2024(02)
■ぐつぐつしみしみ
++++
「おおーっ」
「さすが塩見さん、凄いお肉ですね」
「忘年会のビンゴ大会で当てたヤツだな。だからお前らも遠慮せずに食え。俺主催の場では遠慮も気遣いも要らねえ。ただ食いたいだけ食う、それだけだ」
今年で3回目になる塩見さん主催の焼き肉大会。今年は会社のメンバー5人に加えて2年前まで派遣で来ていた伊東さんに、塩見さんの知り合いで自動車整備工をしている鳥居さん、そしてバンドマンの壮馬が参加している。
すき焼きは毎年牛肉の周りを輪切りのネギを並べて埋める魯山人スタイルと決まっている。元々このすき焼き大会は塩見さんと伊東さんの雑談の中から生まれた物で、肉が主食の塩見さんと、薬味狂の伊東さんの嗜好がピッタリハマる奇跡のすき焼きだ。
本来すき焼きの間にご飯を食べたりすることを邪道だとする塩見さんが、俺に対しては白いご飯を食べることを許してくれた。食べるのであれば自分で用意しろと言われたので、塩見さん宅の炊飯器で5合のご飯を炊かせてもらっている。
「えっ、高沢さん同棲始めたんですか!? 結婚まで秒読みですね!」
「まあ、来年頃を目処に計画してるところかな」
「アタシ弟の結婚準備見てたんで何となくわかるんですけど、準備もいろいろ大変ですよね、お察しします」
「あれ、伊東さんの弟君って確か万里と友達じゃなかったっけ」
「そうですね、バスケ部で。とは言ってもウチのはにわかですけど」
「カズの結婚はなー。いつかするとは思ってたけど早いし衝撃だったっすよ、マジで」
伊東さんは2年前まで人材派遣でウチの会社に来れるときは来ていたので、前々からいる社員さんとは普通に顔馴染み。高沢さんが結婚に向けて同棲を始めたという話は最近のことなので、その話にビックリしながらも祝福している。
「えっと、伊東さんは人材派遣でちょっと前まで来られてた人で、高沢さんとも普通にお喋り出来る程度には馴染んでたんですね」
「ああ。ミヤは並の人材とはワケが違う。千景に仕事の基礎を教えたのも実質的にはミヤだ。千景が大らかな性格の割に仕事の面で細かいところにシビアなのはミヤの影響だな」
「へー、そうなんですねー。大石さんの先輩って響きが本当に凄い人なんだなって思います」
「先にいた方が先輩って理屈であれば、ミヤは圭佑よりも先にいたし、何なら圭佑よりも千景の方が会社にいたの自体は先だぞ」
「えーっ! そうなんですかー」
内山さんは本当に今年初めてこの会社に関わった人だから、人材派遣がどうしたとか、俺のバイト時代がどうしたということは全く知らない。確かに塩見さんの言うように、会社にいたの自体は俺の方が1ヶ月ほど早い。でも、高沢さんはフルタイムの正社員だから毎日来てたし、俺はバイトだから就労日数や時間は段違い。仕事をする上ではやっぱり社員の経験値でしか測れないことは多い。
「つか拓馬さんの肉ヤバ過ぎっす。その後で俺買ってきた肉って大分グレード落ちますよさすがに」
「悲観するな真宙。俺の肉はたまたまもらったモンで、今日のすき焼きはお前とお前の肉があってこそだ。大体、俺とお前が好きに食って他の連中も食えるだけの量を用意するならそうなる」
「美味しいお肉も美味しいけど、美味しいお肉のダシを吸ったネギはもーっと美味しいですからね」
「お前は相変わらずネギに着地すんな」
「さあさあ高級牛肉ちゃん、ダシを出すのです」
1回目の煮込みでは、塩見さんが忘年会のビンゴで当てた高級牛肉を詰める。それ以降は鳥居さんがコヌトコで買ってきてくれたお肉をそれはもう無遠慮にガーッと詰めて煮込んでいくことになっている。もちろんネギも伊東さんの主食なのでたくさん用意されててボウルが山盛りてんこ盛り状態だ。
「……えっと、肉はいいのか? ネギが食べたい感じ?」
「お肉もちょっとは食べますけど、アタシはネギが食べたくてこのすき焼きをやってるんですよ。あっ、真宙さんもいい感じになったらネギ食べてくださいね。アタシが家で育てたネギなんですよ」
「あ、おう。食べ時になったら教えて。えっと、名前何だっけ」
「伊東美弥子です。今は他の会社で働いてますけど、2年前までたまにオミさんの会社でお世話になってたんですよ」
「鳥居真宙。家の自動車整備工場で整備士やってる」
「えっすごい。カッコいいですね! アタシ弟がバイク乗っててたまに近くで見せてもらうんですけど、ああいう複雑な機械類? 好きだしカッコいいなとは思うけど自分ではなかなかイジれないでしょ。だからそれを仕事にしてるって専門性高くて凄いなって思うんですよ。中身の、ソフトの方ならメチャクチャ頑張ればイケるかなって思うんですけど」
「ああ、まあ、ガキの頃から車も好きだったし、家を継ぐモンだと思ってたから」
「家業があるとそうなってくるんですね。あっ、弟の話なんですけど、将来的に、チャンスがあれば電車の運転も出来るようになりたいって言ってるんですよ。真宙さん的にそういう乗り物ってどうです?」
「電車はノーマークだったな。弟、鉄道関係?」
「ですね」
「でも俺は運転より整備の方かな」
「ああー、やっぱりそうなるんですねー……ってちかちゃん! あんまりネギ取りすぎちゃダメだよ!」
「とりあえず3つでやめときます!」
「ならよし。ネギ自体はまだまだあるけど他の人にも食べてもらわなきゃなんだから」
伊東さんの視野は広い。鳥居さんとお喋りをしながらでも鍋の縁からネギをひょいひょい摘んでいた俺の動きは見逃していなかった。とは言え俺の主食はご飯なので、ネギばかりをいくつももらうつもりもなかった。3つで止めると言ったのも、釘を差されたからじゃない。俺はネギよりはお肉が食べたい。忘年会ビンゴの高級牛肉が。
「まずは牛肉を、っと。んー、おいし。で、次に、肉とネギをご飯の上に載せてっと。おー……これは美味しい。内山さんも肉とネギとご飯を一緒に食べてみたらいいよ。美味しいよ」
「って言うかそれ、牛丼じゃないですか?」
「あ」
「高級なお肉を大衆の食事にしちゃうのも贅沢の形ですよね。アタシもやってみようかな。アタシはつゆだくで、っと。卵も乗せちゃえ」
「ああーっ、内山さんそれは強いよ! 俺もやります! 塩見さん卵もらいますね!」
「千景、内山。米を食うことを許しはしたがあくまで肉を食う会だぞ」
「大丈夫です塩見さん、肉だくにもしますから」
「ならまあ」
「おい内山、お前肉だくにするなら2回戦以降でやれ。高級肉独占するな。みんなに行き届かないだろ」
「すみません越野さん。でももう作っちゃいました。戻すワケにもいかないです」
「ったく」
「まあまあ越野。お前風に言えば内山の体作りのためだ。それだけ食ったからには年末のプチ爆発の現場でも動いてもらおう」
「ですね」
「えーっ!? アタシは事務員ですー!」
end.
++++
高級肉で容赦なく牛丼作っちゃうウッチーが可愛い。
あと真宙さんと姉ちゃんがちょっと喋ってんだけど、そこからどう発展するのか。
(phase3)
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「おおーっ」
「さすが塩見さん、凄いお肉ですね」
「忘年会のビンゴ大会で当てたヤツだな。だからお前らも遠慮せずに食え。俺主催の場では遠慮も気遣いも要らねえ。ただ食いたいだけ食う、それだけだ」
今年で3回目になる塩見さん主催の焼き肉大会。今年は会社のメンバー5人に加えて2年前まで派遣で来ていた伊東さんに、塩見さんの知り合いで自動車整備工をしている鳥居さん、そしてバンドマンの壮馬が参加している。
すき焼きは毎年牛肉の周りを輪切りのネギを並べて埋める魯山人スタイルと決まっている。元々このすき焼き大会は塩見さんと伊東さんの雑談の中から生まれた物で、肉が主食の塩見さんと、薬味狂の伊東さんの嗜好がピッタリハマる奇跡のすき焼きだ。
本来すき焼きの間にご飯を食べたりすることを邪道だとする塩見さんが、俺に対しては白いご飯を食べることを許してくれた。食べるのであれば自分で用意しろと言われたので、塩見さん宅の炊飯器で5合のご飯を炊かせてもらっている。
「えっ、高沢さん同棲始めたんですか!? 結婚まで秒読みですね!」
「まあ、来年頃を目処に計画してるところかな」
「アタシ弟の結婚準備見てたんで何となくわかるんですけど、準備もいろいろ大変ですよね、お察しします」
「あれ、伊東さんの弟君って確か万里と友達じゃなかったっけ」
「そうですね、バスケ部で。とは言ってもウチのはにわかですけど」
「カズの結婚はなー。いつかするとは思ってたけど早いし衝撃だったっすよ、マジで」
伊東さんは2年前まで人材派遣でウチの会社に来れるときは来ていたので、前々からいる社員さんとは普通に顔馴染み。高沢さんが結婚に向けて同棲を始めたという話は最近のことなので、その話にビックリしながらも祝福している。
「えっと、伊東さんは人材派遣でちょっと前まで来られてた人で、高沢さんとも普通にお喋り出来る程度には馴染んでたんですね」
「ああ。ミヤは並の人材とはワケが違う。千景に仕事の基礎を教えたのも実質的にはミヤだ。千景が大らかな性格の割に仕事の面で細かいところにシビアなのはミヤの影響だな」
「へー、そうなんですねー。大石さんの先輩って響きが本当に凄い人なんだなって思います」
「先にいた方が先輩って理屈であれば、ミヤは圭佑よりも先にいたし、何なら圭佑よりも千景の方が会社にいたの自体は先だぞ」
「えーっ! そうなんですかー」
内山さんは本当に今年初めてこの会社に関わった人だから、人材派遣がどうしたとか、俺のバイト時代がどうしたということは全く知らない。確かに塩見さんの言うように、会社にいたの自体は俺の方が1ヶ月ほど早い。でも、高沢さんはフルタイムの正社員だから毎日来てたし、俺はバイトだから就労日数や時間は段違い。仕事をする上ではやっぱり社員の経験値でしか測れないことは多い。
「つか拓馬さんの肉ヤバ過ぎっす。その後で俺買ってきた肉って大分グレード落ちますよさすがに」
「悲観するな真宙。俺の肉はたまたまもらったモンで、今日のすき焼きはお前とお前の肉があってこそだ。大体、俺とお前が好きに食って他の連中も食えるだけの量を用意するならそうなる」
「美味しいお肉も美味しいけど、美味しいお肉のダシを吸ったネギはもーっと美味しいですからね」
「お前は相変わらずネギに着地すんな」
「さあさあ高級牛肉ちゃん、ダシを出すのです」
1回目の煮込みでは、塩見さんが忘年会のビンゴで当てた高級牛肉を詰める。それ以降は鳥居さんがコヌトコで買ってきてくれたお肉をそれはもう無遠慮にガーッと詰めて煮込んでいくことになっている。もちろんネギも伊東さんの主食なのでたくさん用意されててボウルが山盛りてんこ盛り状態だ。
「……えっと、肉はいいのか? ネギが食べたい感じ?」
「お肉もちょっとは食べますけど、アタシはネギが食べたくてこのすき焼きをやってるんですよ。あっ、真宙さんもいい感じになったらネギ食べてくださいね。アタシが家で育てたネギなんですよ」
「あ、おう。食べ時になったら教えて。えっと、名前何だっけ」
「伊東美弥子です。今は他の会社で働いてますけど、2年前までたまにオミさんの会社でお世話になってたんですよ」
「鳥居真宙。家の自動車整備工場で整備士やってる」
「えっすごい。カッコいいですね! アタシ弟がバイク乗っててたまに近くで見せてもらうんですけど、ああいう複雑な機械類? 好きだしカッコいいなとは思うけど自分ではなかなかイジれないでしょ。だからそれを仕事にしてるって専門性高くて凄いなって思うんですよ。中身の、ソフトの方ならメチャクチャ頑張ればイケるかなって思うんですけど」
「ああ、まあ、ガキの頃から車も好きだったし、家を継ぐモンだと思ってたから」
「家業があるとそうなってくるんですね。あっ、弟の話なんですけど、将来的に、チャンスがあれば電車の運転も出来るようになりたいって言ってるんですよ。真宙さん的にそういう乗り物ってどうです?」
「電車はノーマークだったな。弟、鉄道関係?」
「ですね」
「でも俺は運転より整備の方かな」
「ああー、やっぱりそうなるんですねー……ってちかちゃん! あんまりネギ取りすぎちゃダメだよ!」
「とりあえず3つでやめときます!」
「ならよし。ネギ自体はまだまだあるけど他の人にも食べてもらわなきゃなんだから」
伊東さんの視野は広い。鳥居さんとお喋りをしながらでも鍋の縁からネギをひょいひょい摘んでいた俺の動きは見逃していなかった。とは言え俺の主食はご飯なので、ネギばかりをいくつももらうつもりもなかった。3つで止めると言ったのも、釘を差されたからじゃない。俺はネギよりはお肉が食べたい。忘年会ビンゴの高級牛肉が。
「まずは牛肉を、っと。んー、おいし。で、次に、肉とネギをご飯の上に載せてっと。おー……これは美味しい。内山さんも肉とネギとご飯を一緒に食べてみたらいいよ。美味しいよ」
「って言うかそれ、牛丼じゃないですか?」
「あ」
「高級なお肉を大衆の食事にしちゃうのも贅沢の形ですよね。アタシもやってみようかな。アタシはつゆだくで、っと。卵も乗せちゃえ」
「ああーっ、内山さんそれは強いよ! 俺もやります! 塩見さん卵もらいますね!」
「千景、内山。米を食うことを許しはしたがあくまで肉を食う会だぞ」
「大丈夫です塩見さん、肉だくにもしますから」
「ならまあ」
「おい内山、お前肉だくにするなら2回戦以降でやれ。高級肉独占するな。みんなに行き届かないだろ」
「すみません越野さん。でももう作っちゃいました。戻すワケにもいかないです」
「ったく」
「まあまあ越野。お前風に言えば内山の体作りのためだ。それだけ食ったからには年末のプチ爆発の現場でも動いてもらおう」
「ですね」
「えーっ!? アタシは事務員ですー!」
end.
++++
高級肉で容赦なく牛丼作っちゃうウッチーが可愛い。
あと真宙さんと姉ちゃんがちょっと喋ってんだけど、そこからどう発展するのか。
(phase3)
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