2024(02)

■今日はサキの誕生日

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「みんなの分揃ったかな? それじゃあ乾杯しよっかー。サキぃ、誕生日おめでとー、かんぱーい!」
「かんぱーい」

 今日は2月2日、サキの誕生日だ。今行われているのはサキの誕生会、昼の部。昼の部は定例会メンバーが集まって、ボウリング大会からの近頃ではお馴染みになりつつある貸部屋でのパーティー。
 運動は苦手で超インドア派のサキ誕でボウリング? となったのには、みんなでわちゃわちゃ楽しみながら祝うときはこれが一番だ、という向島勢の発案にエマが乗ったから。サキは最初反発してたけど、エマが楽しそうですこと、と言うと「エマが初めてなんだったら」と付き合ってくれたんだ。
 個人戦だと祝われてるサキが残念なことになるだろうと、アベレージを見た上でペアを組むことになったんだけど、上と下で組んだ結果奏多とのペアになったときは予想通りの暴れっぷり。チーム戦ですから負けた時は奏多さんの責任ですわよと言われてやっと納得したっぽかったけど。
 サキが投げようとしたボールが後ろにすっぽ抜けて奏多を襲ってたのとか不謹慎だけど超面白かったし、エマはホントに初めてなのかわからないくらいフォームがキレイだった。あと、彩人もボウリングの経験は少なくて、両手で恐る恐る転がしてレーンのど真ん中でビタッと止まったのは芸術だった。みんなでめっちゃ写真撮った。

「いやー、たまにやるとやっぱ楽しいなあ! なあサキちー楽しかったよなー」
「フン」
「そーかそーか、そいつは良かった」
「え、今のどう見ても無視じゃん。なーすがやん、サキ楽しんでた?」
「多分心配ないと思うけどなあ」
「俺ら発案のボウリングがやってみたら思ったより楽しかったけど、俺に楽しかったのを認めるのは負けた気になるからイヤっていうサキちーのいつものだろ。今の無視は即ち肯定よ」
「どうやったらそんな都合のいい解釈になるんだか」
「じゃあ楽しかったって素直に認めな」
「奏多以外は良かった」
「あーそうかい素直なこって」

 サキと奏多は大体こんな感じなので、何だかんだ仲良くなってるなあと思ってる。サキが言葉を選ばなくなるのは相手をある程度信用してからだし。コイツには何を言っても大丈夫だっていう相手にはなってるんだとは思う。まあ、ホントに嫌いな可能性もまあまああるっちゃあるけど。

「サキちーとすがやんてこの後夜の部もあるって話だろ? 忙しいうちが華だねえ」
「夜の部はMBCCの同期会だな。あと、第2回薪ストーブの会に向けた会議も込みで」
「他の人の誕生日でもそこまでやらないのに、何で俺の時だけ」
「それだけサキの誕生日をみんな祝いたいんだって」
「他の人と比べてなんかこう、規模がさ」
「まあMBCCなんかは誕生日は口実でみんなでわいわいしたいってメンツじゃんな。で、サキの誕生日はテストも終わって休みだからそれがやりやすいっていう。こじつけるならそんな感じ?」
「そう言われれば、ちょっとは納得出来る。でも定例会だよ」

 定例会で話が大きくなったのは、会議後に彩人が「今度サキ君の誕生日だよね」と話が振ったからなんだけど、それにまずカノン奏多の向島勢が乗ったんだよな。あと、FMにしうみで一緒に番組やってる雨竜。この3人が特にそういうのにノリノリな方だし、元々仲がいいエマも積極的な子だからあれよあれよって感じで。俺もそういうの好きだし。千颯もみんなが行くならって感じで定例会集合。

「MBCCの方は俺もちょっとは祝ってるからいいけど、定例会メンバーの誕生日なんかすがやんと彩人以外知らないんだけど」
「カノンは12月2日じゃん、千颯っていつ?」
「俺は11月15日」
「へえ、そうなんだ。エマは?」
「わたくしは12月21日生まれですのよ」
「結構近いなー。雨竜は?」
「俺は9月12日ー」

 みんなの誕生日を改めて聞く機会もなかったから、あーもーみんな過ぎてたんだなーとちょっと残念に思う。1年の時にMBCCの同期で誕生日を祝い始めた頃に「すがやんいつ?」って聞かれて「俺は5月だよー」って答えた時に「過ぎてんのかい!」ってツッコまれたけど、まさに今そんな感じ。

「おーいお前ら、ピザがあったまったぞー」
「おー、奏多サンキュー!」
「待てまだがっつくなかっすー。最初に好きなの取るのはサキちーだ」
「あそっか。サキ、どれ食う?」
「これ」
「1ピースでいいの?」
「うん。みんなも食べて」
「えー、せっかくなんだからもっと食えばいいのにー」
「カノンカノン」
「ん? どしたすがやん」

 ちょっとしたこそこそ話なので小さな声で話す。

「サキな、元々食べないっちゃ食べないけど最近ちょっと食べる量気をつけてるらしい。ほら、前に奏多に煽られたの相当ムカついたとかで」
「あー……ぷにちーな」
「そうそれ」
「あー……」
「すがやん、碌でもないこと吹き込んでないよね」

 おっと危ない。

「最近ちょっと食べる量気を付けてるんだよって話。ごめんなー」
「その程度なら普通に言ってくれて良かったのに」
「人によっては気にするかなって」
「すがやんらしい気配りだね」

 それだけなら小さい声にはしてもひそひそにはしなかったんだけど、ぷにちーの件となると、奏多への怒りをぶり返さないかなって思ったんだよ。

「サキ、メシセーブしてんの?」
「うん。ほら、番組の後とかプチメゾンに行くでしょ。食べ過ぎちゃうんだよ、おいしくて」
「あー、わかる。やたら美味いよな、ベティさんのメシ。バーじゃなくてメシ屋だったら普通に通ってるわ」

 シノも言ってたけど、サキが行っているのはやたら食事が美味しいバーだ。そこに通うようになってから食事の量が増えてしまったということだけど、食事の量そのものじゃなくて食べる時間の問題じゃないかな。サキはそれまでが食べなさすぎて、今でやっと普通くらいだと思うから。夜遅いのが多分良くないんだろうな。

「サキちー、サラダもあるけど食うか?」
「食べる」
「んじゃ、はい。これっくらいか?」
「うん。ありがと」
「他にもサラダ食う奴、そこに置いとくから好きに食えなー」
「サンキュー奏多ー」
「先程から奏多さんに働かせてばかりでしたわね」
「俺のことにはお構いなく。台所に立つのは嫌いじゃないんでね」
「そうですの。でしたら、また折を見てゆっくりしてくださいまし。何かお飲物でもいただきます? 台所でお酒を飲みながら料理をしていらっしゃる方をテレビで見ましたの。今の奏多さんもそのようなことですわよね」
「恐れ入ります。じゃあ、ジンジャーエールでももらいますかね」
「少々お待ちくださいまし」
「お前ら、今から俺特製めちゃふわパンケーキ焼くからな、美味すぎてひっくり返るなよ」
「まあ! それは楽しみですわね。ねえサキさま?」
「あー、うん、まあ」
「ですってよ。奏多さん、張り切ってお焼きになって!」
「あーかっすー! そのバニラアイスはパンケーキのトッピング用だ食うな! それではしばしご歓談を」
「口に入れたら溶けるかな、どうかな」
「めちゃふわと言うくらいですから、きっと溶けますわよ」
「いいね」

 あ、これは楽しんでるときのサキだ。心配要らなかった。夜の会でみんなにこういうことが楽しかったんだぜーってめっちゃ自慢できるな。


end.


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ボウリングの玉に襲われてる奏多は見たいし、定例会メンバーみんなでゲラゲラ笑ってるのとか絶対かわいい。
この代は定例会の方がわいガヤしてて、対策委員は比較的まったりしてるのかもしれない。

(phase3)

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