2025
■作業空間は足元注意
++++
「おざー、おわっぶねえ」
「大丈夫か雨竜」
「何か踏みかけたぞ」
サークル室に入ろうとした瞬間、雨竜がその場で変なステップを踏む。本人は何かを踏みかけたと言うけど、こんなサークル室の入り口に物が置きっ放しにされることなんかそうそうないと思う。いや、思いたいが。下を見てみると、ローラーのような物が落ちている。
「何だこれ、あっぶねーなあ! 滑ってコケたらどーすんだよ! つーか誰のだ!?」
「うーん、よく見るとサークル室全体が何となく汚い気がする」
「こんな汚かったっけ」
「整理整頓は個々人の裁量に任せてるし、一度ちゃんとやった方がいいのかもな」
「じゃなくてこのローラーは誰のだよ!」
「多分美瑛じゃないか? 粘土こねる時に使うヤツ」
「あー、そーいや見たことあるかも」
映像作品を制作するサークルであるAKBCでは、サークルメンバーでチームを組んで作品を作ることもあれば個人で制作することもあって、結構みんな自由にやっているような感じだ。個人作品の代表例で言えばあやめさんのタイムラプス動画であったり、俺のドローン映像だとか。あとは、1年の美瑛はクレイアニメを作っている。
で、恐らくサークル室のこの惨状を生んでいるのは美瑛が散らかしたままの道具類だ。美瑛は作業に集中するとそれまで使っていた道具をどこにでも置きっ放しにしては次に使う時に「どこなのよー」と探している。しかも、美瑛の道具は細かい物が多いし、刃物なんかもあったりして危ない。前にはキャップを外したままのデザインナイフが放置されていたこともある。
「当麻、美瑛をシメてくれよ」
「まあ、これまでにも何度か注意されてるんだから、そろそろキツめに言ってもいい頃合いかもな」
美瑛の片付け下手に関するエピソードをひとつ聞いたことがある。クレイアニメ制作の息抜きとして作っているジグソーパズルを家じゅうどこにでも途中で放置して家族に散々怒られていたそうだ。それで、そのジグソーパズルを整理するための棚を、インターフェイス夏合宿で一緒の班になった向島の子に作らせたそうだ。しかも、わざわざ家にまで呼びつけて。
「おはようございますなのね」
「あっ、美瑛! 来たなこの野郎!」
「何なの雨竜さん、喧嘩腰なのね」
「お前がその辺にほったらかしてたローラーを踏みかけたんだぞ!」
「あっ! そんなところにあったのね! 見つけてくれてありがとうございますなの!」
「違うそうじゃねー!」
「美瑛、使った道具はきちんと一箇所にまとめておかないと危ないし、無くなったりしても責任は取れないぞ」
「わかってますなのよ。でも、粘土だけ片付けたらすぐにでも編集がしたいのね。こねて、撮って、編集の三点跳びなのよ」
正直、美瑛の言っていることも理解出来なくない。サークルのときに美瑛が作業しているのも見たことがあるけど、1コマ撮って、粘土の形を変えて、また撮って、をひたすら繰り返している。1コマ0.1秒とかその程度の物だから、10秒のアニメーションを作るのにもかなりの労力が必要だ。それは理解出来るがそれと今回の問題とは別だ。
「気持ちはわかる。わかるけど、実際美瑛が扱う道具の中には刃物もあるし、ほったらかしにされると危ない。自分の道具で人をケガさせたくないだろ?」
「それはそうなのね」
「それに、今回は雨竜だから踏みそうになった程度で済んだけど、北星だったら踏んで転んでたぞ。これからアイツは繁忙期に入ってくる。寝不足になったアイツはまず足元なんか見ないからな」
「……危ないのよ! 片付けるの!」
AKBCの人間は北星のいろいろな角度でのヤバさをよく知っている。インターフェイスでは映像関係で凄く頼れる大エース! などと言われて持ち上げられているけど、青敬の中じゃボケっとした腑抜けの北星であることも多い。1年生たちもそんな様子はよく見ているから、寝不足の北星は足元を見ないし道具なんか躊躇なく踏むと言われても疑わない。
「当麻、北星てこれから繁忙期なんか?」
「クリスマスシーズンに入るとケーキをぶった切ることになるだろ」
「ああ~、くるちゃんのか」
「そうそう。今年はいつから、何台やるのかはわかんないけど、くるちゃんのことだし3つ4つで終わることもないだろ」
「確かに3つ4つだったらコンビニ1社につき1ホールとかか。くるちゃんがそんな程度じゃ終わんねーよな」
「それに、こないだ対策委員の会議の後でくるちゃんと花栄のイルミネーションに行って撮影の練習してきたって」
「デートでは?」
「ないな。純粋にくるちゃんが北星に撮影の技術を乞う練習会だ」
「ったくお前は! 仲が良いのはいいけどとっとと攻めろ!」
そうこう話している間に、美瑛がそこらじゅうに散らばっていた道具をひとつにまとめていた。まあ、今はこの程度でもいいとしよう。何だろう、美瑛には適当に道具を放っていい箱か何かがあればいいのだろうか。
「おはよ~」
「おーす北星! つーかお前、いつにも増して眠そうだな」
「ああ。コーヒー買って来たんなら飲んだ方がいいぞ」
「う~ん。最近、とりぃの撮影の練習のために~、俺も夜更かししてて~」
「ああ、とりぃか。くるちゃん以外にもまさかの刺客が」
「えっ、とりぃって何撮ってんの?」
「星空だって。こないだ来てた彗星とか、流星群とかああいうの」
「あー、なるほど。あっ北星、足元気を付けろよ。何が転がってるかわかんねーから」
「うん~、ありがと雨竜~」
「も、もう大丈夫なのよ! 大分片付けたのね!」
end.
++++
美瑛がちゃんと片付けが苦手な子になってしまった。Pさんとどっちが酷いかな
対策委員では頼られることも増えた北星だけど、青敬の中じゃ変わらずコーヒーで溺れてて欲しい
しかし当麻と雨竜はくるちゃんを何だと思っているのか
(phase3)
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「おざー、おわっぶねえ」
「大丈夫か雨竜」
「何か踏みかけたぞ」
サークル室に入ろうとした瞬間、雨竜がその場で変なステップを踏む。本人は何かを踏みかけたと言うけど、こんなサークル室の入り口に物が置きっ放しにされることなんかそうそうないと思う。いや、思いたいが。下を見てみると、ローラーのような物が落ちている。
「何だこれ、あっぶねーなあ! 滑ってコケたらどーすんだよ! つーか誰のだ!?」
「うーん、よく見るとサークル室全体が何となく汚い気がする」
「こんな汚かったっけ」
「整理整頓は個々人の裁量に任せてるし、一度ちゃんとやった方がいいのかもな」
「じゃなくてこのローラーは誰のだよ!」
「多分美瑛じゃないか? 粘土こねる時に使うヤツ」
「あー、そーいや見たことあるかも」
映像作品を制作するサークルであるAKBCでは、サークルメンバーでチームを組んで作品を作ることもあれば個人で制作することもあって、結構みんな自由にやっているような感じだ。個人作品の代表例で言えばあやめさんのタイムラプス動画であったり、俺のドローン映像だとか。あとは、1年の美瑛はクレイアニメを作っている。
で、恐らくサークル室のこの惨状を生んでいるのは美瑛が散らかしたままの道具類だ。美瑛は作業に集中するとそれまで使っていた道具をどこにでも置きっ放しにしては次に使う時に「どこなのよー」と探している。しかも、美瑛の道具は細かい物が多いし、刃物なんかもあったりして危ない。前にはキャップを外したままのデザインナイフが放置されていたこともある。
「当麻、美瑛をシメてくれよ」
「まあ、これまでにも何度か注意されてるんだから、そろそろキツめに言ってもいい頃合いかもな」
美瑛の片付け下手に関するエピソードをひとつ聞いたことがある。クレイアニメ制作の息抜きとして作っているジグソーパズルを家じゅうどこにでも途中で放置して家族に散々怒られていたそうだ。それで、そのジグソーパズルを整理するための棚を、インターフェイス夏合宿で一緒の班になった向島の子に作らせたそうだ。しかも、わざわざ家にまで呼びつけて。
「おはようございますなのね」
「あっ、美瑛! 来たなこの野郎!」
「何なの雨竜さん、喧嘩腰なのね」
「お前がその辺にほったらかしてたローラーを踏みかけたんだぞ!」
「あっ! そんなところにあったのね! 見つけてくれてありがとうございますなの!」
「違うそうじゃねー!」
「美瑛、使った道具はきちんと一箇所にまとめておかないと危ないし、無くなったりしても責任は取れないぞ」
「わかってますなのよ。でも、粘土だけ片付けたらすぐにでも編集がしたいのね。こねて、撮って、編集の三点跳びなのよ」
正直、美瑛の言っていることも理解出来なくない。サークルのときに美瑛が作業しているのも見たことがあるけど、1コマ撮って、粘土の形を変えて、また撮って、をひたすら繰り返している。1コマ0.1秒とかその程度の物だから、10秒のアニメーションを作るのにもかなりの労力が必要だ。それは理解出来るがそれと今回の問題とは別だ。
「気持ちはわかる。わかるけど、実際美瑛が扱う道具の中には刃物もあるし、ほったらかしにされると危ない。自分の道具で人をケガさせたくないだろ?」
「それはそうなのね」
「それに、今回は雨竜だから踏みそうになった程度で済んだけど、北星だったら踏んで転んでたぞ。これからアイツは繁忙期に入ってくる。寝不足になったアイツはまず足元なんか見ないからな」
「……危ないのよ! 片付けるの!」
AKBCの人間は北星のいろいろな角度でのヤバさをよく知っている。インターフェイスでは映像関係で凄く頼れる大エース! などと言われて持ち上げられているけど、青敬の中じゃボケっとした腑抜けの北星であることも多い。1年生たちもそんな様子はよく見ているから、寝不足の北星は足元を見ないし道具なんか躊躇なく踏むと言われても疑わない。
「当麻、北星てこれから繁忙期なんか?」
「クリスマスシーズンに入るとケーキをぶった切ることになるだろ」
「ああ~、くるちゃんのか」
「そうそう。今年はいつから、何台やるのかはわかんないけど、くるちゃんのことだし3つ4つで終わることもないだろ」
「確かに3つ4つだったらコンビニ1社につき1ホールとかか。くるちゃんがそんな程度じゃ終わんねーよな」
「それに、こないだ対策委員の会議の後でくるちゃんと花栄のイルミネーションに行って撮影の練習してきたって」
「デートでは?」
「ないな。純粋にくるちゃんが北星に撮影の技術を乞う練習会だ」
「ったくお前は! 仲が良いのはいいけどとっとと攻めろ!」
そうこう話している間に、美瑛がそこらじゅうに散らばっていた道具をひとつにまとめていた。まあ、今はこの程度でもいいとしよう。何だろう、美瑛には適当に道具を放っていい箱か何かがあればいいのだろうか。
「おはよ~」
「おーす北星! つーかお前、いつにも増して眠そうだな」
「ああ。コーヒー買って来たんなら飲んだ方がいいぞ」
「う~ん。最近、とりぃの撮影の練習のために~、俺も夜更かししてて~」
「ああ、とりぃか。くるちゃん以外にもまさかの刺客が」
「えっ、とりぃって何撮ってんの?」
「星空だって。こないだ来てた彗星とか、流星群とかああいうの」
「あー、なるほど。あっ北星、足元気を付けろよ。何が転がってるかわかんねーから」
「うん~、ありがと雨竜~」
「も、もう大丈夫なのよ! 大分片付けたのね!」
end.
++++
美瑛がちゃんと片付けが苦手な子になってしまった。Pさんとどっちが酷いかな
対策委員では頼られることも増えた北星だけど、青敬の中じゃ変わらずコーヒーで溺れてて欲しい
しかし当麻と雨竜はくるちゃんを何だと思っているのか
(phase3)
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