2025
■ジャスト・フィッティング
++++
「おーい1年生たちぃ」
今日の出荷が一段落した後、今年の新卒4人が事務所に集められた。何が始まるのかと思ったら、事務所奥のサーバー室(所長の昼寝場)から出てきたのは冬着のような物と、ベージュ色の作業着だ。作業着の胸には向西倉庫と社名が刺繍されている。
「そろそろ寒くなってきたし、みんなの冬服を注文しようと思って」
「へー、冬服って用意してもらえるんですね」
「これね、結構あったかいんだよ」
「大石君はどうする? せっかくだし、新しいの注文してもいいけど」
「あっ、今持ってるので大丈夫です。結構馴染んでますし」
「そう? それじゃあ中綿ジャケットはあと3人ね」
会社から支給または貸与される物は、大体の場合で大石にはもう与えられている。そしてバイトから数えて5年目ともなると、道具にしても服にしても体に馴染んでいると言って元々ある物をそのまま使うのが大石のパターンだ。
「俺は大石君と同じサイズで頼むのが良さそうかなあ。大石君サイズいくつ?」
「俺はLでぴったりくらい」
「じゃあ俺もLで良さそうかな」
「長岡君、羽織ってみてもいいぞ。こっちからS、M、Lな」
「あっ、試せるんですか? ありがとうございまーす」
Lサイズの中綿ジャケットが大石でぴったりくらいということは、俺はワンサイズ落とすことも視野なのかもしれない。実際、Lサイズのジャケットを羽織った長岡には若干の余裕がありそうな雰囲気だ。内山はSで袖の裾を余らせている。このジャケット自体が大きめなのか?
「俺はM羽織ってみようかな」
「いいと思うよ」
「うん、越野君はMじゃないかな」
「大石はともかく長岡に言われるのは何か腹立つな。そこまでタッパに差はないだろ」
「ごめんて! って言うかおかしくない!? 何で!?」
「どちらかと言えば越野君の方が華奢だからなあ」
「所長まで!?」
「いいからさっさと羽織るなら羽織る」
「あっはいすいません」
いや、俺は華奢じゃなくて普通くらいだと思うが!? いや、この会社基準で行くと相対的にそうなってしまうのか? 華奢。華奢なあ。いや、まだ圭佑君という砦が俺には。大石には負けてると思うけど、長岡にフィジカルで負けてるつもりはなかったぞ。
「はい、越野君はM寸ね。長岡君がL寸、内山さんがS寸。で、制服の方ね。こっちは大石君も始めて作るからちゃんと試着してね」
「はーい」
ベージュの作業着はパリッとした制服のようだけど、現場で着ている人はほとんど見たことがない。たまに所長か宮本主任が着ているくらいな印象で、正直他の人たちも持ってるのかと不思議な感情になる。それもそのはず、基本的には「余所行き」という概念らしいのだ。
所長や宮本主任は外に出て他の会社に挨拶をしたり会議に出る機会が多いから制服を着る機会も多いけど、社内で作業をしているだけならあまり着る必要がない。もちろん、作業服の方が動きやすいとか、作業しやすいというのであれば着ていても構わないけれど、とのことだ。
その性質上、ベージュの社名入り作業服を持っているのは男性社員だけらしい。女性社員が外部との打ち合わせに出ることなどはほとんどないからだ。同様に、社外に出ることがほとんどない社員はもらった制服もロッカーの中に入れっぱなしだとか。
「あっ、制服だとLじゃちょっとキツいかも」
「ジャケットと制服はメーカーも寸法も違うからちゃんと試着してな」
「所長、LLの制服はありますか?」
「おーう、待ってろぃ」
「大石君、L貸して」
「はい」
「俺もワンチャンMがキツい可能性があるな!」
「じゃM羽織ってみなよ」
「いやさすがにL! 見てみ? Mはパツパツ!」
……っんでだよ!
「越野さん、Mでピッタリですね」
「いやおかしくね!? タグに書いてある基準の身長でいったら十分Lだろ!」
「おーい大石君やい、LLー」
「ありがとうございまーす。あっ、ちょうどいいですね」
「良かった良かった。じゃ大石君はLLで。長岡君は? 羽織った?」
「あっ、俺もLじゃちょっと肩とか胸周りがキツいかなーって感じで」
「それじゃあLL羽織ってみなよ。はい」
「ありがとう。……うん、こっちですね」
「長岡君もLLっと。越野君はM寸?」
「何でMって決めつけるんすか!」
「でも越野さんMでピッタリだったじゃないですか」
一応最後の抵抗でLサイズの作業服も羽織ってみたけど、だぶついててみっともないという理由でMサイズに決定させられた。これからまだ育つ可能性を考慮して欲しい。
「つか、俺ってこの会社の中じゃ華奢扱いされるかもだけど、世間一般的には別に華奢じゃないよな!?」
「うん、中肉中背なんじゃない?」
「ちょっと前に流行った細マッチョ的な?」
「越野さんもバリバリバスケやってて、何なら今もやってるって話なのに、何で大石さんや長岡君と比べると細い感じなんですかね?」
「俺は兄さんも大きいし、家系的な物もあるのかも」
「野球とバスケじゃ大きくなる筋肉が違う的な?」
「ちくしょーもうちょっとデカくなりたかったよー」
「見た目がどうあれ、越野君はこの会社の中じゃスタミナがあってしっかり動けて、デスクワークも出来て器用なんだから。悲観的にならないで。これからもよろしく頼むよ」
「はぁい」
贅沢を言えばもうちょっとガッチリしたかった感はあるけど、今は今で動きやすい体ではあるので、年月を経ても現状をキープ出来るようにしていたい。いくらLサイズが良かったっつっても太ってLになりましたーとかだとちょっと嫌すぎるからな。
「これ、ベージュの作業服ってちょっとかわいいですよね。いいなあ」
「おっ、それじゃあ内山さんも作るかあ。同期みんな作るのに1人だけ仲間外れもかわいそうだもんなあ」
end.
++++
向西倉庫の社員たちは唯一の10代、ウッチーにちょっと甘い。
(phase3)
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「おーい1年生たちぃ」
今日の出荷が一段落した後、今年の新卒4人が事務所に集められた。何が始まるのかと思ったら、事務所奥のサーバー室(所長の昼寝場)から出てきたのは冬着のような物と、ベージュ色の作業着だ。作業着の胸には向西倉庫と社名が刺繍されている。
「そろそろ寒くなってきたし、みんなの冬服を注文しようと思って」
「へー、冬服って用意してもらえるんですね」
「これね、結構あったかいんだよ」
「大石君はどうする? せっかくだし、新しいの注文してもいいけど」
「あっ、今持ってるので大丈夫です。結構馴染んでますし」
「そう? それじゃあ中綿ジャケットはあと3人ね」
会社から支給または貸与される物は、大体の場合で大石にはもう与えられている。そしてバイトから数えて5年目ともなると、道具にしても服にしても体に馴染んでいると言って元々ある物をそのまま使うのが大石のパターンだ。
「俺は大石君と同じサイズで頼むのが良さそうかなあ。大石君サイズいくつ?」
「俺はLでぴったりくらい」
「じゃあ俺もLで良さそうかな」
「長岡君、羽織ってみてもいいぞ。こっちからS、M、Lな」
「あっ、試せるんですか? ありがとうございまーす」
Lサイズの中綿ジャケットが大石でぴったりくらいということは、俺はワンサイズ落とすことも視野なのかもしれない。実際、Lサイズのジャケットを羽織った長岡には若干の余裕がありそうな雰囲気だ。内山はSで袖の裾を余らせている。このジャケット自体が大きめなのか?
「俺はM羽織ってみようかな」
「いいと思うよ」
「うん、越野君はMじゃないかな」
「大石はともかく長岡に言われるのは何か腹立つな。そこまでタッパに差はないだろ」
「ごめんて! って言うかおかしくない!? 何で!?」
「どちらかと言えば越野君の方が華奢だからなあ」
「所長まで!?」
「いいからさっさと羽織るなら羽織る」
「あっはいすいません」
いや、俺は華奢じゃなくて普通くらいだと思うが!? いや、この会社基準で行くと相対的にそうなってしまうのか? 華奢。華奢なあ。いや、まだ圭佑君という砦が俺には。大石には負けてると思うけど、長岡にフィジカルで負けてるつもりはなかったぞ。
「はい、越野君はM寸ね。長岡君がL寸、内山さんがS寸。で、制服の方ね。こっちは大石君も始めて作るからちゃんと試着してね」
「はーい」
ベージュの作業着はパリッとした制服のようだけど、現場で着ている人はほとんど見たことがない。たまに所長か宮本主任が着ているくらいな印象で、正直他の人たちも持ってるのかと不思議な感情になる。それもそのはず、基本的には「余所行き」という概念らしいのだ。
所長や宮本主任は外に出て他の会社に挨拶をしたり会議に出る機会が多いから制服を着る機会も多いけど、社内で作業をしているだけならあまり着る必要がない。もちろん、作業服の方が動きやすいとか、作業しやすいというのであれば着ていても構わないけれど、とのことだ。
その性質上、ベージュの社名入り作業服を持っているのは男性社員だけらしい。女性社員が外部との打ち合わせに出ることなどはほとんどないからだ。同様に、社外に出ることがほとんどない社員はもらった制服もロッカーの中に入れっぱなしだとか。
「あっ、制服だとLじゃちょっとキツいかも」
「ジャケットと制服はメーカーも寸法も違うからちゃんと試着してな」
「所長、LLの制服はありますか?」
「おーう、待ってろぃ」
「大石君、L貸して」
「はい」
「俺もワンチャンMがキツい可能性があるな!」
「じゃM羽織ってみなよ」
「いやさすがにL! 見てみ? Mはパツパツ!」
……っんでだよ!
「越野さん、Mでピッタリですね」
「いやおかしくね!? タグに書いてある基準の身長でいったら十分Lだろ!」
「おーい大石君やい、LLー」
「ありがとうございまーす。あっ、ちょうどいいですね」
「良かった良かった。じゃ大石君はLLで。長岡君は? 羽織った?」
「あっ、俺もLじゃちょっと肩とか胸周りがキツいかなーって感じで」
「それじゃあLL羽織ってみなよ。はい」
「ありがとう。……うん、こっちですね」
「長岡君もLLっと。越野君はM寸?」
「何でMって決めつけるんすか!」
「でも越野さんMでピッタリだったじゃないですか」
一応最後の抵抗でLサイズの作業服も羽織ってみたけど、だぶついててみっともないという理由でMサイズに決定させられた。これからまだ育つ可能性を考慮して欲しい。
「つか、俺ってこの会社の中じゃ華奢扱いされるかもだけど、世間一般的には別に華奢じゃないよな!?」
「うん、中肉中背なんじゃない?」
「ちょっと前に流行った細マッチョ的な?」
「越野さんもバリバリバスケやってて、何なら今もやってるって話なのに、何で大石さんや長岡君と比べると細い感じなんですかね?」
「俺は兄さんも大きいし、家系的な物もあるのかも」
「野球とバスケじゃ大きくなる筋肉が違う的な?」
「ちくしょーもうちょっとデカくなりたかったよー」
「見た目がどうあれ、越野君はこの会社の中じゃスタミナがあってしっかり動けて、デスクワークも出来て器用なんだから。悲観的にならないで。これからもよろしく頼むよ」
「はぁい」
贅沢を言えばもうちょっとガッチリしたかった感はあるけど、今は今で動きやすい体ではあるので、年月を経ても現状をキープ出来るようにしていたい。いくらLサイズが良かったっつっても太ってLになりましたーとかだとちょっと嫌すぎるからな。
「これ、ベージュの作業服ってちょっとかわいいですよね。いいなあ」
「おっ、それじゃあ内山さんも作るかあ。同期みんな作るのに1人だけ仲間外れもかわいそうだもんなあ」
end.
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向西倉庫の社員たちは唯一の10代、ウッチーにちょっと甘い。
(phase3)
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