2025

■何もしないをしているんだ

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 今くらいの時期になると、インターフェイスに加盟している大学ではどこの学校でも大学祭の準備に忙しくしていた。特に準備が早いなっていうのは早めに大学祭が開かれる青女と青敬。それから、ステージの準備がある星ヶ丘だろうか。
 そういうワケで、彩人からは「しばらくはあんまり時間取れねーぞ」と前置きをもらっていた。だけど頼み込んでどうにか空けてもらった時間で部屋にお邪魔して一緒に過ごしている。何においてもステージを優先に出来るほど俺を信頼してくれている……と解釈しておこう。

「ありがとう、忙しいのに時間空けてくれて」
「や、こっちこそこんな遅い時間からしか空けらんなくてゴメン」
「練習してるんだろ?」
「めっちゃしてる。部室閉めるギリギリまでやってっから」
「彩人から聞くゲンゴロー先輩の部長っぷりだと、何か奥の手とか暗躍とかして練習時間を延長しそうな感じだけど、そういうのはしないんだな」
「あんまデカい声じゃ言えないけど、ウチの部って現状信頼回復の真っ最中だから、大学とか文化会のルールから外れたコトやると一発アウトになりかねねーんだ。だからルールの範囲でちゃんとやる、的な」

 去年彩人が先輩の女に襲われた件は放送部の暗部の氷山の一角でしかなくて、過去に遡ればもっとヤバい事案が出るわ出るわ。特定の班に対する妨害工作や、部費の横領といった話はMBCCにいると本当に違う世界の話に聞こえてしまう。
 とりあえずシャワーするわーと風呂場に入っていった彩人を見送り、俺は少し来なかった間の部屋の変化を探す。元々部屋は綺麗にしている方だから、何かあればすぐ分かるとは思うけど。疚しい物を探して追及したいとかではなく、興味関心が知りたいのと、心身の状態を知っておきたいというのが大きい。

「ふーっ、さっぱりした」
「早かったな」
「あんま待たせんのも悪いし。あ、でもお前のことだし泊まるよな」
「迷惑なら帰るけど」
「や、その前提で帰りにビールとか買って来てるし」
「お気遣い感謝します」
「飲むだろ?」
「飲みます」
「じゃ持って来る」

 缶ビールで乾杯をして、そのまま軽く啄む程度のキスをひとつ。付き合い始めて1年以上経ったのに、未だに慣れない彩人が非常に可愛らしい。これが玲那相手になると俺がされる側のこともまあまああるので、やっぱり人によって全然違うなあと思う。

「彩人、何となくだけど、肌綺麗になってる?」
「そーゆーの、わかるモン?」
「何となくな。何かしてる? 確か夏の間は疲労を溜めないために肌ケアしてたよな。それが効いてるとか?」
「や、ちょっと涼しくなってやめたんだよ」
「やめたのか」
「暑くなかったらする理由無くねって思って。そしたらすぐ肌の調子悪くなった」
「で、また始めた?」
「始めた。あと、こないだガクがバイトしてる西海の洋食屋でメシ食ったんだよ、レナと3人で」
「は?」
「レナからガクについて何も聞いてないなら、単純に夏合宿で仲良くなったってだけの話だからな」
「がっくんの件についてはカイちゃんが同士だったんだけど的な早口は聞いた」
「あ、聞いたのか。じゃいいか。ガクの秘密を共有してる者同士で仲良くしてんのな最近。あとあの2人は単純にオタク仲間な」

 がっくんの素性について激しく考え込んでいるときの玲那がそれはもう苦悶の表情を浮かべていたので、迷惑にならないやり方を考えて聞くだけ聞いてみたらいいんじゃないかとは伝えていた。夏合宿参加者の名簿を見た瞬間から密かに「同姓同名の人がいる!?」と激しく反応してたもんなあ。

「その時に、いろんなモンに追われてバッタバタでー的な話をしてたんだよな。みんなそーゆーコトないのかって。そしたらレナが「敢えて何もしない時間を作る」って言っててさ」
「そんなことを言ってたのか。ああ……でも玲那の場合は焚き火動画を見る時間になるのかな」
「そんなようなことだな。でもさ、ただ何もしないのって不毛じゃね? 何かしてたいと思っちまって」
「彩人の性格ならそうだよな。これがすがやんならただ釣り糸を垂らすだけの時間も楽しめそうだけど」
「そう、そういうのが出来なくて。そしたらレナが、足湯をするとかパックをするとか、何もしないをしている間に出来ることをしてみればって言って、こないだバスソルトをくれたんだよ。これなんだけど。結構いい匂いでさ」

 足湯をするくらいならお風呂1回分の袋でも何回か使えるから、と玲那が彩人に渡したらしいバスソルトは、半分くらい減っているようだった。そしてよく見ると部屋の隅っこの方には発泡スチロールの箱が置いてある。もしかすると足湯用の箱か。

「この箱にお湯入れて、バスソルト溶かして、パック顔に貼って、あぁ~ってベッドに横になって何もしないを15分やる。っていうのをやり始めたんだけど、オンオフがしっかり区別ついて筆も音も乗るようになってきてさ」
「肌の調子がいいのは何もしないの副産物ってことか」
「だな」
「俺もガクもレナ姐御ーっつってよいしょよいしょーっつって」
「と言うか、玲那も何もしないをしてるんだろ?」
「してるって話だけど。俺のと一緒かはわかんないけど」
「いや、玲那は何もしないが終わった後からが本番かさては」
「確かレナって凄い夜行性って話だよな?」
「サキととりぃと一緒に延々とゲームやってる時もあれば、延々とドラマ見てる日もある。バイク乗るんならちゃんと寝ろって何度言っても夜更かしをやめないよな。ったく」
「リク、今から何もしないをしよう」
「え、今から?」
「パックもするから顔洗って来いよ、お湯用意するし」
「あ、うん」
「これやると、気持ちも切り替えられるしイライラしたときとかにもオススメ。ってレナが言ってました」

 自分の気持ちのことは大体自分で何とか出来るところが玲那の一番凄いところだよなあと改めて思う。バイクに乗るなら過度な夜更かしは控えて欲しいと思うけど、それを除けば本当に完璧が過ぎる彼女だ。

「顔洗いました」
「俺はブーツにお湯入れて突っ込むし、スチロール使っていいよ」
「ありがとうございます」
「これから何もしないを始めます。何も考えずに、ただただボーっとするんだぞ」


end.


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がっくんの件もあって夏を経てからより仲良しのレナと彩人。
多分陸さんも「何もしない」は苦手そう。何かしら考えてるか読書してそう。

(phase3)

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