2024

■Savor the passage of time

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「おはよーございまーす」
「おーすすがやん! こっちでは久し振り!」
「帰ってきたーって感じがするなー。呼んでくれてありがとなー」

 「今度の水曜日、MMPの方に遊びに来て!」とカノンからお誘いがあり、MBCCと定例会の予定を確認したところ、めちゃくちゃ大事な話がありそうな感じではなかったのでこっちに越させてもらった。新アナウンス部長のレナが「すがやんはいろんな人と交流する方がイキイキするし、行ってきなよ」と送り出してくれたので遠慮なく。

「で、植え込みの方じゃなくてこっちでみんな輪を作ってるってことは、今年もアレ?」
「そう、アレ! 発声練習もやるけど、まずはスムーズにアレに移行出来るように準備してるとこ!」
「マジかー! めっちゃ嬉しー!」
「おっ、さすが留学生のすがやん、去年の話はマジで通じるな」
「えっと、今ここにいない子たちは燃えるもの集めてくれてる感じ?」
「だな。燃える物集め部隊がパロとツッツとジュンで、イモ包み隊が殿、ジャック、うっしーで」

 そう、アレというのは焚き火での焼き芋だ。この間の春に卒業した先輩たちが3年生の頃に始まった行事らしいから、サークル全体では今回で3回目になるのかな? 去年の会も水曜日で、たまたまお呼ばれしたんだけどめっちゃ美味かったんだよなー。
 今年は殿が作ってくれたサツマイモがあるということで、それを持ってきてもらったらしい。俄然楽しみなんだけど、如何せん人数が多いので、準備が滞りなく進むよう簡単なアウトドア用品まで殿が準備してくれたとのこと。俺の車の隣に停まる軽トラが殿の車らしい。似合う~。

「殿と軽トラって格好良すぎるなー」
「しかもマニュアルよ」
「かっこよ! でも、家の車だろうし、借りて大丈夫なのかな?」
「殿の祖父さんが結構なイケオジでよ、大学の友達に自分の芋を振る舞いたいから車を貸してくれって頼んだら、車だけで大丈夫かっつって新聞紙だのアルミホイルだの、トングなどなど道具一式があれよあれよと」
「サツマイモだけでは待っている時間が退屈でしょうから、とマシュマロまで差し入れて下さって」
「気前のいいお祖父さんだなー」

 燃えるもの集め部隊が帰ってきたので、ひとまず火を作り、灰にしていく。パロはキノコ探しで山の斜面には慣れているらしく、足場が不安定で傾斜も急なところをガンガン進んでいくのについて行くのがやっとだったとはジュン談。ツッツがポツリと「体幹が鬼」と呟いたのにちょっとツボる。
 イモの下拵え部隊もサークル棟の建物から出てきたので、こちらにも挨拶を。特に殿には何から何までお世話になってしまっているので丁寧にお礼を。って言うか俺も何か持ってこればよかったなー、経験者なのに全然気が利かなかった。反省。
 定例会以外の子とはまあまあ久し振りになるけど、こっちのメンバーと同じように接してくれるのが結構嬉しい。余所の人、特に先輩相手だとカタくなったり、丁寧になり過ぎたりするけど、適度に雑に扱ってもらえている感がある(春風の彼氏という立場上、ここにはいなくても奏多から日常的にイジられてるっていうのも功を奏したのかな)。

「殿、今回は本当にいろいろありがとなー」
「いえ」
「俺もキャンプの経験あるし、いろいろ持ってこれそうなもの考えれば良かったよ」
「何もせずに、火を見て、待つ。これも、時間を楽しむ、醍醐味かと」
「はっ。俺としたことがそんな基本的なことを忘れちまってた。初心って大事だな! ありがとなー殿ー」
「いえ」
「お祖父さんにもよろしくー」
「はい。……祖父は、本当にいろいろ、持たせようとしてきました。バウムクーヘンは焼かないのか、とホットケーキミックスなどの材料一式を持ってきたときには、さすがに遠慮しました」
「えっ、そんなん出来るの!? 焚き火でバウムクーヘン!? ロマンしかないじゃん!」
「あーあ。殿、すがやんを起こしたなァ」
「……春風先輩」
「これは救援要請の目ですよね。申し訳ないですけど、焚き火の火を眺めながらバウムクーヘンを1層1層焼き上げるというのは、彼にとってはロマンでしかないですね」
「ミルフィーユを重ねる行程のナントカってヤツな」
「奏多! ミルクレープな!」
「似たようなモンだろ」

 殿に焚き火でのバウムクーヘンの焼き方を教えてもらうと、楽しそうでしかなかったので今度やりたい。さすがにMMPの方で焚き火連チャンは厳しいだろうし、亮真でも誘ってみるかなー。一応断面関係のお菓子でもあるからくるみにも声かけてみよ。

「おはよーッ! あっ、みんなやってるねーッ!」
「奈々先輩おはようございまーす」
「あーッ! すがやんッ! いらっしゃーい」
「定例会振りなんで久し振りって感じはないですね」
「そうだけど、これからは全然会わなくなるだろうし、1回1回が大事だよ」
「ですね。今日はよろしくお願いします」
「どうぞ楽しんでって。あっみんな、りっちゃん先輩と愚民の先輩たちがもうちょっとしたら来るって」

 火が安定してきたようなので、下拵えしたイモを灰に突っ込む。その間、火を見守りながらいつもの植え込みで発声練習を。だけどみんな意識が焼き芋の方にあるんだよなあ。わかるけどね、俺もそうだし、楽しみでしかないし。
 発声練習が終わってからは、火の周りで各々の楽しみ方をする。マシュマロを焼いたり、ただ火の番をしたり。日が落ちると気温がグッと下がるから、自然とみんなが火の周りで円を作ってた。そうやってみんなで楽しむ時間を、うっしーがカメラで記録する。

「えっ、うっしーカメラ3刀流!?」
「すげー!」
「スマホと、コンデジと、チェキや!」
「うっしー、写真始めるって本気だったんだな」
「俺もな、日常のちょっとしたモンを撮りたくなったんよ。菜月先輩のアルバム、見とったら結構楽しいやん? こんな人おったんやーとか、こんなアホなことやっとったんかーとか。そーゆーんを俺も残して、繋いでこと思ってな」
「へー、いいじゃん」
「エモだね」
「そーゆーワケやから、今からここにおる全員肖像権放棄せえ! あっ、心配せんでも勝手にネットに上げたりはせんし、構えんでええぞー」
「おいうっしー、俺は高いぞ?」
「兄貴、そこを何とか! その格好良さを残させて下さい!」
「しゃーなしだぞ」

 ジュンの絵にしても、うっしーの写真にしても、新しい趣味を持って、それを始めてみようって思えるのはとてもいいことだなと思う。菜月先輩が撮り溜めた大量の写真は俺も見たことがあるけど、どれもみんなイキイキしてるし、切り取り方が上手いんだろうな。

「徹平くん、一緒にマシュマロを焼きましょう」
「いいね。ありがと」
「距離感が難しいのよね」
「薪ストーブの会でもマシュマロやったんだけど、くるみが近付けすぎて焦がしてたからまずは遠めがいいよ」
「絶妙な焦げ目と溶け具合の見極めが難しそう」
「これ、レナがめっちゃ上手いんだよ」
「やり方を聞いておけば良かった…!」
「でも、殿のお祖父さんのご厚意で突発的なものだし、予測は出来なかったんじゃない?」
「それはそうかもしれないけど。でも、だからこそ失敗したくないじゃない?」
「わかった。まずは俺が絶妙な距離を探すよ」
「よろしくお願いします、先輩」


end.


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殿のお爺さん。絶対豪快なイケオジだと思う。体の大きさも勝川家の遺伝的なものだといい。
菜月さんに代わり撮影担当となったうっしー。カメラ担当のいなかった間の世代が悔やまれる。
殿の感情が何となくわかるようになった春風、救援要請を察するも、意訳(諦めてください)としか言えなかった模様

(phase3)

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