2025

■With a Nice Smile!

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「さ! 松兄、春風の似合うかわ……じゃなくて、1年生を勧誘していくよッ!」
「何か煩悩みたいなモンが見えた気がするが?」
「気のせい気のせいッ! おぅおーうおーうサンダース! ストラーイープ・サンダースッ! とどろーけ雷ー鳴ーッ」
「新歓で歌う歌でもねーんですよ」

 4月1日、向島大学入学式。その翌日からウチらの戦争が始まるんだよねッ。1年生たちの健康診断や大学オリエンテーションが行われる3日間、サークル勧誘でガンガン動いていく。もちろんウチらだけじゃなくて他のサークルも動いてくるからホントに戦い。
 放送サークルMMPは、ちょっと前まで今期の活動が危ぶまれる事態だったけど、2ヶ月前にとりぃと松兄っていう新メンバーが加わってくれて、無事に春を4人で迎えることになった。でも1年生を入れていかなきゃまた同じことの繰り返し。せめて引退した現4年生と同じ4人は迎え入れたい。

「今のうちなら素敵な笑顔で1年生をお迎え出来るよ松兄ッ」
「よかったすね、サンダース開幕から4連勝おめでとうございます」
「気分は最高ッ」
「3タテ食らってたとしても笑顔で迎えなきゃいけないんすよ本来は」
「それはわかってるけどさあ、どうせなら心の奥底からの笑顔でお迎えしたいよね?」
「野球の動向に関係なくそれをやるのが大人っつーモンすよセンパイ」
「もーッ」

 松兄は学年こそ2年生だけど、実年齢はうちの1コ上。大体の4年生とタメだって話。高校の時に事故ですごい大怪我をして1年遅れて、あと浪人してて1年遅れたとか。実年齢1コ上だから実際大人っぽいし、うちが子供っぽいのも含めていいようにあしらわれてる。
 それはそうと今はうちが応援してるプロ野球チームのストライプ・サンダースが絶好調なので気分は最高。野球の結果で気分が変わるのは過激派だってよく言われるけど、オリンピックとかワールドカップで盛り上がるのと一緒じゃんねえ。それが1年続いてるだけなのに。

「松兄もライトに野球見始めたんでしょ?」
「アンタほどガチガチにじゃないっすよ。だから気分にも影響しませんし」
「本当はそれくらいでいた方がいいんだろうけどねえ、好きなんだからしょうがないよねえ。で、どこファンだっけ?」
「アンタほどガチガチに見てるワケじゃないすけど、強いて言えばチェアーズっす」
「あっ」
「そのドン引きやめてもらえませんかね、確かに飛車角落ち状態だし開幕から雨天中止を除いて3連敗してますけど」
「だ、大丈夫ッ。うちもマ・リーグの中ならチェアーズが2番目に好きだしMMPには菜月先輩っていうチェアーズファンの先輩がいるしッ。……菜月先輩と野坂先輩がこのブースにいたら煽り合いになってたんだろうなあ……」
「ちなみに開幕戦は4点取った後風呂入ったら1点増えた代わりに2点取られた挙げ句延長に持ち込まれてサヨナラ負け食らいましたよ」
「神の言葉を借りると『試合終盤に10点ひっくり返すチームは10点ひっくり返されることも覚悟しなければならない』だよ松兄。あと『燃やされたら3倍にして燃やし返せ、チームは負けても相手の防御率を破壊し尽くせ』って」
「何すかそれ、怖っ」

 ちなみに今は1年生がまだ建物の中で説明を受けてる段階なのでこんなおしゃべりをしてるくらいがちょうどいい感じ。松兄から出たチェアーズって単語に神こと菜月先輩のことを思い出したよねッ。菜月先輩と、ポケッツファンの野坂先輩とかりっちゃん先輩と野球の話をしてたのが懐かしい。

「まあ、俺がちゃんと見てんのはバドミントンリーグなんでね」
「えっ、バドミントンにもプロリーグあるんだッ!?」
「アンタバドミントンを何だと思ってんすか」
「ちょっ、ごめんて松兄ッ!」
「つーか海外で活躍してる選手とか、代表選手だってフツーにリーグ戦やってんすよ。野球やサッカーと同じっすよ」
「うん、そーだね」

 よくよく考えればバドミントンはオリンピックシーズンにはまあまあ盛り上がるスポーツだったかもしれないなって思った。バドミントンはマイナースポーツでもないし、うちらみたいな一般の人の目にも入る規模だったらそりゃあプロリーグくらいあるよねッ。
 松兄はカノンと同じバドミントンサークルからMMPに来てくれてるんだけど、バドサーも辞めたワケじゃなくて掛け持ちスタイルを継続してるんだって。活動の主軸はこっちに置いてくれてるみたいけど、やっぱりたまにやりたいとかで。

「1年生入ってくれるかなー、どうかなー」
「人の形をしたモンをとにかく引きずり込むんじゃなかったんすか」
「そーなんだけどね」
「アンタ、それでなくても感情が顔に出やすいんすから。不安がってたら1年にもそれが伝わりますよ」
「そうだよね、しっかりしなきゃッ」
「しっかりしすぎても必死過ぎんのが伝わるし、逆にサンダースの話してきゃっきゃしてるくらいの方が良かったすね」
「えーッ!? なにそれーッ!」
「いやー、開幕から4連勝してくれてるサンダースに今だけは感謝っすねー、ウチの可愛い可愛い代表が気分良く新歓に打ち込めて。いーすか奈々さん、素敵な笑顔で1年生をお迎えしてくださいよ」
「松兄の人柄にも期待してるからねッ! お兄さんなところとか、頭いいところとか、何でも出来るところとかッ!」
「そこまで素直に俺を買ってくれんのはアンタだけっすよ。マジで任してください」

 周りがザワツき始めた。もうちょっとしたら1年生が建物の中から出てくるのかな。今年は選り好みなし! 春風の似合うぽわぽわして癒される可愛い女の子も来て欲しいけど、とりぃが来てくれたんだから贅沢は言わない。とにかく放送、ラジオの活動に興味あるよって子を捕まえに行くぞーッ! おーッ!

「おぅおーうおーうサンダース! ストラーイープ・サンダースッ! とどろーけ雷ー鳴ーッ」
「だからって歌えって言ってるワケでもねーんですよ」


end.


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奈々と奏多のデコボココンビが好きだと1年に2、3回は言っている。
ナノスパ内に登場する球団は実在のそれとは関係のないフィクション。
それにしても神の言葉が物騒である。ただでは負けないという精神。

(phase3)

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