2024(02)

■ある施設は使おう

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「あーっ、シノだ! おはよー!」
「おーすくるみ、おはー」

 年が明けると大学の施設も通常開放されて、あたしは待ってましたとばかりにジムに行く。年末年始でお休みの間は大学の施設も閉まってるし、体を動かそうにもどうしようかなって。仕方ないから近所の簡単なジムの会員登録してみたけど、誘惑ばっかりでダメだ~ってなった。
 今日の運動を終えて体育施設の方から講義棟の方に戻ると、図書館の前でシノと会った。シノは夏の光熱費の節約が目的で図書館を使うようになったそうなんだけど、難しい本ばっかりじゃなくて一般的な雑誌もあると知ってからは車とかバイクの雑誌を読みに行くようになったんだって。

「くるみ、またジム行ってた感じ?」
「もー、やっと施設開いてくれて嬉しいよ!」
「ホントよくやるよな」
「でも、体動かしてミドカのポイントももらえてって、お得しかなくない? 3年生に上がったらまた教科書買わなきゃだし」

 緑ヶ丘大学でだけ使える学内電子マネーのシステムがミドカ。学生証と一緒になってて、ポイントは10円0.1ポイントから。食堂やスポーツ用品店、保健センターといった学内全施設で使えて、ポイントだっていろんな場所で使えちゃう。
 ジムでは定期的にポイント○倍キャンペーンをやってて、あたしはよくその恩恵を受けてる。今年の教科書販売だってミドカに貯まった9000ポイントをどーんと使って得しちゃった。これにはみんな驚いてたな。普通に大学生活を送るより圧倒的にポイントが貯まるもんね。

「シノはまた図書館?」
「だな。最近は昔の雑誌読むのにハマってる」
「昔の雑誌? バックナンバー的な?」
「的な。何なら俺らが生まれる前の雑誌とかもあって、昔ってこんな感じだったんだーみたいな発見があってめちゃ楽しい」
「へー、いいね! あたしも図書館使ってみようかなあ? でも好きな本あるかなあ」
「あ、そうだ。クリスマス前だったかな、特集のコーナーでチラッと見てくるみ好きそーって思った本があってさ」
「えっ、ナニナニ教えてー」
「何だったかな、西洋菓子の歴史? みたいな本。目次だけチラ見したんだけど、何のお菓子はどこの発祥で、どうやって生まれて、どういう時に食われて~みたいな? 何かそんなようなことが書いてそうな本」
「えっ、絶対好きじゃん! そういうのもあるんだ!? ありがとシノ、今度探してみるよ!」

 あたしは基本的にコンビニスイーツを追ってるんだけど、コンビニスイーツも小さな田舎の伝統菓子を再現しましたーみたいなのがあったりして、元ネタを勉強するのも大事だよねって思ってたんだよね。でもまさかそういう本のことをシノから教えてもらうのも変な感じ。
 シノと言えば、勉強嫌いで、本を全然読まなくって、テスト前とかにはササに助けを求めてるってイメージが強いんだよね。でも光熱費節約のためとは言え図書館通いをしてるくらいだし、読んでるのが雑誌だったとしても実はあたしより全然読書量は多いのかも。

「つかさ、図書館の利用でもミドポもらえたりしねーかなー」
「あー、図書館は確かもらえないんだよね」
「そーそー。ジムは体動かして健康になってて、図書館は本読んで学習してんだから一緒じゃね? 本1冊読んだり借りたりしたら10ポイント! みてーな」
「読むのはともかく借りて10ポイントは不正し放題じゃない? 借りて読まずに返しても10ポイントになっちゃいそうな?」
「そっか、抜け穴が多いのか」
「そうそう。ジムは体を動かした分がちゃんと数字になってるから、ポイント換算しやすいんだと思う」
「ちぇー。ちゃんと本読んでるのになー」

 例えば、借りた本の感想や要約をどれだけ書いたら10ポイント! とかだとちゃんと読まなきゃ書けないだろうから……と思ったけど、AIに書いてもらうことも出来ちゃうのか。うーん、自分で言ってて難だけどホントに不正し放題になっちゃいそうだね。

「そういやさ、ジムって1回使うのにいくらかかんの?」
「緑大生は1回200円だけど、来年度からはタダになるって話だよ」
「タダ!?」
「声がひっくり返ったねー」
「いや、だってジム使うのがタダになってその上ミドポまでもらえてって、単純にヤバくね?」
「ヤバいよ。だからただただ払ってもらってる学費の回収だよね」
「ヤッベー……だってその辺のジムって、どんだけ安くても月3000円とかは行くじゃんな?」
「そうだねー。それに入会費とかカギの代金とかいろいろ追加費用があるって話だよ」
「だろ? 何なんだよ緑ヶ丘大学……そんだけ金余ってんなら学費もうちょい安くしてくれたっていいだろ」

 受験シーズンになるとテレビやネット広告で緑ヶ丘大学のCMがバンバン流れるし、星港市の市民会館だってネーミングライツで「緑ヶ丘大学文化市民会館」って名前になってる。集めてるんだな~って思っちゃうよね。だからせめて施設を使ってちょっとでも回収しなきゃって。
 ジムの利用料金がタダになる話については、これが話題になって人が増えて、満員になったりしなきゃいいんだけどなあっていう心配があったりする。ミドカのポイント○倍キャンペーンもジムでしか告知されてないし、穴場的施設だからね。内緒にしておきたさもちょっと。

「でもなー、図書館で本をいっぱい読んでシノが賢くなっちゃったらバカなのあたしだけになっちゃうよー。仲間でいようよシノ」
「俺はバカだけどくるみは別にバカじゃなくね? ササとサキはマジでバランス良く頭いいけど、レナとすがやんは得意分野にギュンッなってる感じだし」
「確かにレナとすがやんは得意分野にギュンッ! だけどねー。でもね、レナはわかんないけど少なくともすがやんは典型的な文系と見せかけて実は数字扱うの得意だったり理系的な勉強も好きだし、ササとかサキほどじゃないにせよバランス良く土台が固まった上でギュンッ! だから学力グラフの総面積が実はサササキより大きい説あるんだよ。それでなくたってとりぃの話をハテナ浮かべずに聞けるんだよ!?」
「確かに、そう言われたら一番ヤバいのはすがやんな気がしてきた。今更ながらに意味わかんねーもんな、はにわ展って」
「はにわサブレは可愛かったけどね。でも趣味で星大ミュージアムの講座とか受けに行く人だよ!? 一番ヤバいのはすがやんだよ! 確信した!」
「教科書販売の時もそんな話してたなそーいや。教科書に指定されてる本を指定される前から趣味で買ってたとか」

 あたしたちは趣味特化型でがんばろーねー、という結論で着地。あたしはスイーツ、シノは車の知識で戦っていければいいよね。で、あたしはスイーツを食べてレビューするのも活動の一環だから、太りすぎないようにきちんと運動をしなきゃいけないワケで。スイーツの歴史の勉強は、テストが終わってから本腰を入れよう。

「ゼミでも個人研究のテーマを考え始めろみたいなこと言われてるし、やっぱ俺は車関係で攻めるかなー。それが一番取っつきやすいし、そうじゃねーと1万字も書けねーよ」
「だよね、好きなことに関係しないとムリムリ。そうじゃないとあたしも体なんて動かせないよ。好きだから続くんだよ」


end.


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この手の話を始めると流れ弾が飛んで来がちなすがやん。
冬は冬で家の暖房つけたくないって理由で図書館に入り浸りそうだねシノは。

(phase3)

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