2024(02)
■まるでサンダーボルトな
++++
星大情報センターはテスト前の賑わいを見せていて、ちょっと忙しくなってるなあって感じ。それでも俺が1年の時と比べるとスタッフの層は確実に厚くなってるから、入る人がいない大変だーってわーわー騒ぎ回らなくても良くなってるのは大きい。
それでもそろそろ気にしておかなきゃいけないのは下宿組の帰省時期と、4年生のカナコさんがいつまでセンターに籍を置いておいてくれるのかというところかな。それから、来年度のスタッフ募集についても考えておかなきゃ。伊指さんにも相談しないとね。
「ミドリ先輩、プリンターの紙補充しときましたー」
「ありがとねがっくん」
「ついでに休憩に入っていいって有馬さんが言ってたんで、そのまま入っちゃいますね」
「はーい了解でーす」
秋学期が始まる前にスタッフになってくれたがっくんにとってはこれが初めてのテスト期間だ。履修登録期間とはまた違う忙しさだけど、ちゃんと捌けてきてるから安心して見ていられる。今年度になって導入されたAdobe系ソフトの扱いも学科柄バッチリなのも強いよねえ。
あと、気付いたこともひとつ。がっくんが受付にいると何となく利用者の女子が嬉しそうに見える。多分カナコさんにメロメロになってる男子と同じ現象なんだろうね。でも、怖がられないのはいいことです。べ、別にどの先輩たちのことを想像なんてしてないんですけど。
「ミドリ~」
「はーい。って、えっ?」
「開けて~」
今このセンターで俺のことをミドリって呼び捨てるのはアオくらいだけど、アオの声じゃないしもっと言えば声自体には聞き覚えがある。驚いて受付のカウンター越しに外を見ると、声の主は台車にでっかい箱をいくつか乗せてきた烏丸さんで。
「はいどうぞ」
「ありがとー。はー疲れたぁー」
「烏丸さん、急にどうしたんですか!? って言うか事務所にそんな大きい箱を持ち込まれると厄介なことになる気しかしないんですけど!」
「大丈夫だって、春山さんみたいなことは俺にはさすがに出来ないよ~。あのね、畑をやってる友達からお裾分けをもらったんだよね。で、元バイト先の子たちにでも配って来いって言われたから、配りに来たんだよ。みんな、良かったらもらってってー」
「一応中を見せてもらっていいですか?」
「どうぞー」
――と、ここまでやってようやくがっくんがきょとんとしているのに気付く。そうだ、がっくんにとって烏丸さんは謎の人だ。一応紹介はしておかないとね。
「がっくん、この人はこの間卒業したセンタースタッフのOBで、烏丸さんていうんだ」
「烏丸大地っていうんだ。今は院にいるよー」
「1年の荒島岳です。秋学期からスタッフになりました」
「ミドリはがっくんて言ってるよね。俺もがっくんて呼んでいい?」
「あっ、いいですよ。よろしくお願いします」
「で、この箱の中身ですよね」
「何ですかね。ジャガイモとか?」
「さすがの俺でもセンターにジャガイモは持ち込まないよー。今でも春山さんのジャガイモって届くんでしょ?」
「届くんですよこれが」
「だよねー。さすがに困るだろうしジャガイモじゃないよ」
自由奔放っていうイメージが強すぎる烏丸さんが、ジャガイモに埋もれてひーひー苦しむ俺たちのことを想像して気遣いをしてくれてるなんて! 林原さんに報告だ! で、改めて烏丸さんが持ってきた箱を開けてみると、中にはとんでもないものが!
「烏丸さん! これ!」
「すっご! デカッ!」
「みんなで分けて持ってってー」
「こんなに立派なキャベツをもらっちゃっていいんですか!? 烏丸さん知ってます!? 今キャベツって高騰しててなかなか手が出せないんですよ!? 1玉1000円のところだってあるって話なんですから!」
「それは友達から聞いたよ」
「はわわわ……それがこんなにたくさん、まるまると……すごいなー」
「ね。すごいですよね」
箱の中にはまるまるとしてぴっかぴかのキャベツがどどーんと鎮座していて、1箱に2つしか入らないからたくさん箱を用意することになっちゃったんだって。畑をやってるお友達さんによれば「このサイズなら1玉4キロは堅いで!」とのこと。キャベツが高騰してる原因の一つって天候不良による生育不良って聞いたけど、よほど上手く育てたんだろうなあ。
「でも、どうして畑の主はこんなにいいキャベツを配ってくれてるんですか? 自分で食べたり、道の駅とかで売ったりすればいいのに」
「その子、俺とは高専の頃からの友達で、その頃からずっと趣味で畑をやってたんだけど、星ヶ丘大学の農学部に入ってからはもっと畑の規模を大きくしたんだよね。自分で食べる分ももちろん確保はしてるけど、育てるために育ててるから、食べる以上に採れちゃうんだって」
「育てるために育てる。うーん」
「手間暇愛情をかけた分だけしっかり返してくれて、異常気象みたいなことに対応するのも楽しいっていうんだよね」
「試行錯誤みたいなことですかね?」
「そうなんじゃない? で、ひかりちゃんの畑の近所で泥棒が入るようになってさ。果物とかがごっそり盗まれちゃったって話で」
「あー、聞きますよね、梨泥棒とかマスカット泥棒とか」
「許せないよね」
「今キャベツって高いらしいじゃない? だからちょうどいい感じに育ってたし盗まれるくらいなら配っちゃえって、俺も配るの手伝えって言われて配って回ってるんだー」
「農家さんも大変ですよね、天候だけじゃなくて人の悪意とも戦わなきゃいけないなんて」
元々売るつもりで育ててないから、こうして配り歩いてるのも予定通りと言えば予定通りなんだそうだ。普段なら畑の上で置いておける物は置いておいたりするけど、今回は盗まれちゃう恐れがあったからわーっと収穫してわーっと配ってるってことらしい。台風に備えてリンゴを収穫しちゃう、みたいな雰囲気を感じるな。
「そういうことならありがたくいただきます。烏丸さん、お友達さんによろしくお願いします。わー、まるっとしたキャベツだうれしー! そうだ、センターのLINEにキャベツ取りに来てくださいって送らなきゃ」
「今ってミドリとがっくんの他に誰かいる? さすがに自習室にもいるでしょ?」
「今は有馬くんと真桜がいますね」
「わー、懐かしいなー。もうちょっと待ってていい? 2人とも話したいしー」
「いいですよー」
「ありがとねー」
「そうだがっくん」
「はい」
「がっくんて、確か林原さんから「センターには面白い人がいるぞ」って言われてここに興味を持ったって話だったよね?」
「そうですね」
「何を隠そう、俺が1年だった頃のセンターが一番スゴかったんだよ」
「がっくんてユースケとどういう関係? 害を為す物ではないよね?」
「わーっ! 烏丸さん! がっくんは林原さんがピアノを弾いてる洋食屋さんでホールのお仕事をしててそこでたまたま! たまたままかないの時間が一緒になって話してたときに情報センターのことを教えてもらってダブルワークを始めたって経緯があるくらいで害を為すとかそういうんじゃないですよ!」
「ちょっ、ミドリ怖いよ」
「烏丸さんの方が何をしでかすかわからない怖さがあるんですよ! 特に林原さんが絡むと!」
「え~? ちょっと種を守ろうとしてるだけじゃない。なのにユースケは研究に協力してくれないんだよ!」
「そりゃあ、そうでしょう……」
烏丸さんは当時のセンターの中でもなかなかぶっ飛んだ人ですよ、と紹介しようと思ったけどやっぱりやめとこう! 程良い距離から見ているくらいがちょうどの人だったね!
end.
++++
キャベツ高騰の流れでひかりファームからダイチが派遣されて、こうなる。他のメンバーともわちゃらせたいけど文字数が足りない。
ひかりはキャベツを他にも配ってるだろうからPさん経由で伊東家とかにも行ってるだろうし、いち氏のリアクションも見たかったね。
ひかりの物真似をして西の言葉になるダイチは前々から好きなヤツ。
(phase3)
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星大情報センターはテスト前の賑わいを見せていて、ちょっと忙しくなってるなあって感じ。それでも俺が1年の時と比べるとスタッフの層は確実に厚くなってるから、入る人がいない大変だーってわーわー騒ぎ回らなくても良くなってるのは大きい。
それでもそろそろ気にしておかなきゃいけないのは下宿組の帰省時期と、4年生のカナコさんがいつまでセンターに籍を置いておいてくれるのかというところかな。それから、来年度のスタッフ募集についても考えておかなきゃ。伊指さんにも相談しないとね。
「ミドリ先輩、プリンターの紙補充しときましたー」
「ありがとねがっくん」
「ついでに休憩に入っていいって有馬さんが言ってたんで、そのまま入っちゃいますね」
「はーい了解でーす」
秋学期が始まる前にスタッフになってくれたがっくんにとってはこれが初めてのテスト期間だ。履修登録期間とはまた違う忙しさだけど、ちゃんと捌けてきてるから安心して見ていられる。今年度になって導入されたAdobe系ソフトの扱いも学科柄バッチリなのも強いよねえ。
あと、気付いたこともひとつ。がっくんが受付にいると何となく利用者の女子が嬉しそうに見える。多分カナコさんにメロメロになってる男子と同じ現象なんだろうね。でも、怖がられないのはいいことです。べ、別にどの先輩たちのことを想像なんてしてないんですけど。
「ミドリ~」
「はーい。って、えっ?」
「開けて~」
今このセンターで俺のことをミドリって呼び捨てるのはアオくらいだけど、アオの声じゃないしもっと言えば声自体には聞き覚えがある。驚いて受付のカウンター越しに外を見ると、声の主は台車にでっかい箱をいくつか乗せてきた烏丸さんで。
「はいどうぞ」
「ありがとー。はー疲れたぁー」
「烏丸さん、急にどうしたんですか!? って言うか事務所にそんな大きい箱を持ち込まれると厄介なことになる気しかしないんですけど!」
「大丈夫だって、春山さんみたいなことは俺にはさすがに出来ないよ~。あのね、畑をやってる友達からお裾分けをもらったんだよね。で、元バイト先の子たちにでも配って来いって言われたから、配りに来たんだよ。みんな、良かったらもらってってー」
「一応中を見せてもらっていいですか?」
「どうぞー」
――と、ここまでやってようやくがっくんがきょとんとしているのに気付く。そうだ、がっくんにとって烏丸さんは謎の人だ。一応紹介はしておかないとね。
「がっくん、この人はこの間卒業したセンタースタッフのOBで、烏丸さんていうんだ」
「烏丸大地っていうんだ。今は院にいるよー」
「1年の荒島岳です。秋学期からスタッフになりました」
「ミドリはがっくんて言ってるよね。俺もがっくんて呼んでいい?」
「あっ、いいですよ。よろしくお願いします」
「で、この箱の中身ですよね」
「何ですかね。ジャガイモとか?」
「さすがの俺でもセンターにジャガイモは持ち込まないよー。今でも春山さんのジャガイモって届くんでしょ?」
「届くんですよこれが」
「だよねー。さすがに困るだろうしジャガイモじゃないよ」
自由奔放っていうイメージが強すぎる烏丸さんが、ジャガイモに埋もれてひーひー苦しむ俺たちのことを想像して気遣いをしてくれてるなんて! 林原さんに報告だ! で、改めて烏丸さんが持ってきた箱を開けてみると、中にはとんでもないものが!
「烏丸さん! これ!」
「すっご! デカッ!」
「みんなで分けて持ってってー」
「こんなに立派なキャベツをもらっちゃっていいんですか!? 烏丸さん知ってます!? 今キャベツって高騰しててなかなか手が出せないんですよ!? 1玉1000円のところだってあるって話なんですから!」
「それは友達から聞いたよ」
「はわわわ……それがこんなにたくさん、まるまると……すごいなー」
「ね。すごいですよね」
箱の中にはまるまるとしてぴっかぴかのキャベツがどどーんと鎮座していて、1箱に2つしか入らないからたくさん箱を用意することになっちゃったんだって。畑をやってるお友達さんによれば「このサイズなら1玉4キロは堅いで!」とのこと。キャベツが高騰してる原因の一つって天候不良による生育不良って聞いたけど、よほど上手く育てたんだろうなあ。
「でも、どうして畑の主はこんなにいいキャベツを配ってくれてるんですか? 自分で食べたり、道の駅とかで売ったりすればいいのに」
「その子、俺とは高専の頃からの友達で、その頃からずっと趣味で畑をやってたんだけど、星ヶ丘大学の農学部に入ってからはもっと畑の規模を大きくしたんだよね。自分で食べる分ももちろん確保はしてるけど、育てるために育ててるから、食べる以上に採れちゃうんだって」
「育てるために育てる。うーん」
「手間暇愛情をかけた分だけしっかり返してくれて、異常気象みたいなことに対応するのも楽しいっていうんだよね」
「試行錯誤みたいなことですかね?」
「そうなんじゃない? で、ひかりちゃんの畑の近所で泥棒が入るようになってさ。果物とかがごっそり盗まれちゃったって話で」
「あー、聞きますよね、梨泥棒とかマスカット泥棒とか」
「許せないよね」
「今キャベツって高いらしいじゃない? だからちょうどいい感じに育ってたし盗まれるくらいなら配っちゃえって、俺も配るの手伝えって言われて配って回ってるんだー」
「農家さんも大変ですよね、天候だけじゃなくて人の悪意とも戦わなきゃいけないなんて」
元々売るつもりで育ててないから、こうして配り歩いてるのも予定通りと言えば予定通りなんだそうだ。普段なら畑の上で置いておける物は置いておいたりするけど、今回は盗まれちゃう恐れがあったからわーっと収穫してわーっと配ってるってことらしい。台風に備えてリンゴを収穫しちゃう、みたいな雰囲気を感じるな。
「そういうことならありがたくいただきます。烏丸さん、お友達さんによろしくお願いします。わー、まるっとしたキャベツだうれしー! そうだ、センターのLINEにキャベツ取りに来てくださいって送らなきゃ」
「今ってミドリとがっくんの他に誰かいる? さすがに自習室にもいるでしょ?」
「今は有馬くんと真桜がいますね」
「わー、懐かしいなー。もうちょっと待ってていい? 2人とも話したいしー」
「いいですよー」
「ありがとねー」
「そうだがっくん」
「はい」
「がっくんて、確か林原さんから「センターには面白い人がいるぞ」って言われてここに興味を持ったって話だったよね?」
「そうですね」
「何を隠そう、俺が1年だった頃のセンターが一番スゴかったんだよ」
「がっくんてユースケとどういう関係? 害を為す物ではないよね?」
「わーっ! 烏丸さん! がっくんは林原さんがピアノを弾いてる洋食屋さんでホールのお仕事をしててそこでたまたま! たまたままかないの時間が一緒になって話してたときに情報センターのことを教えてもらってダブルワークを始めたって経緯があるくらいで害を為すとかそういうんじゃないですよ!」
「ちょっ、ミドリ怖いよ」
「烏丸さんの方が何をしでかすかわからない怖さがあるんですよ! 特に林原さんが絡むと!」
「え~? ちょっと種を守ろうとしてるだけじゃない。なのにユースケは研究に協力してくれないんだよ!」
「そりゃあ、そうでしょう……」
烏丸さんは当時のセンターの中でもなかなかぶっ飛んだ人ですよ、と紹介しようと思ったけどやっぱりやめとこう! 程良い距離から見ているくらいがちょうどの人だったね!
end.
++++
キャベツ高騰の流れでひかりファームからダイチが派遣されて、こうなる。他のメンバーともわちゃらせたいけど文字数が足りない。
ひかりはキャベツを他にも配ってるだろうからPさん経由で伊東家とかにも行ってるだろうし、いち氏のリアクションも見たかったね。
ひかりの物真似をして西の言葉になるダイチは前々から好きなヤツ。
(phase3)
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