2024(02)
■Our generation
++++
「えっと……これが……。……いつのだろう」
「えーっと、これはこーたのヤツだから割と最近だな。で、こっちが律の……1年の時のか。じゃあこの辺のは割と最近だな」
床に散らばったMDを、ツッツと野坂先輩が分類し直している。そのMDを保管していた棚も、板が外れてバラバラになってしまった。30分ほど前のことになるだろうか、ジュンが年末特番の作品制作の作業をしていると、サークルのOBを自称する三井という男がやってきた。今のMMPがどんな風に活動をしているのかを抜き打ちでチェックしに来たと。突然何事だと、場にいた俺たち1年は驚いた。
その男は、まず今年になって導入したパソコンを見るやいなや、そんな物を使うなんてとんでもないというようなことを言った。そして、それを使って映像作品を作っていると知ると、MMPはラジオの活動を高いレベルでやるべき団体なのに、映像など言語道断だと喚く。挙句、FMにしうみで番組を始めるジュンに対して攻撃を始めた。
ジュンへの暴言、誹謗中傷はどんどんエスカレートしていった。その中で、男はパソコンを使ったり映像作品に手を出して、コミュニティラジオの番組に参加することが軽薄だと罵った。自分たちの時代はプロ志向の意識を高く持ち、ラジオの技術を高めることだけを考えていた。その中でも自分が一番技術も意識も高かった。その自分が言っているのだから従え、感謝しろと。
「あー…! スポドリうめー!」
「本当に大丈夫かうっしー」
「へーきへーき。俺が無能の大卒が地雷っつったんウソやなかったやろ? ンなことより殿のかき揚げうどんよ」
その男の態度が、恐らくはうっしーのトラウマを刺激したのだろう。口だけが達者で、能力も無いのに給料だけは仕事の出来る高卒よりも高い大卒。あるいは、所謂ブラック企業に蔓延る、社員を搾取し、使い捨てる側の先輩、上司。そういった人間と関わっていた社会人時代の記憶がぶり返したのか、「アカン」と消え入るような声で呟いたかと思えば、体は震え、呼吸が荒れる。
OBの訪問としては、度が過ぎていると思った。大学祭の時に、圭斗先輩と菜月先輩が顔を出してくださった時には、皆が朗らかなムードで挨拶をし、話すことが出来た。あのイメージとは真逆。この男の横暴を、許すべきでないと。ツッツが作ってくれた棚も壊され、パロも怯えている。煽られたジュンは、平静を装いつつも、見るからに怒っている。自分が出るべきだ。そう判断した。
「本当に、それでいいのか」
「それがええんよ。あー、ホンマ悔しい、マジで。殿にあーゆーコトさせたないやんな」
「……それは、お互いさまだ」
男の身長は、180センチ超だろうか。その程度であれば、俺は見下ろすことが出来る。また、相手は痩せ型だ。自分であれば、ただ正面に立つだけで、威圧感は与えられる。真顔で「これ以上は看過できません。お引き取りください」と、目を見て言うと、今日はこのくらいにしてやると、退散していった。その間に、ジャックが奏多先輩に救援要請を出してくれて、その話が春風先輩と野坂先輩にも伝わり、現在に至る。
「うーん、またこういうことがあったら困るし、ちゃんと糊を入れなきゃかなあ。加工の余地を残してたんだけど」
「この棚って、ツッツのお手製なんだよな。凄いな」
「いえ、とんでもないです」
「加工の余地を残してたって、例えばどんな風に?」
「今はオープンタイプのただの棚なんですけど、例えば扉を付けたり、スライドテーブルを付けたり、という具合にです」
「お、おお。よくわからないけどすごいなあ」
「野坂さん、ツッツは収納班の大エースっすよ」
「それはよーく存じてる」
ツッツが作ってくれた棚は、本人が言うように加工の余地を残すための仮組み状態だったらしい。一応そのままでも使えはするが、より使い勝手を良くするための加工の可能性を考慮し、いつでも外せるように組み立て時に使う糊の量を控えめにしていたそうだ。それで今回はバラバラになってしまったとのこと。あんなことの後でも、すぐに切り替えて自分の仕事に集中出来るのは、ツッツの職人気質からなることだろう。
「殿、今日みんなでうどん食べるんだろ? 買い物リスト作ろう」
「ああ」
ジャックの部屋に同期で集まって、食事をする機会はいくらかあった。都度、誰かのリクエストに応えたメニューを作り、囲んで来た。今回はうっしーの希望を通し、かき揚げうどんを作ることにした。うっしーは、同期でも誰よりも優しい殿にああいう汚れ役のようなことをさせたくはない、本来は自分が口でどうにかしなければならなかったと悔やんでいた。だが、自分は、うっしーにはこれ以上辛いことを話させたくはないと思う。恐らくうっしーは、同期で誰よりも人の痛みを知っている。
「ジャック。具材は玉ねぎ、人参、椎茸、ゴボウ、三つ葉を使おうと思う」
「玉ねぎと人参はあるよ。使ってもらって全然大丈夫」
「いや、6人分だ。買おう」
「そう? 他には? 粉とか?」
「そうだな。それから、前に使っただしの素は、まだあるだろうか」
「あるある」
「では、それを使わせてもらおう」
「参加費は買い物した分を6等分でいいかな」
「ああ。そうしよう」
「殿、いつもホントにありがとなー」
「いや」
「殿のうどん食べてさっきのこと上書きして、みんなで年末特番ジュンのサポートして、兄貴たちにも心配かけないようにするんだ。俺たちが今のMMPなんだっつーの」
「ああ。そうだな」
自分たちが、今のMMP。確かにそうだ。1年違うだけでも活動の仕方は全然違うのだから、2年も3年も違えば全くの別物。ずっと見て来た人ならともかく、急に出て来た誰とも知れない人間に、文句を言われる筋合いはない。うどんを食べて、心機一転だ。
「大体、あんな偉そーなヤツがホントに1番上手かったのかよ。野坂先輩が言うには今年卒業した人だろ? じゃ菜月先輩とタメじゃん? 菜月先輩が“アナウンサーの双璧”のうちの1人で、もう1人は緑ヶ丘の先輩だっていうならもう破綻してんじゃんな! 嘘乙!」
「ええぞジャックー」
「あっ、どーせなら過去の音源の中からアイツの番組探す? どんだけ上手いか俺らで聞いてみよーぜ!」
「あ、ジャック。その話だけど」
「どしたんですか野坂先輩」
「あの人の番組はすぐには見つかんないんじゃないかな。俺の記憶の限り昼放送をやってた覚えもないし、行事のディスクみたいな物も現時点ではなさそうな感じがする。ワンチャン何かないか思い返してみるけど、期待はしない方がいい」
「えー、了解でーす」
end.
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三井サン襲来のすぐ後。
(phase3)
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「えっと……これが……。……いつのだろう」
「えーっと、これはこーたのヤツだから割と最近だな。で、こっちが律の……1年の時のか。じゃあこの辺のは割と最近だな」
床に散らばったMDを、ツッツと野坂先輩が分類し直している。そのMDを保管していた棚も、板が外れてバラバラになってしまった。30分ほど前のことになるだろうか、ジュンが年末特番の作品制作の作業をしていると、サークルのOBを自称する三井という男がやってきた。今のMMPがどんな風に活動をしているのかを抜き打ちでチェックしに来たと。突然何事だと、場にいた俺たち1年は驚いた。
その男は、まず今年になって導入したパソコンを見るやいなや、そんな物を使うなんてとんでもないというようなことを言った。そして、それを使って映像作品を作っていると知ると、MMPはラジオの活動を高いレベルでやるべき団体なのに、映像など言語道断だと喚く。挙句、FMにしうみで番組を始めるジュンに対して攻撃を始めた。
ジュンへの暴言、誹謗中傷はどんどんエスカレートしていった。その中で、男はパソコンを使ったり映像作品に手を出して、コミュニティラジオの番組に参加することが軽薄だと罵った。自分たちの時代はプロ志向の意識を高く持ち、ラジオの技術を高めることだけを考えていた。その中でも自分が一番技術も意識も高かった。その自分が言っているのだから従え、感謝しろと。
「あー…! スポドリうめー!」
「本当に大丈夫かうっしー」
「へーきへーき。俺が無能の大卒が地雷っつったんウソやなかったやろ? ンなことより殿のかき揚げうどんよ」
その男の態度が、恐らくはうっしーのトラウマを刺激したのだろう。口だけが達者で、能力も無いのに給料だけは仕事の出来る高卒よりも高い大卒。あるいは、所謂ブラック企業に蔓延る、社員を搾取し、使い捨てる側の先輩、上司。そういった人間と関わっていた社会人時代の記憶がぶり返したのか、「アカン」と消え入るような声で呟いたかと思えば、体は震え、呼吸が荒れる。
OBの訪問としては、度が過ぎていると思った。大学祭の時に、圭斗先輩と菜月先輩が顔を出してくださった時には、皆が朗らかなムードで挨拶をし、話すことが出来た。あのイメージとは真逆。この男の横暴を、許すべきでないと。ツッツが作ってくれた棚も壊され、パロも怯えている。煽られたジュンは、平静を装いつつも、見るからに怒っている。自分が出るべきだ。そう判断した。
「本当に、それでいいのか」
「それがええんよ。あー、ホンマ悔しい、マジで。殿にあーゆーコトさせたないやんな」
「……それは、お互いさまだ」
男の身長は、180センチ超だろうか。その程度であれば、俺は見下ろすことが出来る。また、相手は痩せ型だ。自分であれば、ただ正面に立つだけで、威圧感は与えられる。真顔で「これ以上は看過できません。お引き取りください」と、目を見て言うと、今日はこのくらいにしてやると、退散していった。その間に、ジャックが奏多先輩に救援要請を出してくれて、その話が春風先輩と野坂先輩にも伝わり、現在に至る。
「うーん、またこういうことがあったら困るし、ちゃんと糊を入れなきゃかなあ。加工の余地を残してたんだけど」
「この棚って、ツッツのお手製なんだよな。凄いな」
「いえ、とんでもないです」
「加工の余地を残してたって、例えばどんな風に?」
「今はオープンタイプのただの棚なんですけど、例えば扉を付けたり、スライドテーブルを付けたり、という具合にです」
「お、おお。よくわからないけどすごいなあ」
「野坂さん、ツッツは収納班の大エースっすよ」
「それはよーく存じてる」
ツッツが作ってくれた棚は、本人が言うように加工の余地を残すための仮組み状態だったらしい。一応そのままでも使えはするが、より使い勝手を良くするための加工の可能性を考慮し、いつでも外せるように組み立て時に使う糊の量を控えめにしていたそうだ。それで今回はバラバラになってしまったとのこと。あんなことの後でも、すぐに切り替えて自分の仕事に集中出来るのは、ツッツの職人気質からなることだろう。
「殿、今日みんなでうどん食べるんだろ? 買い物リスト作ろう」
「ああ」
ジャックの部屋に同期で集まって、食事をする機会はいくらかあった。都度、誰かのリクエストに応えたメニューを作り、囲んで来た。今回はうっしーの希望を通し、かき揚げうどんを作ることにした。うっしーは、同期でも誰よりも優しい殿にああいう汚れ役のようなことをさせたくはない、本来は自分が口でどうにかしなければならなかったと悔やんでいた。だが、自分は、うっしーにはこれ以上辛いことを話させたくはないと思う。恐らくうっしーは、同期で誰よりも人の痛みを知っている。
「ジャック。具材は玉ねぎ、人参、椎茸、ゴボウ、三つ葉を使おうと思う」
「玉ねぎと人参はあるよ。使ってもらって全然大丈夫」
「いや、6人分だ。買おう」
「そう? 他には? 粉とか?」
「そうだな。それから、前に使っただしの素は、まだあるだろうか」
「あるある」
「では、それを使わせてもらおう」
「参加費は買い物した分を6等分でいいかな」
「ああ。そうしよう」
「殿、いつもホントにありがとなー」
「いや」
「殿のうどん食べてさっきのこと上書きして、みんなで年末特番ジュンのサポートして、兄貴たちにも心配かけないようにするんだ。俺たちが今のMMPなんだっつーの」
「ああ。そうだな」
自分たちが、今のMMP。確かにそうだ。1年違うだけでも活動の仕方は全然違うのだから、2年も3年も違えば全くの別物。ずっと見て来た人ならともかく、急に出て来た誰とも知れない人間に、文句を言われる筋合いはない。うどんを食べて、心機一転だ。
「大体、あんな偉そーなヤツがホントに1番上手かったのかよ。野坂先輩が言うには今年卒業した人だろ? じゃ菜月先輩とタメじゃん? 菜月先輩が“アナウンサーの双璧”のうちの1人で、もう1人は緑ヶ丘の先輩だっていうならもう破綻してんじゃんな! 嘘乙!」
「ええぞジャックー」
「あっ、どーせなら過去の音源の中からアイツの番組探す? どんだけ上手いか俺らで聞いてみよーぜ!」
「あ、ジャック。その話だけど」
「どしたんですか野坂先輩」
「あの人の番組はすぐには見つかんないんじゃないかな。俺の記憶の限り昼放送をやってた覚えもないし、行事のディスクみたいな物も現時点ではなさそうな感じがする。ワンチャン何かないか思い返してみるけど、期待はしない方がいい」
「えー、了解でーす」
end.
++++
三井サン襲来のすぐ後。
(phase3)
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