2025

■みんな一緒の今が特別

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「よーし、今日はみんなでササの誕生日のお祝いだね!」
「まっかせとけよ!」

 今日は7月7日、俺の誕生日だ。サークル後にシノの部屋で誕生会を開いてくれるとのことで、招待を受ける。MBCCの同期で誕生日のメンバーを祝うという流れが何となく出来上がったのは去年の今日のこと。俺の誕生日を知ってくれていたサキ、くるみ、すがやんの3人が連名で祝ってくれたのが最初だ。それから順番にみんなの誕生日を祝っていって、5月生まれのすがやんまででお祝いは一巡した。だけど結局ササの誕生日はみんなでやれてないよね、と今日の会が開かれることになったんだ。

「今日は相棒の誕生会ということで、何と! クーラーをつけてる! すごい! 快挙!」
「えーっ!? シノがクーラーつけてるの!? この間のかき氷大会のときだって扇風機だけだったのに!?」
「さすがにレナとサキがいるならちゃんとしないといけないかなって」

 シノは普段から節約をしながら生活している。冷房をあまり入れないのも光熱費のことを考えてのことだ。どうせ大学がすぐ近くなのだから、冷房がガンガンに効いた図書館に通うようにもなっている。シノがそういう生活を送っていることを知っているから、部屋の冷房をあまり使っていないことより冷房を使っていることへの驚きが増す。いや、と言うかお前は熱中症の経験があるんだから冷房を使えっていう。何が「レナとサキがいるなら」だよ。自分の体のこともそうだし、俺とくるみとすがやんは別にいいのか。

「って言うか、ササの誕生日なのにレナはそれで大丈夫だったの? ほら、デートとか」
「うん。別にこだわりはないかな。2人でいるのはこれから先も出来るけど、みんなで一緒にっていうのは今しか出来ないからそっちの方がいいまである」
「レナがマジで肝が据わってるって言うか、余程の事が無い限りササといるっていう将来を見てるのがすげーよなー」
「すがやんはその辺、考えてない?」
「や、全く考えてないこともないけど仕事のこととかいろいろあるじゃんな」
「ゴメンゴメン、意地の悪いこと聞いた。それはそうと、陸さんは前々から大人数でワイワイするタイプでもなかったみたいだけど、実際そういうのも嫌いじゃないからこういうパーティーがいいかなって思うよ」

 玲那はこういう考え方で、彩人は「7月? ステージのことで忙しいからそれが終わってからな!」というスタンスなので今日も普通にスケジュールが白かったっていう。今年はお前の誕生会やるからって声を掛けてくれたシノには本当に感謝しかないし、最高の相棒だと思う。ちなむと彩人の誕生日も7月なので、7月中には簡単に真ん中バースデーをやって、ちゃんと過ごすのは8月になってからになりそうだ。

「パーティーって言うからには何か、ごちそうみたいなモンがあったり?」
「ケーキがあったり? あるんなら切るけど」
「や、ちょっと予算がアレなんで、ササが好きだって100パーわかってるモンを用意します」

 そんなことを話していると、台所からピロリロとメロディーの電子音が聞こえる。これは炊飯器の音だ。ご飯か。メンバーの誕生日祝いの予算は1人500円が5人分で合計2500円だ。確かに2500円だと今じゃ買い物も結構難しそうか。特に米の値上がりなんか大問題って感じで連日話題になってるし。

「レナ、ちょっとこれ部屋の方に持ってってくれるか? 俺手ぇ洗うんで」
「わかった」

 玲那が食材の乗った皿を持って来ると、これから始まることがわかる。これはアレだな。

「何だかんだ、ササが一番好きなのはこれなんだよ。具はどれがいい」
「最初は塩のみでお願いします」
「よっしゃ、じゃあ握るぜ」
「えーっ!? もしかしておにぎり!?」
「これは新しいなー。でも楽しそうじゃんな!」
「楽しそうだけど、今って米が高いでしょ。大丈夫なの。今回は「買い出しは俺に任せろ」って言ってシノがお金集めてたけど、具だけでも結構な金額になってるんじゃないの」
「今回の予算は具に全振りして、米はうちにある分を使ってる」
「それじゃあシノの負担が大きくなってるでしょ」
「や、ササの誕生会だったらうちにある米を使うのが一番いい。この部屋に住み始めて最初の米はとっくに全部食っちまってるけど、うちの米の最初のコンセプトはみんな覚えてるか?」
「ああ、なるほど。そういうことか」
「おっ、やっぱレナはわかったか」
「陸さんの本望でもあるね」

 シノがこのアパートに住み始めることになったとき、俺は引っ越し祝いとして米をプレゼントしていた。米は絶対に必要になる物だし、俺がこの部屋に遊びに来たときの食料としても使える。シノの言う“最初のコンセプト”がそれだとするなら、俺の誕生会と称して開くおにぎりパーティーに使うのはシノの部屋の米であるべきだろう。……今度2キロくらいの袋買ってプレゼントするか。

「はい、出来たぜ! さっそく食ってくれよな!」
「それじゃあお言葉に甘えて、いただきます」

 節約生活の結果、だんだん上達していったシノのおにぎり作り。今では専門店の物にも引けを取らないと思っている。いや、専門店の物は食べたことが無いけどシノのがあるから別にいいやって思いもちょっと。この塩むすびが本当に最高なんだよな。

「うん、美味い。相棒、今日も最高だ」
「だろ? ったり前よ!」
「って言うかシノって直握り派なんだね? アタシおにぎり作る時熱くて握れないからお茶碗にラップかけてコロコロ転がしてるよ」
「あっ、他のメンバーが食う時はちゃんとラップするし安心してくれよな。ササは何故かラップ使うなって言うから直握りでやってっけど」
「今さっき台所に行ったときに見たけど、シノは爪ブラシまで用意してるし手洗いは本当にちゃんとしてるみたいよ。私も直握りで食べてみたいな。陸さん絶賛の味を正確に知りたいかも」
「えー、俺も俄然興味出て来たなー! シノ、俺も俺も」
「よーしお前ら、まとめてかかって来い! めっちゃ上達したトコ見せてやるぜ!」

 確かにこのメンバーでこうやっておにぎりパーティーをするなんて、今だけの特権だよなあ。ハタチの誕生日の過ごし方としては、まあまあ強い印象だ。

「そう言えば今日は七夕だね! 何かお願いしてみる?」
「短冊もないのによくやるね」
「ルーズリーフでも切ってそれっぽくしたらいいんじゃない?」
「くるみは本当によくやる。短冊を切ったところでそれを吊り下げる笹もないのに」
「んー、あっ! じゃあササに洗濯バサミとかで括りつける? 本日の主役だし彦星さまみたいな感じで!」
「くるみ、それはやめといたれよさすがに。ダジャレとしても結構しょうもない部類だぞ」
「えっ!? ダジャレになってた!? ねー、すがやんもっと早く言ってよー!」


end.


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ササ誕はシノ宅でのおにぎりパーティー。最近の米事情を踏まえれば結構な贅沢かもしれない。
忙しいイメージを持たれがちで大勢での遊び誘われにくいササ。実際はこういう遊びも好き。
最後のくるちゃんに悪意はなし。

(phase3)

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