2025
■Let's exercise when we can
++++
「おーい春風ー」
「ああ、奏多。どうしたの?」
「ちょっと運動したいんで工場のプレハブ使わしてもらっていーすか」
「いいわよ。せっかくだし、私も一緒にやっていい?」
「ああ、もちろんだ」
私の家は自動車整備工場を営んでいて、家の他に工場の敷地があります。その工場の敷地の中にプレハブ小屋が建っていて、そこにあるランニングマシンやフィットネスバイクなどで体を動かすことが出来ますし、筋トレ用の機械やサンドバッグなどもあります。元々はシャワーを浴びる小屋だったのですが、気付いたらこんな感じに増設されていたのです。
訪ねてきた奏多と一緒に工場の敷地に行くと、工場では兄さんがいつものように自分の車やバイクをメンテナンスしていました。もうすぐ私の車が納車されることになっているので、その準備もしているとのこと。少々過保護ですが、自動車の整備に関しては信頼出来るのでその辺りはお任せしています。
「マシンは好きに使って」
「やー、助かります」
「たまに体を動かしたくなるのは分かるし、今日に関してはいいきっかけを作ってくれて私も感謝ね。でもどうしたの急に」
「定例会の方で向舞祭の打ち合わせだの何だのに出てるんだけどよ」
「ああ、そうよね。もうすぐ本番だし、忙しいとは聞くわよ」
インターフェイスがお世話になっているフィネスタという企業からの依頼で、毎年スタッフとして向舞祭のお手伝いをすることになっています。仕事としてはプロのMCの人の補佐や音響関係の物があるようです。この仕事を担うのは主に定例会のメンバーなので、奏多も駆り出されています。奏多は走りながら、私はペダルを漕ぎながら近況の話をします。
「本番近くなると偉いさんも来るから弁当が出るようになったんだよ」
「へえ、そうなのね」
「サキちーが自分が食えねー分を俺の方に盛りに盛ってくるから単純に食う量が増えてんだよな」
「ああ、なるほど。でも向舞祭の仕事の中で消費するんじゃないの?」
「アナの方ならともかくPAでの消費なんざ高が知れてる。毎日毎日米だの揚げ物だのを2人前食ってたら、重くなるのを気にするよなァ」
支給されるお弁当自体はごく普通の物であるそうなのですが、小食のサキさんにとってはその普通のお弁当でも量が多いようで、食べられない分を奏多のお弁当に盛るそうです。それではサキさんの体力が保たなくなるという理由でサキさんにも食べやすい、あっさりとした卵焼きや赤ウインナーなどを自分のお弁当からサキさんに返しているとのこと。
しっかりと食事を取れているので奏多の体力には余裕があり、消費量に対して食べる量が増えているので意識的に体を動かしたい。けれどもこの酷暑の中、外に走りに出るのは危険過ぎるので工場のプレハブで運動が出来れば、とのことでした。確かに今の季節、運動に限らず外に出るということ自体が既に危険の域に入っていると感じます。
「ところで徹平くんは元気?」
「何で俺に聞くんだよ」
「向舞祭もあるし、夏合宿の班が同じ奏多の方が彼と会っていると思って」
「そーいやすがやんとやたら会うと思ってたんだよな。まァずっとあの感じよ。何もねーよ変わったことなんか」
「そう。それならいいんだけど」
今度一緒に旅行することにはなっているのですが、最近はテスト期間やインターフェイス関係で忙しく、ゆっくりと時間を取って会うということが出来ていませんでした。それこそ私よりも奏多の方が彼の顔を見ているので、近況をそれとなく聞いてみたかったのです。
「夏合宿の班はどういう感じ?」
「別にどうもこうもねーよ。すがやんがツッツに甘めーなァとか、それっくらいか?」
「そう言えば、ツッツの様子はどう? 初対面の人もいるし、きっと人見知りを発動してるわよね」
「その件だが、1年3人はそれらしく連帯感も出て来てるし何も問題ねーよ。お前とかっすーがアイツを見くびり過ぎてんだ。すがやんもあっまい甘い。ソフトクリームに練乳ぶっかけるくらいあっンまい」
「連帯感」
「1年3人で俺をぎゃふんと言わせるんだと。精々頑張れって感じだなァ」
「あなたの憎たらしさがいい風に働いたのね」
「何ならアレだ、ツッツは女子ン家にお邪魔してパズル収納棚を作ってやっただの、その女子の親父さんに頼まれて台所の食器棚の組み立てを手伝っただの、どこが人見知りだよっつーエピソード出てきたぞ」
「ツッツのDIYの腕は凄いですからね。徹平くんもオリジナルの本棚を作るのを手伝ってもらっているようだし」
ツッツのDIYに対する自信はやはり本物のようで、それらに関することであればあまりよく知らない人とでもしっかりやり取りが出来るようです。班でも1年生3人は仲良くしているとのことで一安心です。一方、ぎゃふんと言わせると言われた奏多の方は、高い壁であり続けるための努力をまた水面下ですることでしょう。
「あー、いつになったら外走れるくらい涼しくなるかね」
「もうしばらくは先じゃないかしら。深夜であれば、ギリギリ行けなくはないと思うけど」
「マシン上で走るのも悪かないが、俺は景色が変わる方がモチベ上がるタイプなんだよな。場所によってもいろんな音や匂いがあるだろ」
「トレーニングにもいろいろなタイプがあるわよね。動画を見ながらバイクを漕ぐのが効率的でいいと思う人がいたり」
「でも、このプレハブがなかったと思ったらゾッとする。運動するためにわざわざ遠出しなきゃいけねーんだ。それまでの間に干からびちまう」
「本当よね。誰の思いつきかわからないけれど、簡易ジムのようなプレハブがあるのは私にとっても本当にありがたい」
「お前も絞れるうちに絞っといた方がいいぞマジで。せっかく環境があるんだし」
「そうよね、夏は代謝が落ちるとも言うし、冷たいものを食べがちだし、何よりこの暑さで体を動かす気力がなくなるものね。出来る時にやらないと」
「どーする? 久し振りに会ったすがやんに「あれ? 春風何か丸くなった?」って言われたら」
「奏多。サンドバッグ代わりに吊してもいいのよ」
「おーっと冗談だ」
「あと、徹平くんはそれを指摘するとしてもデリカシーのある言い方をするわよ」
end.
++++
サキ弁を食べてることによる危機感を覚えた奏多。何だかんだ体を動かしていたい人。
奏多は向かって来る後輩などに対しては基本的に壁であるタイプだろうなあ。
でもバドサーでは自分が挑む側だったので、向かって行く方の気持ちもわかるんだろうね
(phase3)
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「おーい春風ー」
「ああ、奏多。どうしたの?」
「ちょっと運動したいんで工場のプレハブ使わしてもらっていーすか」
「いいわよ。せっかくだし、私も一緒にやっていい?」
「ああ、もちろんだ」
私の家は自動車整備工場を営んでいて、家の他に工場の敷地があります。その工場の敷地の中にプレハブ小屋が建っていて、そこにあるランニングマシンやフィットネスバイクなどで体を動かすことが出来ますし、筋トレ用の機械やサンドバッグなどもあります。元々はシャワーを浴びる小屋だったのですが、気付いたらこんな感じに増設されていたのです。
訪ねてきた奏多と一緒に工場の敷地に行くと、工場では兄さんがいつものように自分の車やバイクをメンテナンスしていました。もうすぐ私の車が納車されることになっているので、その準備もしているとのこと。少々過保護ですが、自動車の整備に関しては信頼出来るのでその辺りはお任せしています。
「マシンは好きに使って」
「やー、助かります」
「たまに体を動かしたくなるのは分かるし、今日に関してはいいきっかけを作ってくれて私も感謝ね。でもどうしたの急に」
「定例会の方で向舞祭の打ち合わせだの何だのに出てるんだけどよ」
「ああ、そうよね。もうすぐ本番だし、忙しいとは聞くわよ」
インターフェイスがお世話になっているフィネスタという企業からの依頼で、毎年スタッフとして向舞祭のお手伝いをすることになっています。仕事としてはプロのMCの人の補佐や音響関係の物があるようです。この仕事を担うのは主に定例会のメンバーなので、奏多も駆り出されています。奏多は走りながら、私はペダルを漕ぎながら近況の話をします。
「本番近くなると偉いさんも来るから弁当が出るようになったんだよ」
「へえ、そうなのね」
「サキちーが自分が食えねー分を俺の方に盛りに盛ってくるから単純に食う量が増えてんだよな」
「ああ、なるほど。でも向舞祭の仕事の中で消費するんじゃないの?」
「アナの方ならともかくPAでの消費なんざ高が知れてる。毎日毎日米だの揚げ物だのを2人前食ってたら、重くなるのを気にするよなァ」
支給されるお弁当自体はごく普通の物であるそうなのですが、小食のサキさんにとってはその普通のお弁当でも量が多いようで、食べられない分を奏多のお弁当に盛るそうです。それではサキさんの体力が保たなくなるという理由でサキさんにも食べやすい、あっさりとした卵焼きや赤ウインナーなどを自分のお弁当からサキさんに返しているとのこと。
しっかりと食事を取れているので奏多の体力には余裕があり、消費量に対して食べる量が増えているので意識的に体を動かしたい。けれどもこの酷暑の中、外に走りに出るのは危険過ぎるので工場のプレハブで運動が出来れば、とのことでした。確かに今の季節、運動に限らず外に出るということ自体が既に危険の域に入っていると感じます。
「ところで徹平くんは元気?」
「何で俺に聞くんだよ」
「向舞祭もあるし、夏合宿の班が同じ奏多の方が彼と会っていると思って」
「そーいやすがやんとやたら会うと思ってたんだよな。まァずっとあの感じよ。何もねーよ変わったことなんか」
「そう。それならいいんだけど」
今度一緒に旅行することにはなっているのですが、最近はテスト期間やインターフェイス関係で忙しく、ゆっくりと時間を取って会うということが出来ていませんでした。それこそ私よりも奏多の方が彼の顔を見ているので、近況をそれとなく聞いてみたかったのです。
「夏合宿の班はどういう感じ?」
「別にどうもこうもねーよ。すがやんがツッツに甘めーなァとか、それっくらいか?」
「そう言えば、ツッツの様子はどう? 初対面の人もいるし、きっと人見知りを発動してるわよね」
「その件だが、1年3人はそれらしく連帯感も出て来てるし何も問題ねーよ。お前とかっすーがアイツを見くびり過ぎてんだ。すがやんもあっまい甘い。ソフトクリームに練乳ぶっかけるくらいあっンまい」
「連帯感」
「1年3人で俺をぎゃふんと言わせるんだと。精々頑張れって感じだなァ」
「あなたの憎たらしさがいい風に働いたのね」
「何ならアレだ、ツッツは女子ン家にお邪魔してパズル収納棚を作ってやっただの、その女子の親父さんに頼まれて台所の食器棚の組み立てを手伝っただの、どこが人見知りだよっつーエピソード出てきたぞ」
「ツッツのDIYの腕は凄いですからね。徹平くんもオリジナルの本棚を作るのを手伝ってもらっているようだし」
ツッツのDIYに対する自信はやはり本物のようで、それらに関することであればあまりよく知らない人とでもしっかりやり取りが出来るようです。班でも1年生3人は仲良くしているとのことで一安心です。一方、ぎゃふんと言わせると言われた奏多の方は、高い壁であり続けるための努力をまた水面下ですることでしょう。
「あー、いつになったら外走れるくらい涼しくなるかね」
「もうしばらくは先じゃないかしら。深夜であれば、ギリギリ行けなくはないと思うけど」
「マシン上で走るのも悪かないが、俺は景色が変わる方がモチベ上がるタイプなんだよな。場所によってもいろんな音や匂いがあるだろ」
「トレーニングにもいろいろなタイプがあるわよね。動画を見ながらバイクを漕ぐのが効率的でいいと思う人がいたり」
「でも、このプレハブがなかったと思ったらゾッとする。運動するためにわざわざ遠出しなきゃいけねーんだ。それまでの間に干からびちまう」
「本当よね。誰の思いつきかわからないけれど、簡易ジムのようなプレハブがあるのは私にとっても本当にありがたい」
「お前も絞れるうちに絞っといた方がいいぞマジで。せっかく環境があるんだし」
「そうよね、夏は代謝が落ちるとも言うし、冷たいものを食べがちだし、何よりこの暑さで体を動かす気力がなくなるものね。出来る時にやらないと」
「どーする? 久し振りに会ったすがやんに「あれ? 春風何か丸くなった?」って言われたら」
「奏多。サンドバッグ代わりに吊してもいいのよ」
「おーっと冗談だ」
「あと、徹平くんはそれを指摘するとしてもデリカシーのある言い方をするわよ」
end.
++++
サキ弁を食べてることによる危機感を覚えた奏多。何だかんだ体を動かしていたい人。
奏多は向かって来る後輩などに対しては基本的に壁であるタイプだろうなあ。
でもバドサーでは自分が挑む側だったので、向かって行く方の気持ちもわかるんだろうね
(phase3)
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