2025
■リラックススイッチを入れよう
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秋学期のMBCC昼放送が始まって、ひと月ほどが経った。秋学期は3学年入り乱れてのペア組みになるし、今年は特に、向島さんと定期で合同番組を制作してみようという話にもなっている。そっちに割く人員についても考えなきゃいけなかったから、例年よりも難しかったんじゃないかなと思う。
昼放送のペアに関しては、シノとちむりーに関して少しの私情を挟みつつ、後はまあスパッと決まったんじゃないかな。シノは1年生を育ててみて欲しいという理由で琉生とのペア、ちむりーはとにかくミキサーとしての基本的な技術を固めて欲しいという理由でエイジに見てもらうことに。
あとはレナ・中ペアにすがやん・サキペア、俺はと言えば凛斗とペアを組んでやっている。みんなの様子を聞く限り、1年生もサークル室とは勝手が違う食堂の事務所で番組をやることに慣れて来たようだし、2年生以上に関しても問題はなさそう。合同番組班のササ・くるみ・周の方も良くやっている様子。
「おざーっす」
「おはよう」
学食での昼放送は、事務所の機材を借りて12時20分から50分までの30分間の生放送だ。2限を終えた凛斗が事務所にやって来るのを迎え、今一度番組の構成や音源を確認する。
「うっ」
「どうしたの凛斗、急に固まっちゃって」
「高木先輩の顔見てたら急~に緊張してきたっす」
「えっ、何で」
「ほら、こないだゼミの面談あったじゃないすか」
「そうだね」
「あの後2年生の先輩たちにも内定貰ったっすーって報告したんすよ」
「ああ、そうなんだ」
「そしたらササ先輩もシノ先輩もめっちゃ圧掛けて来て! 人並みの成績でラジオが下手くそだったら肩身狭いとか立場ないとかいろいろ」
MBCCにいる3人の社会学部生たちはみんな佐藤ゼミに入りたいと面談を受けに来た。俺はその様子を空気になりながら見ていたのだけど、やっぱり成績に重きを置くという近年の傾向に変わりはなかったので、これは先生の気分とかブームとかじゃなくて決まり切ってしまったことなんだなあと実感する。一芸合格も無いこともないけど、その枠は少ない。
俺もササとシノにゼミの実態みたいなことを言って来たし、同じことを下の子にしたとしても全く不思議じゃないんだけど、こうして2個下の子が先輩の話に震えているのを見ると、俺も去年ササとシノを震えさせちゃったかなあと反省したりもする。俺が1年生の時はこんなに心配してなかったと思うけど、今の子はそれだけ真剣に考えてるのかもしれない。
「でも先生はもう内定出してくれたんでしょ? なら大丈夫だよ。入っちゃえばこっちのもの」
「それは高木先輩だから言えるんすよ」
「そうかな? 俺の時と比べたらアナウンサーさんに対する比重も置いてくれるようになってるし、イケるイケる」
「アナミキ云々の問題じゃなくてですね?」
入っちゃえばこっちのもの。本当にこれに尽きる。佐藤ゼミは如何せんセンタービルのラジオブースが見栄えするから毎年倍率が上がりがちだけど、内定が出てるんだったら他に何を心配することがあるんだって話だよね。人並みに勉強が出来るならレポートやレジュメに怯えることもないんだし。
「とにかくそんなようなことで、1回の昼放送の重みがドカンと」
「技術向上について考えてくれるのは嬉しいけど、もうちょっと気楽に構えても大丈夫だよ。変に気負わず」
「そーっすね」
「まだちょっと顔が緊張してるね。人の字書く?」
「あー、ちょっと失礼します」
そう言って凛斗はカバンの中から白い袋を取り出して、チャックを開ける。するとふわりといい匂いが漂った。袋の中から爪の先程の大きさの四角い緑色の塊を取り出し、それをポイッと口の中に放り込んで固く目を瞑る。目を瞑りながら、袋のチャックをパチンパチンと閉め、大きく息を吐いている。
「ふー……やや落ち着きっす」
「大丈夫?」
「お茶成分摂取したんで大丈夫っす」
「あ、今食べたサイコロみたいなのってお茶なの!?」
「そーなんすよ。抹茶の粉をギューっと固めたヤツで、水やお湯に溶かしても良し、そのまま口の中に放り込むも良しで、持ち歩きやすいんで急にお茶欲しー! ってなったときとかにこう」
「へー。そんなのがあるんだね」
この間の個別ゼミ面談で初めて知った凛斗の趣味のひとつがお茶だ。茶道の心得があるらしい。いつでもお茶成分を補給出来るようにしてるとは驚きだけど、緊張を解す術をちゃんと自分で持っているのはいいことだと思う。
「あっ、高木先輩もおひとつどーぞ」
「いいの?」
「ぜひ」
もう一度袋のチャックが開くと、一気に香りが立ってくる。凛斗からお茶キューブを1つもらって口の中に放り込むと、経験したことのないお茶の嵐が。あ、地味に水分持ってかれるかもこれ。
「最近お茶の値段上がってて、これとかもまあまあ上がっちまったんで、誰にでもホイホイ分けれるモンじゃないんですけど。でも美味いっすよね」
「すっごいお茶。感想が薄くて申し訳ないけど」
「高木先輩紅茶派っすもんね」
「紅茶派ってほど詳しいワケじゃないよ。午後ティー飲んでるだけ」
「や、実際そーゆートコからっすよ。なんで、高木先輩とすがやん先輩は立派に紅茶派っす」
そうこう話している間にいい時間になってきたし、お茶の効果で凛斗の緊張もちょっと解れたようなので、番組の空気に持って行く。技術向上を気にしてくれるのはいいことだけど、ゼミのことで言えばお茶と着物の趣味に先生は十分食い付いてたからそこまで心配は要らないとだけ。まあ、技術を意識してもらうに越したことはないのでしばらくはこの感じで行くけど。
end.
++++
TKGパイセンが先輩をしている
お茶の値段は凄く上がってるって話だし、凛斗も大変そう。
ササシノが後輩に圧をかける姿はそれはそれで見てみたい気もする。
(phase3)
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秋学期のMBCC昼放送が始まって、ひと月ほどが経った。秋学期は3学年入り乱れてのペア組みになるし、今年は特に、向島さんと定期で合同番組を制作してみようという話にもなっている。そっちに割く人員についても考えなきゃいけなかったから、例年よりも難しかったんじゃないかなと思う。
昼放送のペアに関しては、シノとちむりーに関して少しの私情を挟みつつ、後はまあスパッと決まったんじゃないかな。シノは1年生を育ててみて欲しいという理由で琉生とのペア、ちむりーはとにかくミキサーとしての基本的な技術を固めて欲しいという理由でエイジに見てもらうことに。
あとはレナ・中ペアにすがやん・サキペア、俺はと言えば凛斗とペアを組んでやっている。みんなの様子を聞く限り、1年生もサークル室とは勝手が違う食堂の事務所で番組をやることに慣れて来たようだし、2年生以上に関しても問題はなさそう。合同番組班のササ・くるみ・周の方も良くやっている様子。
「おざーっす」
「おはよう」
学食での昼放送は、事務所の機材を借りて12時20分から50分までの30分間の生放送だ。2限を終えた凛斗が事務所にやって来るのを迎え、今一度番組の構成や音源を確認する。
「うっ」
「どうしたの凛斗、急に固まっちゃって」
「高木先輩の顔見てたら急~に緊張してきたっす」
「えっ、何で」
「ほら、こないだゼミの面談あったじゃないすか」
「そうだね」
「あの後2年生の先輩たちにも内定貰ったっすーって報告したんすよ」
「ああ、そうなんだ」
「そしたらササ先輩もシノ先輩もめっちゃ圧掛けて来て! 人並みの成績でラジオが下手くそだったら肩身狭いとか立場ないとかいろいろ」
MBCCにいる3人の社会学部生たちはみんな佐藤ゼミに入りたいと面談を受けに来た。俺はその様子を空気になりながら見ていたのだけど、やっぱり成績に重きを置くという近年の傾向に変わりはなかったので、これは先生の気分とかブームとかじゃなくて決まり切ってしまったことなんだなあと実感する。一芸合格も無いこともないけど、その枠は少ない。
俺もササとシノにゼミの実態みたいなことを言って来たし、同じことを下の子にしたとしても全く不思議じゃないんだけど、こうして2個下の子が先輩の話に震えているのを見ると、俺も去年ササとシノを震えさせちゃったかなあと反省したりもする。俺が1年生の時はこんなに心配してなかったと思うけど、今の子はそれだけ真剣に考えてるのかもしれない。
「でも先生はもう内定出してくれたんでしょ? なら大丈夫だよ。入っちゃえばこっちのもの」
「それは高木先輩だから言えるんすよ」
「そうかな? 俺の時と比べたらアナウンサーさんに対する比重も置いてくれるようになってるし、イケるイケる」
「アナミキ云々の問題じゃなくてですね?」
入っちゃえばこっちのもの。本当にこれに尽きる。佐藤ゼミは如何せんセンタービルのラジオブースが見栄えするから毎年倍率が上がりがちだけど、内定が出てるんだったら他に何を心配することがあるんだって話だよね。人並みに勉強が出来るならレポートやレジュメに怯えることもないんだし。
「とにかくそんなようなことで、1回の昼放送の重みがドカンと」
「技術向上について考えてくれるのは嬉しいけど、もうちょっと気楽に構えても大丈夫だよ。変に気負わず」
「そーっすね」
「まだちょっと顔が緊張してるね。人の字書く?」
「あー、ちょっと失礼します」
そう言って凛斗はカバンの中から白い袋を取り出して、チャックを開ける。するとふわりといい匂いが漂った。袋の中から爪の先程の大きさの四角い緑色の塊を取り出し、それをポイッと口の中に放り込んで固く目を瞑る。目を瞑りながら、袋のチャックをパチンパチンと閉め、大きく息を吐いている。
「ふー……やや落ち着きっす」
「大丈夫?」
「お茶成分摂取したんで大丈夫っす」
「あ、今食べたサイコロみたいなのってお茶なの!?」
「そーなんすよ。抹茶の粉をギューっと固めたヤツで、水やお湯に溶かしても良し、そのまま口の中に放り込むも良しで、持ち歩きやすいんで急にお茶欲しー! ってなったときとかにこう」
「へー。そんなのがあるんだね」
この間の個別ゼミ面談で初めて知った凛斗の趣味のひとつがお茶だ。茶道の心得があるらしい。いつでもお茶成分を補給出来るようにしてるとは驚きだけど、緊張を解す術をちゃんと自分で持っているのはいいことだと思う。
「あっ、高木先輩もおひとつどーぞ」
「いいの?」
「ぜひ」
もう一度袋のチャックが開くと、一気に香りが立ってくる。凛斗からお茶キューブを1つもらって口の中に放り込むと、経験したことのないお茶の嵐が。あ、地味に水分持ってかれるかもこれ。
「最近お茶の値段上がってて、これとかもまあまあ上がっちまったんで、誰にでもホイホイ分けれるモンじゃないんですけど。でも美味いっすよね」
「すっごいお茶。感想が薄くて申し訳ないけど」
「高木先輩紅茶派っすもんね」
「紅茶派ってほど詳しいワケじゃないよ。午後ティー飲んでるだけ」
「や、実際そーゆートコからっすよ。なんで、高木先輩とすがやん先輩は立派に紅茶派っす」
そうこう話している間にいい時間になってきたし、お茶の効果で凛斗の緊張もちょっと解れたようなので、番組の空気に持って行く。技術向上を気にしてくれるのはいいことだけど、ゼミのことで言えばお茶と着物の趣味に先生は十分食い付いてたからそこまで心配は要らないとだけ。まあ、技術を意識してもらうに越したことはないのでしばらくはこの感じで行くけど。
end.
++++
TKGパイセンが先輩をしている
お茶の値段は凄く上がってるって話だし、凛斗も大変そう。
ササシノが後輩に圧をかける姿はそれはそれで見てみたい気もする。
(phase3)
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