2025

■MBCCの輝き

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「ねえねえねえ佐々木クン凄いんだけど! うわ~贅沢だ~」

 この連休の間は緑ヶ丘大学のオープンキャンパスということで、全国から集まった人で学内がごった返している。センタービルの中は歩く場所もないくらい人で埋め尽くされているし、声を張らないと誰が何を喋っているのかもわからないくらいの雑踏だ。
 このオープンキャンパスでは、社会学部佐藤ゼミとしてインフォメーションをやることになっている。何時にどこの教室で何の体験講義があって、参加したい人はあのプラカードの下に並んでください、みたいなアナウンスをするんだそうだ。
 体験講義の合間を埋めるように行われる俺たち2年生の番組は、高校生たちが講義に散ってがらんどうになったビルの中に響く。まあ、2年生の番組というのはそういうものです。ゼミの時間に資料として見た過去の映像でもそんな感じだったし。
 正直、オープンキャンパスで出している佐藤ゼミのラジオブースの華は、同じ事を繰り返すだけのインフォメーション放送でも、誰が聞いているのかもわからない2年生の番組でもない。昼休み、12時から13時までの1時間の間に行われるフリー番組だ。佐藤ゼミの……いや、MBCCの誇りと威信が輝いている!

「千葉さんの番組をじっくり聞きながらのカメラ番とか、最高の仕事だね!」
「ここは人も少ないから快適だもんな」
「それ!」

 2年生の仕事には、オープンキャンパス中のラジオブースの記録と称したカメラ番がある。映像資料として毎年撮っているそうだ。昼休みの間にこれを担当している下梨君は、ゼミのラジオブースで果林先輩が番組をやるときは必ずチェックしていたガチファンだ。彼にとってはご褒美とも言える仕事だろう。

「果林先輩の凄いところって、一応手元にネタ帳は用意してるんだけど、基本的に目に見える情報から瞬時にトークを組み立ててるところなんだよな。その辺歩いてる人を見てまさに今喋ってるんだよ」
「俺らさっきやった番組では、喋ること結構事前に決めてたよね?」
「MBCCの番組でも基本的には事前に考えるんだけど、こういう状況だと目の前にある物を拾う方が面白いって発想なのかな。俺にとっては学ぶところしかない。俺はこんなに柔軟に番組内容を、しかもやりながら変える事なんて出来ない」

 ライブ対応が苦手であるということは前々から言われていたことで、今でも一番の課題だと思っている。収録番組はそれなりにやれるけど。俺の最も苦手とするタイプの番組を、こうして1時間も間近で見て勉強させてもらえるのはありがたい。でもレベルが高すぎて何の参考にもならない、の域にならないだろうか。それも不安だ。

「ま、佐々木クンには佐々木クンの良さがあるっしょ? ラジオの深いことはわかんないけど、俺らの番組をきっちりまとめてくれたし。俺からすれば佐々木クンも上手だよ。言葉が一言一言聞き取りやすいし」
「うう……ありがとうございます」

 言葉の聞き取りやすさに関しては、サークルでも褒められることがあるのでちょっと自信になっている。こうしてサークル外の人にも言われるのであれば、本当にそうなんだなってちょっと思える。

「って言うか、高木さんってこの後シノキ君の代打で番組入るんでしょ? 凄いよね~」
「本当にそれなんだよ、申し訳なさもあるし、でも頼れるのは高木先輩しかいないしで俺にはどうすることも出来なかった」

 何がどうしたのか、シノがインフルエンザにかかってしばらく休むことになったんだ。班のミキサーがいなくなったことで番組はどうすると朝からまいみぃがバタバタと走り回っていた。シノはまぁ派手な構成を組んでいたようで、キューシートを見た瞬間そこらの人では無理だと判断。俺は高木先輩に当たるしかないとまいみぃに伝えた。

「って言うか夏にインフルってかかるモン? あんま聞いたことないけど」
「さっきちょっと調べた感じでは基本あんまりないみたいだけど、疲れとかストレスで免疫力が落ちてたらやることもあるっぽい。アイツ、あんま寝てないだろ。ったく」

 昼休みの1時間の番組を見て学ばなければならなかったのはシノにしてもそうだ。高木先輩が自由に遊ぶ番組なんて、アイツにとっても学びしかないだろうに。まあ、映像は撮ってるから後から見れはするけど、これに関してライブに勝る物はない。この調子だと、高木先輩が現役の間にぎゃふんと言わせることなんか出来ないぞ。これは相棒に栄養を取らせないといけないヤツだな。うんうん。

「って言うか今気付いたんだけど、何か人でごちゃごちゃしてる割に、番組聞きやすくない? インフォメーションの時より言葉がちゃんと通ってるって言うか。反響の仕方なのかな?」
「あー……これは高木先輩がやってるんだと思います。あの人ゼミのラジオブースに入るとき、ゼミのミキサーの規定値が好みじゃないって理由でその都度設定を変えてるらしいから」
「あ、やっぱそうなんだ」
「でも下梨君的にはいいことなんじゃない? せっかくの果林先輩の番組がちゃんと聞こえるんだから」
「それ! 高木さん神~」

 曲の間の先輩たちの様子を見ていると、凄く楽しそうに話し合ってるんだよなあ。構成のことなのか、トークのことなのかはわからないけど雰囲気がいいということがとてもよく伝わってくる。高校生の皆さん、緑ヶ丘大学の皆さん、そして下梨君。これは放送サークルMBCCの番組です! MBCC、MBCCをよろしくお願いします!


end.


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果林のガチファン・むぎぃにとっては1時間番組×3日とか凄いチャンスよね。

(phase3)

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