2025
■What can you eat?
++++
「これが、今年のポテトです」
「ん、ありがたくいただくよ」
今年の大学祭がやや大きな連休に行われていて良かったなと思うのは、菜月さんがこちらに遊びに来ることをあまり躊躇せずに済んだことかもしれない。彼女と落ち合わせて、今年の大学祭に遊びに行くことを決めたのは9月のこと。せっかくロボコンのある年だし、野坂の雄姿を見せたいと思ったのと、久々に会うにはいい口実だと思ったからだね。
MMPのブースに顔を出すと、少し噂には聞いていたけど本当に規模がとてつもなく大きくなっていた。僕たちが知っているのは、春風と奏多という新メンバーが加わったところまでだ。だけどそれから自前のメンバーだけで11人にもなっている。1年生が6人、2年生が4人だそうだ。サークルの未来は明るそうだね。
「お代は200円だったね」
「いえ、お代は結構です」
今年の食品ブースの実質的リーダーとして働いているのは、1年生の殿という大柄な子だ。顔は厳ついし、体もとても大きい。けれどもとても料理上手で心優しいのです、という紹介を受けた。エプロンをしてフライヤーの前に立って火の番をする姿はどこかの料理屋の大将さながらの風格がある。
「圭斗からは取っておけばいいのに」
「菜月さん、君は相変わらずこういう状況下での財布の紐は固いね」
「甘えられる物にはしっかり甘えておいて、いざこちらの力が必要になったときに返せばいい。そういうことだから、うちはありがたくいただくぞ」
「熱いうちに、どうぞ」
話によれば、今年のジャガイモも星大さんから譲り受けた人助けの産物らしく、お互いWIN-WINの取引になっているとのこと。星大さんはジャガイモを処理出来て嬉しいし、ウチは北辰産の質のいいジャガイモをタダで仕入れることが出来て嬉しい。星大さんの厚意にしっかりと甘えているようだ。
「ん、うまー。圭斗、お前も早く食べた方がいいぞ。おいしー、あふっ」
「それじゃあ、僕もいただきます」
フライドポテトの形状は去年と同じ三日月型のウェッジカットが採用されている。皮の香ばしさや、芋自体のホクッとした感じが実に美味しい。けれども、明らかに去年は違うと感じた。何だ? 明確に味が違うような気がする。
「殿、去年と何か変えたか?」
「菜月さんも変化を感じたかい?」
「んー、何だろ。美味しくはなってるんだけど。芋自体は去年と同じ星大さんのだよなあ」
「だね。他に変える点があると調理法か油、塩といったところかな」
「去年とは、塩が違っています。その他は、ほぼ一緒です」
「塩かー」
「どういう塩を使ってるのかな?」
「岩塩ですね。この岩塩を、ミルで挽いて振りかけています」
「シャレオツだあ。こんなの、むしろ形から入る男の圭斗が一番得意そうなのに何でわかんないんだ」
「現在見栄を張る必要もない男の部屋に岩塩は必要ないんだよ」
パロという調味料オタクの子が家で眠らせてしまっていた岩塩をありがたく使わせてもらっているそうだ。パロの方もここで使ってもらえれば、新しい調味料との出会いを躊躇しなくて良くなるから、と見返りなしに塩を出してくれたそうだ。ここでも使える物は使っているし、甘えられる物にはしっかり甘えているようだね。
「圭斗先輩も、料理をされると伺いました」
「僕のはそれこそ形から入ったものだけどね」
「サークルで、パーティーをやるときなどは、圭斗先輩の料理を囲んでいたと」
「おでんパーティーやカレパの話かな」
「先輩たちとの時は角煮だったりもしたな」
「本当に、凝っていますね」
ムラマリさん、と言うかお麻里様相手の時はやっぱりほら、おもてなしに粗相は許されないと言うか、普段よりも気を張っていたところはありますよね!
「殿は春風の料理の師匠だって話だろ? 自分は何が得意なんだ?」
「自分は……野菜を使った料理が得意です」
「偏食の君でも美味しく食べられるといいね」
「む」
「菜月先輩は、偏食で?」
「生野菜があんまり得意じゃないんだ」
「炒めたり煮てあったところであまり食べないじゃないか」
「うるさいな。らーめん8号の野菜塩らーめんを食べておけば解決なんだ」
「1日の野菜摂取量の、3分の1の量の野菜炒めが乗っているという、ラーメンですね」
「おっ、知ってるのか」
「ジャックという、青尋出身のメンバーが、ラーメン8号について教えてくれました。1年6人で、袋めんに野菜炒めを乗せて、それらしく食べたりもしました」
「ふーん。1年生は仲が良いようで何より」
「食事をするときは人の素が出ると言うか、自然な空気になるものだからね。今のサークルでも、食事の機会が多く設けられているのなら、それは居心地のいい場所になっているということじゃないかな」
今はさすがにこの人数なので全員一緒になってご飯に行くということはあまり無いそうだけど、1年生は1年生6人でちょくちょく一緒に食べているという話なので微笑ましくもあり、懐かしくもある。
「ポテト以外の殿の料理も食べてみたいなあ」
「僕も興味深いね」
「自分もまだまだで。調理法などに悩んだ時は、律先輩に相談したりします」
「りっちゃんはさすがだね」
「りっちゃんはバイト先での経験が凄まじいらしいからなあ」
「はい。自分も、足を運んだことがあるのですが、持ち込んだ野菜で作ってもらった即興の夏野菜トーストが絶品でした」
「食べられなさそー……」
「君はまず無理だろうね。そもそも、君は何が食べられるのかというところからだよ」
end.
++++
大学祭に遊びに来た菜圭が殿と話しながらポテトを食べてるだけ。
(phase3)
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「これが、今年のポテトです」
「ん、ありがたくいただくよ」
今年の大学祭がやや大きな連休に行われていて良かったなと思うのは、菜月さんがこちらに遊びに来ることをあまり躊躇せずに済んだことかもしれない。彼女と落ち合わせて、今年の大学祭に遊びに行くことを決めたのは9月のこと。せっかくロボコンのある年だし、野坂の雄姿を見せたいと思ったのと、久々に会うにはいい口実だと思ったからだね。
MMPのブースに顔を出すと、少し噂には聞いていたけど本当に規模がとてつもなく大きくなっていた。僕たちが知っているのは、春風と奏多という新メンバーが加わったところまでだ。だけどそれから自前のメンバーだけで11人にもなっている。1年生が6人、2年生が4人だそうだ。サークルの未来は明るそうだね。
「お代は200円だったね」
「いえ、お代は結構です」
今年の食品ブースの実質的リーダーとして働いているのは、1年生の殿という大柄な子だ。顔は厳ついし、体もとても大きい。けれどもとても料理上手で心優しいのです、という紹介を受けた。エプロンをしてフライヤーの前に立って火の番をする姿はどこかの料理屋の大将さながらの風格がある。
「圭斗からは取っておけばいいのに」
「菜月さん、君は相変わらずこういう状況下での財布の紐は固いね」
「甘えられる物にはしっかり甘えておいて、いざこちらの力が必要になったときに返せばいい。そういうことだから、うちはありがたくいただくぞ」
「熱いうちに、どうぞ」
話によれば、今年のジャガイモも星大さんから譲り受けた人助けの産物らしく、お互いWIN-WINの取引になっているとのこと。星大さんはジャガイモを処理出来て嬉しいし、ウチは北辰産の質のいいジャガイモをタダで仕入れることが出来て嬉しい。星大さんの厚意にしっかりと甘えているようだ。
「ん、うまー。圭斗、お前も早く食べた方がいいぞ。おいしー、あふっ」
「それじゃあ、僕もいただきます」
フライドポテトの形状は去年と同じ三日月型のウェッジカットが採用されている。皮の香ばしさや、芋自体のホクッとした感じが実に美味しい。けれども、明らかに去年は違うと感じた。何だ? 明確に味が違うような気がする。
「殿、去年と何か変えたか?」
「菜月さんも変化を感じたかい?」
「んー、何だろ。美味しくはなってるんだけど。芋自体は去年と同じ星大さんのだよなあ」
「だね。他に変える点があると調理法か油、塩といったところかな」
「去年とは、塩が違っています。その他は、ほぼ一緒です」
「塩かー」
「どういう塩を使ってるのかな?」
「岩塩ですね。この岩塩を、ミルで挽いて振りかけています」
「シャレオツだあ。こんなの、むしろ形から入る男の圭斗が一番得意そうなのに何でわかんないんだ」
「現在見栄を張る必要もない男の部屋に岩塩は必要ないんだよ」
パロという調味料オタクの子が家で眠らせてしまっていた岩塩をありがたく使わせてもらっているそうだ。パロの方もここで使ってもらえれば、新しい調味料との出会いを躊躇しなくて良くなるから、と見返りなしに塩を出してくれたそうだ。ここでも使える物は使っているし、甘えられる物にはしっかり甘えているようだね。
「圭斗先輩も、料理をされると伺いました」
「僕のはそれこそ形から入ったものだけどね」
「サークルで、パーティーをやるときなどは、圭斗先輩の料理を囲んでいたと」
「おでんパーティーやカレパの話かな」
「先輩たちとの時は角煮だったりもしたな」
「本当に、凝っていますね」
ムラマリさん、と言うかお麻里様相手の時はやっぱりほら、おもてなしに粗相は許されないと言うか、普段よりも気を張っていたところはありますよね!
「殿は春風の料理の師匠だって話だろ? 自分は何が得意なんだ?」
「自分は……野菜を使った料理が得意です」
「偏食の君でも美味しく食べられるといいね」
「む」
「菜月先輩は、偏食で?」
「生野菜があんまり得意じゃないんだ」
「炒めたり煮てあったところであまり食べないじゃないか」
「うるさいな。らーめん8号の野菜塩らーめんを食べておけば解決なんだ」
「1日の野菜摂取量の、3分の1の量の野菜炒めが乗っているという、ラーメンですね」
「おっ、知ってるのか」
「ジャックという、青尋出身のメンバーが、ラーメン8号について教えてくれました。1年6人で、袋めんに野菜炒めを乗せて、それらしく食べたりもしました」
「ふーん。1年生は仲が良いようで何より」
「食事をするときは人の素が出ると言うか、自然な空気になるものだからね。今のサークルでも、食事の機会が多く設けられているのなら、それは居心地のいい場所になっているということじゃないかな」
今はさすがにこの人数なので全員一緒になってご飯に行くということはあまり無いそうだけど、1年生は1年生6人でちょくちょく一緒に食べているという話なので微笑ましくもあり、懐かしくもある。
「ポテト以外の殿の料理も食べてみたいなあ」
「僕も興味深いね」
「自分もまだまだで。調理法などに悩んだ時は、律先輩に相談したりします」
「りっちゃんはさすがだね」
「りっちゃんはバイト先での経験が凄まじいらしいからなあ」
「はい。自分も、足を運んだことがあるのですが、持ち込んだ野菜で作ってもらった即興の夏野菜トーストが絶品でした」
「食べられなさそー……」
「君はまず無理だろうね。そもそも、君は何が食べられるのかというところからだよ」
end.
++++
大学祭に遊びに来た菜圭が殿と話しながらポテトを食べてるだけ。
(phase3)
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