2025

■束の3人と悪の松兄

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 インターフェイスでは夏合宿に向けた動きが活発になっている。班の顔合わせが続々始まっていて、みんなが行ってきたよーと話しているのを聞くのがとても楽しい。今日は自分の班の顔合わせなので、同じ豊葦から行くのだからと奏多とツッツの向島勢を拾って行った。
 車内では、顔合わせに不安がっているツッツに対する奏多の説教……もとい、訓練が行われた。ツッツは人見知りで、サークルでもまだビクビクしているようだし、6月にあった初心者講習会でも人の多さにビビってパロの側から離れられなかったらしい。
 そういうこともあって今回の班編成でもツッツは向島の人がいた方がいいよね、と奏多と同じ班になったとは春風から聞いた。今年の向島は参加人数が多いので、2人は一緒の班になる計算だったそうだ。それが体育会系で時に厳しい兄貴分の奏多であったのは吉と出るか凶と出るか。

「それじゃあ、自己紹介をしていきましょう。えっと、班長の本宮ちとせです。青女のアナウンサーです。DJネームはそのままちとせでやってます。よろしくお願いします」
「いいぞー」
「えっと、一応2年生からやっていこっか。すがやんに回していい?」
「いいよ。緑ヶ丘の菅谷徹平です。アナウンサーで、DJネームはすがやんです。みんなよろしくー。はい」
「ん。向島の松居奏多。定例会でシステムとか作っちゃってる系しごできミキサーで、松兄でやらしてもらってます。どうぞよしなに」

 サキや春風がいれば「しごできミキサー」に対するツッコミ(または罵倒)も入ったんだろうけど、俺とちとせだから「わー」とか「本当にそうなんだもんなー」って感じで何も触れられないっていうな。

「それじゃあ、1年生の子も自己紹介、お願いします」
「はいはい! きぬだよ! 星ヶ丘のアナウンサーだよ!」
「きぬは初心者講習会の時の印象が強いのね」
「やったあ! 印象に残ったんだね!」
「いやおい、「きぬだよ!」じゃなくてな、一応名字もくれよ」
「大井沢きぬだよ!」

 きぬは見たまんまの元気系だ。去年だったらエージ先輩(各大学の扱いに困る元気過ぎる子を適切にシメてくれる、別名幼稚園)の班にぶち込まれてただろうなあ。

「私は松本美瑛なのね。青浪敬愛大学なのね。ラジオでは、ミキサーなのね。大学では、クレイアニメを作ってるのね。よろしくなのね」
「えっ、クレイアニメって粘土で1コマずつ作ってくヤツっしょ?」
「そうですなのね。ストップモーション技法っていうのね」
「はえー、すげーなー」
「アレだろ? ピングーとかニャッキとか」
「そうなのよ」
「粘土こねたり映像を作れるのはわかったが、ラジオはほとんどやってないんだよな?」
「ラジオのことについては、指導をお願いすることになるのね」
「そーかいそーかい了解だ」

 美瑛は事前情報にもあったように細かい作業が得意で、趣味な感じらしい。きぬの自己紹介の時はツッツも怯えてたようだけど、美瑛の時はちょっと興味ありそうな風に見えたもんな。物作りっていう共通点で惹かれたのかな。

「それじゃあ、次の子、お願いします」

 そしてとうとうツッツの番になった。全員からの視線が突き刺さってるんだけど、奏多の視線がマ~ジで怖い。睨みを利かせてるって感じだもんな。

「う……」

 車内での奏多は、人見知りだからと言って周りを身内で固めるなって言って対策委員、と言うかカノンと春風に対して怒ってる風だった。それは何でかって言うと、班の段階で知り合う人数が少ないと、インターフェイス全体で集まった時に不利になるのはツッツだからって。現に自分を除く5人中、知らないのはあと3人だけだ。
 極度の人見知りではあるけど、発作を起こすほどじゃないなら環境に身を置いて慣れるしかないんだから甘やかすなって。後から困るのはツッツ本人なんだぞって言ってずーっと。一見突き放してるようだけど、何だかんだ奏多は優しい。難ならツッツの先のことまで考えて一番ちゃんと心配してるのは奏多だ。

「う、内津由紘です……」
「声が小さいぞ~」

 頑張れツッツ! 

「ツッツの人見知りのことは聞いてるし、心配しなくて大丈夫だよ」
「いーや、甘やかしてもらわなくて大丈夫っす、ウチでも訓練してますし」
「松兄、パワハラだー!」
「これのどこがパワハラなんだよ。自分でインターフェイスの活動に参加するっつったんだから自己紹介くらいちゃんとしろっつってんだよ。何も歌って踊れっつってるワケじゃねーんだ。おーいツッツ、さっき練習したろ」

 ホント頑張れ! さっきの練習では出来てたよ!

「う、内津由紘です。向島大学のミキサーで、DJネームはツッツです。よろしくお願いします」
「よろしくねー」
「……うう、どうですか、奏多先輩」
「練習したモンが全っ然出てねえ。でも、今いるメンバーには聞こえたからギリオッケー。合格じゃねーぞ、落第のライン上だっつーのを忘れんなよ」
「はい」
「ツッツ、頑張ったよ! 出来た出来た」
「すみません」
「おーおー、すがやんは相変わらず甘いねえ」
「ツッツはミキサーなのね。だから、いろいろ教えて欲しいのね」
「あ、うん……分かる、範囲でなら……」
「つっつん! 松兄のパワハラに負けるなー! ぎゃふんと言わせるんだよ!」
「え、そんな」
「きぬはつっつんの味方だからね! 合宿一緒に頑張ろうねー!」
「あ、うん……よろしく……」

 きぬにはツッツが奏多にイジメられてるように見えたのかな。背中をバシバシ叩いて励ましてる感じがする。きぬは正義感だとか、ちょっと優しいトコもあんのかな?

「そうとなったら、3人で悪の松兄をぎゃふんと言わせる大作戦、開始ー!」
「え、悪…?」
「私も含まれたのね」
「おーおー、お前ら3人が束になった程度で文武両道、眉目秀麗、しごできバリイケの俺に敵うかな~?」
「こんなこと言ってやすぜつっつんの兄貴ィ」
「これはぎゃふんと言わせるのねツッツ。松兄より得意なことはあるのね? 絶対勝てる土俵で上から殴るのね」
「奏多先輩より得意なこと……えっと……DIYが出来ます。特に得意なのは、収納家具です」
「あっテメっ、ガチなの出してくんなよ!」

 これは奏多が上手い。自分がヒールになることで、1年生3人の連帯を生んでる。奏多をぎゃふんと言わせるという名目でチームワークを生み、かつ、ツッツの自己紹介の補完まで出来てる。つか、ツッツにDIYって言われたら大体の奴は太刀打ち出来ないんだよ。

「えっと、ペア決めだけど」
「そーじゃんね。でもきぬと奏多は確じゃん」
「そうだね、1年生のアナウンサーと2年生のミキサーで」
「えっ!?」
「きぬお前、人をパワハラ野郎だの悪だの言いたい放題だったなァ?」
「ヤダーッ! きぬに対するパワハラが起こるーッ!」
「そーかいそーかい、この俺がマンツーマンでみーっちり鍛えてやろう、感謝しろよ」
「つっつん! みえちゃん! たすけて!」
「ペアの時は3人束になれないのね。合掌。なのね」
「ええと……奏多先輩は、番組もしっかりしてるから……星ヶ丘で、普段ラジオをやってなくても、リードしてもらえるよ……」
「そーゆーコトじゃなぁ~いぃ~!」


end.


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ちとせ班1年3人のわちゃわちゃ具合がかわいいということに気付く。ヒールの奏多も割といい味。

(phase3)

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