2024

■印象のインパクト

++++

 11月になり、インターフェイスでも代替わりの波がやってきた。定例会は完全に代替わりをして、1・2年の代が始まった。議長は青女のエマ。そう来たかって感じの人選だけどそれはそれでしっくり来たというか、慣れて落ち着くのも早かった。青敬関係で言えば、雨竜が新設された映像関係の役職に就いたそうだ。
 対策委員の厳密な代替わりは年度末だ。だけど次期対策委員はこの時期に選んでおいて、3月までの間にどんな感じで活動しているのかという雰囲気を掴んでもらう期間となっている。だから秋冬の会議はかなりの大所帯となる。さすがに10人以上の会議となると店の一角を借りるのも迷惑だろうし貸部屋を使おうか、という話になった。

「当麻~、どうしよ~」
「どうもこうもない。なあ美瑛」
「知ってる人がいることを祈るだけなのね」

 北星が何をもちゃもちゃ言っているのかと言えば、いつものヤツだ。せっかく今いる対策委員のメンバーは顔と名前が一致するようになったのに、ここで1年生が新たに加わったことで覚えることが増えてしまったのだ。最初の頃よりマシとは言え、映像に関係しない人の顔と名前が一致しにくいことには変わりないのでどうしたものかと。

「ん~、だったら~、向島からはジュンが来て欲しいな~」
「本当に知ってる子を期待するな」
「星大は大ちゃんが来て欲しいし~、青女はならっち~」
「だといいな」
「いいのね」

 夏合宿で一緒の班になったメンバーを覚えているだけでも成長の兆しと見るべきか。甘い気もする。だけど、向島のジュンに関しては9月の作品出展で出してきた映像作品の制作に携わったという話だし、ウチでも向島が始まってきたなと少し話題になった。今は「挿し絵のあるラジオ」だけど、向島だしノるとどうなるかという期待と恐怖がある。
 カノンがこの部屋便利だよ、と紹介してくれた貸部屋に向かう。本当にマンションの一室のような感じで、ここなら10人以上での会議も心置きなくやれそうだ。飲食物の持ち込みも出来るので、カフェのように入場料代わりのドリンクを買って、としなくてもいい。正直、それはそれで少し寂しさもある。

「青敬でーす」
「おっ当麻、おーす!」
「北星さんも、おはようございます」
「おはよ~」

 カノンととりぃの向島勢の脇にいるのは一際体の大きな殿だ。強面と大きな体で第一印象が「怖そう」になりがちな子だけど、とりぃによれば実際は料理上手で心優しいらしい。自分が怖がられていることを前提に人と接する節があるので、元々寡黙なのにさらに控えめになってしまうんだそうだ。

「向島からは殿が出てきたか」
「私が自信を持って推薦しますよ」
「殿なのね。殿のことはツッツから聞いているのね。私は青敬の松本美瑛なのね。よろしくなのね」

 ――という美瑛の挨拶には、深めの会釈をひとつ。何か、俺の勝手な印象だけど、深めの会釈に“義”を感じたな。目は口ほどに物を言う、じゃないけど。

「北星、殿のことは映像関係なくても覚えられそうだろ」
「大きいからね~。特徴があるし~、努力する~」
「殿、北星さんは興味関心が映像に偏っているので、映像関係でない人の顔と名前を一致させるのが苦手なのだそうです」
「……確か、それで、ジュンがアニメーションを」
「ああはい、そうなのですよ。言い方を変えれば、ジュンの才能を開花させるきっかけとなった人ですよ。ああ、北星さん。こちらが殿です。先日の作品出展でミキサーを担当してくれたのです。編集はジュンがやってくれたので、殿の主な仕事は音声の録音ですね」
「ああ、あの! あの番組、とりぃの声がミキサーの方で丸くしてあるなと思って聞いてて、星空とか神話がベースになってる番組で、ああいう優しい感じの音質だと本当にプラネタリウムのドームの中にいるみたいだなっていう印象を持ったんだよね。あれって殿の判断でああいう感じにしたの?」
「……はい。自分の感覚で、やりました」
「結果的には合ってたと思うよ、うんうん、良い良い」
「映像作品に対してはアグレッシブに質問などもしてくる人なので、驚かないで下さいね」
「大丈夫です」

 北星のいつものが出てしまったけど、ひとまずこれで殿のことは覚えられただろう。と言うか殿は覚えるハードルが低い方だぞ。とりぃが上手くアシストしてくれたのも大きいな。作品に絡めて紹介してくれたのはかなりナイスだと言えるしさすがです。北星の操縦のさりげない上手さはきっと俺しか気付いてないだろう。頼りにしてます。

「おはよー! あっ、向島さんと青敬さん早いねー!」
「くるちゃんおはよ~」
「緑ヶ丘の一団か」
「おーす。あっ、1年も来てるな! 殿と、えっと、美瑛だっけ」
「美瑛なのね」
「わ~、殿~。嬉しいわ~」
「緑ヶ丘はちむりーか」
「対策委員の癒やしになると思う! もちろん知力も武器だよ!」

 ちむりーは春学期の成績が1年生当時のササよりも良いとのことで(運動が苦手らしくて体育の成績が伸び悩んだそうだけど、他は全てS評価だとか。ヤバい)、まさに知力や頭脳面が武器になりそうだ。殿は見た目のイメージだけどパワーは凄そうだし、機材運搬を安心して任せられそうな感じがする。

「この間、すがやん先輩から殿のお爺さまの話を聞いて~、ホットケーキミックスでバウムクーヘンを焼く話? 殿も、やったことがあるのかしら~」
「小さい頃に、何回か」
「わ~、いいわね~。でも、家のガスコンロでは難しいのよね?」
「試したことは、無い。だが、焚き火の方が、いいかもしれない」
「そうよね~。焚き火を焚ける場所なんて限られるし~、夢のままかしら~」
「そうとも限りませんよちむりーさん。また夏頃のようにバーベキューをすれば、その場でバウムクーヘンを焼くことは出来ますよ」
「そうですね~。とりぃ先輩、ありがとうございます~」
「ねえちむりー! そしたら今度一緒にバウムクーヘン焼く会やろうよ! あたしすがやん主催の焚き火バウム会に誘われてて、そこでノウハウ吸収してくるし。あっ、とりぃもどう? アウトドア慣れしてるし頼りになる!」
「いいですね。殿もくるみのバウム会に参加しましょうよ」
「え、俺が」
「いいね! 何てったって殿は元祖だし、お菓子作り上手だしいろいろ話聞きたいと思ってたんだよね! この間のスイートポテトもすっごく美味しかった!」
「お粗末様です」
「夏合宿の練習の合間に、このお部屋でエマ先輩と、星ヶ丘のモリ子と一緒にお菓子を作ったんです~。対策委員の合間に、殿がお菓子を作ってくれたり~?」
「えーっ! 最っ高!」
「……さすがに、そこまでの時間は」
「ですよね、はい。期待しすぎちゃったよ、ごめんね」
「いえ」
「でも、殿は奈々先輩秘伝のアップルパイのレシピを継承しようとしてくれているのですよ」

 殿の存在感と話題の持って行き方が強い。本人が煩くないからいい味になってる。
 他の大学さんもそろそろ集まってくる頃合いかな。殿くらいのインパクトとまでは行かなくても、そろそろ映像に関係しなくても顔と名前を一致させろって北星をシバかなくても良くなりたい。

「当麻~」
「何だ?」
「焚き火でバウムクーヘンを焼く動画って、需要ありそうかな」
「そんなニッチな」
「北星さん、全く無いことはないと思いますよ。それをロマンだとする層も、一部には存在します」
「焼けたバウムクーヘンはあたしが責任を持って切るからね! あっ、じゃあその動画スタッフとして北星も来なきゃ!」


end.


++++

ナニやんか知らんけどそれをロマンだとする層ね。がくぴも好きそうだけど。
話脱線して主題どっか行く、ナノスパあるある。まあ、話の中で殿の持って行き方がすごいって言ってるしセーフ。

(phase3)

.
98/98ページ