2025

■their own job to do.

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 作品出展やオープンキャンパスに向けて、MMPではサークル室に集まる機会が増えていた。他にも、地味に話し合っておかなきゃいけない大学祭のこととか。作品出展はとりぃ先輩とジュン、殿のチームがやってるっぽいけど、俺たちはオープンキャンパスの番組だ。
 オープンキャンパスでは昼の学食の一角を借りて2時間のDJブースをやっているそうだ。大枠の2時間に対してアナウンサーが作品出展に回ったジュンを除く5人なので、とりぃ先輩いろは先輩ペアと残りのアナウンサー3人が30分の番組を担当することになっている。
 番組の内容は大学に来る高校生が興味を持ってくれそうな内容で、という風に決められている。とは言えこのメンバーの中で地方から来ているのは俺だけだから、ジャックは1人暮らしのことについて話してくれと話し合う前から指定されてしまった。

「おはよう」
「おはージュン」
「さ、続きだ」

 そう言ってジュンは床に置いたままになっていた装飾の模造紙の前に膝を着いた。ケーブル類が見えないようにするのと、ラジオやってますよってアピールするための横断幕は、この夏から絵を描き始めたジュンの担当だ。前回は下書きで終わっていたので、今回は色を塗っていくそうだ。出来上がりが楽しみだ。

「おはよう」
「おはーツッツ」

 ツッツも来るなり窓際で木の板を広げて何かを見ているようだ。CDラックに無造作に突っ込まれたMDを取り出している。少しすると、カンカンカンと叩く音が響き、さすがに驚いたのか色塗りに集中していたジュンもビクッと跳ねて振り返る。

「……あ、ゴメン、ジュン」
「いや、何してるのかなって」
「MDラックを、作ろうと思って……今時、なかなか無いから」

 これまでサークルで制作してきた番組だとか、カノン先輩が独自に集めたOBの人たちの番組が収録されたMDをきちんと収める用のラックを作っているようだった。どうもツッツは増えたMDがCDラックの隙間に適当に入れられているのが気になったとかで。
 すぐに終わるから、という言葉の通り、カンカンカンという音はすぐに止み、ジュンも作業に戻っていた。確かに、今時MDを収納することを前提にした棚とか入れ物とかって、そうそう無いよなあ。そう思っても俺は自分で作るっていう発想にはなんないけど。

「おざーす」
「兄貴おざっす!」
「お、何か棚が増えてんな」
「奏多先輩、おはようございます。その、MD専用のラックを、作ってみました。溢れてる感じなのが、気になって……」
「最近かっすーがいろんな先輩から集めてるみたいだからなァ、油断すると増える増える。サンキューツッツ、さすが収納班の大エースだな。これで、少なくともカテゴリー別に分類して片付けることが出来るようになるだろ。分類はかっすーの責任でやらせよう」

 松兄に褒められてツッツは控えめながらも嬉しそうにしている。はにかんでちょっと照れてるようにも見える。兄貴はツッツには特に厳しいし、人見知りの訓練とかで結構ボロクソに突き放してるようにも見えるけど、そこはさすがの兄貴、褒めて上げてもくれるんだな。

「あの、奏多先輩」
「何だ?」
「大したことじゃないんですけど、気になったことが、あって。えっと、聞いてもいいですか?」
「大体のことなら答えられるぜ。何だよ」
「えっと、今日は頭にタオルを巻いてるなって、思って。どうしたのかな、って」
「あー、これか? ここに来る前にバドの練習行ってて、髪ちゃんと乾かして整える余裕がなかったんで、こーやってタオル巻いて誤魔化してんだよ。俺ぐらいになればこれでもイケてるだろ?」
「はい、合宿のお風呂の後も思いましたけど、これはこれで、似合ってます」
「そーかそーか! 俺の良さをわかってくれんのはやっぱお前だなツッツ!」

 兄貴が頭に真っ白いタオルをかぶってるスタイルはここじゃあんまり見ないけど、やっぱイケメンは何やってもイケメンなんだなって思います、はい。

「で、でも、その白いタオルって、粗品……ですよね?」
「おっ、そこまで見てんのか。お前地味に観察力あるな」
「す、すみません……奏多先輩と、粗品っていうのが、えっ、奏多先輩が、粗品…? みたいな、この、こう……勝手なイメージなんですけど、奏多先輩は、ちゃんとしたメーカー物とかを、使ってそうだなって、思って、意外だな、って」
「――と、思うだろ? このタオルっつーのが春風ン家の工場の粗品なんだけど、地味~にメチャクチャいいタオルなんだよ。端っこの方触ってみ?」

 兄貴が巻いてるタオルの端っこの方を、ツッツと2人で失礼して、ちょっとさわさわしてみる。そして触った瞬間、ハッと気付く。

「兄貴、めっちゃいいタオルじゃないすか!」
「タオルの生地の、立ち上がり方が、本当にふわふわで、吸水性も良さそうですね」
「おっ、わかるかツッツ。水堀だかのタオルの名産地で作ってるちゃぁーんとしたブランドもんだ。吸水性抜群で何遍洗ってもへたれないし、何年も使ってりゃさすがに若干薄くはなるが、それでも全然使えんだよ。マジで春風ン家のタオルが最強なワケ」
「いいないいなー! 俺も欲しいっす!」
「じゃ春風ン家の工場である程度の金額使わないとなァ」

 粗品にもグレードがあるらしく、タオルに到達する前にはティッシュの箱とかになるそうだ。兄貴の家はとりぃ先輩ン家の工場の超お得意さんなので白いタオルが山積みになってるとか。いいなあ。

「おはようございます」
「とりぃ先輩おざっす!」
「あっ。奏多、外でそのタオルを使わないでとこの間も言ったわよね」
「しょーがねーだろ、一番使いやすいんだから」
「工場の電話番号などが刺繍されているのだから」
「別に、ンなトコまで見る奴なんかそうそういねーっつーのに」
「でもさっきツッツは見てたっすよね」
「ジャックお前余計なこと言うな」
「ほら、見る人は見るのだから」
「あーはいはい、カリカリしてねーで番組を詰めろお前は」


end.


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奏多お気に入りの粗品タオルの件はいつかどこかで組み込みたかった

(phase3)

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