2024

■エモエモのお裾分け

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「あーあ。こないだすがやんすっごく楽しかったんだろうなー焚き火で焼き芋ー」
「焚き火で焼き芋とか、土地がある向島だから出来るんだろうけどマジで羨ましい」

 一昨日、すがやんがカノンから招待を受けて向島のサークルに顔を出してきた。焼き芋大会をやるということで、去年に引き続きの参加になった。焚き火楽しかったですと同期のLINEに写真が上がると、結構みんな羨ましがってたよね。
 焼き芋を羨んでいたのがくるみとシノ。食に落ち着くのが安定だなって感じ。でも実際美味しそうだとは私も思う。春風の話によれば、殿のお爺さんがいろいろ良くしてくれたそうで、差し入れてくれたマシュマロもすごく美味しかったそうだ。

「ところで、その焼き芋に関してあるルートから激エモな写真が送られてきたんだけど、シノとくるみ、見る?」
「エモ? 焼き芋とエモって結びつかない気がするけど。まあ、一応見るぜ」
「うん。あたしにも見せてー」

 私個人宛てに「むちゃエモやったんでレナ先輩にもお裾分けです!」と送られてきた写真を2人に見せる。それまで2人の間では結びつかなかった焼き芋、あるいは焚き火とエモ、エモーショナルという単語が繋がり始める。

「エモっ!」
「えーっ! めっちゃいい! レナ、この写真すっごくいいよ! 撮った人天才なんだけど!」

 焚き火を前に、マシュマロを焼きながら微笑み合うすがやんと春風の写真が送られてきた時、私は思わず台パンした。悔しさとか憎しみ、怒りとかじゃなくて控えめに言って最高じゃん2人とも一生幸せでいて添い遂げて、がさらに語彙力を奪われた結果のバン。しばらく机に伏して動けなかった。日常を切り取ったつもりなんだろうけどこれが芸術かと思った。

「はー……すがやんもとりぃもめっちゃ油断してんなこれ。撮られたの気付いてんのかな」
「撮ったそのときには本人たちには見せなかったそうだね、マシュマロに夢中になってるの邪魔したら悪いからって」
「レナ、これ誰が撮ったの!?」
「うっしーだよ」
「うっしー!? こんないい写真撮れるんだねー! って言うかそもそもカメラ上手くない!? 完全に夜になり切ってない中で、光の加減とか、照準の合わせ方とか。被写体の捉え方もほぼ完璧! 狙ってやったんなら才能あるし、奇跡の1枚だとしてもめっちゃセンスある!」
「そっか、くるみはカメラの技術が気になったか」
「もちろんすがやんととりぃもいいんだけど、写真作品としての完成度って言うか、人に見せる写真の撮り方? あたしも一応見せる人だから、刺激がどんどこどかどかーん! って襲ってきてる! 北星にも見せてあたしにも真似出来る技術があれば教えてもらいたいよ!」

 くるみはこういうところがストイックで偉い。一見明るく楽しいだけの子のように見られがちなんだけど、実際かなり現実的だし、スイーツ研究とぶった切る練習は欠かさないし。技術の確立だけじゃなくて、進化にも余念がないもんね。そうしなきゃ数字って伸びないんだろうなあ。

「おはよう」
「おーす相棒!」
「サキもおはよー」
「陸さんとサキなんて、変わった組み合わせだね」
「そこで会ったんだよ」
「盛り上がってたみたいだけど」
「うっしーの激エモ写真の話ね」
「つか今更だけどレナとうっしーって何か繋がりあったか? あんまピンと来ねーわ」
「夏合宿で一緒の班だった」
「ああ、それでか」
「で、激エモ写真って?」
「こないだの向島の焚き火の会の、これだね」

 ちなみに薪ストーブ好きの陸さんも焚き火にはとても興味を示していたし、サキも「いいね」とだけ返信していた。私ももちろん焚き火には興味しかない。火の動画を見るのがナイトルーティンではあるけど、現実の火を見る機会はそこまで多くないし。匂いや熱の部分で大きな差があるんだろうとは思うけど。

「いい写真だね」
「サキが認めた! 公認だ!」
「サキが褒めた! うっしーは許されたよ!」
「俺を何だと思ってるの」

 ちなみにすがやんと春風、特にすがやんのことに関しては何となくサキがご意見番みたいなポジションになってしまっている。多分薪ストーブの会の車内での出来事がきっかけ。マネージャーのサキが怖い怖い。粗相に関してはすがやん本人が許してもサキが許さなければダメです、的な空気が完成した。そしてどうあっても許されない陸さんまでが様式美。

「陸さん、この写真について一言」
「11月のカレンダーにしよう」
「何言ってるの」
「サキ怖っ!」
「あーあー。ササ、まーだ許されてねー」

 ウチと向島の写真を集めた合同カレンダー企画でも立ち上がれば間違いなく11月の写真になるとは思うけど、急にそれを言ったら意味わかんなすぎる。まだ私の台パンの方がサキには刺さったかもしれない。

「おはよー」
「あっ、おはようすがやん」
「あっくるみ、いた」
「えっあたし? どしたの?」
「こないだ向島で焚き火やったときに、殿が焚き火でバウムクーヘン焼けるよって教えてくれてさー。今度NSCの友達誘って焚き火メシの会やるんだよ。バウムクーヘンも断面お菓子の一種だし、良かったらくるみもどう?」
「すがやん主催の会ってとんでもない規模になりそうって言うか、NSCって、アウトドア部みたいなトコだっけ?」
「そう、実質アウトドア部の自然科学研究会。そこの子と立ち話してたら、ゼミの友達っていう動画投稿者のまいみぃが来てさ、俺がくるみと友達って話になったら絶対誘ってよって結構強く念押しされたんだよ。元々思いついた時点で誘うつもりではいたんだけど、友達いるならどうかなって思って」
「えーっ、まいみぃちゃん直々のお誘い!? 絶対行くよすがやん!」
「わかった、じゃあ連絡しとくなー」
「って言うか直々に誘ってくれたのはすがやんでしょ」
「サキは細かい! すがやんのお誘いにまいみぃちゃんの力が乗って直々々のお誘い!」
「すがやん、NSCの友達って亮真か?」
「そうそう亮真。そっか、佐藤ゼミだもんな。ササとシノも普通に友達か」
「亮真はなー、花粉症で死んでた春の俺にマスク分けてくれたガチ聖人。イケメン。男前。そう言えば花粉症の注射の話ってどうなったんだろ。ササ、聞いた?」
「いや、聞いてないな」
「やったんなら効果とか聞きたかったんだけどなー」

 焚き火でバウムクーヘンは気になるけど、それはもし今年も陸さんが薪ストーブの会を企画してくれるのであればそこでお披露目してもらうことにしよう。陸さん、今年もやるよね?

「そうだすがやん、うっしーから何か見せてもらった?」
「何か? 何かって何?」
「ああー……本人たち以外で楽しんでるんだ。うっしーも悪い子だなあ。いや、同い年だから子って言うのは違うか」
「え、何レナ怖いんだけど」
「悪い話ではないんだけど、一応すがやんはいろいろ覚悟がいるかなーって」
「何系?」
「芸術」
「芸術って、現代? 古代?」
「最近」
「じゃあ俺と一切結び付かないんだけど」
「見る?」
「見ます」
「では、これを」

 で、すがやんの叫びがサークル室に響き渡りましたとさ。うっしー、命は大事にして下さい。でもサキが認めてるから命までは取られないかな。


end.


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焚き火会でうっしーのカメラの件で、こういうことも起こってそうだなという成り行き。
思った以上に強く額を机に打ち付けて、翌日とかによっちゃんから額が赤いようですがと指摘されてて欲しい

(phase3)

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