2024(02)

■人材の獲得競争

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「長岡さんすみません、A-8のカートンが無くなりそうです」
「はーいりょうかーい」

 吹き抜けからタカティが顔を覗かせて、下をフォークリフトで走る長岡君に声をかける。今年も例によってタカティが短期バイトで来ていて、いろいろな仕事を手伝ってくれている。去年までは朝霞を拾うついでに俺が星港まで迎えに行ってたけど、今年からは通り道の越野と一緒に来ている。送迎をするだけの価値がある働き振りなんだよなあ。
 タカティは今年で短期バイトが3回目になる。なのである程度ほっといてもちゃんと仕事をしてくれるのがラクだ。それに、細かい仕事が得意だから、B棟2階の返品入庫なんてぱぱぱーっとやっつけてくれちゃうもんね。頼もしすぎて足を向けて寝れない、本当に。タカティに甘えるなって越野がガミガミ言ってくるよね最近じゃ。今日も山ほど返品が来たから階段を上るのも気が重いや。

「タカティ、やってる?」
「あっ、大石先輩。お疲れさまです」
「今って箱作ってるの?」
「いえ、返品入庫で山になった物を新しいケースにまとめてる最中ですね。A-8の箱でまとめる物が多いなと思って束を持って行こうとしたんですけど、これだけしかなかったんで通常出荷分がちょっと心許ないなと思って」
「ああ、それでさっき長岡君に頼んでたんだ」
「そうですね」
「さすが」

 そんな風に話していると、吹き抜けからカートンのパレットが上がってきた。パレットを入れ替えるだろうし、今あるパレットの前に作ってあるケースを少し移動していると、長岡君がやってきた。

「あっ、大石君。B棟と新倉庫は落ち着いてるの?」
「新倉庫は塩見さん1人で大丈夫そうだけど、B棟は今さっき返品が来たんで現実逃避中」
「現実逃避かー」
「今の季節の返品って細かいんだよ、それでなくてもB棟2階は細かいものばっかりなのにさあ」
「B棟は確かに細かい」
「それでなくても仕事スタイルの違いってあるじゃない。長岡君はマメにやるけど俺は溜めがちだし」
「でも、俺は都度キレイにしたいタイプだから仕事自体は遅いんだよね。山になったら即ケースにしたい」
「A棟の製品って回転も速いしやっても意味ない物の方が多くない? あんまり出ないような物ならケースにしておいた方が後々ラクだけど」
「その区別もまだちゃんと出来ないし、回転が速くてすぐ破られることになったとしてもちゃんとケースにまとめたい。だから高木君にお願いしてるんだけど」
「俺は戻すだけ戻して山の上にそのまま積んでいくタイプだからなあ」

 もちろんケースにした方がいい物は数を数えてキレイな箱にまとめるけど、これはすぐ動きそうだなとか、まだ積めると思った物はまとめずに山のまま置いておきがちだ。一応バイト時代も含めて5年この仕事をしているので、何となくの傾向を理解した上でサボっている。
 ただ、3月末には棚卸しがあるので、極力きちんと整理整頓しておいた方がいいのには違いない。出荷が爆発すると庫内整理どころではなくなるし、2月のうちに粗方やってしまうか、長岡君のように普段からやっておくのがいい。

「ところでタカティってさ、この後何の仕事をするとか指示もらってる?」
「おっと大石君、高木君にお願いしたいA棟の仕事はまだあるんだよ」
「内容は?」
「返品入庫と庫内整理だね」
「B棟の返品と庫内整理もまあまあ逼迫してるよ、下から少なくなったダウンも上がって来てるし、俺は春夏物の入庫もしなきゃだし」
「大石君の仕事量が多いのは認めるけど、返品入庫はねえ。日頃の言動からすると現実を見たくないが故のたらい回しに見えなくないなー、チラッ」
「A棟の入庫と庫内整理は日頃から長岡君がマメにやってるじゃない。今更タカティの手を借りなくても十分キレイだって」

 タカティは細かい仕事が得意で返品を片付けてくれるのがとても速いのでB棟に引っ張って行きたいのが俺。それと同じで、ちょっとしたことに気がついて、自分と同じマメさで仕事が出来るのでA棟に置いておきたいのが長岡君。同じ社内でも人材の争奪戦が始まるんだもんなあ、そりゃ世間の争奪戦も激しくなるよ。

「あっ高木君いたいた」
「あ、越野。どうしたの?」
「高木君、今の仕事ケリついたら新倉庫でシール貼りの仕事に来てくれる?」
「ええと、長岡さんもここでまだ仕事がある風なことを言ってて、大石先輩もB棟の仕事があるって言ってるんですけど、どこまでやったらになりますかね」
「大石の仕事なんかどうせ返品入庫だろ、そんなモン自分でやれ」
「越野ひどい!」
「長岡の仕事も急ぎでもマストでもないってハタケさん言ってたし、この後は新倉庫優先で」
「ああーっ! ハタケさん自分が整頓しない派だからってー! 棚卸で埋もれろーっ!」
「いいんですかね」
「良くないよ越野」
「俺も高木君がいてくれた方が助かるんだけどなあ」
「俺は塩見さんから言われて来てんだ、文句があるならそっちに言え」
「あっ、はぁい」

 越野が塩見さんの指示でタカティを探しに来たとわかると、俺と長岡君は引き下がらざるを得ず。それで即連れて行かれちゃうんだもんなあ。まあ、仕方ない。新倉庫で物を片付けるための作業だからね。で、残された俺と長岡君だね。

「大石君、取引しない?」
「内容によるけど」
「俺さ、高木君に整頓してもらってる間、補充作業やってたんだよ」
「うん」
「B棟の返品手伝うからさ、補充の方手伝ってくれない? 上でリフト引いて補充と入庫。俺は下からパレット上げるし」
「あっ、そういうのなら大歓迎だよ。手伝う手伝う」
「良かったー。じゃあ、事務所側の方がまだなんで、そっち側をやってきます」
「了解です」

 長岡君はハシゴで1階に降りていったので、俺はハンドリフトを手に事務所側の吹き抜けにスタンバイ。ピッキングをしながら足りなくなった物を上げることもあるけど、長岡君的には使った物はしっかりと補充して、作業中に足りなくなることがないようにしておきたいらしいので仕事量が増えちゃう。エラいよなあ。ただ、この仕事であれば俺も得意なので、しっかりとお手伝い。ここを早く片付ければ、俺の返品入庫も手伝ってもらえるからね。

「……うん、全然キレイだよなあA棟って」

 辺りを見渡して、物が溢れ返りそうな場所がないことを確認。うん、補充を早く終わらせてB棟に長岡君を長く置いとかなきゃ。


end.


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ちーちゃんと長岡君がこっしーにバッサリやられてるのが多いので、逆も見たい。
ちー長にやりこめられるこっしー。イメージ沸かんけど。
そして若手には塩見さんの名前は印籠のように効く。

(phase3)

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