2024(02)
■豊葦っ子の集い
++++
「あ」
「うっしー」
成人年齢が引き下がりはしたものの、かつての成人式は二十歳の集いと名前を変えただけで、豊葦市では現状あまり変化がなかったらしい。変わるところは成人式を18の時にやってしまうところもあるみたいだけど。というワケで今年は俺も集いに参加することになっていた。
豊葦市は、向島エリアの中でもかなりの広さだ。その広さは全国でもトップクラス。その広い範囲の二十歳を1ヶ所に集めるからとんでもない人数が来ることになる。その中で、同じ地区とか学校とかの、自分が元々知っていたワケでもない人と遭遇する確率だ。
「ササ、先輩。やないですか」
「そっか、実年齢はタメだっけ」
「そーすね」
「って言うかこんな場だし、俺はうっしーの大学の先輩でもないから普通に呼び捨てタメ語の方が違和感ないかも。そっちで頼んでいい?」
「ええよ」
うっしーは向島の1年生で、高卒で1年間プログラマーとして働いていたという経歴がある。夏合宿で玲那と同じ班だったので簡単に話には聞いていたけど、“イキリ隠キャのお喋り袋”というキャッチフレーズは上手いこと付けたよ本当に、と感心していたのをよく覚えている。
「今となっては知っとる奴もおらんと思っとったし、まさかこんなトコで中途半端に知っとる人と会うと思わんかったわ」
「友達とかは」
「イキリ隠キャの友達がこんなトコに来るかい。数も少ないんやぞ」
「そっか」
「そーゆー自分はどーなん。そんなイケメンを誰もほっとかんやろ。いかにもクラスの一軍、人気者的な?」
「クラスの一軍とか人気者って、口が回ってノリのいい奴の方が多くないか? ほら、松兄みたいな。俺は口数はそこまでだし」
「確かに兄貴はクラスでも目立つ方やろうし、ササはクールでミステリアスな方には見えるな」
周りでは懐かしい顔と再会を喜び合う輪なんかもあるけど、自分たちはそうでもなく。一応来てみたものの、まあ、特に誰と話したいとかそういうことも無く。それこそ松兄とかすがやんみたいな感じでいれればこういう場でも楽しく過ごせたのかなとか、そういうことを思ってしまう。
「式典ダルいわー」
「ちょっと思う」
「ペナルティないなら帰りたいわ」
「うっしー、この近所?」
「俺は市駅らへんやけど、もーちょっと大学寄りやな。自分は?」
「松開」
「ほー、じゃあマジで緑ヶ丘はほぼ道なりやな」
「そうそう。原付で通いやすいのが魅力」
「あ、自分も原付なん」
「豊葦市内でほぼ完結するしと思って」
「わかるわー。俺も原付なんよ。あっ、そーいや原付の冬タイヤどーしとる?」
「冬タイヤをどうするかは考えたことなかったな」
「俺もな、最初は考えたことなかってんけど、とりぃ先輩が、すがやん先輩のお袋さんが「豊葦に行くならスタッドレスを履け」ゆーてゆーとったっつって冬タイヤちゃんと装備しとるらしいねんな。で、確かに市駅の方ならそうでもないけど俺らの大学の方って山やん? 凍るかもなー思て冬タイヤ用意したらすぐ坂がバリバリなっとってな。緑ヶ丘も山やろ? あった方がええよ」
「そう言われたらそんな気がしてきた。家帰ったらさっそく調べてみる。教えてくれてありがとう」
「はえー、自分ホンマええ奴やなあ」
確かにタイヤの件はMBCCでもやったことがあったけど、すがやんも「親の言うことは聞いとくものだと思った」と言っていたのを思い出す。原付にも冬タイヤという概念があることを知ったので、今年はきちんと用意してもいいのかもしれない。シノにも相談してみよう。このテのことは強そうだし。
「うっしー」
「何や?」
「式典長そうだし、抜け出してご飯でも行く?」
「はー、優等生っぽい方からその誘いか。ええよ。どこ行く?」
「って言っても、俺の当てなんて近所のうどん屋くらいしかないんだけど。うっしーの方がいろいろ知って」
「いや! そこはうどん屋へ行こう!」
「食い気味だなー……ちょっとびっくりした」
「すまんな。俺はうどんに目がないんよ」
「そうなんだ」
「松開の方なんか通過するくらいで滅多に行かんし、そのうどん屋にぜひ案内してくれ。で、もし俺らがそこで意気投合すれば、今度は俺の知っとるうどん屋に連れてったるわ。ま、ササが食べるメニューは指定させてもらうけどな!」
「あ。あれだろ。向島で登竜門って言われてるヤツだろ。すがやんから話に聞いてるぞ。満腹セットだっけ?」
「何や、知っとるんか。おもろないわ。そこは知っとっても知らんフリしとくトコやろ」
「なんかごめん」
多分、所謂“クラスの一軍”とか“人気者”であればこういうところで対応を間違えていないと思うので、俺は友達こそいたけど中心人物というほどでもなく、みんなでワイワイと言うよりはパートナーとの時間を選んでいたんだなと思い起こされる。
「ま、ええわ。知っとるなら話早いわ。あれに挑んでみ?」
「言っとくけど、俺はまあまあ食べる方だからな」
「まあまあってどれくらいよ」
「とりぃと同じかちょっと少ないくらいじゃないかな。ちなむと、すがやんとカノンでギリギリなら俺とかシノは余裕かな」
「何や、確定で食いきれるんか! じゃあホンマにただのメシやん! でもたなべのうどんはちゃんと美味いからマジで食う価値ある。コスパ最強なんよ」
そんなことを話していると式典を抜け出すタイミングを逃しそうなので、抜けるならさっさと抜けてしまう。それまで人の多いむわっとした場所にいたから、外の空気が本当に新鮮で美味しい。少し悪いことをしている気分だけど、それもまた二十歳の集いの思い出としてはいい味を出している。
「来るときも思ったけど、スーツのままで原付に乗るのも変な感じがする」
「俺はスーツ自体ええ記憶ないからな。ブラック時代の囚人服や」
「じゃあ着替えてから行く?」
「別にええよ。ええ記憶はないけど体には馴染んどる」
「うっしーの話もいろいろ聞きたいな」
「そんなおもろいことないぞ」
「いや、面白そうだと思うけど。最近始めたカメラの話とか」
「そっちかいな。暗黒の1年の話ちゃうんかい。自分さてはええ奴やけど変な奴でもあるな?」
end.
++++
実は共通点ちょこちょこあったササうし。どんな話するんだろと思った結果。
共通の知り合いとしてレナとジュンもいるし、会話自体はちょっと弾みそうかな。否応なくうっしーがツッコミだろう。
ササの地元にはいち氏絡みの話で名前をどっかで付けていたけど忘れたので改めて付ける。松開(まつひら)です。
(phase3)
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++++
「あ」
「うっしー」
成人年齢が引き下がりはしたものの、かつての成人式は二十歳の集いと名前を変えただけで、豊葦市では現状あまり変化がなかったらしい。変わるところは成人式を18の時にやってしまうところもあるみたいだけど。というワケで今年は俺も集いに参加することになっていた。
豊葦市は、向島エリアの中でもかなりの広さだ。その広さは全国でもトップクラス。その広い範囲の二十歳を1ヶ所に集めるからとんでもない人数が来ることになる。その中で、同じ地区とか学校とかの、自分が元々知っていたワケでもない人と遭遇する確率だ。
「ササ、先輩。やないですか」
「そっか、実年齢はタメだっけ」
「そーすね」
「って言うかこんな場だし、俺はうっしーの大学の先輩でもないから普通に呼び捨てタメ語の方が違和感ないかも。そっちで頼んでいい?」
「ええよ」
うっしーは向島の1年生で、高卒で1年間プログラマーとして働いていたという経歴がある。夏合宿で玲那と同じ班だったので簡単に話には聞いていたけど、“イキリ隠キャのお喋り袋”というキャッチフレーズは上手いこと付けたよ本当に、と感心していたのをよく覚えている。
「今となっては知っとる奴もおらんと思っとったし、まさかこんなトコで中途半端に知っとる人と会うと思わんかったわ」
「友達とかは」
「イキリ隠キャの友達がこんなトコに来るかい。数も少ないんやぞ」
「そっか」
「そーゆー自分はどーなん。そんなイケメンを誰もほっとかんやろ。いかにもクラスの一軍、人気者的な?」
「クラスの一軍とか人気者って、口が回ってノリのいい奴の方が多くないか? ほら、松兄みたいな。俺は口数はそこまでだし」
「確かに兄貴はクラスでも目立つ方やろうし、ササはクールでミステリアスな方には見えるな」
周りでは懐かしい顔と再会を喜び合う輪なんかもあるけど、自分たちはそうでもなく。一応来てみたものの、まあ、特に誰と話したいとかそういうことも無く。それこそ松兄とかすがやんみたいな感じでいれればこういう場でも楽しく過ごせたのかなとか、そういうことを思ってしまう。
「式典ダルいわー」
「ちょっと思う」
「ペナルティないなら帰りたいわ」
「うっしー、この近所?」
「俺は市駅らへんやけど、もーちょっと大学寄りやな。自分は?」
「松開」
「ほー、じゃあマジで緑ヶ丘はほぼ道なりやな」
「そうそう。原付で通いやすいのが魅力」
「あ、自分も原付なん」
「豊葦市内でほぼ完結するしと思って」
「わかるわー。俺も原付なんよ。あっ、そーいや原付の冬タイヤどーしとる?」
「冬タイヤをどうするかは考えたことなかったな」
「俺もな、最初は考えたことなかってんけど、とりぃ先輩が、すがやん先輩のお袋さんが「豊葦に行くならスタッドレスを履け」ゆーてゆーとったっつって冬タイヤちゃんと装備しとるらしいねんな。で、確かに市駅の方ならそうでもないけど俺らの大学の方って山やん? 凍るかもなー思て冬タイヤ用意したらすぐ坂がバリバリなっとってな。緑ヶ丘も山やろ? あった方がええよ」
「そう言われたらそんな気がしてきた。家帰ったらさっそく調べてみる。教えてくれてありがとう」
「はえー、自分ホンマええ奴やなあ」
確かにタイヤの件はMBCCでもやったことがあったけど、すがやんも「親の言うことは聞いとくものだと思った」と言っていたのを思い出す。原付にも冬タイヤという概念があることを知ったので、今年はきちんと用意してもいいのかもしれない。シノにも相談してみよう。このテのことは強そうだし。
「うっしー」
「何や?」
「式典長そうだし、抜け出してご飯でも行く?」
「はー、優等生っぽい方からその誘いか。ええよ。どこ行く?」
「って言っても、俺の当てなんて近所のうどん屋くらいしかないんだけど。うっしーの方がいろいろ知って」
「いや! そこはうどん屋へ行こう!」
「食い気味だなー……ちょっとびっくりした」
「すまんな。俺はうどんに目がないんよ」
「そうなんだ」
「松開の方なんか通過するくらいで滅多に行かんし、そのうどん屋にぜひ案内してくれ。で、もし俺らがそこで意気投合すれば、今度は俺の知っとるうどん屋に連れてったるわ。ま、ササが食べるメニューは指定させてもらうけどな!」
「あ。あれだろ。向島で登竜門って言われてるヤツだろ。すがやんから話に聞いてるぞ。満腹セットだっけ?」
「何や、知っとるんか。おもろないわ。そこは知っとっても知らんフリしとくトコやろ」
「なんかごめん」
多分、所謂“クラスの一軍”とか“人気者”であればこういうところで対応を間違えていないと思うので、俺は友達こそいたけど中心人物というほどでもなく、みんなでワイワイと言うよりはパートナーとの時間を選んでいたんだなと思い起こされる。
「ま、ええわ。知っとるなら話早いわ。あれに挑んでみ?」
「言っとくけど、俺はまあまあ食べる方だからな」
「まあまあってどれくらいよ」
「とりぃと同じかちょっと少ないくらいじゃないかな。ちなむと、すがやんとカノンでギリギリなら俺とかシノは余裕かな」
「何や、確定で食いきれるんか! じゃあホンマにただのメシやん! でもたなべのうどんはちゃんと美味いからマジで食う価値ある。コスパ最強なんよ」
そんなことを話していると式典を抜け出すタイミングを逃しそうなので、抜けるならさっさと抜けてしまう。それまで人の多いむわっとした場所にいたから、外の空気が本当に新鮮で美味しい。少し悪いことをしている気分だけど、それもまた二十歳の集いの思い出としてはいい味を出している。
「来るときも思ったけど、スーツのままで原付に乗るのも変な感じがする」
「俺はスーツ自体ええ記憶ないからな。ブラック時代の囚人服や」
「じゃあ着替えてから行く?」
「別にええよ。ええ記憶はないけど体には馴染んどる」
「うっしーの話もいろいろ聞きたいな」
「そんなおもろいことないぞ」
「いや、面白そうだと思うけど。最近始めたカメラの話とか」
「そっちかいな。暗黒の1年の話ちゃうんかい。自分さてはええ奴やけど変な奴でもあるな?」
end.
++++
実は共通点ちょこちょこあったササうし。どんな話するんだろと思った結果。
共通の知り合いとしてレナとジュンもいるし、会話自体はちょっと弾みそうかな。否応なくうっしーがツッコミだろう。
ササの地元にはいち氏絡みの話で名前をどっかで付けていたけど忘れたので改めて付ける。松開(まつひら)です。
(phase3)
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