2024(02)

■みんな仲間で友達!

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「対策委員です」

 夏合宿、そしてその打ち上げの飲み会を経て、しばらくはゆっくりペースで集まっていた対策委員はまた少しその勢いで盛り返していた。2月下旬から3月上旬にかけて開催予定の技術交換会と春の番組制作会に向けた話を詰めるためだ。
 技術交換会というのは去年から始まった行事で、他の大学がどういったことをやっているのか、どういう道具、技術を使って作品を作っているのかなどを紹介し合うというもの。この会は本当の任意参加だから、合宿や講習会より小規模の行事になる。だけど、内容が結構濃いので地味に面白かったりする。
 春の番組制作会は、5月にあるファンタジックフェスタに向けた練習会だ。ファンフェスでは例年インターフェイスでDJブースを出していて、一般の人に向けた番組をやる。制作会ではアナウンサー2人でトークするダブルトークの練習を主にやることになっていて、対策委員はここで代替わりだ。

「技術交換会は、そうだなー、各大学、ウチはこれだぞっていうメインコンテンツを出してみる? その話を深堀りしてもらうのかどうかって。まあウチはラジオじゃん?」
「まあ、緑ヶ丘と向島はラジオって感じになるよな。ウチもラジオメインの大学だし。なー鳥ちゃん」
「そうですね。新たなことには挑戦していますが、あくまでラジオを主体とした活動が中心のサークルですし」
「え~。向島さんと言えばジュンでしょ? 映像の話も聞きたいよ」
「北星、お前は通常運転するな」
「だって、一言でラジオメインですとか映像メインですって言っても、何をどう作るかが違うから技術を交換するんでしょ? 去年のこの会でも、同じ映像メインのウチと桜貝さんでも全然内容が違ったんだから、向島さんの映像制作の手法も聞きたいね」
「まあ、北星の言うことにも一理あるし、じゃあ、あくまでラジオの話をメインにしつつも、ジュン呼んで映像の話もちょっと折り込んでもらうか?」
「やった~」
「みんな申し訳ない、北星のワガママを通してもらって」

 確かにワガママではあるけど、一応その通りではあるから話をどう通すかというのが難しいんだ。ラジオメインの緑ヶ丘と向島、それから星大でも得意とする番組のスタイルは全然違うという話だし。俺と北星は去年の技術交換会にも参加していたから何となくイメージが持ててるけど、去年と今年ではまた進歩の度合いが違うだろうし。
 各大学が何をメインにどんな活動をしているのかを共有することは、インターフェイス全体の意識の共有に繋がるそうだ。去年やその前くらいからは、初心者講習会でもラジオメインの話だけじゃなくて、映像も含めて広くメディアというものを扱う上でのリテラシーの話も増えてきた。講習内容を考えるためにも、どこがどんなことをやっているのかを知っておかないといけない、と。

「今年の技術交換会は楽しみだな~、ジュンも来るし~」
「北星ってホントにジュンが大好きだな」
「夏合宿の頃のジュンは、北星さんに顔と名前を覚えてもらえるか不安がっていましたし、そのことを思うと感慨深いですよ」
「そうだ! 北星、あたしたちが対策委員になりたての頃、当麻に「映像に関係なくても対策委員のメンバーは覚えろ」って言われてたでしょ? ちゃんと覚えられた?」
「そうだ。そろそろ活動も終わりに近付いてるし時間にも余裕があるからテストをする」
「え~、テスト~? やだよ~」
「対策委員の2年生9人を、五十音順に並べてみろ。これはフルネームをわかってないと出来ないからな」
「あいうえお順ね~。とりあえず、くるちゃんは後ろの方だね~」
「そうだね!」

 正直、インターフェイスではDJネームの方を主に使うので、フルネームをわかってない人もいるにはいる。だけど対策委員でやっている以上、夏合宿の名簿とか、フルネームをちゃんと見る機会もあったはずだ。俺はちゃんと全員を覚えてるけど、果たして北星はどうか。新しく覚えるのは自分と俺とくるちゃんとちとせ以外の5人で良かったんだぞ。

「えーっとね~。1回書こ~」
「ああうん、書かないと整理できないよな。俺も正直ちょっと怪しいわ。一緒に考えよ」
「カノン、答えは言わないでな」
「了解」
「くるちゃんは“よ”だから後ろで~、とりぃは確か鳥居さんだから~、真ん中の方だよね~」
「その調子ですよ北星さん」
「その後ろの方に~当麻とちとせちゃん~、もとう、もとみ、うん、当麻が先~」
「すごい、本浦と本宮をきちんと理解して区別してる」
「この2人名字で呼ぶ率低いのに」
「元々知っている2人だからですかね」
「俺はとりぃより前で~」

 正直に言えばフルネームはわかってなくてもやっていけはするけど、1年やってきたメンバーだし、知ってた方が多分いい。親しき仲にも礼儀は必要だ。

「シノって~、篠って書くけど確かシノじゃないんだよね~正しい名前って~」
「おっ、いいぞ北星。俺の名前は?」
「えっとね~……シノ、シノ……」
「シノから離れて」
「緑大に同じ名字3人いる」
「あ~、ささき~?」
「おー!」
「あ~、篠木だ~。名前は多分、とも? なんとか~」
「まあいいか。そこまで当てたら90点」
「シノ、採点が甘いぞ」
「まあまあ当麻。ゼミの教授すらササとの区別でシノキ君て呼ぶんだぞ俺のことを。知ってるだけでオッケーだぜ」

 ササ、シノ、サキの3人が緑大のササキトリオで、名前に使われている漢字が全員違うので誰がどういうササキかを判別するためにこの名前が付けられた、という話は高木さんとくるちゃんから聞いたことがある。

「北星、俺は俺は!?」
「カノンはね~、何だっけ~」
「おい!」
「とりぃが希くんて呼んでるよね~」
「そうそう、俺は希くん! で、名字は?」
「ヒントちょうだ~い。カノンて、由来は名前に関係する~?」
「する! めっちゃしてる! でも、ノンは希の方だね」
「え~」

 確か“春日井のんたん”の略でカノンになったという話だ。現4年の先輩に任せると向島のノリでとんでもない名前が付きそうだったので、これくらいならまだ大丈夫と思った時に止める必要があったとか。

「か……かす……」
「多分春日井~」
「おー! いいぞ北星」
「思いっきりアシストしてたじゃんな」
「シノだってヒント出してただろ」
「かす、なら俺の前~」

 結局、七海とくららの名字はわからないということでギブアップした。くららはシノが海月と呼んでいるし、くらげちゃんのくらら~という覚え方をしていたらしい。名字は大学でもほとんど呼ばれないからオッケーだよとくらら本人の了承を得た。正解は早瀬海月だった。
 して、問題は七海だ。存在感薄くなりがち問題は例によって解決していない。そして七海も俺やちとせと同じパターンで、名字でほとんど呼ばれないグループだから認知度がなかなか上がらないんだ。正解は志賀七海という。この正解発表には1年も含めて8割以上が初耳だ~的なリアクションをしていた。

「対策委員9人を並べると~、カノン、俺、シノ、七海、とりぃ、くらら、当麻~、ちとせちゃん~、くるちゃんになるね~」
「おおー」
「当麻、ここまでの課程で何点? 北星合格出来る?」
「うーん……まあ、一応合格でいいんじゃないか?」
「やった~」
「最初の頃は雨竜の名前すら満足に覚えてなかったことを思えば大進歩だ」
「さすがに~、友達の名前は映像に関係なくても極力覚えるよ~。対策委員のみんなも友達~」
「北星がみんなのことを友達って思ってくれて、何だかあたしが嬉しいよ! 今いる9人みんな仲間で友達! ……で、いいよね? ちょっと不安になっちゃった。あたしまた変なこと言ってないよね?」
「心配すんなくるみ、全然変なこと言ってねーよ! 俺らは全員仲間で友達だぜ!」
「カノンありがとね」

 そんなメンバーで企画運営する行事もあと2つだ。次代の1年生も来てはいるけど、あくまで中心になって動いていくのは自分たちだ。

「じゃ、無事に北星がテストに合格したし、次の会議の日程を決めますか」
「はーい」


end.


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七海の名字はここが初出しだったらしいです。過去作を探してもなかった。
くるちゃんが不安がってるところにカノンが後押しするの、去年の夏が尾を引いてるなって感じがする

(phase3)

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