2024(02)
■好きが楽しくて忙しい！
＋＋＋＋
「お金がなーい！ 大変だ大変だ、お金がない！」
「どうしたのひかるん」
「また「推しのライブで忙しい！」じゃないですぅ～？ がくぴ、ほっとく方がいいよ」
ひかるんは所謂“推し活”に心血を注いでいる人で、常日頃から本当に忙しくしている。SNSを見ても、ひかるんのアカウントは彼の推しのポストをリポストしていることが多くて、最近の芸能事情の一部はそれでチェックしてるみたいなところがある。
ただ、ひかるんは推しがたくさんいるのでかかる費用もその人数分だけ乗っかってくる。そういうファンの人の様子を見ていると、ありがたく思うと同時に、なんだかちょっとだけ申し訳なさもあったりする。芸能活動を休止して１年少しが経って、やや複雑な心境だ。
「今は“IGNITE”っていうグループが熱くて」
「えっ、男のグループじゃん！ ひかるんて女の子が大好きなんじゃなかったっけ!?」
「基本はそうなんだけど、IGNITEはカッコいいよ、メンバーの個性も曲もいい！ ダンスもすっごい」
「IGNITEは俺も知ってるよ。確かにダンスが凄い」
「ああそうじゃんがっくんダンス経験者！ じゃあどう凄いのかもちゃんとわかるんだよね」
「ある程度はね。それでひかるんがIGNITEにハマったきっかけって？」
自分自身の話が深堀りされると大変なので、話をひかるんに戻す。自分が俳優をやっててその中で歌やダンスもやってたということはレナさんと彩人さんにしか話してない。あくまで一介の大学生。芸能の世界は遠い場所だ。
「別の推しがIGNITEの曲の歌ってみたを出してて、それはそうとして聞いてたんだけど、一応本家も聞くじゃん、公式チャンネルで上がってるMV動画見て」
「うん」
「それで「本家かっこよ！」ってなってさ」
「うんうん」
「チョロっ」
「うるさい野々市！ で、動画サイトとかって１本見たらそのチャンネルの他の動画もホームにおすすめで上がってくるでしょ？」
「わかるわかる」
「MVだけじゃなくて企画物の動画とかもちらっと見てるうちに「IGNITE良くね？」ってなって、現在に至ってる」
「ちなみにひかるんは誰推し？」
「あー……強いて言えば～……瑠璃推しかな！ 北条瑠璃！」
「誰ですぅ～？」
「グループでセンター張ってて、顔の造形がとにかく美しいんだけど性格は結構男臭くて豪快だね。えっと、この人」
「ホントだ、顔めっちゃ中性的！ でも体つきとかはちゃんと男子だし、この衣装ワイルドでめっちゃきゃわじゃん」
すずはエンタメには疎いけど、“カワイイ”を突き詰めるなら女性アイドルは見ておいて損はないよとおすすめしたところ、少しだけ調べることをし始めたとか。そこまでガツガツにはハマってないらしいし、普遍的なカワイイはすずのやりたいことじゃないですぅ～と言って我が道を行く様が格好いいと思う。
ちなむとドラマの現場で瑠璃くんとは話したことがあるけど、とても良くしてくれたことが思い出として残っている。俺くらいのレベルの人間が活動休止って言っても短い文章のネット記事になるかならないかくらいだったけど、LINEで連絡をくれたときは本当に嬉しかったなあ。なのでひかるんのセンスは正しい！
「４月からIGNITEが冠番組を持つことになってるからそれを見なきゃだし、ライブがあるなら行きたいけどIGNITEのライブなんかファンクラブに入らないとチケットを取る権利すら与えられないだろうからまず入会するでしょ、瑠璃の舞台が６月に水堀であるらしいからそれは見たいし、IGNITEだけじゃなくて他の推しとの兼ね合いがあるから何の何をどうやりくりして工面しようかなーっていうのが難しくてお金がない！」
「ひかるんの推しって倍々ゲーム的に増えるから大変そうですぅ～」
「うん、それは思う。好きな物がいくつもあるのは楽しそうだと思うけど、ひかるんはどれにも全力だから疲れないように気をつけてね」
「消費者金融に手を出したり犯罪に荷担しないようにするですするですぅ～」
「借金はしても犯罪には絶対手を出さない！ 大丈夫！ 犯罪に手を染めた理由も報道されるしそうなったら推しのイメージが悪くなる。ほら、SNSとかでも推しのアイコンで汚い言葉を使わないようにするってマインドがあるでしょ？」
「初めて聞きましたぁ～」
「そういうのがあるんだね」
ひかるんを見てると本当に忙しいなあって思っちゃうけど、推しのためにいろいろ出歩くのもエネルギッシュでいいなあともちょっと思う。自分がそこまで出来るかと言えば……なかなか想像つかないや。俺は趣味部屋でねっとり楽しむスタイルだし。
「それでさあがっくん、４月からIGNITEの水越千里が主演するドラマが始まるんだけど、バディ物でさ、それも見たいんだよ」
「だったら番宣とかでガンガンテレビ出まくるだろうね」
「そうなんだよ！ そういえばちょっと前も映画の番宣で出まくってた！ その時まだイグに注目してなかったけど、惜しかったなーって思ってさ！ 今はバディ役の俳優がやってる動画チャンネルをザッと見てて」
「ひかるんの推しの幅が広い！」
「何かね、男性の良さがわかるようになってきた」
「なるほど？」
うーん、この調子だといつかひかるんが俺のことにたどり着く日もそう遠くないんじゃないかって気がしてきた。俳優ユニットの動画チャンネルはあるから２年、３年もあればバレる可能性はある。そのときのことを今から少しずつ考えておいた方がいいかもしれない。
「男の良さねえ。顔はがくぴが一番きゃわでしょ？」
「違う野々市！ がっくんにはがっくんの良さがあるんだけど、違うタイプの顔立ちだとか、立ち振る舞いとか、いろいろあるんだよ。まあ、人間に興味ないお前にはわからないだろうけどな！」
「はぁ～!? すずにケンカを売ったねぇ～!?」
「すずもひかるんも落ち着いて」
「がっくんは黙ってて」
「がくぴは黙ってろですぅ～」
「あーもー、ダメだこりゃー」
end.
＋＋＋＋
番組編制期だとか年度替わりだとかに忙しくなりそうなひかるん。
すずとがくぴは相変わらず。
(phase3)
.
＋＋＋＋
「お金がなーい！ 大変だ大変だ、お金がない！」
「どうしたのひかるん」
「また「推しのライブで忙しい！」じゃないですぅ～？ がくぴ、ほっとく方がいいよ」
ひかるんは所謂“推し活”に心血を注いでいる人で、常日頃から本当に忙しくしている。SNSを見ても、ひかるんのアカウントは彼の推しのポストをリポストしていることが多くて、最近の芸能事情の一部はそれでチェックしてるみたいなところがある。
ただ、ひかるんは推しがたくさんいるのでかかる費用もその人数分だけ乗っかってくる。そういうファンの人の様子を見ていると、ありがたく思うと同時に、なんだかちょっとだけ申し訳なさもあったりする。芸能活動を休止して１年少しが経って、やや複雑な心境だ。
「今は“IGNITE”っていうグループが熱くて」
「えっ、男のグループじゃん！ ひかるんて女の子が大好きなんじゃなかったっけ!?」
「基本はそうなんだけど、IGNITEはカッコいいよ、メンバーの個性も曲もいい！ ダンスもすっごい」
「IGNITEは俺も知ってるよ。確かにダンスが凄い」
「ああそうじゃんがっくんダンス経験者！ じゃあどう凄いのかもちゃんとわかるんだよね」
「ある程度はね。それでひかるんがIGNITEにハマったきっかけって？」
自分自身の話が深堀りされると大変なので、話をひかるんに戻す。自分が俳優をやっててその中で歌やダンスもやってたということはレナさんと彩人さんにしか話してない。あくまで一介の大学生。芸能の世界は遠い場所だ。
「別の推しがIGNITEの曲の歌ってみたを出してて、それはそうとして聞いてたんだけど、一応本家も聞くじゃん、公式チャンネルで上がってるMV動画見て」
「うん」
「それで「本家かっこよ！」ってなってさ」
「うんうん」
「チョロっ」
「うるさい野々市！ で、動画サイトとかって１本見たらそのチャンネルの他の動画もホームにおすすめで上がってくるでしょ？」
「わかるわかる」
「MVだけじゃなくて企画物の動画とかもちらっと見てるうちに「IGNITE良くね？」ってなって、現在に至ってる」
「ちなみにひかるんは誰推し？」
「あー……強いて言えば～……瑠璃推しかな！ 北条瑠璃！」
「誰ですぅ～？」
「グループでセンター張ってて、顔の造形がとにかく美しいんだけど性格は結構男臭くて豪快だね。えっと、この人」
「ホントだ、顔めっちゃ中性的！ でも体つきとかはちゃんと男子だし、この衣装ワイルドでめっちゃきゃわじゃん」
すずはエンタメには疎いけど、“カワイイ”を突き詰めるなら女性アイドルは見ておいて損はないよとおすすめしたところ、少しだけ調べることをし始めたとか。そこまでガツガツにはハマってないらしいし、普遍的なカワイイはすずのやりたいことじゃないですぅ～と言って我が道を行く様が格好いいと思う。
ちなむとドラマの現場で瑠璃くんとは話したことがあるけど、とても良くしてくれたことが思い出として残っている。俺くらいのレベルの人間が活動休止って言っても短い文章のネット記事になるかならないかくらいだったけど、LINEで連絡をくれたときは本当に嬉しかったなあ。なのでひかるんのセンスは正しい！
「４月からIGNITEが冠番組を持つことになってるからそれを見なきゃだし、ライブがあるなら行きたいけどIGNITEのライブなんかファンクラブに入らないとチケットを取る権利すら与えられないだろうからまず入会するでしょ、瑠璃の舞台が６月に水堀であるらしいからそれは見たいし、IGNITEだけじゃなくて他の推しとの兼ね合いがあるから何の何をどうやりくりして工面しようかなーっていうのが難しくてお金がない！」
「ひかるんの推しって倍々ゲーム的に増えるから大変そうですぅ～」
「うん、それは思う。好きな物がいくつもあるのは楽しそうだと思うけど、ひかるんはどれにも全力だから疲れないように気をつけてね」
「消費者金融に手を出したり犯罪に荷担しないようにするですするですぅ～」
「借金はしても犯罪には絶対手を出さない！ 大丈夫！ 犯罪に手を染めた理由も報道されるしそうなったら推しのイメージが悪くなる。ほら、SNSとかでも推しのアイコンで汚い言葉を使わないようにするってマインドがあるでしょ？」
「初めて聞きましたぁ～」
「そういうのがあるんだね」
ひかるんを見てると本当に忙しいなあって思っちゃうけど、推しのためにいろいろ出歩くのもエネルギッシュでいいなあともちょっと思う。自分がそこまで出来るかと言えば……なかなか想像つかないや。俺は趣味部屋でねっとり楽しむスタイルだし。
「それでさあがっくん、４月からIGNITEの水越千里が主演するドラマが始まるんだけど、バディ物でさ、それも見たいんだよ」
「だったら番宣とかでガンガンテレビ出まくるだろうね」
「そうなんだよ！ そういえばちょっと前も映画の番宣で出まくってた！ その時まだイグに注目してなかったけど、惜しかったなーって思ってさ！ 今はバディ役の俳優がやってる動画チャンネルをザッと見てて」
「ひかるんの推しの幅が広い！」
「何かね、男性の良さがわかるようになってきた」
「なるほど？」
うーん、この調子だといつかひかるんが俺のことにたどり着く日もそう遠くないんじゃないかって気がしてきた。俳優ユニットの動画チャンネルはあるから２年、３年もあればバレる可能性はある。そのときのことを今から少しずつ考えておいた方がいいかもしれない。
「男の良さねえ。顔はがくぴが一番きゃわでしょ？」
「違う野々市！ がっくんにはがっくんの良さがあるんだけど、違うタイプの顔立ちだとか、立ち振る舞いとか、いろいろあるんだよ。まあ、人間に興味ないお前にはわからないだろうけどな！」
「はぁ～!? すずにケンカを売ったねぇ～!?」
「すずもひかるんも落ち着いて」
「がっくんは黙ってて」
「がくぴは黙ってろですぅ～」
「あーもー、ダメだこりゃー」
end.
＋＋＋＋
番組編制期だとか年度替わりだとかに忙しくなりそうなひかるん。
すずとがくぴは相変わらず。
(phase3)
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