2025

■Sentence-by-sentence

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「では、よろしくお願いします」

 インターフェイスの定例会に提出する作品出展の番組の収録が始まりました。今回はただのラジオ番組ではなく、「挿し絵のあるラジオ」として映像作品を制作することになりました。映像編集はジュンが、そして音声の録音などは殿が担当してくれます。
 そして、殿にはもうひとつ大切な役割があります。今回の番組で取り上げるのは星や宇宙についてです。これは私が以前からやりたいと思っていたことで、トークの内容は挿し絵を描いてくれるジュンとも話し合って考えました。ですが、内容が難しすぎると思ったら止めてくださいと殿にお願いしました。
 私はそれらに関する専門知識が少しありますし、ジュンは如何せん真面目なので、私が提示した内容について勉強をしてくれました。打ち合わせが盛り上がるにつれ内容が突っ込み過ぎるのではないかという懸念が生じたのです。ですから殿には敢えて番組内容について詳しく伝えることはせずに、ストッパーとしての役割を担ってもらうことにしたのです。

「星空には無限のロマンと、人の数だけの楽しみ方があるのです。今でこそ私は勉強をして専門的な知識に基づいた見方をしていますが、小さな頃は好き勝手に星を結んで、ドーナツ座やお星さま座などを作って遊んだものです」
「……止めました」
「ここまでで何か問題はないでしょうか」
「聞いている分には特段問題ないと思います。聞きやすくなっているかと」
「良かったです。殿は、ミキサーとして感じたことはありますか?」

 話を振ると、殿は黙り込んでしまいました。何か考えているようではあるのですが、彼は元々口数の少ない方なので、急かすようなことは出来ません。

「ここまでで、絵は何枚ほど入る予定ですか」
「ええと……ジュン、わかりますか?」
「ここまでだと、5枚くらいかな」
「何か、絵について気になることがあるのですか?」
「俺の、感覚ですが」
「ぜひ教えてください」
「今の件で、春風先輩が実際に作っていた“ドーナツ座”や“お星さま座”の絵を入れて、声に合わせて、浮かび上がらせるようにすれば、よりイメージしやすくなるのではないか、と」
「なるほど。春風先輩、ちなみにドーナツ座とお星さま座を簡単に描いてみてもらっていいですか?」

 ドーナツ座は二重丸を描くように星をなぞっただけですし、お星さま座も星を描くようになぞっただけなので、描いて見せると少し恥ずかしさもあります。2人はそれを覗き込んで、おお、と声を上げます。

「子供の作る星座ですから、こんなものですよ」
「これだったら描くのもさほど手間ではないですね。殿のアイディアを採用してもいいと思いますけど」
「ジュンがいいのであればそうしてもらってもいいですが」
「ジュン」
「どうした殿」
「ただ、実際に星座を浮かび上がらせるなら、その分、時間が必要だ。文節ごとに、実際のトークには生じていない、ブランクを入れる感覚だろうか」
「ああ、なるほど。「ドーナツ座や」、ほわん。「お星さま座などを」、ほわん。作って遊んだものです、的な感じになるのか」
「その“ほわん”の分だけ、番組のトータルタイムにも影響が出る」
「まあ、別に昼放送みたいな規格があるじゃないから多少伸び縮みする分には平気だとは思うけど」
「それを許容してばかりでも、間延びしかねない」
「それもそうか」

 殿は私のトークを聞きながら、実際に映像作品になったときの様子を想像してくれているようでした。ですから、この箇所にはこういう絵があるとなお良い、と意見してくれたのでしょう。3人チームでの制作ですから、こうして積極的に意見し、参加してもらえるのは非常に嬉しく思います。

「トータルタイムに影響を出さないようにするときには、言葉を削ることも出てくるか」
「それは、春風先輩とも話し合わなければならないが」
「映像になったときにより良くなるのであれば、多少削ることは構いませんよ」
「そうなると、絶対に削ってはいけないポイントを改めて聞いておかなきゃいけないか」

 今回の番組では、簡単な台本を用意しています。普段やっているラジオでは御法度とされているのですが、映像作品、挿し絵のあるラジオのナレーションという感覚なので、この手法を採るのがいいだろうと判断しました。
 台本を広げ、文章を読みながら、削れない場所に蛍光ペンで印をしていきます。この台本には、どこにどういう絵が入るのかも記されています。今日、殿と話したことで、絵を表示する時間という概念があることを発見しました。普段のラジオのようにすらすらとトークするだけでなく、敢えてブランクを作らなければならないケースが出てくるのだと。

「今の件だと、今でこそ私は勉強をして~って部分を飛ばしてドーナツ座とお星さま座に行ってもいいかなとは」
「自分も、同意見です」
「ではこの部分は削りましょう」
「これだけ削ればドーナツ座とお星さま座を浮かび上がらせる時間は十分確保出来ます」
「それはそうと、編集の時に、ただぶつ切りにすると、不自然な喋り方に聞こえないか」
「最初からそのように録るのか、或いは台本通りに録って、絵や編集との兼ね合いで再録する必要が出たらリテイクするのかって話だよな」
「ああ」

 2人が本当に頼もしいので、私は安心して番組制作を委ねることが出来ます。もし台本を再検討する必要が出て来れば、私はそのようにやるだけです。MMPとしての映像作品の制作や、パソコンを使った音声の編集は初めての試みです。試行錯誤を繰り返し、モニターをして下さる他校の皆さんの胸を借りるつもりで。

「試しに、今手直しした台本の通りに一度読んでみますか? その時間を見て考えてみてもいいかと思いますが」
「そうですね、一度時間を見ましょう」
「もしかしたら、また絵の枚数が増えるかもしれないし」


end.


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殿も何だかんだMMPのミキサーなので、番組の内容にも口を出していく。

(phase3)

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