2025

■いつか見たB番の嵐が

++++

「うわっ」

 素で声が出た。何にそんなにビックリしたのかと言うと、ブラックリストにいつ振りだろうっていう大量の新規登録が入っていたからだ。
 星大情報センターにはセンターの利用制限をかけるブラックリストがある。これは、主に利用規約を守らない利用者に対してかけられるもので、レベルは1番弱い物から“注意”、次に“警告”、そして“利用停止”の3段階だ。
 俺が1、2年の頃は注意レベルの登録がまあまああったんだけど、最近はご無沙汰だった。だけどここ何日か……本当に2、3日とかいうレベルでドカンと増えた。俺が来てなかった時に何があったのか、知っているスタッフに聞かなきゃなあ。

「ああ、ミドリ。来たんだ」
「アオ、お疲れ。ところで、今確認したら大量のブラリ登録が入ってるんだけど、アオ、やってないよね?」

 ブラックリスト登録というところでまず訊ねるべきは、アオだ。このアオがなかなかに強硬なところがあって、私語をしないだとか飲食をしないという程度の利用規約すら守れない連中はブラックリストに入れられて当然だー的スタンスなんだよね。

「私ではないね」
「えっ、そうなんだ? 量が量だしてっきりアオかと思ったよ」
「そんなに大量に増えてる?」
「増えてるねえ、ざっと15件ほどかなあ」
「テスト期間ならともかくそのちょっと前に15件は確かにややハイペースかもね。とりあえず、私ではないとだけ」
「わかった。何かゴメンね、疑ったみたいになっちゃって」
「ミドリの立場は理解してる。気にしてないから」
「ありがとう」

 スタッフに目をかけないバイトリーダーならいる意味ないし、とはまたアオ節で。さすが、インターフェイスの対策委員元議長って感じだ。定例会議長としてはグサリと突き刺さっちゃうよね。今年は役職の当たり年、何とかやってます。

「うーん、やっぱりA番を主にやってる人に聞くのがいいのかなあ。カナコさんや有馬くんがブラリにガツガツ登録するようには思えないけど」
「本人がやってなくても誰かが入れてるのを見てる可能性もあるし、聞くだけ聞いてみたら?」
「そうだねえ」

 そんな話をしているとちょうどカナコさんがやってきたので、事情を説明して何か知っていることはないか聞いてみる。カナコさんはA番専任スタッフだけに、受付にいる時間は長い。ここで情報が得られるかどうかはかなり大事になってくる。

「ブラックリストかあ。あんまり核心を突く情報ではないけど、真桜クンじゃないってことは確かかな」
「真桜ではない」
「うん。真桜クンは規約違反の人も自分のビジュアルで黙らせちゃうから登録の必要はあんまりないし」

 ヴィジュアル系バンドをやっている真桜は、ファッションがとにかく厳つい。規約違反をしてる利用者だって、多少であれば一言注意するだけで大人しくさせることが出来ちゃう。本人は「フツーに話してるだけなんスけどね」と言うけど、そういう人と交わる文化がなければ先入観が勝っちゃうなあ。

「その点で言えば、綾瀬さんもビジュアルで殴るタイプだからやってないとして、レン?」
「レン君がやってるとは考えにくいけど」
「ですよねえ。俺も有馬くんはやらないと思います」

 2年生から4年生までのスタッフがやってなさそうだと考えたときに、思い浮かぶのは1年生の顔だ。

「まさか、真名がやってないよね?」
「真名ちゃんかあ。私、今週真名ちゃんとは一緒になってないからちょっとわかんない。蒼希ちゃんはどう思う?」
「私はあると思います。タイプで言えば私寄り……と言うか、林原さんから続く「言って聞かない奴は摘み出せ」の派閥じゃないですか」

 林原さんがよく言ってたのは「情報センターは学習支援施設であって利用者は客ではないし、センタースタッフは店員ではなく管理者だ」ということ。そしてセンター利用規約の全文覚えて守れと言っているわけではなく、私語をしない、飲食をしないという簡単な物だけを抜粋しているにも関わらずそれを守れない人間によって他の学生が迷惑を被ってはいけないということ。
 俺が1年生の時は当時のバイトリーダーだった春山さんとブラックリストへの登録を巡ってよくケンカしてたんだよね。B番をやってる林原さんが自習室からこっちにやってきて、こういう理由でリストに登録するって言って淡々と事務作業をやっていくっていう。で、春山さんがやりすぎって判断した物をリストから消したりしてたっけ。

「おはようございまーす」
「あっ真名、来た! 受付のことで聞きたいことがあるんだけど。ここ1週間以内で」
「ブラックリストだったら追加してますよ、16件ですかね。守るべき最低限の規約は室内に掲示してあって、かつスタッフの注意を無視する人間が今後言動を改めるとは思えないのでブチ込みました」

 今年からセンタースタッフになった西谷真名さんは、林原さんやアオ寄りの言って聞かない奴は摘み出せタイプだ。ちなみにカナコさんと真桜は不平不満はビジュアルと雰囲気で殴って黙らせる春山さん寄りのタイプかな。俺と有馬くんはどちらでもない平和的なタイプです。
 真名は本当にしっかりしてて頭もいいし、こっちの言いたいことも話を全文言い終わる前に理解して求める正解をバシッと出してくる子。それだけに、簡単なセンターの利用規約すら守れない利用者に対しては「そんな簡単なことも理解出来ないのは救いようがない」とは言ってるよね。
 規約違反の利用者に対しては、基本的に2、3回は粘り強く注意を重ねていって、それでもダメなら一番弱いレベルでリスト登録するっていう流れだ。だけど、真名はちょっとせっかちなのかな? 1度言ってダメなら理解する気がないと見なして切り捨てちゃう。

「うーん、それでもちょっとやりすぎだよ」
「サクッとやるのは注意までにしてます」
「そういうことじゃないの」
「じゃ川北さんはキーボードの間にクロワッサンの屑が挟まってるのを見逃せって言うんです?」
「それは注意してほしいけど、何でもかんでもリストに入れるのはやりすぎって話だよ」
「あんまやりすぎると教務課から事情聴取が来るのは理解してまーす」

 反省しているのかしていないのか。真名はジャンパーを羽織ってB番に入っちゃった。うーん、あの頃の春山さんってこういう感じだったのかなあ。多分諸々を理解した上でリスト登録は続くんだろうなあ。……うん、俺もちょこちょこ自習室を見回って、必要ならリストを編集しないと。

「はーっ……」
「ミドリくん、頑張って」
「私はこれでこそ情報センターだって思うけど」
「それはそうだけど、自分がリーダーのときにこうはなって欲しくないよ! 助けて春山さーん!」


end.


++++

尖ってなければ星大情報センターではないのである
今回は真名の紹介だけ。いつかまた暴れてもらおう。

(phase3)

.
28/71ページ