地を確認するように歩いてたら今度は何が来るんだっていう恐怖がある」
「2階の場合は、ロジから何を持って来る話になってるんだろう、ですかね」
「ああー、わかるー! アパレルとかアクセサリーとか引き取りがちー!」
「今も今度引き取る物を置くのに土地を空けといてくれって言われてて。あ、そういうワケなので今回はあんまり引き取れないんですけど」
「大丈夫大丈夫。4、5列分くらい持ってってくれれば万々歳くらいのつもりだったし」
「それくらいなら余裕ですね」
ひとまずパレットに荷造りをして、それを受け取りに2階へ上がる。吹き抜けの側で高井さんを待っていると、A棟の方から塩見さんがやって来る。
「千景、何やってんだ?」
「少なくなったダウンを1階から上げてるところですね。とりあえず上げるだけ上げて、それから整頓する感じで。塩見さんは……あ、試験勉強ですか?」
「今日の感じだと、このまま3、4時間はやれそうだしな。あ、俺3時で帰るしそのつもりで頼む」
「わかりました」
塩見さんが所長に言われた資格の勉強の方も、こういう出荷が少ない時期に集中してやるっていう作戦なんだろうな。出荷だけだと実働1時間とかになっちゃいがちだけど、何か出来ることを探してやってるこの感じ。越野はフォークリフトの講習に行ってるし、塩見さんも勤務時間で勉強をしてっていう、時間の有効活用だ。
「塩見さん、その勉強って難しいですか?」
「いや、有害業務にかからなきゃそこまで難しくねえ。一般常識と生物の知識がありゃノー勉でも6割くらいは取れそうな雰囲気はある。有害業務の内容に入って来たら、馴染みがない分覚えるのに多少時間がかかる程度だ」
「へえ、ちょっと興味ありますね。ダウン、上げるだけ上げたらちょっとだけテキストを見せてもらうことって出来ますか?」
「それは構わねえぞ」
「ありがとうございます」
end.
++++
塩見さんはエリアで一番偏差値の高い高校に首席で入学してるらしいので素地はある。
「ノー勉でも6割」発言にも大体の人は「お前だからだよ」って言うような、そんな。
それをまともに信じて「ホントに普通の内容ですねー」って言えるのは星大卒のちーちゃん。
(phase3)
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