2024(02)

■増える小物

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「大石君、マフラーしてるんだね」
「ああ、長岡君。そうなんだよ。今まではわからなかったんだけど、フォークリフトに乗るようになって寒さがもっとダイレクトに来るようになってさ」
「あー、わかる。下でしょ? シャッター開いてたら実質外だもんね」
「そうそう、実質外だもん。こないだのファミリーセールでいいの見つけたから買っちゃった」

 ちょっと前までは20度超えの日もあるくらいだったのに、急に冷え込むようになって、いよいよ冬だなって感じ。夏が終わってすぐに冬が来るような感覚だから、体をついていかせるのが大変。特に俺たちみたいな現場作業員は体が資本だし。暑さの時と同じで、少しずつ環境に慣らしていくことが大事になってくる。
 会社では冬用の中綿ジャケットが支給される。これが結構あったかいんだけど、それだけでは対処できないこともたまにあって。逆に、ジャケットを着るほどではないけどちょっとだけ寒い、みたいなときにどうするかが悩みどころでもある。そういったときにマフラーとかの小物やベストみたいなもので調節することが多いかな。

「ファミリーセールかあ。俺結局こないだの見に行ってないんだけど、マフラーとかもあるなら覗いてくればよかったなあ」
「内山さんも、手袋買ったって嬉しそうにしてたよね」
「ああ、そうだね。ウッチーめっちゃウキウキしてたね。あのもこもこした手袋、大石君のところに置いてるヤツだよね」
「そうだね。元値9900円+税が税込み2000円の社割で1600円で買えたみたいだよ」
「元値1万!? えっ、あの手袋そんなすんの!?」
「するよ、何だかんだ言ってブランド物だし」
「ええ…!?」
「えっ、長岡君、自分が管理してる商品の値札見たりしない?」
「たまに見るけど、俺が扱ってるのって主にカバンじゃん。スポーツブランドのカバンなら1万とか2万してもそんなモンかなってちょっと納得するけどさ、高いしなかなか買えないとは思うけど。でも手袋に1万は出せないって」
「――っていう物が、そこらの店にある下手な物より安く買えちゃう魅惑の会場、それがファミリーセール。覗かない手はないよ」
「うん、その話を聞いて次は絶対行こうって思った」

 この間、国内の繊維産業を取り巻く環境、みたいな話をテレビで見たんだけど、海外との戦いであったり、高機能な繊維の開発の話題だったかな? それで、自分がB棟2階で扱ってる商品のことを思い出してたな。手袋に1万円って言うけどブランドの名前だったり、繊維の機能に対する値段だったりするからね。
 ブランド物はギラギラしてるとかいやらしいみたいなイメージも持たれがちだけど、場合によっては物に対する保証と考えることも出来る。「ここのメーカーの物だから頑丈だろう」とか「このブランドなら機能に対する根拠も科学的に検証しているだろう」とか。そういう風に捉えられるし、社会的な信用でもあるって。そんなことを朝霞が言ってました。

「ちなみに、大石君のマフラーの元値は?」
「これは8000円+税だね」
「高いわあ。で、これがセールでは?」
「税込み1500円が社割で1200円です」
「えぐっ。確か大石君て私服も会社で着てる服もほとんどファミリーセールで買ってるって言ってたよね? 靴とかも」
「そうだね」
「実は定価計算するととんでもなかったり?」
「その件、実は学生の時にも友達相手にやったことあるんだけど、定価とセール価格の差は実際物凄かったね」
「でしょうね」

 ファミリーセールだけじゃなくて、販売元会社の仕事をする関連会社の社員は所長を通して社割価格で商品を買うことが出来るので、越野にはそっちの買い方を布教してたな。バスケットシューズを入れるケースが欲しいって言ってたから、ファミリーセールを覗いて見て、もしもなければ品番をメモして所長にお願いするといいよって。これで定価の45%オフで買えるんだ。

「おい千景、お前新倉庫に帽子忘れてないか。これ」
「えっ、あ、ホントだ。すみません塩見さん。わざわざありがとうございます」
「大石君、帽子も持ってたんだね」
「これもセールで買ったんだ、6000円が800円になってたから」
「やっす」
「まーたファミリーセールで散財してきたのか」
「散財は散財ですけど、前ほどじゃなくなりましたよ」
「まあ、そうじゃないとタンスの片付け手伝わされた朝霞に向ける顔がないよな」
「年明けに温泉行くんで、その資金も貯めないとですし」
「おっ、いいな。また前の温泉サークルか」
「そうですねー」
「温泉サークル? って何?」
「学生の頃の友達と結成したサークルだね。活動内容はそのまんま、たまには温泉で羽を伸ばそうっていう、それだけ」
「いいねー」
「前に話してた有給の使いどころはここかなって」

 ヒビキと結成した温泉サークルは、ゆるりと形が残ってるみたい。お互い仕事があるからそこまで頻繁には活動できないけど、忙しいからこそ逆にゆっくりした方がいい、という考えの元で最低年イチの贅沢をしよう、みたいな感じ? ちなみに次は光洋に行くことが決まってる。

「あれっ、そう言えば塩見さん、よくこの帽子が俺のだってわかりましたね?」
「新品だし、ブランド的にお前だなっていう、勘だな」
「なるほど」
「えっ、ブランドで分かるものなんですか?」
「長岡、お前も野球やってた時は道具のメーカーに拘ったりしなかったか?」
「ああ、確かにこのメーカーにしようってのはありました」
「それと似たような感じで、何となく作業着として身につけるブランドが偏る現象はある。俺と千景の全身見比べてみろ」
「あー……確かに、何となくどのブランドが多いかの傾向が見えますね」
「千景、暑くなって脱ぐのはわかるけど、あんまどこにでも物置いとくなよ。異物混入になりかねない」
「わかりました」
「長岡も。冬は防寒具を身に付ける人が増えるし、繁忙期に入ると人材も増える。A棟2階は特に不特定多数の人間が出入りするから気をつけるに越したことはないぞ」
「はい、気をつけます」
「カートンの中にカイロ落としたのに気付かず袋が溶けかかった、なんてこともあったからな」
「怖っ!」

 冬の構内作業にも気をつけることがいっぱいある。寒さで頭が働かなくなりがちだし、より一層気をつけなきゃなあ。さて、帽子をかぶってっと。あったかーい。

「大石君がもっともこもこした」
「この帽子は確かにニットだけど、リブ編みのビーニーだし言うほどもこもこしてなくない? もこもこっていうのは内山さんの手袋みたいなああいうのを」
「材質じゃなくて、帽子とかマフラーをつけることをまとめてもこもこって言うんだよ」


end.


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もこちー。
ちーちゃんがちょっともこもこしました。バイト時代とは違う寒さに気付いたらしい。
忘れ物のブランドや使い込みなどで持ち主を特定する塩見さんがやりたかったのもある。

(phase3)

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