2025
■特技で世渡り
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インターフェイスの夏合宿で一緒の班になった美瑛から、趣味でやっているクレイアニメ制作の合間にやっているジグソーパズルの整頓棚についての相談を受けた。ジグソーパズルはあくまで息抜きの作業だからそこまでガッツリやっているわけではなく、なかなか完成しないので途中の物を片付けておく棚が欲しいと。
インターネットで調べたらそれらしい物が出てきたそうだけど、それは幼稚園やこども園のような施設で使うことを前提にした物で、一般の人が買おうと思っても買えないらしい。ただ、見た感じそこまで難しい物ではなさそうなので、美瑛さえ良ければ作るよと言ったら、話が大きくなってしまった。
「ツッツ、来たのね」
「お、大きな家だね……」
「同じ敷地に工房も併設されてるのね。月に何回か陶芸体験なんかもやってるのね」
美瑛の家は代々続く陶芸工房らしく、作品や商品を作る傍ら陶芸体験もやっているとか。通された道の脇には体験用に作られたという新しい大きな工房が見える。だけど、俺が呼ばれたのは陶芸工房ではなく住居スペースの方だ。
例のパズル収納棚の写真から大体の構造を図面に起こして、予算の範囲内で材料を集めて仮に組んでみたら、これを打ち合わせの後で美瑛に持ち帰ってもらうのもなあ……という問題が発生した。その旨を連絡したら「うちに来て組んでくれればいいのね」と、家に呼ばれてしまった。
工房をやってる家だと、人を呼ぶことに対する抵抗感も普通の家よりは少ないのかな、と思った。普段から知らない人が来てるわけだし。でも住居スペースにはなかなか人は入れないよなあ。お茶が入ったマグカップも「うちの工房で作った物なのね」とのこと。興味深い。
「見ての通り、こんな感じでパズルは放置されてるのね。危ないし汚いって言ってお父さんに怒られるのよ」
「こ、これは確かに……」
作りかけのジグソーパズルがありとあらゆるところに雑然と置かれている。これは想像以上だし、美瑛によれば、ご家族の方もこのパズルをどうにかしてくれる友達ならどうぞ遊びに来てもらいなさい、と大歓迎だったそうだ。
「えっと、さっそく組み立てるね」
「楽しみなのね」
「部材はもう用意してあるし、そんなに難しい物じゃないからすぐ終わるよ」
並べた部材の接合面に糊を入れて、ゴムハンマーで叩いて組み立てていく。そこまで大きな物ではないので本当に何回か叩いておしまい。作りかけのジグソーパズルを10枚まではそこに片付けておける引き出し式の棚の完成。
「すごいのねツッツ! この引き出しがトレーみたいになってて、この上で直接パズルを作ればいいのね」
「美瑛が作るパズルの大きさは大体統一されてるみたかったから、これくらいの大きさの棚でいけるかなと思って」
「そうなのね。あまり大きなパズルだと息抜きが息抜きじゃなくなるのね。だから小さいもので統一してるのよ。さっそく片付けるのね」
美瑛がパズルを片付けているのを見ながら、マグカップを眺め、外の工房に目をやる。ここから見えるのは体験用の工房じゃなくて、本当の、歴史を感じる仕事用の工房だ。そこでは今も作業をしているようで、気付けばそっちに集中してしまっていた。美瑛に呼ばれるまでじーっと眺めてて。
「ツッツには焼き物の工房が珍しいのね?」
「そ、そうだね……でも、見てるのは、すごく楽しい」
「そうだ! 今度、きぬも誘って一緒に何か作るのね。見るだけじゃなくて、やるのも楽しいのよ」
「え、いいの」
「お父さんには私が話を付けるのね。このパズルをどうにかしてくれた友達だから、多分棚パスが通じるのよ」
「棚パス…?」
そんな風に話していると、美瑛を呼ぶ男の人の声。多分ご家族かな。
「おじいちゃん、いい棚なのよ。パズルを片付けるための物なのね」
「これはいいなあ。部屋もきれいになったし」
「友達がイチから作ってくれたのよ」
「あ、えっと、こんにちは。内津由紘といいます」
「お前さん、どこで木工の技術を学んだんだい」
「祖父と父から教わりました」
「内津さんっつったら春日野の方かな」
「あ、そうです」
「じゃ治繁の孫かい」
「え、祖父をご存知なんですか」
「おお、飲み友達よ。作るモンは違うがアイツとは気が合う」
「もしかして、たまに話に上がる松本さん」
お祖父さん同士が友達だったことに俺も美瑛もビックリしてる。業界は違っても職人同士、どこかで通じるところがあるのかもしれない。うちでもたまに松本さんの話は聞いてたから、もしかしたら親同士も認識し合ってるのかもしれない。
「おじいちゃん、今度、ツッツともう一人の友達も一緒に陶芸体験をしたいのね」
「おお、わかったよ」
そんな風に話していると、今度は美瑛のお父さんらしき人がやってきて、まず部屋に散乱していたジグソーパズルがなくなっていることに驚きの声を上げる。棚を作らせてもらった内津ですと挨拶をすると、何とお礼を言っていいやらと激烈に感謝されてしまった。お礼にお土産としてマグカップを持って行ってと言われたけど、いい物過ぎて引いてしまう。
「美瑛、こんなにいい物をいただいちゃって本当にいいの」
「お礼なのよ」
「でも、材料費はもらってるわけで」
「じゃあアレを組み立ててもらえば労働に対する対価になるのよ。お父さん、ずっとほったらかしでお母さんに怒られてた棚があるのね」
「ああ……あの食器棚なあ。内津君、申し訳ないけど組み立てを手伝ってもらえないかな」
「僕で良ければやりますよ。得意なので」
「じゃあさっそく台所に行くのよ」
結構大きな市販の組み立て式食器棚を美瑛のお父さんと一緒に組み立てて、組み上がった棚に食器を移し替えるところまで手伝って。そしたらお土産が増えた。小鉢までもらってしまったけれど、気持ちだからという美瑛のお父さんの厚意をなかなか遠慮できなかった。物が良すぎるんだよなあ。
「ツッツ、今日は何から何までありがとうなのね」
「役に立てたなら良かったよ」
「また遊びに来るのね。まずはきぬと一緒に陶芸体験なのよ」
「楽しみにしてます」
とりあえず、お土産を割らないように気を付けながら帰らないと。
end.
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ナノスパはご都合主義で出来ています。
多分松本家はみんな何となく片付けが苦手だったり、やらなければならないことを後回しにしてそう
(phase3)
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インターフェイスの夏合宿で一緒の班になった美瑛から、趣味でやっているクレイアニメ制作の合間にやっているジグソーパズルの整頓棚についての相談を受けた。ジグソーパズルはあくまで息抜きの作業だからそこまでガッツリやっているわけではなく、なかなか完成しないので途中の物を片付けておく棚が欲しいと。
インターネットで調べたらそれらしい物が出てきたそうだけど、それは幼稚園やこども園のような施設で使うことを前提にした物で、一般の人が買おうと思っても買えないらしい。ただ、見た感じそこまで難しい物ではなさそうなので、美瑛さえ良ければ作るよと言ったら、話が大きくなってしまった。
「ツッツ、来たのね」
「お、大きな家だね……」
「同じ敷地に工房も併設されてるのね。月に何回か陶芸体験なんかもやってるのね」
美瑛の家は代々続く陶芸工房らしく、作品や商品を作る傍ら陶芸体験もやっているとか。通された道の脇には体験用に作られたという新しい大きな工房が見える。だけど、俺が呼ばれたのは陶芸工房ではなく住居スペースの方だ。
例のパズル収納棚の写真から大体の構造を図面に起こして、予算の範囲内で材料を集めて仮に組んでみたら、これを打ち合わせの後で美瑛に持ち帰ってもらうのもなあ……という問題が発生した。その旨を連絡したら「うちに来て組んでくれればいいのね」と、家に呼ばれてしまった。
工房をやってる家だと、人を呼ぶことに対する抵抗感も普通の家よりは少ないのかな、と思った。普段から知らない人が来てるわけだし。でも住居スペースにはなかなか人は入れないよなあ。お茶が入ったマグカップも「うちの工房で作った物なのね」とのこと。興味深い。
「見ての通り、こんな感じでパズルは放置されてるのね。危ないし汚いって言ってお父さんに怒られるのよ」
「こ、これは確かに……」
作りかけのジグソーパズルがありとあらゆるところに雑然と置かれている。これは想像以上だし、美瑛によれば、ご家族の方もこのパズルをどうにかしてくれる友達ならどうぞ遊びに来てもらいなさい、と大歓迎だったそうだ。
「えっと、さっそく組み立てるね」
「楽しみなのね」
「部材はもう用意してあるし、そんなに難しい物じゃないからすぐ終わるよ」
並べた部材の接合面に糊を入れて、ゴムハンマーで叩いて組み立てていく。そこまで大きな物ではないので本当に何回か叩いておしまい。作りかけのジグソーパズルを10枚まではそこに片付けておける引き出し式の棚の完成。
「すごいのねツッツ! この引き出しがトレーみたいになってて、この上で直接パズルを作ればいいのね」
「美瑛が作るパズルの大きさは大体統一されてるみたかったから、これくらいの大きさの棚でいけるかなと思って」
「そうなのね。あまり大きなパズルだと息抜きが息抜きじゃなくなるのね。だから小さいもので統一してるのよ。さっそく片付けるのね」
美瑛がパズルを片付けているのを見ながら、マグカップを眺め、外の工房に目をやる。ここから見えるのは体験用の工房じゃなくて、本当の、歴史を感じる仕事用の工房だ。そこでは今も作業をしているようで、気付けばそっちに集中してしまっていた。美瑛に呼ばれるまでじーっと眺めてて。
「ツッツには焼き物の工房が珍しいのね?」
「そ、そうだね……でも、見てるのは、すごく楽しい」
「そうだ! 今度、きぬも誘って一緒に何か作るのね。見るだけじゃなくて、やるのも楽しいのよ」
「え、いいの」
「お父さんには私が話を付けるのね。このパズルをどうにかしてくれた友達だから、多分棚パスが通じるのよ」
「棚パス…?」
そんな風に話していると、美瑛を呼ぶ男の人の声。多分ご家族かな。
「おじいちゃん、いい棚なのよ。パズルを片付けるための物なのね」
「これはいいなあ。部屋もきれいになったし」
「友達がイチから作ってくれたのよ」
「あ、えっと、こんにちは。内津由紘といいます」
「お前さん、どこで木工の技術を学んだんだい」
「祖父と父から教わりました」
「内津さんっつったら春日野の方かな」
「あ、そうです」
「じゃ治繁の孫かい」
「え、祖父をご存知なんですか」
「おお、飲み友達よ。作るモンは違うがアイツとは気が合う」
「もしかして、たまに話に上がる松本さん」
お祖父さん同士が友達だったことに俺も美瑛もビックリしてる。業界は違っても職人同士、どこかで通じるところがあるのかもしれない。うちでもたまに松本さんの話は聞いてたから、もしかしたら親同士も認識し合ってるのかもしれない。
「おじいちゃん、今度、ツッツともう一人の友達も一緒に陶芸体験をしたいのね」
「おお、わかったよ」
そんな風に話していると、今度は美瑛のお父さんらしき人がやってきて、まず部屋に散乱していたジグソーパズルがなくなっていることに驚きの声を上げる。棚を作らせてもらった内津ですと挨拶をすると、何とお礼を言っていいやらと激烈に感謝されてしまった。お礼にお土産としてマグカップを持って行ってと言われたけど、いい物過ぎて引いてしまう。
「美瑛、こんなにいい物をいただいちゃって本当にいいの」
「お礼なのよ」
「でも、材料費はもらってるわけで」
「じゃあアレを組み立ててもらえば労働に対する対価になるのよ。お父さん、ずっとほったらかしでお母さんに怒られてた棚があるのね」
「ああ……あの食器棚なあ。内津君、申し訳ないけど組み立てを手伝ってもらえないかな」
「僕で良ければやりますよ。得意なので」
「じゃあさっそく台所に行くのよ」
結構大きな市販の組み立て式食器棚を美瑛のお父さんと一緒に組み立てて、組み上がった棚に食器を移し替えるところまで手伝って。そしたらお土産が増えた。小鉢までもらってしまったけれど、気持ちだからという美瑛のお父さんの厚意をなかなか遠慮できなかった。物が良すぎるんだよなあ。
「ツッツ、今日は何から何までありがとうなのね」
「役に立てたなら良かったよ」
「また遊びに来るのね。まずはきぬと一緒に陶芸体験なのよ」
「楽しみにしてます」
とりあえず、お土産を割らないように気を付けながら帰らないと。
end.
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ナノスパはご都合主義で出来ています。
多分松本家はみんな何となく片付けが苦手だったり、やらなければならないことを後回しにしてそう
(phase3)
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