2025

■道楽ゆえの強さ

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「レイ君わざわざありがとね」
「いえ」

 今日は「用事があるから」と京川さんから呼び出されたんだけど、いつもは豊葦にある京川さんの住むアパートか須賀邸で会っているから星港市内というのが変な感じがする。京川さんがわざわざ星港市内に出て来る程の用事とは、という風に考えてしまうんだよな。
 USDXではキョージュまたはプロフェッサーのプロを担当している京川さんは、とにかく素性が謎に包まれた人だ。一応向島大学の大学院生ということにはなっているけど、大学生の頃から留年を繰り返して、大学にいられるだけいるというスタンスでやっているそうだ。
 それだけ聞くとただおかしい人なんだけど、塩見さん曰く実家が太くて放任主義なので、中学を出る頃からは好き放題していたという。金回りの知識がガチなので、俺が思うに会社のひとつやふたつ持ってそうだ。学生街の古いアパートに住んでるのは道楽に違いない。
 でだ、とにかく多忙というイメージの強い京川さんが、わざわざ星港市内にまで出て来て、俺の負担にならない方がいいでしょとまで言ってくれているというこの状況。しかも呼び出された店のグレードがヤバい。好きなの頼みなよと言われた紅茶が安くて3000円からって。

「あの、京川さん。今日の本題って」
「まあまあレイ君、そう焦らないでよ。せっかくのラウンジなんだしもっとゆっくりしようよ」
「そう言われても、俺には身分不相応な空間なので落ち着かないです」

 周りの客層もそれらしい感じで、俺は明らかに浮いている。間違っても新卒のペーペーが来るような場所ではないんだ。紅茶の銘柄とその特徴だってまだ覚えてないし味だってわかんないのに。と言うかUSDXでちゃんとそれを理解してそうなのってリン君くらいじゃねーか?

「んー、レイ君胃に汗かいてそうだし本題に入ってあげるよ」
「助かります」
「ところで、レイ君の会社って平日は普通に働く会社だっけ?」
「えっと、それは人と状況によりますね」
「明日って雨宮さんも出勤の日?」
「出勤になってますね」
「じゃあよかった。レイ君に預けるから、雨宮さんに渡していただければ」

 そう言って手渡されたのは、さすがに俺もチラリと聞いたことはある高級な店の紙袋。雨宮先生こと伊東さんに渡してくれという言伝か。まさかこの用事のためだけにこんな高級な店に入ったのかこの人は。

「京川さんが雨宮先生に何かの用事ですか?」
「えっ、レイ君知らないの!? 明日って雨宮さんの誕生日だよ! 応援してる作家さんへのプレゼントじゃない」
「ああ、そういう! そういやこないだ高崎が言ってたな。しまった、もう明日だったっけか」
「そうだよ」
「そういうことなら預からせていただきます」
「よろしくお願いします」
「お日持ちは大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

 京川さんは雨宮先生のファンらしい。何かいろいろ成り行きで雨宮先生のアカウントにたどり着き、ネット上で作品を読んでどハマりした結果の行動がイベントと通販で既刊全種購入+投げ銭ドーンだから本当に財の力が強い。
 雨宮先生こと伊東さんもUSDXのファンなのでこちらによく投げ銭をしてくれているけど、間にいる業者に何割か引かれてるとは言え京川さんと伊東さんの間でお金がぐるぐるしてるだ。いや、投げ方は絶対京川さんの方が強いな。言っても伊東さんは一般市民、京川さんの財の力にはそうそう敵うまい。

「レイ君雨宮さんの夏の新刊読んだ?」
「それはもちろん」
「あのペースであれだけのクオリティを維持してるのが、活動者としては尊敬の域にあるよね」
「同意です。しかも秋と冬に向けても書いてるって話なので刺激を受けっぱなしです」
「レイ君もレイ君で活発にやってると思うけどね」
「ありがたいことにいろいろな方面から声を掛けてもらってますね」
「あれでしょ? 今度ムンバさん主催の人狼やるんだよね?」
「そうですね」
「ムンバさんてガチガチの人狼勢だけど、レイ君て人狼出来るの?」
「高校の時に部活の時間とかにやってたくらいなので、簡単になら」
「へー、そうなんだ。じゃあ学生の頃から本当に手広くやってたんだねえ」

 USDXというグループの枠を越えて俺は結構好き勝手に活動させてもらっている。ゲーム実況の上でのコラボだけじゃなくて、今回みたいな人狼へのお誘いや、TRPGやマダミスをやりませんかという話もあるし、後者は自分がやるだけじゃなくてシナリオを書くこともある。
 ただ、実況始めて1年ちょいのこんなペーペーに、有名だったりベテランだったりの活動者さんから声がかかるのはUSDXの、厳密にはその前の前のP&Sというプロさんとソルさんのコンビが築いた功績によるものが非常に大きいことは十二分に理解している。

「ああそうだ。来春に、カンヂさんたちとの4人の括りでオフイベをやることになりました」
「えー、おめでとう! 公になるのはまだしばらく先だよね」
「そうですね。さすがにもうしばらく先ですけど、京川さんにはご報告ということで」
「凄いねえ。レイ君はすっかりUSDXの広告塔で稼ぎ頭だね!」
「それは言い過ぎです」
「チータもチータで相変わらずでじかもさんと仲良しだからマイクラ方面ではちょこちょこ名前を見るようになってるし、コラボ担当とか渉外担当はやっぱりこの2人が基本だね」
「それは何となくわかります」
「レイ君、カンヂさんたちと遊んでるの、動画見てても相性いいなって思うもんね。歳の差も経歴の差もいい味になってて。ベテランの3人は確かカンヂさんが一番若いよね。何個差だっけ?」
「8個だったと思います。ああ、そう言えば、カンヂさんがソルコンの弾いてみたを見てくれてて、USDXのベースはスラップがマジでヤバいって言ってました」

 自由に動くことを許されているとは言え、グループ・組織に属する人間であるからこそ、責任者への報告は大事なのです。

「レイ君の個チャンも順調に登録者数が増えてるしねえ。今何万人だっけ?」
「3万人ですね」
「いくら元々のグループがあるって言ってもひと月でそれはなかなかだよね。【4人】動画を追ってる勢の数字もちょこちょこあるのかな」
「最近では出先から仕事をすることも増えてきたんで、カンヂさんからも相方の子にってお菓子を預かってるんですよ実は」
「雨宮さん、しばらくは作業中のおやつに困らないね」


end.


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しばらく前に解散した塩見さんのバンドはスラップソウル。奏法が顔になるほどでした。
プロ氏の財の力はつよつよ。前原さん風に言うと女で食ってるっていうのも道楽。
この話で唯一名前すら出てこなかったコンちゃんドンマイ。

(phase3)

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