2025

■きっぱりぱっきりじゃなく

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「うーん。越野さーん」
「んー?」
「これ、5日前の返品のグラフなんですけど、なかなか100%にならないんですよ」
「あー、ちょっと見してみ」

 向西倉庫ではWMSっていうシステムを使って倉庫の中のいろんなデータが取りまとめられてるんだけど、アタシにはまだ何がなんだか。仕事に必要な部分だけチェックはしてるけど、知識と経験が足りないのか、まだまだ対応できないことばっかり。
 WMSのデータをチェックするノートパソコンの前で、越野さんがカタカタと何かを調べてくれていて、アタシはわからないなりにそれを上から眺めてる。ただ、越野さんが何をやっているのかはわからないので、次にアタシがそれを出来るかって言えば、出来ない。

「リストのチェックはついてるし、これはこう、こっちがこうで……ちょっとB棟見てくるわ。大石んトコだ」
「あっ越野さんアタシも」
「大丈夫だ。そろそろ次のリスト来るだろ」

 越野さんがWMSの端末を片手に事務所から出て行って、残されたパソコンの画面には返品入庫でデータ登録されていない品のリストが1行出ていた。でも、普段アタシが見てる画面とはちょっと違ってて、何をどうやってこの画面に辿り着いたのか。

「高沢さーん、ちょっと見てもらっていいですかー?」
「はーい」
「越野さんが出したこれって、アタシが普段見てるのと違う画面のような気がするんですよね」
「ああはい、確かにそうだね」
「これってどういう画面なんですか?」
「これはねえ、えーと……、返品再生の側で登録されたデータとケースをすり合わせて、返品入庫されてない品は確かにこのケースにある、っていう風に万里は判断したんだね。たまにあるでしょ、他のケースに混ざってよその会社に行っちゃってたとか」
「ですね」
「要は他の会社で登録された返品再生の側のデータを使って判断したってことだね」

 お店から戻ってきたものを再び出荷できるようにする返品再生があって、それを入庫、出荷で製品が巡っていく。データもそのように動くんだよという風には聞いてたけど、まだまだ最低限しかシステムを扱えないし、扱う状況になってなかった。

「言ってることはわかるんですけどやってることがわかんないです」
「まあそうだね、俺や山田さんも普段はやらないことだから」
「でも、どうして越野さんは高沢さんでもやらないことを出来ちゃうんですかね?」

 システムやパソコンのことでわかんないことがあれば高沢さんに聞いてね、という風に入社した時にはみんなから言われてて、実際にメールの設定のこととか、仕事に使う専用のアプリの扱い方は高沢さんからほとんど教わった。その高沢さんがやらないことを、越野さんは誰に教えてもらわなくてもやってるっていうのがわかんないんだよね。

「そこが俺と万里の決定的な違いなんだよね」
「違いですか?」
「俺が大学までに勉強してきたのって、パソコンのこととか、プログラムのこと。数字を扱ったり、パソコンのネットワークを設定したりとか、そういうことが中心で、物流に関しては完全な素人の状態で入社したんだよ。パソコンや機械周りのことが得意なのが俺」
「ですね」
「万里が勉強してきたのはそれこそ物流のこと。物流の仕組みだったり、課題だったり。それこそ今会社で使ってるWMSのことも学校で勉強してきたから、ただパソコンを扱えるだけの俺よりきちんと理解した状態で入社してる」
「だから説明のときもメモ取ってなかったんですね」
「そうだね。万里にとってはもう知ってることの復習だから。WMSに登録されたデータをより上手く使うことも出来るし、実際それが生きてるのが今だね」
「はあ」

 やりたいことが前々からちゃんと決まってて、そのように進路を決めて、その業界にきちんと就職した結果だね、と高沢さんが言う。アタシはそういうことを考えて就職しなかったから、越野さんて本当にしっかりしてるんだなって思った。そんなことを思ってたら、内線が鳴る。B棟2階から。

「はいもしもし」
『もしもし内山? 俺だけど、さっきのリストのヤツやっぱ大石んトコにあって、今登録しといたから多分100%なってると思う。見てみて』
「はーい。えーと、更新っと。あっ、来てます来てます100%になりました」
『じゃそういうことで。あ、俺ついでにB棟の庫内整理に付き合ってくからしばらく戻んないし、何かあったら放送で呼んで』
「はーい、了解です。ありがとうございましたー」
「内山さん、解決?」
「はい、おかげさまで」
「よかったね」
「はい。それじゃあさっそく報告しちゃいますね」

 3日前とか4日前とかの返品入庫は100%になってるのに、5日前のがなってないっていうのがすっごく気持ち悪かったから、無事に100%になってよかった。そう言えば説明の時に聞いてたな、しばらく100%にならなかったら疑わなきゃいけないいろんなケースのこと。自分でもリストにしといた方がいいかもしれない。後で越野さんにも聞いてみよう。

「越野さんて、事務の人なのか現場の人なのかわかんないですよね本当に」
「どちらでもあるし、どちらでもない、くらいの感じじゃないかな」
「越野さんて、どうして物流の仕事がしたいって思ったんですかね」
「内山さん、マインクラフトって知ってる?」
「さすがに知ってますよ。ゲームですよね。やったことはないですけど、ゲームの動画は見たことあります。映画にもなってますよね」
「万里は結構やりこんでて、すごい街を作ってるんだよ。その街を作る上で資材調達の自動化を進めて、それをどうやって効率よく拠点に運ぶか、取りに行くか、みたいな物流網を考える必要が出てきたんだよ」
「えっ、もしかしてゲームきっかけで進路を決めたんですか!?」
「そういうこと」
「めっちゃ体育会系だと思ってました! 仕事始めてからもバスケやってるって話だし」
「体育会系だけど、ゲームもやってるよ」
「ますます越野さんがわかんなくなりました」

 万里はそんなに難しい奴じゃないよ、と高沢さんが笑ってる。同期の中で一番関わる時間が長い越野さんだからこそ謎の部分が増えてくるのかもなあ。知るにつれてわからなくなるって言うか。大石さんや長岡君はまだ印象が変わんないし。

「んー、報告も出来たし一段落ー。……したと思ったら今日の分のリストが来たー」


end.


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これはよく喋るので会社に馴染んできた頃のウッチー。

(phase3)

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