2025

■ペア決めいろいろ

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 緑ヶ丘大学放送サークルMBCCの活動でメインを張るのは、やっぱり(長期休暇中を除き)通年でやっている昼放送。昼休みの時間に第1学食で30分間の生放送をしている。
 とは言え緑ヶ丘大学は規模の大きな私立大学だから、もっと目立つところで社会学部のゼミがド派手なラジオをやってたりもするんだけど、自分たちは歴史があって落ち着いた食堂で慎ましやかに日々活動を行っている。

「高木、そろそろペアについても考えなきゃいけないっていう」
「そうだねえ。でも、履修登録をもらってからでしょ?」
「とは言え履修なんかもう大まかにはわかるべ」
「あと、履修の他にも壮平がね」
「あー……アイツがどーなるかわからんのか」

 番組をやるのは月曜から金曜までの週5日。現在MBCCにいる2・3年生は3年生が4人と2年生が6人、アナウンサーとミキサーの数もちょうど5人ずつだからしっかり5ペア組めそうだけど、俺たちの学年の自由人・壮平の動きが正直わからないのでここだけ未知数って感じ。
 番組のペアは履修の都合だとか、これまでに組んだことがあるかとか、いろいろ加味する事情があるみたい。今年はアナウンス部長のエイジと機材部長の俺で話し合って決めることになっている。自由人の扱いは難しいけど、強制することでもないしね。

「もしそうなったらアナウンサーさんが1人あぶれちゃうかもしれないよね」
「えーい、すがやんの顔を思い浮かべるな、俺!」
「さすがに今回はすがやんもウチで番組をやってもらわないと」
「だべな」

 去年の秋学期、特例としてすがやんは向島大学さんにお邪魔して番組を持っていた。それは人があぶれる、人が少ないという両校の利害が一致した形だったんだけど、さすがにすがやんにもウチでの経験を持ってもらわないといけないという話に着地。

「って言うか俺がすがやんと組みたいんだよね」
「お? 職権濫用か。一応理由は聞くけど」
「職権濫用ってほどのことじゃないけど、すがやんは向島さんへの留学があったし、面白くなってるかもなーと思って。エイジは基礎固めに成功したって見方をしてたけど、俺は基礎的な技術と言うよりは、番組作りのスタンスの方を見たいなと思ってて」
「あー、向島の方がその辺フランクっつーか、誰でも好きなようにわちゃわちゃがやがやしてるっていう」
「そう。俺は基本的にどんな注文にも応えられるミキサーでいるつもりだけど、自分が番組の内容に口を出さないタイプでしょ」
「ああ」
「だから、俺を使ってどういうことが出来るのかっていうのを自由に考えてみて欲しいなって思って」
「なるほどな。どんなムチャ振りにも応えるからとにかく好き勝手に留学の経験をぶつけてみろ、と」
「そういうこと」

 逆に俺がそういう注文を出来そうなのが新2年生だったらすがやんかなという気がしている。ササとレナは番組に対してはまあ真面目。悪く言えばアソビがないとか、凝り固まっていると言うか。レナはまだ機会があれば遊べそうだけど、ササかなあ。変則的なライブが苦手だし、俺とは真逆のスタイルっぽい。

「逆にエイジが2年生の中でどの子に興味があるっていうのはある?」
「強いて言えばサキだな」
「へえ、そうなんだ。何で?」
「実は理由はお前とそんなに変わらんべ。FMにしうみでの話を聞きたいっていう」
「ああ、なるほど。さすがにMBCCの環境とは段違いだろうし、実際に公共の電波に流す番組をやってるくらいだから、ただサークルとかインターフェイスでやってるだけじゃわからない面白い話は聞けそうだよね」
「あと強いて言えば身長がそんな変わんねーから立ちポジでのキューが見やすそうだっていう」
「あ、確かにその問題はあったねえ。……うん、俺もすがやんとはそんなに変わんないから大丈夫そうかな? 逆にササくるとかになったときはどーするって問題が発生するけど」
「その辺はハナの踏み台があるから多少は大丈夫だべ」
「あの踏み台って何センチだっけ?」
「22」
「なら多少は埋めれそうかな?」

 食堂での番組は立ったまま行うので、手で出すキューの見やすさはペア決めの要素になる。その見やすさに影響するのがペアの身長差。一応、小さい子にも対応出来るように2代前の先輩が踏み台を用意してくれたのである程度までなら大丈夫ではあるんだけど(MBCCから食堂事務所への寄贈という形で永久借用権をもらっているという形だ)。

「そういや今のミキサーはそこまでデカい奴はいねーんだな」
「そうだね。シノが確か175くらいじゃなかったかな? まだ伸びてるって話だけど今はそれくらいらしいから、アナさんはそこまで心配しなくて多分大丈夫」
「壮平もちょっとデカいだろ」
「そうなんだけど、会う頻度的に1番に顔が思い浮かばなかったよ」
「思い出してやれよ、ミキサーの同期なんだから」
「じゃあもっと来てよって話になるけど」
「まあな」
「一応、MD音源のデジタル化は少しだけ手伝ってくれてたんだけど、本当にそれっくらいでしか会ってないんだよね」
「あ、アイツもやってたんか」
「働かせたよ。学部の自前パソコン持って来させて2倍速で作業してた。さすがに1人じゃあの量は捌ききれないし」
「さすが機材部長、暗躍してんべ」

 その辺は機材部長としての権限を使わせてもらって、自由人をしばしの間拘束したよね。自由には責任が伴うとも言うし。

「この作業をやってないと、インターフェイスにも少なからず影響が出るでしょ。サキも組んだシステムをウチの環境でテストするだろうし」
「さすが、お前は機材周りのことはちゃんと考えてるっていう」
「機材周りのことしかちゃんと考えてないみたいに聞こえるけど」
「お前の履修見てたら文系3年のそれじゃねーっていう。勉学に対しては至極不真面目っていうのが表れてんだろ」
「メディ文の科目は3年生にならないと増えてこないからね」
「同じメディ文の果林先輩の今頃と比較しても普通に授業多いだろ。夏の集中講義で誤魔化してるけど」
「ペア決めの話だったでしょ?」
「だから履修の話になってんだろっていう」


end.


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春のタカエイ。番組のペア決め会議という名のダベり。
育ちゃんとユノパイセンを足して2で割ったポジションという評価の壮平。作中に現れるのもごくたまに。

(phase3)

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