2024(02)
■スキマ時間の活動
++++
「長くない? 長すぎる…!」
部室で深青が嘆いている。俺はその話を書棚の整理をしながら聞いているけど、だんだん見覚えのある部長っぽさが出てきたなあと、見覚えのある監査っぽいツッコミを欲しながら聞いている。
ちなみに、去年の今頃ゴローさんから課されていた鬼の山積み課題(朝霞さんが残した大量の台本を部の仕様に書き直す)はちょっと前にクリアして、原本と訳書に対応するタグをつけたりなんだりしているうちに、書庫番の仕事を任されるようになっていた。
ゴローさんの後を継いで部長になった深青は、ゴローさんの融和的な雰囲気を残しつつも、部をより良く、そしてステージの技術の底上げをしていくにはどうしたらいいかを考えているようだった。ゴローさん路線が継承されてるって感じで、俺たちとしては馴染みやすい。
ただ、ゴローさん路線が継承されているということで、浮上した問題もある。それが、ステージ欲だった。去年、部でファンフェスにステージを出す話になったのも、ゴローさんが「10月末か11月頭の学祭から8月の丸の池までの期間が長過ぎない? まだ出来るよね?」と話を進めたからだ。で、その路線を継承した部長が何を喚いているのかと言えば。
「学祭からファンフェスまでの期間が長過ぎない? 今の時期に何か1つ出来そうだけど」
「無茶言うな深青。今の時期はテストだの帰省だので忙しい奴は忙しいしいない奴はいないんだぞ」
「源さんが学祭から丸の池までの間が長いって言ってた気持ちがよぉーくわかる!」
「それはわかるけどお前はゴローさんが縮めてくれた上でまだ長いって言ってんだぞ」
「彩人だったらわかってくれると思ったのになー、ステージやりたいよね?」
「それはやりたい。でも現実問題、ステージやるには時間だけじゃなくて人的な要素も大きいんだ」
ステージをやれるなら俺だってそりゃあもちろんやりたいと思っている。時間や人的な要素以前に、どこでどうやるかという問題だってある。やりたいと嘆くことは簡単だけど、じゃあそのためにどうするのかっていう話で。それを理解していない部長ではないのだけども。ステージをやりたいんだと唸りながらブンブンと大きなポニーテールの房を振り回すV系女装の大男の迫力だよ。
「深青、あんま首回してたら痛めるぞ」
「ヘドバンで鍛えられてまーす、ご心配どうもー」
「さすがV系だな」
「でさ、極論、ステージに限らず何かしてたいんだよな」
「ステージに限らず。ラジオとか? インターフェイスみたいな」
「まあそれも手法としてはアリよな。作品制作でも読み聞かせボランティアでも、他の部活とのコラボだっていい。特に他の部との繋がりって、せっかく源さんが作ってくれたものだし繋いでいきたいんだよ」
「あーな。ここでまーた排他的な部になっちまったら去年は何だったんだってことになるし」
先代部長のゴローさんは、それまでの放送部のネガティブな印象を払拭するために、他の部とのコミュニケーションを増やしていったそうだ。人や金の動きを透明化するだけじゃなくて、まずは雰囲気をオープンにしていくこと。ゴローさんという人がまず信頼されることで、個人の繋がりをまず作り、部に繋げていく。で、今、それが何となく形になりそうで。
「実際コラボするしないに関わらず他の部とは積極的に話していく方がいいと思う」
「俺は軽音とは相性いいだろうし、あとはどこだっけ」
「ゴローさんは確か演劇部と仲良くしてたかな。小道具作りの話で盛り上がったとかで」
「彩人の班って代々インターフェイスの作品出展用にラジオドラマ作ってるじゃん」
「だな」
「文芸部とかそっち方面の部とコラボして、音声作品にしてみませんかー的な話を打ち出すことだって出来そうじゃん」
「ああ、文芸部か。単純にどんなことしてんのか興味あるな。部誌とか作ってんのかな」
春休みの間のスキマ時間に、あまり大々的な設備などを必要とせずに出来そうな活動を考えるのはとても楽しい。あくまで放送部の本分はステージだけど、ステージ以外でも何か出来そうなことがあれば積極的に挑戦してみていいんじゃないかとは思う。インターフェイスじゃラジオメインの向島が映像作ってんだから、ウチだって何でも出来るよな。
「盛り上がってると思ったら、深青と彩人か」
「おーすみちる、お疲れさん」
「深青、これ学生課からの書類」
「あざす」
所沢さん直々に監査就任を打診されたのはみちるだ。監査をやるにはみちるくらいの奴じゃないとダメだとのことで。俺の知ってる限りの監査を思い浮かべてみると、マロさんは多分異例の庶民派監査で、他の人はそこはかとない恐ろしさがあるんだよな。宇部さん、所沢さん、で、みちるだろ。うん、監査ァァって感じだ。
「みちる、深青が学祭からファンフェスまでのスパンが長いから今の時期に何かやんねー? 的なこと言ってんだけどどう思う?」
「ああ、また言ってたんだ。何度も言ってるけどやるんであれば具体的な企画案を書面にして持ってきて。その上で精査して、その話を発展させるかどうか決めるから」
「有能すぎる監査様はこの調子です」
「絶対ゴローさんに振り回され過ぎた所沢さんから何らかの指導が入ってるヤツじゃん」
「でもゴローさんに振り回されてた所沢さんには源班全員が理解を示して同情してたよね」
「それもそう」
「私は別にダメとは言ってないよ。私もやれる機会があるならやりたい方だし。やりたい企画があるならきちんと提案しろっていうのは部長だけじゃなくて部員全員に言えることだし、持ってきてもらえれば幹部会議でも班長会議でも何でも開いてまず検討しますっていう話だよ。部長だろうと独断で何でもさせないのは当然の話でしょ」
「さすみち」
良くも悪くも部長の独断というのは恐ろしいものであるというのはここ数年の放送部では通説だ。ただ、みちるの言い方だと部長に限らず、やりたいことがある奴は企画を持ってくれば検討するぞっていうのは部員全員が平等にチャンスがあるってことだよな。学年や役職、パートに関わらず。それってすげーいいことだ。
「彩人、企画案通せるように話し合おう。3月までに形に出来れば4月の新歓に向けた実績にもなるし」
「そうだな。ウチの中だけで出来ることと、他の部に掛け合ってみることをまず出してみるかあ」
「最悪俺ら2人で軽音に飛び込もうぜ、ベースとキーボードで」
「マジで言ってる?」
「マジで。彩人ウチのカンさんの曲やれんだから全然イケるって」
end.
++++
ステージに前向きな部長と、本来そっち側のはずが制御側になってる書庫番のお話。
(phase3)
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「長くない? 長すぎる…!」
部室で深青が嘆いている。俺はその話を書棚の整理をしながら聞いているけど、だんだん見覚えのある部長っぽさが出てきたなあと、見覚えのある監査っぽいツッコミを欲しながら聞いている。
ちなみに、去年の今頃ゴローさんから課されていた鬼の山積み課題(朝霞さんが残した大量の台本を部の仕様に書き直す)はちょっと前にクリアして、原本と訳書に対応するタグをつけたりなんだりしているうちに、書庫番の仕事を任されるようになっていた。
ゴローさんの後を継いで部長になった深青は、ゴローさんの融和的な雰囲気を残しつつも、部をより良く、そしてステージの技術の底上げをしていくにはどうしたらいいかを考えているようだった。ゴローさん路線が継承されてるって感じで、俺たちとしては馴染みやすい。
ただ、ゴローさん路線が継承されているということで、浮上した問題もある。それが、ステージ欲だった。去年、部でファンフェスにステージを出す話になったのも、ゴローさんが「10月末か11月頭の学祭から8月の丸の池までの期間が長過ぎない? まだ出来るよね?」と話を進めたからだ。で、その路線を継承した部長が何を喚いているのかと言えば。
「学祭からファンフェスまでの期間が長過ぎない? 今の時期に何か1つ出来そうだけど」
「無茶言うな深青。今の時期はテストだの帰省だので忙しい奴は忙しいしいない奴はいないんだぞ」
「源さんが学祭から丸の池までの間が長いって言ってた気持ちがよぉーくわかる!」
「それはわかるけどお前はゴローさんが縮めてくれた上でまだ長いって言ってんだぞ」
「彩人だったらわかってくれると思ったのになー、ステージやりたいよね?」
「それはやりたい。でも現実問題、ステージやるには時間だけじゃなくて人的な要素も大きいんだ」
ステージをやれるなら俺だってそりゃあもちろんやりたいと思っている。時間や人的な要素以前に、どこでどうやるかという問題だってある。やりたいと嘆くことは簡単だけど、じゃあそのためにどうするのかっていう話で。それを理解していない部長ではないのだけども。ステージをやりたいんだと唸りながらブンブンと大きなポニーテールの房を振り回すV系女装の大男の迫力だよ。
「深青、あんま首回してたら痛めるぞ」
「ヘドバンで鍛えられてまーす、ご心配どうもー」
「さすがV系だな」
「でさ、極論、ステージに限らず何かしてたいんだよな」
「ステージに限らず。ラジオとか? インターフェイスみたいな」
「まあそれも手法としてはアリよな。作品制作でも読み聞かせボランティアでも、他の部活とのコラボだっていい。特に他の部との繋がりって、せっかく源さんが作ってくれたものだし繋いでいきたいんだよ」
「あーな。ここでまーた排他的な部になっちまったら去年は何だったんだってことになるし」
先代部長のゴローさんは、それまでの放送部のネガティブな印象を払拭するために、他の部とのコミュニケーションを増やしていったそうだ。人や金の動きを透明化するだけじゃなくて、まずは雰囲気をオープンにしていくこと。ゴローさんという人がまず信頼されることで、個人の繋がりをまず作り、部に繋げていく。で、今、それが何となく形になりそうで。
「実際コラボするしないに関わらず他の部とは積極的に話していく方がいいと思う」
「俺は軽音とは相性いいだろうし、あとはどこだっけ」
「ゴローさんは確か演劇部と仲良くしてたかな。小道具作りの話で盛り上がったとかで」
「彩人の班って代々インターフェイスの作品出展用にラジオドラマ作ってるじゃん」
「だな」
「文芸部とかそっち方面の部とコラボして、音声作品にしてみませんかー的な話を打ち出すことだって出来そうじゃん」
「ああ、文芸部か。単純にどんなことしてんのか興味あるな。部誌とか作ってんのかな」
春休みの間のスキマ時間に、あまり大々的な設備などを必要とせずに出来そうな活動を考えるのはとても楽しい。あくまで放送部の本分はステージだけど、ステージ以外でも何か出来そうなことがあれば積極的に挑戦してみていいんじゃないかとは思う。インターフェイスじゃラジオメインの向島が映像作ってんだから、ウチだって何でも出来るよな。
「盛り上がってると思ったら、深青と彩人か」
「おーすみちる、お疲れさん」
「深青、これ学生課からの書類」
「あざす」
所沢さん直々に監査就任を打診されたのはみちるだ。監査をやるにはみちるくらいの奴じゃないとダメだとのことで。俺の知ってる限りの監査を思い浮かべてみると、マロさんは多分異例の庶民派監査で、他の人はそこはかとない恐ろしさがあるんだよな。宇部さん、所沢さん、で、みちるだろ。うん、監査ァァって感じだ。
「みちる、深青が学祭からファンフェスまでのスパンが長いから今の時期に何かやんねー? 的なこと言ってんだけどどう思う?」
「ああ、また言ってたんだ。何度も言ってるけどやるんであれば具体的な企画案を書面にして持ってきて。その上で精査して、その話を発展させるかどうか決めるから」
「有能すぎる監査様はこの調子です」
「絶対ゴローさんに振り回され過ぎた所沢さんから何らかの指導が入ってるヤツじゃん」
「でもゴローさんに振り回されてた所沢さんには源班全員が理解を示して同情してたよね」
「それもそう」
「私は別にダメとは言ってないよ。私もやれる機会があるならやりたい方だし。やりたい企画があるならきちんと提案しろっていうのは部長だけじゃなくて部員全員に言えることだし、持ってきてもらえれば幹部会議でも班長会議でも何でも開いてまず検討しますっていう話だよ。部長だろうと独断で何でもさせないのは当然の話でしょ」
「さすみち」
良くも悪くも部長の独断というのは恐ろしいものであるというのはここ数年の放送部では通説だ。ただ、みちるの言い方だと部長に限らず、やりたいことがある奴は企画を持ってくれば検討するぞっていうのは部員全員が平等にチャンスがあるってことだよな。学年や役職、パートに関わらず。それってすげーいいことだ。
「彩人、企画案通せるように話し合おう。3月までに形に出来れば4月の新歓に向けた実績にもなるし」
「そうだな。ウチの中だけで出来ることと、他の部に掛け合ってみることをまず出してみるかあ」
「最悪俺ら2人で軽音に飛び込もうぜ、ベースとキーボードで」
「マジで言ってる?」
「マジで。彩人ウチのカンさんの曲やれんだから全然イケるって」
end.
++++
ステージに前向きな部長と、本来そっち側のはずが制御側になってる書庫番のお話。
(phase3)
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